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復讐するため今日も生きていく  作者: ゆづにゃん
第八章反撃開始
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第79話演技

「全く、女の子はもう少し丁寧に扱うのですよぉ〜、《狂い咲き【乱風】》」


空中で風魔法を唱え、何発もの小型の竜巻を地面に放ちながら体制を保ち地面に綺麗に着地する。


「全くこれも邪魔ですよぉ〜、束縛趣味は嫌われますよぉ?《万里の力・剛力・わが身に宿せ【腕力強化(パワーブースト)】》」


走ってきた、ノームを馬鹿にするようにそう言うと、腕力強化魔法で、ヒースミルの細い腕では絶対に出せないような力で体に巻きついた、鉄の縄を引きちぎる。


「本当にお前....敵なんか?」


「さぁ、どうでしょう?《狙撃・第一・第三・第五射》」


ヒースミルはノームに照準を合わせ魔法を放つ。

ユウキのように詠唱がいらないのではなく、詠唱が必要だからこそできる裏技、詠唱繋ぎによる連撃魔法。

一級の魔法使いと国に認められ、その国を守護する者として魔法帝国で訓練を受ける、その時に教わる魔法が軍用魔法、そしてその応用による、裏技、というか軍用技術が魔法連撃。

ヒースミルの前に突き出された右手から炎と闇の第四射が空をうねりながらノームに襲いかかる。


「ッ!お前の攻撃躱しにくいんだよ!!」


ノームが軍用剣技【空舞】短剣二刀流で素早く空を切るとかまいたちのような現象を引き起こし、魔法を消しさった。


「甘いですよぉ?砂糖菓子よりも甘ぁい」


「は?何言ってん、ぐぅ!」


次の瞬間背中に強い衝撃が走った。

後ろを振り向いてみると背中に食い込んだ紫の螺旋状の棘、容赦なく背骨に突き刺さっている。


「ぐっ!いつの間に!?」


「悪いですが、地面から魔法を通しましたぁ」


ヒースミルの足元には穴が空いており、出口はノームの足元に空いている。


「気づいても良かったんじゃないですかぁ?詠唱では第五射まで唱えてるんですからぁ、魔法が第四射まで出てない時点で気付きましょうよぉ〜」


無理矢理、黒魔法【闇の棘】を抜き捨てると痛そうに背中を抑えた。


「結局お前は.....味方なのか?」


「どうしてそう思うんですぅ?」


「お前昔俺と一緒に盗賊の討伐に行った時、敵の味方になったふりをして俺も騙した後で盗賊皆殺しにしてただろ?だから同じことしてるんじゃないかって」


「..........ふふふっ!流石ですよぉ〜ノームさん、出来ることなら貴方も騙して、あの男を騙し殺したかったのですよぉ〜」


ヒースミルの暴露話を聞いて、ノームは頷いた。


(って事はやっぱりヒースミルは精神支配を使ってないって事か!......なら)


ノームは既にヒースミルを敵として見なくなり、仲間であるヒースミルを無理矢理掴むと走り出す。


「どこに行くのですぅ?」


「あの男の所だ、ヒースミルは隠れながら男に精神支配を使え.....絶対にまともに戦うなよ、あいつら馬鹿だから気づいてないけど相手は化け物だ、下手したら一瞬で終わる」


「当然でしょう?後嫌ですけど」


「はぁ?あいつどうにかしないと下手したらこの国終わるんだぞ?いいのか!?」


まさかの協力しない発言に驚き、ヒースミルの説得のため足を止めた。

本当だったらこんな事をしている暇だってないのに。


「貴方は馬鹿ですよぉ〜だって私はぁ......」


ヒースミルの手から黒い光が輝いた...するとノームの口から血がポタポタと流れ落ちる。


「ゲホッ!!....なんだよ....これ...」


次の瞬間ノームの背中から禍々しい黒の槍が生えてきた。

しかもいやらしく先端にはフックがつけられている。


「あの人の奴隷ですからぁ〜」


地面に倒れ尽くしたノームに聞かせるように、言葉を紡ぐ。


「そもそも貴方馬鹿なんですかぁ?あの程度の嘘を信じて、しかも近くまで寄ってくるなんて..........そんなに死にたかったのかなぁ?」


そんな馬鹿にしたような言葉もノームには既に届かない........


「あ、もう死んじゃいましたか.....」


つまらなそうにヒースミルは自分の主人の元へ歩身を進めた。




「ぐっ!?......拳闘だけは上手いようだな!」


上から振るわれた剣を躱しマトナの顔面に右ストレートを合わせる。

とっさに剣から右手だけを放すと自分の顔に盾のようにしてユウキの拳打を受けた、が。

衝撃が少し残ってしまい、軽く吹き飛んだ。

だが流石に高ランク冒険者、綺麗に着地を決めた。


「あいつは拳闘だけは強いみたいだ、俺達が本気を出せば、余裕も余裕だ」


「1人でも十分だろうな、だがせっかくだ、2人でやらないか?」


「いいなそれ......お前からしたら絶望だろ?ただでさえ勝率が低いってのに2人でタッグその時点で勝算はゼロだ、かわいそうに」


確かにな、あいつらからしたら俺は下級魔法しか使えない、しかも武器も持ってないただの雑魚に見えているのか、少し現実を教えてやるのもいいが.........

その時偶然にも聞き覚えのある裏切り者の声がした。


「終っわりましたぁ!」


ヒースミルが来た事で男2人は眉を深めた。

多分ノームがやられたと悟ったのだろう。


「意外に早かったな、こっちは全く動いてもいないぞ」


にしてもタイミングいいな、これで面白いことができそうだ。


「それにしても良かった.....こっちに来てくれ」


「はぁーい」


ヒースミルの華奢な体を掴むとこちらに引き寄せ首筋に小型のナイフを当てる。

ヒースミルがキャッ!と嬉しそうにしていたが何も俺は見ていない。


「いい人質がいた.......これなら俺でも勝てるよな」


「貴様ぁ!!」


ガリアムールが悔しそうに拳をプルプルと震わせている。


「さぁ、動くなよ?ちょっとでも動いてみろ、こいつの首と体がお別れしちまうぜ?」


完全に悪役の顔をして、主人公的な正義のヒーロー様御一行を脅しにかけている、このままいけばヒースミルが我を取り戻して俺はやられるのだろう、悪役らしく。


「ふふふ」


ヒースミルは何が面白いのか笑っていた、ユウキの顔を見ながら。

ユウキは右手から初級魔法、ファイアーランスを数本展開すると。

一気にマトナとガリアムールに向けて放った。

だが、当然Sランク冒険者こんなもの避けて当然.....だが。


「避けるなよ、避ければ......分かるよな?」


「なんて卑怯なっ!!!」


手元にあるナイフをギラギラと見せびらかし、確実にファイアーランスを、マトナとガリアムールに当てていく。


「げほっ!?」


「ブッ!?ガッ!?」


棒立ちのままファイアーランスを腹に顎に腕に、いたる所に当て続けていく。

この時ユウキの最低な所はあえて弱い魔法を使い、自分より弱者に圧倒されている悔しさを味あわせると同時に、体の一箇所に痛みが集中しないよう、満遍なく痛みを与え続けている事だ。

本気でやれば、一発で殺せるだろうに......

そんな事も知らないマトナとガリアムールは悔しそうに俺を睨みつける、だがそれと同時にマトナとガリアムールはその場に倒れこんだ。


「くっそ!!人質さえいなければぁ....!!」


ガリアムールが地面に倒れ込みながら俺を見上げる。

先程の顎に直撃したファイアーランスがよく効いているのだろう。


「俺は.....諦めないぞ!絶対に.....お前みたいな....最低で....卑劣な戦いをする奴なんかに!!....」


ギリギリと、歯噛みしながら気合いのみで足を地面につけた。


「どこにそんな力が!?既にお前の体はボロボロなはず!.....」


俺はマナトが立ち上がったことに驚く。


「お前なんかの魔法が効くかぁ!!......お前も....そうだろう?....ヒースミル!」


マトナは力の限り叫んだ、仲間のため、こんな弱い奴に負けている自分とヒースミルに鞭を打つために。


「ヒースミル!....お前は!...そんな奴に負けるような奴じゃないはずだ!!....本当の自分を思い出せ!!」


「ふっ!そんな事を言っても無駄だ、ヒースミルは完全に私の物に...」


その時ヒースミルが悲しげな表情で首を傾げた。


「......本当の....自分?....」


「なん、だと!?」


まさかヒースミルがそんな事を言うと考えてもいなかった俺はおののき呻く。


「ああ、そうだ!......思い出すんだ!...本当の自分を!...」


「本当の自分?.....私は....私は.....」


一歩一歩、ヒースミルがマトナに近づいていく、怯えた足取りで、マトナは安心しろとばかりに両手を広げると。


「さあ、こっちに来るんだ!!」


「......はい!...」


薄っすらと涙を浮かべたヒースミルはマトナの胸の中に飛び込んだ。


「さあ、反撃開始だ!」


ヒースミルを抱きしめたマトナは立ち上がり剣をユウキに向ける。

近くのガリアムールも根性で無理に立ち上がった。


「くっ!?なんと言う事だ!これでは俺に勝ち目が.......」


ユウキは悔しげにそう呟いて......


「あり過ぎて困るよな」


口角をニヤリとあげた。

次の瞬間、鮮血がまった。


「どうして.....ゴフッ....」


口から血を吐きながらマトナは地面に倒れこむ。

その場に立っていたのは血塗れのナイフを持ったヒースミルだった。

すぐにマトナの近くを離れると俺の元に戻って抱きついて来る、よくやった、と俺はヒースミルの頭を優しく撫でた。


「それにしても上手い()()だったな、涙まで流すなんて.....俺とは比べ物にならないぞ」


「そうでしょう?もっと褒めてくれていいんですよぉ〜?あと、ご主人様は少し演技が臭すぎますよぉ〜、私笑っちゃいそうでした」


「演技?.....どう言う事...だ?」


マトナはまだ状況が理解できず、いや理解したくないように頭を横に振った。


「貴様ぁ!!よくも、よくも我等を騙し....!」


ガリアムールは下を向いていた顔をぐわっとあげるとユウキに重そうな大剣を横薙ぎに振り回す、が。


「お前は黙ってろ」


迫り来る大剣に膝蹴りを合わせ、破壊すると、驚愕に染まったガリアムールの顔面に右ストレートを打ち込んだ。

完全に無防備だったため、直撃、勢いのまま壁に叩きつけられる。

マトナはそんな事も気にする事が出来ないような心境で、ヒースミルを見ていた。

笑顔で悲惨に微笑む小悪魔をマトナはじっと見ていた。


「演技ですよ、演技、そのまんまの意味です、言葉わかります?」


ヒースミルは馬鹿にするように嘲笑する。


「ただ私達が貴方達逆転するような演技を見せてあげただけ.......どうですぅ?楽しかったでしょう?正義の勇者様ごっこ、実際私達は面白かったですけどね、貴方達の本当に仲間を救ったと勘違いした表情、正直吹いてしまいそうでした....ふふふふふ」


マトナの表情がズンズン暗く悲惨なものになっていく、本当の絶望の表情だ。


「ああ、いいなその表情、それが見たかった」


「確かに何かそそる表情ですぅ」


マトナは目の前で笑っている2人の悪魔を見て、心がポキッと音を立てて折れた。

自尊心などの根っこから全て、怒る気力もなくす程に。

心が折られてしまった。


「いいこと教えてやる、今までの全てどうしてこんな事が起きたと思う?」


「どうして?....起きた?」


「それはな、お前が俺達の実力を見余ったからさ、お前は勝てる気でいたんだろう?奪われた仲間だって帰って来るって、俺が呼びかければ........なんて、都合のいいこと考えてたんだろ?馬鹿だと思わないか?滑稽だと思わないか?実は全て思惑通りに事が進んでいるってことも知らないで、哀れさで俺はもう胸がいっぱいだよ!なぁ?」


「.....あ....あ、あ、あああああ」


まるで現実逃避をするようになんとか言葉を紡ぐ。

もうここまでやれば十分だろう。

黒剣を抜くと上に振りかぶる、まるで俺が死んだ時と似通っているが、気にするまい。


「じゃあな」


振り下ろされる剣をマトナは見つめ


「ああああああああああああ!!!!」


発狂したように声を上げると黒剣が当たるすれすれで意識が飛んだ。

そこで黒剣を動きが止まる。

マトナは口から血混じりの泡を出して、力なく倒れこんだ。



「本当に....姉ちゃんなのか?」


ミキはあまりの光景に目を疑った。

そこにはエミリーの目の前、男の真下に巨大なクレーターが出来上がっていた。

どうしてこうなったのか、鮮明に覚えているが、なんで、どうして、どんな魔法を使ったのかが理解できない。


「どうなってるんだ!?」


頭を抱えながらミキは叫んだ。

いつからこんな力の差ができてしまったのだろうと。


たった数分前の事。


「いきなり戦うなんて、流石に大人気ねぇしなぁ」


何を思ったのかアキはそういうと腕を組む、その手は筋肉がよく付いていて、昔の痣がよく見える。

これだけで相当な修羅場をくぐってきている事が、目に見えていた。


「一発だ、たった一発だけどんな魔法でも食らってやる、剣技は無しだぞ?おじさんの首飛んでっちまうからなぁ」


薄ら笑いを浮かべ、どっからでもかかって来いと棒立ちしていた。


「なんだったら後ろからでも.....」


「その必要はありません」


エミリーが前に出ると、男を睨む。


「その申し出受けさせてもらいます、はっきり言わせてもらえれば貴方と私達ではとんでもなく差が開いています、貴方からハンデを申し出てくれるなんて、こんなありがたい事はありません」


すると、エミリーは踵を返し、ミキを手で制する。


「少し離れてて」


たったその一言を聞いただけでミキは高く跳躍した。

理由はエミリーの顔が、確実に怒っていたから。

いつも笑顔を絶やさないあのエミリーが......

何故か悪寒を感じたミキは冷や汗を垂らしながら予想以上に下がってしまったのだ。

だが、それが功を奏した。

何せ.....エミリーの次の言葉で周りの地面が吹き飛んでいたから。


「消えてしまえ《妖精の電磁光(フェアリーエレクトロ)》!!」


「なっ!?嘘だろおい!!!」


アキがそう叫んだ、が、もう遅い。

エミリーの隣から突如として現れた()()が、可愛らしく小さい手を前に突き出すと、そこから超巨大な魔法陣が浮かんだ。

そう思ったら目の裏側、脳裏まで焼き尽くす光を生み出した、家も道をも光で埋め尽くし、消しとばす。


「うおおおおおお!!!!」


それをまともに受けた、アキは叫びながら光源に包まれた。

それを見ると妖精ふてぶてしく鼻を鳴らし、エミリーの胸ポケットの中に戻っていった。

そして顔だけひょっこりと覗かせると。


「妖精様に逆らうなんて1242年早いわ!!はっはっはっはぁ!!」


光で全く外が見えない中、妙に腹の立つ妖精の声だけが響いていた。

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