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入学式(1)

と言う訳で、第二話です。

自重はすでに( )・ω・)mgmg済です。

す、スパダリ……?


では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

「はぁ?! おじさんとおばさんが離婚!?」


「――うん。去年の年末頃にね。ただ、それこそ夜辻坂から引っ越してしばらく経った後から母さん達よく喧嘩するようになって、おれが中学に上がる頃には別居してたから。成るべくして成ったって感じじゃないかな?」


逢森学園に中等部から通っている所謂内部生だったあきに案内され、高等部へ行く道すがら。

おれのこれまでの経緯をざっと説明していると僅かに眉を寄せた彼の大きな手がぽんっと頭に乗せられた。

くしゃくしゃと髪を優しくかき混ぜる掌から伝わる体温に瞳を細めつつあきを見上げれば眉を下げた彼と視線が絡む。


「そうだったのか。……大変だったな、ハル。」


「……そんな事ないよ。むしろよく持った方だと思うし、いざ『別れる』って言われた時には正直『やっとか』って思ったぐらいだもん。」


労わるように紡がれたその優しい響きの声が、じわりと胸に沁みていく。


……ああ、もう本当。おれ、あきの前ではダメダメだなぁ。


全然気にしていないつもりだったのに潤みそうになる視界に苦笑し、それを振り払うように首を振るとあきに笑いかける。


「……そうか?」


「――うん。ね、次はあきの番だよ? 何で私学で男子校の逢森に入ったの? おれ、あきは小学校の皆と一緒に公立の中学に行ってると思ってた。」


彼を見上げたまま尋ねれば、少し考えるようにあきが眉を寄せた。


「ん? ああ、まあ理由は色々あったけど逢森なら入学させしちまえば大学までほぼエスカレーター式で行けるってのがでかかったな。受験が少なくて済むならそれに越した事はねえし。それに逢森は設備も充実してるし、授業も最先端らしいからそういうのにも興味あったな。……あと、男だけのが楽だと思ったんだよ。女いるとキャーキャーキャーキャーうるせえし、少しクラスの女と喋っただけで付き合ってるのなんだのな噂立てられたりして、そういうのにうんざりしてたからな。」


「……ふぅん。そんな噂が立つくらいモテてたんだ? あきかっこいいもんね。……お疲れ様。」


後半になるにつれそれが余程嫌だったのか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ話すあきに苦笑し、今度はおれが労うように彼の肩をぽんと叩く。


でも、そっかあ。

転校先の小学校でも中学でもやっぱ惚れたはれたの話題はしょっちゅうあったししょうがないよね。


「……モテたっつーか、なんつーかあれは話題作りの種にされただけだぞ? てかかっこいい? 俺が?」


「そういう種にされるのがそもそもモテるって事だと思うけど……。うん、あき凄くかっこ良くて男前だから女子がキャーキャー言うの分かるなぁって。……あき?」


思ったままを口にすれば、小さく息を飲んで黙り込み手の甲で口元を隠した彼にじろりと半目を眇められた。


「……お前なあ。いきなりそんな事言うなっつーの。」


「そんな事? おれ、何か変な事……」


言った?と続けようとしながら見上げると思い切り眉を寄せた彼の目元や耳が朱に染まっているのが見えた。


あ、もしかして。


「あき、照れてる?」


「……うっせぇ。」


「やっぱ照れてる! あきがかっこいいのは本当の事だし、良いじゃん! うん、かっこいいよあき!」


ふいっとおれから視線を反らして少しだけ低い声で返すあきが何か少し可愛くて追い打ちをかけたらべしりと頭をはたかれた。


「いった!?」


「いい加減にしろっ。……ったく他の奴らに言われて何ともねぇのに、何で……」


自らの顔を片手で覆いながらまだ少し赤い顔でぶつぶつ言っているあきの隣を歩きながら小さく笑う。


何でだろう、八年離れてた筈なのにそんなのなかったみたいな、まるでずっと一緒にいたみたいな自然な距離感が心地よくて仕方ない。


向こうでも友達や親友と呼べる相手だっていたけど。


やっぱりここが――あきの隣が一番落ち着く。


「……でも、おれ色々あったけど。夜辻坂町に帰ってきて良かった。やっぱあきいないと、つまんない。」


そう言ってへらりと笑いかければ、瞳を瞬かせたあきの顔にさらに朱が差したのが見えたと思ったらぐいっと肩を抱き寄せられた。


「わっ!?」


「――おれもそうだ。お前が、ハルがいなくてずっとつまらなかった。何でお前が俺の隣にいないんだっていつも思ってた。だから、ハル。もうどこにも行くんじゃねえぞ。」


「あき?」


真剣な表情と真っすぐ見つめてくる瞳に今度はおれが瞳を瞬かせる。


「お前の居場所は、ここ(俺の隣)だろ?」


「……っ!!」


瞳を細めて続けたあきが笑った瞬間、ドキンと胸が大きく高鳴った。

かああああ、と顔に熱が集まり何度もこくこくと頷けばよし、と満足げにさらに笑いかけられる。


……な、何だろう。今凄くびっくりしたというか、凄く気恥ずかしくて、でも凄く嬉しくて、心臓が……。


未だ高鳴っている心臓を落ち着かせるように胸に手を当て大きく息を吐き出すと「ハル?」と訝し気なあきの声が耳朶を打った。


「どうした?」


「あ、ううん、ごめん、何でもない。あ、でもそう言う訳でおれ逢森学園の事あんま良く知らないから、色々教えてね、あき。」


「ああ。なら明日にでも学園内案内してやるよ。今日は昼、お前とおばさんと一緒にどっか食べに行くんだろうし。」


「え?」


「母さんが、今日の昼は母さんの親友達と一緒にどこかに食べに行くからHR終わったらさっさとクラスから出てこいって言ってたからな。正直、それ俺も行く意味あるのか?って思ってたけど、つまりはそういう事だろ? 大体母さんが『親友』って呼ぶのっておばさんくらいだしな。」


きょとんとして彼を見遣ればそう説明され、ああ、と納得した。


そう言えば母さんも昼はどこかに食べに行くって……。

って待って、という事は……。


「……もしかして母さんとおばさん、おれ達が同じ学校に通うって事分かってた? そう言えば受験の時母さん、私学で学費も高いのにやけに逢森プッシュしてた気がするし。」


そうだ。学費の事を考えて、公立に行くといった時「子どもがそんな事心配しないの! 大丈夫だから、逢森にしときなさい!」って背中を思い切り叩かれたし。


「ああ。だろうな、去年の年末頃なら母さんがやけに深刻そうにスマホ見てた時期とも重なるから、きっとメールか何かでやりとりしてたんじゃねえか? ……それなら母さんがああ言った理由も分かるしな。」


「あき?」


「……わりぃ、こっちの話だ。ああ、見えてきたな、あれが高等部校舎だ。で、人だかり出来てるのが昇降口な。あそこでクラス表貼りだされてるから行こうぜ。」


「……う、うん!」


最後にぼそりと付け足された言葉に首を傾げたものの、前方を指すあきにつられるようにそちらを見遣れば確かにそこには人だかりができていた。

その皆の楽しそうな喧騒におれ自身も何かわくわくしてきて頬を緩めれば肩を抱き寄せていたあきの手がそのままおれの腕を辿る様に下ろされ、さっきと同じように包み込むように手を握られ軽く引かれる。


……何だろう、こうして手を繋ぐことは勿論全然嫌じゃないし、むしろ伝わってくる体温が凄く落ち着くけど。


あきってこんなに自分からスキンシップ取るタイプだったっけ?


そりゃ子どもの頃は確かに喧嘩の度に抱きしめられてたけど、逆にアレは喧嘩した時だけで、それ以外ではむしろおれの方があきにひっつきにいってた気がするんだけど。


ふと疑問は湧いたものの、まあいっかとそのまま人だかりの後ろまで来ると大きく貼り出されているクラス表に目を向けた。


……ただ、うん。何て言うか……。


「……男子校なんだから当然なんだけどさ。見渡す限り男ばっかだね。」


分かってはいたけどいざこうしてみると女子がいない空間ってこんな感じなんだ、と前方の同級生達の後ろ姿を見つめているとあきが小さく噴き出した。


「まあな。そう言えばおれも入学した時はそう思ったな。マジで男ばっかだし。……ところでハル。」


「ん?」


「――お前クラス表見えてるか?」


さらりと図星を付いたあきの言葉にぎくっと肩を揺らす。


そう、全員男って事は皆それなりに背があると言うわけで。

それなりに高い位置に掲げられているとは言え距離もあるし、正直おれの背の高さでは全くクラス表が見えていなかった。


「……う……見えて……」


「ならお前何組か言ってみろ。」


でもそれを素直に言うのは癪で思わずそう返せば、打てば響くような勢いでぴしゃりと言われ口を噤む。

そんなおれの様子に察したらしいあきが息を付いた。


「……やっぱな。お前な、見えないならそう言えよ。変なとこで意地張るの、昔から変わってねえな。」


「……だって。アキに見えないって言ったら違うクラス教えられそうだし。」


「するわけねえだろ!」


唇を尖らせて言えば握られていた手を離され今度は額をばちんとはたかれた。


「いたっ!! もーー!! あきもすぐ手が出るところ変わってない!!」


額を擦りながらキッと相手を睨み付ければ、へいへいと頭を乱暴に撫でられる。


……そう言えば、あきはあの『おまじない』覚えてるのかな?


ふと湧いた疑問に顔をあげるとあきの形の良い唇が目に入り、瞬間あの『おまじない』のシーンが脳内蘇ってまたカッと頬が熱くなった。


「ハル? どうした?」


「あ、う、ううん! 何でもない! あ、ならさ、あき、おれ何組か教えて?」


反射的に顔を伏せれば不思議そうなあきの声が耳を打つ。

慌てて誤魔化すように言えば、ぽんぽんと頭を撫でた彼がああ、と再びクラス表に目を向けたのを見て詰めていた息を吐き出した。


……や、あんなの子ども同士のじゃれ合いと言われればそれまでだし、何より男とキスしたなんて記憶忘れたいと思われても、忘れられてても仕方ない事だけど!


「……B組だな。」


一人で悶々と考えてると降ってきた声にハッと顔をあげる。


「おれのクラス?」


「ああ、一年B組。……俺と同じクラスだな。」


「ほんとっ!?」


あきの言葉に勢い良く聞き返せば、ふはっと小さく笑い声をあげたあきが歯を見せて笑った。


「ああ、三年間よろしくなハル。」


「うん、よろしく! ……って三年間?」


「ああ。逢森は基本クラス替えないからな。ここで発表されてるクラスが卒業までのクラスになんだよ。」


「そうなんだ! あ、じゃあもしここでクラス離れてたら三年間一緒のクラスになれなかったって事?」


「そうなるな。――ラッキーだったな、俺ら。」


「うんっ!」


あきとこうしてまた会えて、同じ学校に通えるだけでもかなり嬉しくて幸せな事で、これ以上の贅沢は望んじゃいけないのかもしれないけど。

やっぱ同じクラスがいいもんね!


思い切り頷くと、わしゃわしゃと髪を掻き混ぜるようにして撫でられ瞳を細める。


「あ、じゃあクラス行く?」


「そうだな。こっちだ。」


「――へえ。あの『パートナー』さえ作らない『一匹狼』の湯地が外部生と抱き合って笑いかけ、手まで繋いてた、なんて噂があちらこちらで囁かれてると思ったら。まさか誰かの頭そんな風に撫でてるなんてな。槍でも降らねえといいけど。なっ、脩哉(なおや)。」


「ああ、全くだな。」


「え?」


あきの言葉に頷き歩き出そうとした瞬間、背後から揶揄いを多分に含んだはきはきとした快活な声と低いけどよく通る落ち着いた声が耳朶を打つ。

ハッとして振り返ると、スパイキーヘアに勝ち気な印象を受ける大きな二重の吊り目が特徴的なおれより少し背の高い男子生徒と、背は大体あきと同じくらいで、細身だけど均整の取れてそうなスタイルの良い体を制服に包んだ涼しげな切れ長の二重の瞳に黒縁のアンダーリムの眼鏡、左目の下の泣きぼくろが特徴的な男子生徒の二人組がそこには立っていた。

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