第87話終幕
ようやくこれで第7章が終わりました!
次からようやく第8章の始まりです!
「やっぱり.....キリアの言う通りだったか....」
ほとんど壊された城、先程黒い化け物がほとんど壊していった、城の瓦礫の中。
唯一残っているのは、下に開く羽扉、無駄に頑丈に作られていたおかげか無傷のまま残っている。
その扉に軽く触れ、鍵穴を見る。
すると慣れた手つきで鍵穴に触れ
「ウォーター」
鍵穴に水を敷き詰める、そして。
「フリーズ」
鍵穴の形のまま、水を凍らせると、専用の道具を突き刺し、ぐるりと回した。
ガチャッ、扉の開く音がして、一気にけ破る勢いであげれば、そこには下り階段。
「ふむ.....歳は食っても、腕は落ちていないようじゃな......」
自慢げに胸を張り、階段を下っていく。
だが途中でつい足を止めてしまった。
「ッ!?.....なんなんじゃ!?....こりゃあ!...」
鼻をつんざくような匂いが香る、地下深く。
「今まで地下にこんなのがあったてのか!?」
そこに広がる場所は、目を疑うような光景だった......
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暗い、黒い闇の中、体が動かず自分と瓜二つの俺が目の前にいて、ずっとその顔を虚ろな瞳で見ていた。
だがある時ふっと何かが事切れたように、手が動いた。
その手で求めるように、目の前の自分に手を伸ばした、その瞬間、あたりは光に満ち溢れた。
「な.....何が?.....ここは?」
地面から体を起こし、土埃を払う、そして絶叫した。
「俺の家がぁぁぁぁあ!?まだローン残ってんのにぃー!?」
手から滑り落ちた指輪に目もくれず、ただひたすらに目の前の絶望にすすり泣いた。
♯
「うっ.......頭が.....ここは....」
目を覚ました男は目の前のフライパンと、上手くできたカレーライスに驚き目をひらく。
「ここは?.....私が....そうだ私の....夢.....お店だ」
今までゲテモノ料理と蔑まれて来た私の料理が、ある人と出会いまともな料理が出せるようになった........
「そのおかげで、確か私のお店は繁盛して?.......あっ!?お客様!大丈夫ですか!?」
儲かったおかげでリニューアルした店内に転がる人達を料理人服の男は必死に揺らし起こそうとしていた。
♯
「はぁ.....全く....さっさと起きなさいよ」
自分の膝の上に寝転がる、男。
元は自分の後輩で、私が強くしてあげた弟子ともいうべき青年の頬を軽く叩く。
「これがやっぱ、言ってたやつ?だよね」
妖狐ちゃんに聞いた言葉
『確実に、この国は変わりますよ』
そんな言葉を言った時の顔が、なんとも言えないような、不思議な顔をしていた。
「ってことは今変わったのかな?この国......実感わかないなぁ」
ただ一つ言えるのは冒険者の一人、私を迎えに来てくれた青年の指輪が壊れ、この何もない、誰もいない冒険者ギルドで気を失ってしまったという事だけ。
「さっさと起きなさいよ.....」
文句ありげに、青年のほほをつねる。
強めにやったのだが、それでも起きない青年にため息を吐き隣を向くと、そこには染色剤が.......
チナツは目を輝かせながら染色剤に手を伸ばした。
♯
淡い光が放つ部屋、外はもうすぐ日が沈む。
その部屋の真ん中、ベッドの上に寝ているのは疲れ切り、憔悴しきったユウキの姿。
「全く.....無茶をしおって....」
ユウキの体に手を当てリンは溜息をついた。
全身の骨はボロボロ、腕、脚の筋をグチャグチャだ。
「これは......しばらく目を覚まさぬだろうな....わしらがなんとかしておかなくては.....」
「なんとかするって?なにを?....」
「国の人間の混乱をじゃ......最悪の場合力ずくでこの混乱を収める」
窓から覗く道行く人達は、大混乱に包まれ、わーわーと喚きあっている、その様子に、はぁ、と深い溜息を吐き。
「では行くか.....オーク、エミリー.....」
「じゃあヒースミルちゃんも連れて行きましょう.......確かヒースミルちゃん、この国では立場が高い人だった気がします」
「そうか....じゃあ連れて来てくれ...」
何故かいつものような高い声ではなく、今日は暗い声でエミリーに言う。
そんな淀んだ雰囲気が漂うリン達にカノンは声をかけた。
「あの!.....私は?...」
「カノンはユウキのそばにいてやってくれ......」
「え?....どうして?.....」
カノンの消え入りそうな言葉にリンは後悔の滲む瞳でカノンを真っ直ぐと見据えると、すぐに扉をあけてエミリーと共に部屋を出てしまう。
二人のあまりの変わった様子にカノンは目を丸くして、扉を見つめる。
すると一人残っていたオークが、結んでいた腕をといて、カノンを一瞥する。
「僕達には.....王の近くにいる権利が無いんだよ.....」
本当にオークの沈んだ声が......部屋に響き、オークも出て言ってしまった。
その時わかる、皆がユウキを拒絶してしまった事をどれだけ後悔しているのか。
(みんな........)
悲しそうにもういない部屋を見て、ユウキを見る。
(ユウキさん.....早く帰ってきてくださいね...)
ユウキの布団に潜り込み、ユウキに抱きつく。
優しく、自分の心が伝わるように、早く目が醒めるようにと願いながら.......自分自身を慰めるように。
(......そしてどうか....みんなに言葉を......)
「ユウキさん....」
愛おしそうに、目の前の少年に呟き、瞳から涙を浮かべ、瞼を閉じた。
♯
「ーどうなってるんだ!?」
「ーここは....」
「ーきゃぁ!?血まみれの人が!!」
愛の国、どの人間も笑顔に満ち溢れている、と称されるこの国は、今笑顔などどこにもなかった。
状況が理解できずただひたすらに淀み混乱し続ける。
その状況に、屋根に立ったヒースミルは笑った。
華麗に屋根を蹴り、妖精のように飛んだ。
周りに浮かぶ紫の結晶が空に舞っては散り光を生み出す、その幻想的な光景に妖精が舞う。
「なにこれ....ッ!....」
たったそれだけの動作に道路にいる人間.....主に男は釘付けになり、幻想的な光景に女も息を飲んだ。
地面にゆっくりと降り立ったミースミルは涙を目に浮かべ、手を前で結び、悲壮感漂う声を出した。
「皆さん!聞いてください!......私達は今まで操られていたんです!」
そう言って、涙を一粒ポロリと流す。
それだけで場を時を人を全てを魅了した、もうこの場は全てヒースミルのものになった。
ヒースミルはそのまま悲しそうに訴えかけるように、今までの事を話した、とても簡潔に。
国の人間達は皆、悪の王リクに操られていたんだ、だがキリアという方に助けていただいた.......とまあ、そんな内容を含んだセリフを伝える。
そんな演技派ヒースミルをエミリーとリンが見る。
「流石......一瞬で場をものにしてしまいましたね.....」
「うむ....あれは上手いと言わざるおえんな.....」
両手から魔法を結晶状にばらまく演出、可哀想と共感しそうになるほどの演技力、全くもって詐欺師だ。
「それで?.....どんな風にオチをつけるつもり?...」
エミリーは横目でリンを一瞥すると、リンは少しジトッと見て口を開いた。
「........お主....口調が変わったのぉ....その姿のせいか?....」
はっ、として咄嗟に手を当て、口を塞ぐ。
「......すいません....気をぬくとつい変わってしまうんです.....」
「ふーむ、別に良いではないか.....口調なんぞ.....」
「そうですね.....この後どうするつもり?」
リンの言った通り、口調を気にせず、普通に喋り、1番気になっていた事を質問する。
「そうじゃな.....ともかく、助けたお礼を払ってもらう」
「お礼?.....」
「ああ、肉体労働でじゃがな......」
そう言ったリンは隣のサキュバスを見る、すると分かってる、とばかりにビシッと敬礼をして、巨大なワープホールを作り上げる。
「さぁ!皆さんこちらに来てください!.......ようこそ、キリアの国に!....」
ヒースミルは口元を笑ませながら巨大なワープホールに国の人間を誘い込み、我が主人の国へ向かい入れた。
♯
1日が終わりを告げ、2日目の朝を主張するように朝日が昇る、それと同期するようにユウキもまた何故か体を起こした。
「う....また...これか....ただ今回は...カノンがいるな....」
自分が気絶している時まで充実に一緒に寝る約束を守るなんて本当に従順で律儀な奴だ。
「あ.....やばい...気を失い......」
カノンの顔を見ながらそのまま、倒れ込んでしまった。
その光景は愛おしい、恋人達のような光景で、誰もが思い描くような理想的な愛の形だった。
♯
「結局潰れてしまったか.....これでまた未来にズレが生じた......」
目の前に移る、神秘的な未来へのありとあらゆる樹形図、だがそれのどれにも書いていない人物がある。
「キリア......貴様は誰だ?何処から来た......どうやって未来に介入した?....」
どうすれば決められたいくつもの可能性のある未来に、全く示されていない、理解不能な道筋を作り出せる?
どうして、どの道筋にも、貴様の名前が書かれていない?
「なんなんだ貴様は......」
忌々しそうにそう口にして、未来への樹形図、自分の望む未来から外れていることに恐怖を感じる。
「このままではまずいな.....今すぐに始末せねば......エーグル=C=ノーバン.....今すぐに奴らを始末せよ.....」
そう呼びかければ、深い闇の中ひょっこりと姿を現した、まさに神出鬼没。
「へぇ?俺に頼むなんて珍しいこともあるもんだ.......当然殺していいんだな?」
「ああ、むしろそうしないならば貴様など例外者を使うわけあるまい.......」
「ケッ....まあいいぜ、こき使われてやるよ」
暗闇に消えていく、少年の姿を一瞥すると、目の前の未来への樹形図を目にする。
我ら廻来教の目指す未来への逆方向、キリアによって作り出された消え入りそうな未来への紫の線が真っ直ぐと伸びていて.......
そこにはただ『復讐者』の文字が刻まれていた。




