第89話貴族達
国の後ろには侵入を拒むようにそびえ立つ山脈。
目の前は広い平原が広がっており、敵を迎え撃つにはいい立地と言える。
国の中には山から降り注ぐ滝による水路が設備され、真ん中には自己主張するような高い高いタワーのようなものができていた。
その国の中には、愛の国の人間、それと人間のふりをした魔物が仲良く国を作り上げていた。
「おい、嬢ちゃん!こりゃあどこに運べばいい!」
「それは、あっちの武器庫の中に運んで置いてくれ、ついでにそこに置いてある機材は、城の中に!」
「リンさん!レンガや木材の在庫はどこに!?」
「それなら、そっちの右奥を行った家に保管しておる!!」
「リンさん!ー」
建築中の建物の上に乗っている金髪の幼女は、皆の質問に答えながら、建築の指示を出し続ける。
その姿は大変美しい、労働者として働いている男性達にも火をつけ、特に効果的だったのは生意気な貴族連中も率先して働くようになってくれた事だ。
(まあ....全員じゃないんだよねぇ〜)
「何故私達がこんな事をしなくてはならん!!私達は貴族であるぞ!平民どもは図が高い!!」
「図が高いって.....俺ら何もしてないよな、ただ歩いてただけだろ....」
「我等に刃向かうな!!」
そんな馬鹿げた一方的な暴言。
はぁー、とため息を吐くと、オークは平民と貴族の間に割って入る。
「はいはい、揉め事はやめて下さいね、そちらの人は気にせず仕事に戻って下さ〜い、で?そちらさんは何が気に入らないと?」
偉そうに胸を張っている貴族連中五人。
どいつもこいつも腹の立つニヤケ顔をしやがって。
「我々には労働をする理由がない、平民は国のため働く義務があるが、貴族にはそんな義務はない!」
「そうですか、なら何の義務があると?」
「我々は強い子孫を残すという義務がある!!」
はぁ?馬鹿なのか?
そう言ってしまいそうな程頭の悪い発言をし出した貴族連中にもうため息も出ない。
「だからまず.....」
貴族連中が指を鳴らすと、後ろで女の子の悲鳴と呆れの声が聞こえてきた。
「なんじゃお前ら?」
「いきなり何するんですかぁ!?」
「やめて下さい!」
大柄な男達が少女二人とリンを後ろから羽交い締めにしている。
(ッ!?ど、どうすればいいの!?こいつら殺す?いやいやいや、殺して良いのかわかんない......まてよ?)
よく考えて見たらそろそろなんじゃないのか?
「あの、すいません今何時ですか?」
そこらへんに歩いていた髭面のおじさんに声をかけると
「ああ?今11時、もう2、3分で12時だぞ」
「ありがとうございます、じゃあいっか....」
オークはホッと息を吐くと民家に背中を預け腰を下ろした、出来るだけ邪魔をしないように。
「おい!さっさと連れてこい!!」
横暴に自分達の言う事を誰もが聞く、などとふざけた事を考えている馬鹿な猿どもに魔物であるオークは哀れだと感じ、取り繕うなら今のうちだと最後の警告を伝えた。
「あ、最後に忠告しとくよ〜貴族連中さん」
「なんだ?」
「王の帰還です」
次の瞬間、貴族連中と男達の間に黒い靄が現れ、そこから悠然と姿を現したのは白髪の少年。
両隣には赤髪の少女に銀髪の少女を連れていた。
その二人は目を奪われる程美しい、リンと遜色がないほどに。
その瞬間男達の目が変わった。
「おい!そこの二人は捨て置け!そっちの二人を捕まえろ!!」
「キャッ!?」
貴族どもの命令に男達はリン以外の女を突き飛ばすと、妖狐とカノンに手を伸ばそうとして.....
次の瞬間男達は地面に叩きつけられていた。
深々と地面に顔を埋めた男達はしばらくもがくと急に動きを止めた。
「おい、どういう状況か説明してもらおうか.....」
「は...へ?」
大柄な男達がいきなり地面に叩きつけられたのを見て、貴族達は動揺を色濃く浮かべる。
周りの人間達は唖然としていた。
オークはそんなユウキに何かを耳打ちをすると....
納得したように頷いた。
「少し話をしようか、貴族達はあのタワーに集まるように.....別に来たくない奴は来なくて良い、ただ後でどうなろうと保証はしないけどな.....」
自分の正体も言わず、何があるのかも告げずに一人勝手に国の中心地に向かっていった。
♯
タワーに集まったのは顔知らぬ貴族6人だけ、当然のように先程の5人組は来ていなかった。
だが、それでも、と、一応確認を取る。
「これで全員か?」
「い、いえ、先程あなた様に鼻を折られた人達は誰一人として来ていません、それ以外の貴族は皆この場に.....」
「ありがとう、そんなにかしこまらなくて良い、もっと気楽でいてくれ」
「は、はい」
何故か余計に体を強張らせた青年に苦笑いを返しながら、座っている貴族達を見た。
「では、早速本題に入りたいところなのだが......俺の事皆知らないよな?」
その質問に貴族達は黙って頷き肯定を返す。
それを見て頷くと、席を立った。
「じゃあ自己紹介から、俺は.....」
そこまで言いかけて、大げさに咳をすると、丁寧な言葉に言い直した。
「私はキリア=オーガスト、この国を作り、愛の国を滅ぼした者だ、どうぞよろしく」
昔学んだ王族としてのマナーを完璧に熟知していたユウキは華麗に一礼してみせた。
貴族達も目を疑うほどに。
今貴族達の頭の中はぐちゃぐちゃに混み合っていた。
小柄な少年で歳はかもない、この国の王の息子、王子だと思えば、実はこの国の王様で、とんでもなく強く、戦い大好きな戦闘マニアのような野蛮人だと思えば、貴族のマナーやしっかりとした立ち振る舞いを知っていて、愛の国にいた人間を救った心優しい人物?
なんなんだこれは......
本当に頭がおかしくなりそうなほどの情報量。
ただ、この国の王はやばい、ほぼ全員の心の中の思いは一緒だった。
「じゃあ、自己紹介していこうか.....君よろしく」
「え!?僕ですか!?」
いきなりの事に一瞬恐怖を抱いたが、周りからの視線に耐えきれず、おずおずと咳を立った。
「わ、私はー」
皆の自己紹介をユウキは軽めに聞いていた。
皆の自己紹介も終わった所でユウキは席を立った。
「じゃあみんなの自己紹介も終わった所で本題に移ろうと思う.....まずはこの国に住もうと思っている方は挙手をお願いします」
その声におずおずと全員の手が上がる。
予想だにしていなかった事に驚きを隠せない。
いても2、3人くらいだと思っていた。
「まさかの全員....なんで?こんな国よりもっといい所に住んでるんじゃないのか?」
「まあ.....それはそうなんですが、私愛の国で意識がない間に子供を作ってまして.....その責任をとらなくてはと.......」
気怠そうにはぁ、とため息を吐き机に前のめりに頬杖をついた。
「俺は見知らぬ妻がいて、最初は知らないって突っ撥ねてたんだけど.....最近記憶が戻って来たんだ、しかも俺からすごい言い寄ってたんだよ....」
恥ずかしそうに顔を隠し始めた青年。
そんな青年に、少し年上感のある男性が怒鳴るように言った。
「はぁ!?いいなぁお前らぁ!!俺なんか結婚しててなおかつ浮気してたんだぞ!?しかもそれがバレた直後に記憶失うし.......ここで逃げたらマジで殺されるわ!!」
嘆くように言った男性に続いて、先程から爪をいじっていた女性は
「私は.....ちょっといい男見つけたのよね〜その子口説こうと思って、そんな事じゃこの国に住む理由としてダメかしら?ね?お、う、さ、ま♪」
色っぽい女性が胸の谷間を強調しながら唇に人差し指を当てる。
こう言う女に好かれるやつって絶対ロクでもない奴だな.....
「例えば、王様とか?くどいちゃダメかしら♪」
(ロクでもない奴はおれだった!?......)
目の前から迫る胸、それと自分がロクでもない奴だった事に驚愕しながら少し身体をのなぞらせると。
その間にさっとカノンが割って入って来た。
「ダメです!あなたのような胸女にキリアさんは渡しません!!」
「や〜ん辛辣ぅ♪」
そう言いながら、手を前に突き出し体を揺らす。
妙に強調された胸が揺れ、男達の目線が一挙に集まった。
「キリアさん!!!」
カノンがチラチラと見るキリアが気に食わなかったのか、怒りごえをあげる、その反応を見て理解した胸女は.....
キリアの肩に手を回し、耳元で囁いた。
その時カノンは頭がモヤモヤして仕方がない、怒りが限界突破しそうな顔をしていた。
「それにしても王様もやるわねぇ?こんな可愛い子に好かれちゃうなんて?....このこのぉ♪」
「え?いや、違っ.....」
そう言いながら俺を面白そうにからかうと、カノンの顔を真っ直ぐと見つめ、
「安心して、あなたの男取ろうなんてそこまで酷い女じゃないわ、私が気になってる子は別の子よ」
そう言いながら色っぽく口角を釣りあげる。
カノンがほっと胸を撫で下ろし安堵した。
それを見て、また笑うと。
「けど〜やっぱり、王様って立場は良いわよねぇ♪どう?今夜空いてない?私でよければいっぱいサービスするわよ♡」
「この胸デカ女ぁぁぁあ!!」
カノンの悲壮な叫び声がタワー1階に響き渡った。
なんとかカノンの怒りを鎮め、落ち着かせる事に成功したが。
ユウキの隣に座り、胸女事ニース=クランをずっと睨みつけていた。
「にしても.....皆案外しっかりしてるんだな、貴族って責任から逃げる奴等だと思ってたんだけど」
頭の中に浮かぶのは先程の自分勝手なあいつら。
それと比較している事が分かったのか貴族達は文句ありげに言葉を投げた。
「「「「あいつらと一緒にしないで下さい(くれよ
)(よ)」」」」
声が綺麗にはもり皆思っていた事を口にしていた。
「だって、あいつら国ニス=グリモアの貴族達ですよ?そんなのと一緒にしないで下さい」
「ニス=グリモア.....次の俺達の目的地か.....」
ニス=グリモア王国、魔法、器械、武術、化学、全てにおいてエリートを輩出して来た国だ。
特にその中でも魔法において、他の国とは比べ物にならないほどの隔絶した力を持っていた。
魔法国家などと呼ばれ周りから畏怖されている、だがそのせいなのか、貴族達、王族達は自分達がとても偉く、素晴らしいと勘違いしているのだ。
「そうか.....ははは!!」
「どうかしました?」
「いや、なんでもないよ.....じゃあこれからこの国を頼むよ、優秀なこの国の貴族さん達?」
その言葉に耳を疑った。
今この人はこの国の貴族と言った。
つまり、私達はこの国でも貴族という立場を与えられたという事なのだ。
「「「「え?えええ!?」」」」
そう驚きの声を上げる貴族達にニヤリと優しく笑いかけた。
「俺がいない間もこの国を頼むよ?」
♯
辺りは暗く、すっかり陽が落ちた頃。
妖狐に呼び出されたユウキは、見慣れない家の前で立ち止まっていた。
扉を開ければ、そこにはひっそりと銀髪の獣人が佇んでいた。
「なんだ?こんな所に呼び出して.....」
「はい、実は渡さなくてはいけないものがあるのです.....」
そう言いながら取り出したものは真っ黒く染まった封筒。
手渡され見て見るも開け口が存在しない。
「なんだよこれ?」
「実はこれ......魔王軍の幹部の人に渡すように頼まれまして.....」
「魔王軍の幹部?.....見た目は?あと何か言われたか?.......いや、いい記憶見せて....」
「へ?ヒャんっ!?」
いきなり妖狐に迫り狐耳を触られた妖狐は可愛らしく悲鳴をあげた。
しばらくして瞼を開けたユウキは妖狐に聞いた。
「おい、この女悟りだろ?.....」
悟り、それは相手の心の声、思いを聞いてしまう能力。
確実に記憶の中の女は俺の心を除 覗き代弁していた。
「ええ、間違いないと思うのです」
その言葉を聞き、ユウキは瞼を閉じ何かに考え耽り始める。
しばらく沈黙が続いたが、それをユウキが破った。
「今考えても仕方なさそうだ、じゃあ俺は一度戻るよ..」
家の扉を開け帰ろうとし始めたユウキに妖狐は一番聞きたい事を聞いた。
「何処にも行きませんよね?」
「ああ、今の所は....」
小さくそう返し、暗がりの中に消えていったその背中を見つめ。
小さくホッと息を吐いた。
「あなたも大変ですね......また、変なものに好かれて......」
その言葉は誰に向けたものなのか、本当にユウキに向けられたものか、それとも自分自身に向けたものなのか、それは自分にすら分かりはしなかった。




