表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レグルスと黒の帝国  作者: 木南 硯
4/6

少年、森トロールとの戦闘

 まだ幼いレグルスが森の中へ入ることは、バルタザールによって禁止されていた。

 バルタザールの家は四方を森に囲まれているため、必然的にレグルスは毎日を家の周りの狭い範囲内で過ごしていた。

 

 森の中へ入ってはいけない。決して知らない人とは話してはいけない。

 その掟に対して厳しいと感じたことはなかったが、不満が無いわけでもなかった。


「確かこの辺りから声が聞こえたはずなんだけど……」


 生まれて初めて入った森は、思いのほか薄暗かった。背の高い木々の葉が陽の光を隠し、薄ら寒い風が木々の隙間を水のように流れる。

 レグルスは指先に魔力を集め、ちらちらと揺れるロウソクの火をイメージした。すると、指先に小さな火が灯る。心もとない明かりだが、少しは探索が楽になるだろう。


 木の枝をくぐり抜け、大きな岩を飛び越える。岩陰から飛び出してきた小さな生き物を指先の火を放ち追い払ったところで、レグルスは心臓が飛び上がりそうな声を聞いた。


「グォォォォォォォォォォォ!!」


 大地を揺るがすほどの咆哮。何者かが、まるで巨大な足を引きずるように歩く音が近づいてくる。レグルスは草陰に隠れるように身を縮こめていると、ちょうど木々の間から陽の光が差し込んでいるところに、それは姿を現した。


「森トロール……!」


 おぞましい光景だった。灰味の強い鈍い緑色の肌、岩石のようにゴツゴツのずんぐりとした巨体。異様に膨らんだ下腹は醜くいやらしい。それは三メートルほどはあると思われた。


「こんな時に遭遇するなんて! 早くあの三匹を見つけないと!」


 しかし、目当ての物はすぐに見つかった。なんとあろうことか、ヴィズとゴラノラとルータは今にもトロールに飛びかかろうとしていた。

 レグルスは思わずやめろ、と叫ぼうとしたが手遅れだった。三匹のささやかな攻撃に気付いたトロールは、その丸太のような太い腕を振り上げると、三匹の小さな体をなぎ払った。

 あまりの悲惨さに、レグルスは目を塞いでしまいたかった。


「おい、トロール! 僕が相手だ!」


 レグルスは落ちていた小石を投げつけた。トロールは小石が肩に当たっても何も感じないようだったが、レグルスの叫びは聞こえたらしい。一度立ち止まると、今度はレグルスに向かって腕を振り上げてきた。紙一重の距離で横に転がるように回避すると、振り下ろされたトロールの拳が地面に食い込んだ。もし自分に当たっていたらと想像すると、顔が青ざめた。


 レグルスは自分でも何をしようとしているのか分からないまま、未だに木の枝を握っている右手に魔力を集め始めた。

 あのトロールの醜い脂肪の鎧で覆われた胸をも貫けるような、鋭いなにか。そうだ、岩石をも切り裂いてしまうような鋭い剣が欲しい!

 その瞬間、右手に握っていた枝がまさにレグルスが求めていたような光の剣に変化したのだった。その青い光に包まれた剣は実体はなく、魔力が集まって出来たようなものだったがレグルスには何故か根拠のない自信が湧きあがってくる。


 レグルスは勇敢とも無謀とも言える行動にでた。走って行って腕を地面から引き抜くことに苦戦しているトロールの背後に回り込むと、その首根っこに飛びついた。

 首にぶら下がっているレグルスに気がついたのか、トロールはレグルスを振り払おうともがいていたが、レグルスは力を振り絞ってしがみついていた。

 トロールも次第に疲れてきたのか、ヴァーヴァーと低い唸り声を上げながら動きが止まる。


「いまだ!」


 レグルスは剣を両手で握りしめると、トロールの背に深く突き刺した。

 光の剣はトロールの分厚い背中を心臓ごと貫く。


 トロールはふらふらとよろめいたかと思うと、派手な音を立ててその場に倒れこんだ。衝撃で地面が揺れた。


「やったのか……」


 レグルスは息も絶え絶えになりながら、しばらく自分のしたことをぼうっと眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ