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プロローグ 八年ぶりの再会

周囲から「リア爆」と思われている幼馴染のラブコメです。

好きなものを詰め込んで、自重をやめました_(:3」∠)_


では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

――小さい頃、幼馴染と交わした「おまじない」がある。


おれは当時東京近郊にある夜辻坂町(よつじさかちょう)に住んでいて、家が隣同士だった幼馴染で同級生のあきといつも一緒だった。

どこに行くにも何をするにも二人なのが当然で、たまには喧嘩もするけどあきが隣にいないと落ち着かなくて、つまらなくて。

でもつい意地を張っちゃうガキなおれに対して、いつも折れてくれたのはあきの方からだった。


「なあ、ハルがいねえとつまらねえからさ。仲直りしねえ? ……ごめんな。」


そう言ってぎゅっと抱きしめられれば、小さなプライドとかはもうどうでも良くて。

泣きながら「ごめんなさい」と謝るおれの背を撫でながら「仲直りの印」だと言ってあきはよく額にキスしてくれた。


「よし、これで仲直りな!」


にっと歯を見せ悪戯っ子のように笑うその笑顔がおれは凄く好きで、うんと頷いておれから彼の頬にキスをするまでが一連のセオリーだった。

今思えば男同士で何してたんだとも思うけど。

でも、それくらいおれはあきが大好きで大切で、ずっと一緒にいられるって当たり前に思ってた。


その子供じみた幻想が呆気なく壊れたのは小学校二年生の二学期。

おれは父さんの転勤で転校する事になった。


「っ、やだ。……おれ、行きたくない。あきがいないとつまんないよっ。おれ、あきと一緒にいたいっ……離れたく、ないよっ」


その話をあきにしながらぼろぼろ泣いていると、腕を引き寄せられ今までで一番強く抱きしめられた。


「……俺も、ハルと離れたくなんてない。っ行くなって言いたい。でも、ハルは行かなくちゃ。――大丈夫、ハルなら引っ越してもすぐ友達出来るって。お前、良い奴だし。」


「っ、あきぃ……ッ、やだぁ……ッ!」


涙で少し潤んだ瞳で、それでもにっと笑ったあきにおれの瞳からはさらに涙が溢れて、彼の胸元に顔を埋め嫌がる様に首を振ると、おれの後頭部に手を添えたあきに優しく髪を梳かれた。


「……手紙、書く。メールも電話もするから。だから、もう泣くなってハル。」


優しく響くその声にゆっくりと顔をあげるといつものように額にキスを落とされる。


「っ……あき……」


「向こうでも頑張れ、ハル。あと……。」


そのままいつもより顔を近づけられ、あっと思った時にはおれの唇とあきの唇は重なっていた。


「……あき?」


凄く温かくて弾力のあるその感触にぴたっと涙も止まり、きょとんとしていると優しい手つきで頬を撫でられた。


「……ハルが俺を忘れないように。おまじない。――俺の事、忘れんなよ?」


こつんと額を重ねられ至近距離でそう言うあきにやけに胸がどきどきして、顔が熱くなるのを感じながら何度もこくこくと頷くと今度は頬にキスされた。


……うん、ここまでで済めばよかったんだけど。

当時のおれはそれで止まらなかった。


「…………あ、あのさ、あき。おれも、していい?」


「ん?」


「……その、おまじない。あきが、おれを忘れないように。」


どぎまきしたまま言えば、少し瞳を瞬かせた後「ああ。」と笑ったあきの唇に今度はおれから唇を重ねた。

そのまま唇を離しじっと彼を見つめる。


「……あき。あきも忘れないで、おれの事。――元気でね。」


「忘れるわけないだろ。……ああ、ハルも、元気で。」


そんな感じでファーストキスどころかセカンドキスまでして、おれ達は別れた。

ただそんな普通なら一生忘れられないんじゃないかって言う事したあきとも、それこそおれが引っ越した当初はしょっちゅうメールとか電話のやりとりをしてたけど、お互いの日々の生活の中で段々疎遠になっていって、小学校高学年になる頃には途絶えてそれっきりになっちゃったけど。




そんないつしか記憶の奥底に大切にしまい込んでいた彼の事を思い出したのはつい最近。


厳しい寒さが少し弱らぎ、通っていた中学の通学路の一角に植わっていた梅の大木についた蕾が綻び始めた中学の卒業式を二週間後に控えたある日の夕食後。

長年別居していた父さんの海外転勤が決まり、「けじめをつけよう」と三ヶ月前ついに父さんと離婚した母さんが荷が降りたような晴れ晴れとしたそれでいて一抹の寂しさを含んだ笑みでおれ――天ヶ谷桜(あまがやはる)に「夜辻坂町に戻ることにした。」と伝えてきた時だった。


母さんがずっと生まれ育った夜辻坂町に戻りたがっていたのは知っていたから、それを言われた時には、正直「ああ、やっぱりそうなんだ。」という感想しか湧かなかった。

多分そうなるだろうなとは思ってたし。


「ハルの卒業式が終わったらすぐ引っ越すから、部屋、片づけときなさいね。」


「……うん、分かった。」


軽く頷き、自分の部屋に戻る前に食器を流しに戻したところで脳裏にあきとの事が鮮やかに蘇った。


……『おまじない』の事も含めて。


「…………あーー、そう言えば。……何かのドラマかっていう感じの別れ方してるよね、おれ達。お互い子どもだったよね……」


僅かに頬に熱が集まるのを感じながら苦笑する。


でも、そっか。あれからもう八年経つんだ。


「――元気にしてるかな。……また、会いたいな。」






そこからの日々は本当に目まぐるしく過ぎていった。

何せ卒業式が終わったらいよいよ高校入試本番という時期の引っ越しだ。

さらにこの一年を通して決めた第一志望校の高校には距離的に見て通えないからと、この時期になって志望校を変えると話した時の担任を含めた三年を担当していた先生達の顔は一生忘れないと思うし、そこから怒涛の勢いで夜辻坂町の高校の事を調べてくれて手続き諸々をしてくれた先生達には本当に頭が上がらない、うん。

そんな先生たちの尽力もあって、おれ自身の学力やら通学時間とかの色んな条件と合致した夜辻坂町にある中高大一貫の男子校、私立逢森学園(おうもりがくえん)高等部の二次募集に間に合い、無事合格したおれは、晴れて今日入学式を迎える事となった。


「じゃあ、行って来まーーす。」


時刻は午前七時四十五分。

入学式の集合時間は八時半だから……。

うん、余裕余裕。


玄関に置いてある置時計の時間を確認し、上がり框に腰を下ろしたまま学園指定の黒のローファーを履いたところでで玄関の奥にあるダイニングに続くガラス戸に向かって声をかける。

するとドアがかちゃりと開き、エプロン姿の母さんが顔を出した。


夜辻坂町に戻ると簡単に言っても、前住んでいた家は引っ越す時に貸家にして今は違う人が住んでいて、母さんの実家は祖父母と伯父さん一家が同居してる。

そこで母さんが借りたのが前住んでいた家があった場所とは丁度逢森学園を挟んで逆方向に建っているこの3DKのマンションだった。

伯父さん達は一緒に住めばいいって言ってくれていたけど、「そこまで甘えられないから」と母さんが断ったのだ。


「はぁい。あ、忘れ物はない? ハンカチは持った? チリ紙は?」


「……母さん。」


どこかふざけたような口調で言いながらおれの元に歩み寄ってくる母さんに一つ息を付く。


「おれもう高校生だよ? 子ども扱いしないでってば。」


「なぁに言ってんの、親にとって子どもはいつまでも子どもなのよ? で、忘れ物はないわね?」


そのままてぇい、と額を小突かれ、思わず眉を寄せる。


「ないってば!」


「そう? じゃあまた後でね。あ、そうそう今日は入学式だけだし、お昼はどこかに食べに行くわよ。」


「本当? 分かった!」


久しぶりの外食の提案に瞳を輝かせれば、やっぱりまだまだ子どもじゃない、と母さんにさらに笑われた。


……うーー……不覚。


「だって、外食なんて久しぶりだから。――って、あ、やば。じゃあ行ってきます!」


ハッと時計を見ればもう五分経っていて、慌てて立ち上がりドアを開くと、温かい風が頬を撫で頭上を見れば淡い水色の空が広がっている。


――うん、いい天気。


「はいはい、いってらっしゃい。」


そう言って微笑んだ母さんの声を背に家を出た。





おれが住むマンションから逢森学園までは徒歩で十五分くらいの距離がある。

頭に叩き込んだ通学路を歩きながら、周囲をきょろりと見回した。


んーー……住んでた時は、こっちに来ることはあまりなかったから見覚えがあんまないなぁ。

まあ、来てたとしても八年経ってるんだし、きっと色々変わっちゃってるよね。


そう考えながら丁度半分くらいまで過ぎた地点で信号に引っかかり、逢森学園の制服を着ている人ごみに混じり立ち止まる。


「……あとはこのまま真っすぐで行けば着くはずだよね。で、今の時間が……。」


「――――桜?」


「……え?」


制服のスラックスのポケットからスマホを取り出しかけていたおれの耳に心地いい低くて力強い声が背後から聞こえたのはその時だった。

肩越しに振り返ると、おれの少し後ろ。

同じく信号待ちをしている人ごみの中で、身長は多分百八十五センチ以上。肩幅が広く均整の取れた男らしく逞しい体に長い手足を逢森学園高等部の制服に身を包んだ男子生徒がきりりと上がった男らしい太い眉の下、少しつり上がった二重の切れ長の瞳をこぼれちんばかりに見開いていた。


「……えっと……?」


ともすれば強面に見える腹立つくらいの精悍な顔立ちの男前に見覚えはなくて首を傾げると、駆け寄ってきた男子生徒にがっと腕を掴まれる。


「……えっ、ちょっ!? ――いっ……!!」


相手の行動に慌てて声をあげ、その力の強さと乱暴さに思わず眉を寄せ相手を見上げると、どこか必死で、そして寂しそうな表情を浮かべた彼と目が合った。


「……え?」


「久しぶりだな。……やっぱり、覚えてないか?」


懇願するかのような響きを宿した耳を打つ。

それを見ている内に何となく、何となくだけど覚えてないって言っちゃいけない気がして、相手の顔を見つめながら必死に記憶を掘り起こしているとおれの腕を掴む手の力がさらに強まった。


「もう八年も前だからな。忘れられちまっても仕方ねえよな。なあ、ハル。」


ハル、と呼ばれた瞬間、胸が大きく脈打ち大きく目を見開く。

昔から「桜」とかいて「はる」と呼ぶややこしい名前のせいで、友達からは名字呼びか、渾名として「さくら」って呼ばれてた。

だから、おれをそう呼ぶ人間はかなり限られていて、それこそ母さんや伯父さん達や、向こうでおれにとって親友と呼べる仲だった同級生。


そして。

いつも一緒だった、いつまでも一緒にいられると思ってた大切で大好きだった――……。


「…………まさか……(あき)……あき?」


その名前を呼んだ瞬間、記憶の奥底に大事に仕舞い込んでいたあきの顔と目の前で「ああ。」と頷いた彼の顔がぴったりと重なった。

ああそうだ、なんですぐに思い出せなかったんだろう。


あき――湯地瑛(ゆづちあき)

おれの大切な幼馴染。


「嘘……っ、あき!? 本当にあき!?」


「それはこっちの台詞だ! 本当にハルだよな!? お前何でここにいるんだよ、だって……!」


突然過ぎる再会に思わず身を乗り出せば、おれと同じかそれ以上に声を張ったあきに尋ねられ、ああ、うんと少し眉を下げて笑う。


「その、ちょっと色々あって。またこっちで暮らすことになったんだ。でも、またあきに会えたらいいなとは思ってたけど、まさかこんな早く――……!?」


そこまで言いかけると同時に掴まれた腕をぐいっと引かれ、気が付いた時には彼の腕の中に閉じ込められるように抱き締められていた。


「えっ!? あ、っ、え!? あき!?」


あまりの予想外の出来事に抱きしめられた瞬間、彼が呟いた「細ぇな。」といういくらおれがこの前やっと百六十二センチになったもやしっこだからといっても聞き捨てならない言葉に反論する事も忘れて目を白黒させる。


待ってここ往来!! 往来だから!! しかも何か凄く注目されてるから!


「あ……あきッ! その、おれ達注目されてるから!」


離して、という気持ちを込めて彼の背に腕を回しぽんぽんと軽く叩けば、さらに強く抱きしめられた。


え、えええっ!?


「あ、あきっ!」


「――会いたかった。」


思わずさっきよりも強く背中を叩こうとした刹那、耳元で囁かれた言葉にびたりと動きを止める。


「……っあ……。」


咄嗟に言葉が出なかったおれに彼が小さく笑った気配がして、体を離された。


「……しかし。その分だと『湯地瑛』の事は忘れてなかったみたいだな。ただ、それが俺と一致しなかっただけで。」


呆れたような声色のあきにぐっと詰まりながらも実際その通りだから言い訳のしようもない。


「……ごめん。だって、あの頃のあきってどちらかと言えば可愛いというか綺麗系の顔立ちだったから。」


そう。小学生低学年とは言え、あの頃のあきは切れ長の二重の大きな瞳が特長的なまさに薄幸の美少年と言う容姿の持ち主だった。

ただ、その容姿とは裏腹にかなり勝気でやんちゃなガキ大将ではあったけど。


「今もあの頃と同じ、性別迷子な顔立ちしたお前がそれ言うのかよ。」


でっけえ目、とあきの男らしく節だった長い指がおれの目元に触れる。

その指から伝わってくる体温が心地よくて仕方ない。


「うっ……! どうせおれは女顔ですよ! おまけにチビでモヤシだし!」


「…………ああ。おかげで俺はすぐハルだって分かったけどな。」


そのまま離れていくぬくもりが嫌で咄嗟に彼の指を掴み答えれば、僅かに目を瞠ったもののすぐにふっと小さく笑ったあきに逆の手でぽんぽんと頭を撫でられた。


「まあ覚えててくれたのならそれでいいけどな。じゃあ『ちょっと色々あった』の『色々』は後で詳しく聞かせてもらうとして。集合時間も迫ってるし、お前の言う通りかなり注目されてるからそろそろ行くか。」


「え」


あきの言葉にハッとして周囲を見回せば、その場にいる皆のどこか驚いているような視線を思い切り感じ、思わずかああ……っと顔に熱が集まってくる。


な、なんか凄い恥ずかしい事した気がする。


とりあえずばっとあきの指を離せば、すぃっと瞳を細めた彼に今度は手を包み込むように繋がれた。


「ほら、行くぞ。」


「あ、っ、あき!? ちょ、ちょっ、え、あ、う、うん!?」


そのまま歩き出したあきにさらに顔が熱くなるのを感じながらもつられるように歩き出し、繋がれた手に視線を落とす。


……そう言えば誰かと手を繋ぐなんて凄く久しぶりだ。


……てかさ。


「……忘れるわけないじゃん。おれだって、あきにずっと会いたかったんだから。」


少しだけ歩くスピードを早めて彼に並び、あきにだけ聞こえるように囁けば、繋がれた手がぴくんと震えさらにぎゅっと握り締められた。


「……ハル。」


ふと落とされた声にあきを見上げれば、彼の瞳とぱちりと目が合う。


「……そうか。なら、改めて。久しぶりだな。あと、おかえり、ハル。」


そう言ってにっと悪戯っ子のように笑ったあきは本当に昔のまんまで、それが嬉しくて笑い返す。


「……! うん、久しぶり!! あと、ただいま、あき!!」



と言うわけで。おれとあきはこの日、八年ぶりの再会を果たしたのだった。

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