懇願
同窓会の日が近付いていた。
女のことも、何故連絡してはならないのかと開き直る事にした。
付き合ってる頃から身体も重ねてない。
その気もないし、ただ相談をしてるだけだ。
楽しく。
お互いが楽しければそれでいい。
何故そこに色々と脚色を入れなくてはならないのか、面倒くさい、もう考えるのは辞めよう。
ハッと目が覚めた。
いつの間にか夢にまで考えが侵入してきていた。
「めんどくせえな。」
だいたいが深く考えるのが苦手なのだ、もう考えるのは辞めよう。
隣ではまだ嫁が寝ている。
人が寝ている姿と言うのは安らぐ、特に嫁は深く眠るたちなので安心してみていられる。
少し早かったが、寝過ごしても面白くない。
リビングに行って音楽雑誌を広げた。
ふっと自嘲気味に笑ってしまう。
俺はいつまでも音楽にしがみついてしまう、かなり昔の雑誌なのに捨てられない。
最新の雑誌よりあの頃の雑誌ばかり見てしまうのは未練と後悔の現れなんだろうか、あの仕事を受けなかった事の…。
「おはよう、早いのね。」
そういう嫁もかなり早く起きている
開きもしなかった雑誌をなんとなく隠した。
「起こしたか?まだ寝ててもいいんだぞ?」
「なんだか目が覚めちゃって、どうせだから朝食作るわ。」
「そうか、気分は良くなったのか?」
「気分?うんもう大丈夫よ。」
遠慮して付けなかった部屋の電気を付けて食卓で新聞を広げてみたが、さっきの雑誌の事が頭に残っていて記事が入ってこなかった。
「行ってきます。」
「はい、今日も頑張って来てね。」
今日はきちんと玄関まで見送ってくれる、やはり先日のイライラは女の複雑な仕組みだったのだろう。
車に乗り込むと携帯を横の窪みに待機させた、これは女に電話をし始めてから既に癖になっていた。
「ねぇ、奥さん自慢してよ。」
昼休みの移動中に電話をすると、女は尚も嫁の話を聞きたがった。
「いいってそういうのは、なんで聞きたがるんだよ。」
「だって…。。奥さん自慢して。」
今度は懇願するように言ってきた。俺はなんだかイライラしてきた。
「する話なんかねぇよ。」
少し強めに言ってしまった、仕方ない、俺のプライベートまで聞きたがる女の方が悪い。
「分かった、もう今後奥さんの話は聞かない。」
落ち込んだ声が返ってくる。こういう時の慰め方を俺は知らない。
俺はさっきまで話していた話に戻して話しだした。