108 焼肉パーティ
9/29更新2つめです。
夕暮れの帰り道はなんだかフワフワしてますね。
夢の中みたいです。夢なんですけど。
「さっきの交渉みてて思ったんだけど、このゲームって案外ややこしいんだな。
単純にYESかNOの選択肢だけでOKだと思ってたよ」
トージョさんが首をかしげてます。
「基本それでOKですよ?
マスターは自分でややこしくしてますので」
「えッ? 俺のせい?」
いきなり呼ばれてマスターが驚いてます。
なにを今更。
「勝手に気を回してヘンな条件付けするからイベントNPCが困っているのですよ。
デフォルトの対応が使えませんから。
そのつど個別のAIが独自に判断して対応してくれてます」
「えーと。つまり台本通りじゃなく、アドリブで話をしてくれてる。ってことか? みんな」
「よく言えばそうです」
「それでいいじゃないか。人間同士ってそんなもんだろ」
「そうかもしれませんが。
きっとサーバーでは負担が増してますよ?」
まぁAIは経験積めてるので損ではないですけど。
「そうなるとイズミちゃんのAIは相当優秀なのねぇ。
全部アドリブ」
「マスターがやらかしてくれるので。
ツッコミが追いつきません」
「無理してツッコまなくていいぞ?」
ナニを言いますか。主人にツッコむのは眷族の義務ですよ?
「例えばミライナさんをからかうと、真っ赤になってワタワタするじゃないですか」
「ああ。アレ、凄いカワイイな」
はい。とても可愛いです。ゾクゾクします。
「あの状態もAIの活性化です。
デフォルトの反応ではなく、思考して独自の選択肢を探っている状態です。
その繰り返しでAIは成長します」
「なるほど。つまり、これからもガンガンからかうべきだと」
本人が聞いてたら怒られそうですね。可愛いですけど。
「誰だよミライナさんて」
「NPCのヒト?」
「俺の錬金術の先生。そんでうちの店の生産主任だ」
「わたしより小さな女の子ですけどね。
マスターに先生と呼ばれていつもワタワタしてます。
可愛いメガネっ娘ですよ?」
「また女の子?」
「しかも小さい子をからかうってお前……」
お二人のマスターを見る目が冷たいです。
「いや、からかうっつってもそんなヘンなコトは」
「そういやお前メガネ萌えだったよな」
「メガネロリ萌え?」
「ナント、マスターにそんな性癖が。危うしミライナさん?」
「無いからッ、そんな性癖!? イズミも乗っかってんじゃない!」
そういえば、ミライナさん、職員さん、パルミットさん。
懇意にしてる女性NPCのメガネ率が高いですね。
これは問題ですよ?
「太らないって!? いくら食べても!?」
西崎、いやサッチーが荒ぶっている。
店に戻るなり、イズミがテキパキと用意した焼肉セットにだ。
2台の七輪に炭を入れ、魔法で着火。網の上で焼ける肉。
たまらん。
「はい。そういう仕様ですので。味はリアルですよ?」
「そんなの、そんなの最高じゃん!?」
見ての通り、サッチーはいささか太めである。
しかし、以前に比べればずいぶんスリムになったのだ。中学時代は凄かった。
それをココまで持ってきたのは、ひとえに彼女の努力の賜物なのだ。
「リアルで我慢して、こっちでガッツリ食べる。
ダイエット楽勝だな」
「わたしコッチに永住するわ!?」
「落ち着いてサッチャン!? 俺たち体験版だからッ」
「ユーザー登録だけして、ログインはたまにレンタルのゲームルームからなら安くあがるんじゃね?」
軽い冒険と美食を楽しむだけのエンジョイプレイなら、時間も短く済むだろうしな。
「する! 登録する! そして食べる!! 焼肉食べ放題よ!!」
かなり節制してたみたいだからなぁ。
コッチじゃ遠慮は無用だ。存分に発散するがいい。
「脂の焦げる匂い……。
美味しいモノは、糖とアブラでできているのよ……」
焼けたカルビを至福の表情で味わっている。そんなサッチーがしみじみ語っていた。
お気に召したようで何よりだ。
「糖と言えば白ご飯はいかがですか?」
「最高よイズミちゃん!! 大盛りでお願いします!!」
彼氏が引き気味だがガン無視だ。
久しぶりの暴食の前に忘却の彼方である。
おっと、うかうかしてたらゼンブ持ってかれてしまう。
俺も食うぞ。
「しかしイズミ、いつの間にレパートリーを増やしたんだ?」
「ミライナさんの孤児院でお呼ばれしまして。
レシピもすぐに出ましたよ」
なるほど。簡単な料理のレシピなら食べるだけで出るのか。
焼肉ならタレつけて焼くだけだしな。
それにしても炭と七輪はいいチョイスだ。
「オムライスといい焼肉といい、イズミは頑張り屋さんだな。偉いぞ」
「なんですか? その子供みたいなホメ方」
ハハハ、怒るなって。むくれた顔もカワイイぞ?




