105 噂話
「ところでああいう時、ヒジカタはどうしてるの?」
「突っ込んでますね。とりあえず」
水辺がセーフゾーンになっていたのでそこでお弁当にします。
フィールド各地には、エネミーが浸入できない安全地帯が点在しています。
テントがあればログアウトも可能。
風光明媚な場所であるコトが多いので、食事や小休止にはもってこいなのです。
ココもそうですね。川の水がとても澄んでいて綺麗です。
さぁ召し上がれ。今日はサンドイッチですよ?
「ありがとう、イズミちゃん!」
「おおッ、美味そう」
景色が綺麗だとお弁当も美味しいですね。☆1ですけど。
「おいしいッ!
これイズミちゃんの手作りなの? 凄いわー」
「モグモグ、うん、美味しいな。
それで、ヒジカタは大丈夫なの?」
ちゃんとマスターの分も作って渡してあるので大丈夫ですよ? 量も多めですし。
「いや、そうじゃなくてバトルの話。
ステータス凄い低いって話。危ないんじゃないの?」
「それが大丈夫なんですよ。不思議と」
ナニも考えず突っ込んでるだけのようで、微妙に軸は外してるというか。
次々と襲ってくるエネミーを回避と同時に転ばせてしまうんですよね。いとも簡単そうに。ホント不思議です。
『空気投げ』がどうとか『五体連動』がどうとか言ってましたけど、わたしにはチンプンカンプンなんですよね。正直。
「あいつって、格ゲーやリズムゲーム、妙に巧いんだよ。
変なキャラや曲を選びたがるからハイスコアとかは取れないんだけど」
目に浮かぶようですね。
「初めてやるゲームでも飲み込みが超早くて。
このゲームも勘で理解しちゃってるんじゃないかな」
「ヒジカタくんにそんな特技が……。知らなかった」
アタマが柔らかくて調子が良いのが長所ですしね。
バカですけど。
「リアルじゃマスターはどんな感じなんですか?」
「あれ? 興味あるのイズミちゃん?」
「そりゃまぁ、眷族ですので」
そう。義務感から出た質問ですよ?
それを何故かニマニマ笑ってサッチーさんは覗き込んできます。変なヒトですね。
「ふふふ。教えてあげましょう。
土方くんはねぇ、けっこうモテます。女子に!」
な、ナントォ!? そんな馬鹿な。あのマスターが!?
「いや、嘘だろそれは。聞いたコトないよ」
トージョさんの冷静な指摘を、しかしサッチーさんは指を振って否定しました。
「チッチッチ、実はネェ。
『誰でもイイから彼氏が欲しい女子軍団』の中じゃ、意外とポイント高いのだよ、彼は。背も高いし」
「なんだよ、その飢えた狼のような軍団は」
「恋愛感情ではなく、彼氏というアイテムが欲しい女生徒達。というコトですか?」
わたしの推論にビシッと指さすサッチーさん。
「そう! イズミちゃん察しが良いわ。
ヒジカタくんは喋ると残念だけど、黙ってる分には割とイケてるからアイテムとしては優秀なのよ」
「うわぁ、聞きたくなかった。女子って……」
トージョさんが引いてます。サッチーさん、いいんですか?
「男子だって、『あー、誰でもイイから彼女欲しい!』とか言ってるヤツの方が外見にこだわったりするでしょ。それと同じよ」
「まぁ、そう言われると……」
むぅ? 彼女欲しい?
マスターもそうなんでしょうか。
リア充め、とかスサんだ顔をする時がありますけど、時々。
「アレはポーズだけね。ホントはゼンゼン興味ないわよ」
「ゲームが最優先だからなぁ。
クラスでそっち系のイベントあっても来ないし」
あらま。杞憂だったようです。
「よかった。リアルで彼女なんて作られたら、コッチは放置されてしまいますし」
「あーそっか。そういうコトになっちゃうわよねぇ。死活問題?」
「大丈夫。あいつ、ますますゲーム優先になってるから。
逆にリアルの時間どこまで削れるかタイムアタックしてるよ」
聞くと最新のマスター現実生活が浮かび上がってきました。
無駄な時間をとことん切り落としてゲームに投資する。
よしよし。そうこなくてはいけません。それでこそマスター。
「リアルの友達としてはちょっと不安に感じちゃうんだけど」
「あいつが幸せならいいんじゃない?」
いいのです。マスターの幸せはこちら側にありますよ?




