101 初戦と事情聴取
9/23更新4つめです。
「よーし、さっそく行こうか」
挨拶を済ませた俺たちは連れだって町を出た。
向かうは予定通り『叫びの森』だ。
お二人さんにはハードだろうが、ケアはキチンとするつもりだ。
到着までにLVアップもさせてやろう。
ミライナ先生じゃないが促成栽培だ。
大したもんじゃないけどね。
「きゃーッなんか出たッ!? 花みたいなの出た!?」
「うわッ!? こっちもキノコッ、キノコきたッ!?」
街道を行くなり出現した植物コンビ。
体験版カップルは大騒ぎだ。
うーん、初々しいね。
そうだよな、最初はビックリだよなぁ。
「シロ、『雄叫び』だ。
イズミは、にし…、いやサッチーのフォロー頼む」
イズミがうなずく。
久しぶりのバトルだ。魔法はナマってないか?
「『ワオーンッ!!』」
返事代わりに雄叫び発動のシロ。さすが素早いね。
よし、植物コンビの足が止まった。
「『ロック・ウォール』
サッチーさん、距離取って!」
「『影縛り』
トージョ、今のうち攻撃だ!」
土の壁がガジガジ草を遮り、影乙女の柔腕が紫キノコを拘束する。よし、封じた。
「落ち着いて攻撃だ。大丈夫、いちばん弱い敵だから」
「サッチーさん。呪文唱えて、ロックオンしたら発動です!」
これ以上は手出し無用だな。
頑張れ、お嬢と執事。
「こ、この、くらえ!!」
「う、『ウインド・カッター』!?」
トージョの鉄剣がキノコを吹っ飛ばし、サッチーの魔法がガジガジ草を切断した。おお、攻撃魔法強いな。
「トージョ追撃! それで倒せる!」
「おおお!!」
大きく振りかぶりつつ疾走。
ズバッ。鋭い斬撃がキノコを仕留めた。
「や、やったか!?」
「ふー、こわかったぁー」
二人して一息ついている。
ご苦労さん。なかなかやるじゃないか。
よしよし。初戦は快勝だな。
お、向こうから次の敵がくるな。いいぞ。練習だ。
「ありがとうイズミちゃん! フォローすっごい助かったわ!」
「いえいえ。助け合うのは当然です」
サッチーがイズミに懐いている。
指示が的確で具体的だからな。
初心者にも安心のフォローだった。いい仕事だ。
「それに比べてヒジカタは適当だよな。イケとかビビルナとか」
「失敬な。前衛はそんなもんだよ。お前、ダメージ恐れすぎ」
敵を引きつけるのも前衛の重要なお仕事だ。
ダメージ覚悟でまずは突っ込む。
無謀も戦術のうちなのだ。
臆せずガンガン行けばイイ。
傷薬もたんとあるしな。作り損ねた☆1だけど。
「お前自身はどうなんだよ。補助魔法ばかり使ってたけど」
「こう見えて俺は投げキャラなのだよ。もちろん前衛だな」
「その格好で? 生産職かと思ってたぞ」
まぁ、実際半分くらいそうだけどな。
「お店を構えているので生産職といえばそうですね。
職業もわたしが商人。マスターが調合師ですから」
? そう考えると半分どころじゃ無いな。完全に生産職か。
「土方くん、あなた……」
「土方、お前……」
二人そろって妙な目つきで俺を見ている。ナンだよ?
「お前、イズミちゃんに『マスター』とか呼ばせてんのか!?」
「ご主人様って意味でしょ!? ヤダッ!? ヘンタイッ!!」
そこかよ!?
いや、それはだな。
ちょ、ヤメテッ、汚物を見る目は!?
「ホント? ホントに土方くんに変なプレイ、強要されてるワケじゃないの?」
「はい。それどころか、マスターは『ご主人様』の呼称を拒否しました」
容疑者である俺の弁解はすべて却下された。
いま被害者イズミさんの状況説明が進められている。
頼むぞイズミさん。俺の潔白を証明してくれ。
「なるほど。ヘンタイ紳士なら絶対食いつくエサなのに」
「ただ、このメイド服をわたしに与えたのはマスターです」
「土方くん?」
イズミさん!? なぜそれをココで出す?
容疑が増えちゃう!?
「ハダカ同然で転生したわたしに着せるため、なけなしの所持金をはたいて購入してくれたのです。大事な宝物です」
「ハダカって……。いったいどういう状況で仲間になったの?」
「それは秘密です。ですがわたしは感謝してますよ?」
そうそう、その通り。
エネミーだったイズミを、追いかけ回して吸血しまくった挙げ句にムリヤリ眷族にした。とかは絶対に秘密です。
容疑が増える、というか罪状がグレードアップされてしまいそうだ。
「そもそもマスターはヘタレです。強要などあり得ません」
「たしかに……」
「それもそうねぇ……」
イズミの供述によって、俺は不起訴を勝ち取った。
が、なんだろう。この敗北感は。




