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白銀のヘカトンケイル  作者: 北十五条東一丁目
第二章 第二節
52/289

50.楽しい傭兵団

 ――誰か、戦っている。


 その気配に気づいたアルフェは、歩いていた足を止め、少し顔を上げた。

 どこからか風に乗って、かすかな戦闘音が運ばれてくる。


「ど、どうしたの? アルフェちゃん」


 同行者が、急に立ち止まったアルフェに驚いて声をかけた。


「……魔物がいます」

「え? どこ? どこに?」


 アルフェの言葉に、同行者――ステラという治癒術士が、緊張した面持ちになって辺りを見回した。二人が歩いている街道は、まだ結界の外側にあり、いつ魔物が出現してもおかしくない。


「私には見えないけど……」


 アルフェはステラを一瞥した。

 辺境の開拓村でオークの一団と戦ってから、ステラはなぜかアルフェについてきている。振り切ろうと思えば、アルフェが彼女を振り切るのは容易だったが、敢えてそれをする必要もなかった。だから二人は、何となく連れ立ってここまで歩いてきた。


「音がします」


 周りは一面の草原で、ところどころに白い岩が突き出していた。その中で、草のなびく音に混じり喚声が聞こえてくる。

 平坦な地形に見えるが、実際にはそれなりに起伏があって、ここからでは音の発生源を目視することは出来ない。


 しかし、戦いの場はそう遠くない。音の感じだと、戦っているのは集団だ。

 ステラには、アルフェの聞いている音は聞こえないようで、彼女は両手を耳にあてきょろきょろとしている。

 特に歩調を変えるでもなく、アルフェは再び歩き出した。


「ちょ、ちょっと! 危ないよ!」


 制止の声も聞かず、アルフェは砂利道を進む。ステラは慌ててそれを追った。

 しばらくすると、少し小高くなった場所に出た。ここからは、かなり遠くまでを見渡すことが出来る。街道の先で、三十人ほどの集団が、赤茶色の犬のような魔物の群れと戦っている姿が見えた。


 戦っているのは、それなりに戦闘の心得がある者たちの様だ。彼らは馬車の荷台と荷物を盾にして円陣を組み、八方から襲ってくる魔物に対応している。

 魔物自体も、それほど強い種族では無い。動きからすると、ワーグだろうか。かなりの数がいるが、彼らが遅れをとることは無いだろう。


「あの人たち――魔物に襲われてる! 助けないと!」


 大きな声でステラが叫ぶ。アルフェはそんな彼女を、ちらりと見た。

 どうやら、アルフェの力をあてにして言っている、という訳ではなさそうだ。ステラは杖を握り締めて、今にも走り出さんばかりにしている。


 アルフェは前方の戦闘に視線を戻す。わざわざ彼らを助ける義理は、自分には無い。決着がつくまで静観していてもいいが――


「アルフェちゃん! 行こう!」


 どの道、魔物たちは自分の進路をふさいでいるのだ。背中の荷物をステラに投げ渡すと、アルフェは言った。


「――先に行きます」

「えっ、――きゃあ!」


 足に込められた魔力が、爆発的な瞬発力をもたらす。マントを翻しながら、アルフェは駆け出していた。ステラを瞬く間に後方に置き去りにし。戦っている集団がぐんぐんと近づいてくる。


 集団の一人一人を、はっきりと認識できる距離まで近づいた。円陣の中央で指示を出していた馬に乗ったフルプレートメイルの男が、アルフェの方を見て慌てる。物凄い速度で迫る彼女の姿に気が付いたらしい。


 集団は順調に魔物の数を減らしている。特に、円陣の外で両手持ちの戦鎚を振るっている男の動きが良い。今また、一匹のワーグが戦鎚に叩き潰された。彼らが勝利するのは時間の問題だろう。

 しかしそれでも、アルフェは速度を緩めようとしない。むしろ彼女は、更に加速した。


 その姿を見て、馬上の男がアルフェに剣を向けた。あまり度胸の無い男のようだ。突然の事態に動転している様子が、ひしひしと伝わってくる。

 男たちから二十歩の距離に達した所で、アルフェは一度身体を沈め、地面を蹴って跳躍した。


 バリケードになっていた馬車の荷台を、少女がいともたやすく飛び越えた。馬上の男は、そんな彼女を見上げている。その男に引き寄せられるように、彼女の身体がどんどんと近づいていき――


「――フゴッ!」


 兜の中から、くぐもった悲鳴が響く。

 男の兜を踏み台にして、アルフェは更に高く跳んだ。


 空中で、アルフェの身体が一回転する。伸ばした右脚のつま先が、飛来した魔物の嘴を正確にとらえる。灰色の翼を持つ怪鳥が、軌道を大きく逸らされ、きりもみしながら地面に激突した。


「うおおっ!?」

「なんだ!?」


 その墜落音で、それまでワーグに気を取られていた者たちも、別の異常が発生していた事に気がついたようだ。

 辺りには、魔物の灰色の羽が舞っている。その中で、少女は優雅に地面に降り立った。



「アルフェ! お前かよ! 誰かと思ったぜ!」


 円陣の外で戦っていた壮年の男が、両手を広げてアルフェに近づいてきた。ラメラ―アーマーを着込み、右手には柄の長い戦槌を持っている。髯で覆われた口元と、長く延びた襟足を後ろで結んでいる様は、どこかの山賊の親玉と言った風貌だ。


 既に街道で行われていた戦闘は終息している。あれからさらに数を減らしたワーグたちは、悔し気な吠え声を残して逃げ出してしまった。


「――リグスさん。リグスさんだったんですね。お久しぶりです」


 白い歯を見せ、笑いながら近寄ってくるのが面識ある男だったので、アルフェも少なからず驚いた。


「また会えるとは思わなかったよ。こんなとこで何してんだ?」

「隊長! これ見てくださいよ。腐肉漁りだ!」


 挨拶を交わしている二人から離れた所で、地面に落ちた魔物の横にかがみ込んでいた男が声を上げた。アルフェの蹴りによってか、墜落の衝撃によってかは定かではないが、腐肉漁りと呼ばれる怪鳥は首の骨を折って即死していた。


「ん? さっきの音はそれか。そんなのがどこにいたんだ。どっから湧いて出た?」

「血の匂いで寄ってきたのだと思います。皆さんを狙っていたので、私が落としました」


 アルフェも遠景から戦いを見たので気がついたのだが、まるで戦いの隙をうかがうように、この魔物ははるか上空を飛んでいた。アルフェが倒さなければ、一人二人は不意を打たれて死んでいたかもしれない。

 それを理解したのか、アルフェにリグスと呼ばれた男が肩を落とす。


「ああ、そういうことか。すまねぇ、恩に着るよ。また目の前に気を取られちまった。どうも俺は、戦い始めると周りに目がいかなくなっちまう。直さなきゃならんと思ってるんだが……」

「気にしないで下さい。行きがかりですから。それよりもリグスさんたちは、お仕事の途中ですか?」

「ああ、雇われれば何処へでも行かなきゃならんのが、この商売の辛いところだ。お前の方は――」

「待って! 待ってよ!」


 そこまで話したところで、ようやくステラが追いついてきた。


「ア、アルフェちゃん……、足、速すぎ」


 懸命に走ってきたのだろう。息を切らしてへたり込んでしまった。


「何だ? この嬢ちゃんは。アルフェの知り合いか?」

「……ええ、まあ。そういうようなものです」

「お前の知り合いってことは、やっぱり強いのか?」


 リグスは拳で空を打つ身振りをした。


「……どういう想像をなさっているのかは知りませんが、この方は治癒術士さんです」

「ふうん?」


 リグスが興味の薄そうな目を向けたところで、息を整えたステラが立ち上がった。


「アルフェちゃん、この人たちは知り合い?」

「はい、以前お世話になった、傭兵隊長のリグスさんです。リグスさん、この方はステラさんです」

「は、はじめまして、ステラです。……傭兵隊長? 何でそんな知り合いが……。まあ、あり得るのかな」


 ステラは一人でつぶやいている。アルフェはこんな外見でも、冒険者を名乗っている。しかも単騎でオークの軍勢と渡り合えるほどの腕前だ。そんな知り合いがいることもあるだろう。


「何ぶつぶつ言ってんだ。この嬢ちゃんは」

「さあ」


 ステラを放って、アルフェとリグスは話を再開した。


「リグスさんは、雇われていると仰いましたが、今はどなたに?」

「ん? ああ……、そりゃあ――、あれ? あいつはどこいった? ……おお、そこに転がってる奴だ」


 リグスは辺りを見回して誰かを探していたが、何かに気付くと、アルフェの脇の地面を指差した。

 それを見て、アルフェが面倒くさそうな顔をする。

 そこにはさっきアルフェが踏み台にした男が、完全に気を失ってのびていた。

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