103 利用料と楽しさ
「でも、どうして利用料とか。どこかでそんな話でも?」
いや、そういうワケじゃないんだけどな。
小屋を出て、イズミがいぶかしげに俺を見上げてきた。
「ちょっと得しすぎかな、と思ってさ」
『叫びの森』は別に私有地じゃないそうだが、現実、冒険者ギルドと錬金術組合が拠点を作って面倒見ている。
この両者から委託されて森番のオヤジが実際にイロイロやってるワケだ。
そこにヒョイとやってきた一見さんが耐性をカサにマンドラゴラ採り放題、は良くないと思うのだ。
得してるのは完全にコッチだけだ。
こんな関係は長続きしない。バランスが悪い。
だから利用料を持ちかけた。
寄付という形に落ち着いたが同じ事だ。
コレで俺達がここで採取することで、ギルドと組合、それに森番さんも得するカタチが出来上がった。
マンドラゴラ1個ずつだけどな。
だけどゼロと1ではゼンゼン違うはずだ。
損得のバランスも安定すると思う。
マナポーションの材料がゼンブ揃うこの森は、ヒジカタ錬金堂にとって大事な生命線だ。
そこを管理している皆さんとはイイ関係でいたい。
「爺サマも言ってたもんだよ。『独り勝ちは敵を作り、皆で勝てば味方が増える。どっちが楽かは言うまでもない』てさ」
「なるほど、マスターもなかなか腹黒いですね」
ひどい。わざわざ説明させて感想がそれか。
「お爺様はお金には苦労されたんですね。逆の意味で」
「ヘタに一発当てちまったからな。
最初はイロイロあったらしい」
贅沢な悩みだけどな。本人はゲームしたいだけだし。
「それはそうと。陽光ペナルティのアイコンはどうしました?」
「設定で表示オフにできるようになった。
ログアウト中に修正があったみたいだな。
ペナルティは変わらんけど」
かなりカッコ悪かったからな。普段はオフにしておこう。
さて、話もまとまったしいよいよ本番だ。
俺は単独で森の深部に入り、マンドラゴラの群生地を目指す。
イズミ達は拠点周辺の浅いところで素材の採集だ。
この森は天然素材の宝庫だ。ぜひ頑張っていただきたい。
トージョ&サッチーにはイズミのお手伝いをしてもらおう。
手強いモンスターも出るし退屈はしないはずだ。死ぬなよ?
集めた素材はちゃんと買い取るので安心しなさい。
もちろん昼飯もちゃんと食わせる。
イズミがお弁当作ってくれてるのだ。
「うまいぞ? きちんと残さず食えよ?」
「気にするのそこか!?」
「ひとりでって大丈夫なの、ヒジカタくん?
あんまり強くないんでしょ?」
ははは。ぶっちゃけ始めて2時間くらいのお前らよりゼンゼン弱い。ステ値的に。
しかし、ソコが楽しいのだ。
オール1の激低ステータスをスキルと根性でカバーする工夫。
スピードとパワーで遙かに勝る相手を紙一重で回避するスリル。
そして、捌いて掴んで投げ飛ばしたときの快感ときたら。もうね。ジュルリ。
「ああ、お前、そういうの好きだよな」
「やっぱりヘンタイね」
「マスターがオカシイのは同意ですが。
前にもやってるので大丈夫ですよ?」
イズミまでナニを言うか。
手強くないゲームなんぞ無意味だろう。




