朝、そして帰宅
次の朝、目覚めてしばらく自分がどこに居るのか分からなかった。
だいふ深く眠っていたらしい。
隣の女の寝顔に一瞬ぎょっとしたが、自分が着いてきたのを無言で承諾したことを思い出した。
起き上がり、タバコをふかそうとすると、女の膝丈のスカートがめくれて太ももがあらわになっていた。
いくら平和主義の俺でもムラムラしてくる。
女の太ももを思いっきり叩いて起こす
「いったぁーー!もうちょっと優しく起こしてよぉ〜。」
女は自分が誰とどこに居るのかちゃんと把握しているようだった。もしかしたら眠れなかったのかも知れない。
「何もしなかったんだね。」
無言で振り向くと女は真顔でベットに座っていた。
「何かしてくれてもよかったのに。」
俺の背筋が少し冷たくなった、この女は、こんなに狡い事を言う女だっただろうか…。
「俺すぐ帰らなきゃいけないから、もう出るぞ。」
ジャケットを着て立ち上がる。
「私も一服したいから1本頂戴よ、私のはもう無くなったから。」
「分かった、俺ちょっと便所。」
部屋にもトイレは付いていたし、下手な嘘だとは分かっていたが、俺は部屋の外に出た。
直ぐにでも外に出ないと、押し倒してしまいそうだったからだ。
外の喫煙所に行くとタバコを咥えた。
心臓がバクバクしていた、女の妖艶な眼差し、むっちりと肉が付いた太もも、
女の昔から変わらない体臭。
俺は慌てて自分にその体臭が付いてないかチェックしたが分からなかった。
「これは帰るまでに風呂に入った方がいいな…。」
あの女はあんなに女らしかっただろうか。
ダメだ、すぐにホテルを出よう。
部屋に戻ると女は既に支度が済んでいた、女は泊まる予定ではなかったので、俺が家まで送ることになる。
その間、どう対応したらいいのか。
俺はだんだんと混乱してきた。
「いつでも出れるよ」
女は少しはにかんでそう言った。
車に乗った間ずっと俺は無言だった、自問自答していたのだ、俺はこの女に何をもとめていたのだろうか、何を必要としたのだろうか。
その時ふっと自宅に置いている昔の雑誌の事を思い出していた。
「私ね、」
突然女が話だして俺は肝が冷えるのを隠すのに精一杯だった。
「あなたと付き合ってた時、処女だったのよ、だから、あなたの合図をどう受け止めればいいのか分からなかった。」
女は下を向いたままそう言った。
俺は黙ったまま女を家まで連れ帰り、家路に付いた。
温泉で昨夜の汗と匂いを落としてから嫁に電話をかけた。
「もしもし」
平凡な声、聞き馴れた声を聞いて俺は心底安心していた。
「あ、もしもし、俺だけど。今から帰るから。」
「分かった、ねえ、帰ってからちゃんと話そうと思ったんだけど、私妊娠したみたい。」
一瞬何を言ったのか分からなかったが、すぐに嬉しさが込み上げてきた。
「そうか、そうかよくやったな。何か買って帰るよ、何がいい。」
「じゃあ、オレンジジュースをお願い。」
俺は電話を切ると手近なコンビニに寄った。そして、帰ったら音楽雑誌は一切捨てようと心に決めていた。