第76話仇
少し投稿が遅れてすいません、少し京都に2泊3日してきました、その結果投稿が遅れてしまいました。
申し訳ないです。
今日は4人目の子供が処刑される断罪の日。
1人目は脱出を図り見せしめに殺され、2人目は断罪の日に殺され、3人目4人目はリクに弄ばれ殺された。
そして今日が5人目の日、だと言うのに牢屋の中はとても物静かで、誰も反抗しようとしている姿勢を見せなかった。
まるで、もう諦めたかのように見える子供達、だがその目には光が灯っている事を、国の人間達はまだ知らない。
「ちっくしょう!!間に合ってくれよ!!.....」
マルドレイは走る、全速力で、もう確実に殺させない、娘も避難させておいた、これなら俺はまた裏切る事ができる。
ユウキの牢屋の前に来ると鍵を取り出す。
「ユウキ?いるのか?」
近くにはユウキの姿がない。
牢屋の奥、暗く見えないところにユウキがいると思い近づくと、後ろから強い衝撃に襲われた。
「がっ!?.....」
地面に倒れこむ、あまりに強い衝撃が頭を襲い脳が震えた。
殴った本人を横目で確認するとそこには......
「ユ、ウキ!?な、何故?....」
ユウキが殴ったその事を理解すると、いろんな思いが渦巻いてきた。
だが次の言葉で全てその思いは不信感は消えた。
「悪いなマルドレイ、けどこうするしかないんだ、お前を裏切り者にしないためには.......」
悲しげな背中で1人悪者になるように、牢屋を出ると、鍵を閉めた。
「マルドレイ、俺は今から逃げる....だけど約束する必ずいつか戻ってきてこの国を変えてやる!だからそれまで待っててくれ.......」
マルドレイは返事を返せず意識が深いところに落ちて言った、だが気絶したマルドレイの顔はとても安心しきった顔だった。
♯
ここは、過去ではない正真正銘の現在、ユウキは買った家のベッドから体を起こした。
「悪いな、マルドレイ.....すっかり忘れてたよ.....」
復讐の事ばかりが頭にあったせいで、すっかり約束を忘れていた、だが。
「だけどな、約束は守るぞ、俺は約束通り戻ってきた、あとはこの国を変えるだけだ」
今度こそ約束を守ってみせる。
いくら見た目が変わろうとも、この記憶だけは消させない、絶対に。
♯
「ふぅ、なんとか逃げ切りましたね」
部屋から出たエミリーとゴブリンはすぐに行動に移した、あちこちに仕掛けられた監視魔道具を破壊して使えなくすると、次に保管室に向かい、特殊な資料を手に入れたまでは良かったのだが。
監視魔道具を破壊したのがバレ追いかけ回されていた。
だがユウキに聞いていた脱出口のある部屋に入り、なんとかまくことができた。
「......なんだ?ここは...」
「地下に続く階段があるみたいですね....」
暗がりの中、地下に続く階段が不気味に松明に照らされている。
「行ってみますか?」
壁を触ったり地面を触っているゴブリンはすっと立ち上がる。
「確かに王の言っていた隠し通路はここにはなさそうだ、地下に行くほかないだろうな」
「じゃあ早く行きましょう.....『ライト』」
光属性魔法『ライト』を唱えるとエミリーの指先に球体の光が灯る。
その光を頼りに地下に続く階段を降りていくと。
「ここは....牢屋?...ですよね?」
「多分そうだろう.....ほぼ牢屋の意味をなしていないがな」
地下牢は何かに斬られたかのようにあらゆる所が崩れ落ちている。
「これを斬ったのか?....誰が?.....」
そこら中の瓦礫はどれも不可解な切れ方をしている、だから意味がわからない、こんな事をする必要性が。
「ユウキさん.....じゃないですか?」
「王は魔法使いと聞いていたのだが....それにここに来た事があるのか?」
エミリーはミクロス卿に誘拐された帰り見せてもらった記憶を思い浮かべるが、所々の苦しい記憶しか見ていない、そのせいかここでの記憶は全く知らない。
「分かりません.....」
「そうか.....ん、これは?....」
ゴブリンが壁を触っていると壁の一部が抜け落ちた。
「この先が王の言っていた脱出口か?....」
右手を大きく振りかぶり壁を殴りつけると、嫌な音が少し響き、壁が奥に倒れた。
その壁の向こうには真っ暗い光なき道が続いている。
「『ライト』消さなくて良かったですね」
エミリーが空いた暗い穴を『ライト』で明るく照らすと、地下から一直線に外に向かって伸びていた。
「これで間違いないな、早くこんな場所から出てしまおう、いつ場所がバレるか分からんからな」
ゴブリンの言う事は正しいのだが、この部屋にいる事が率直に嫌と言うのが大きいだろう。
なにせ鼻に付くこの腐敗臭や血生臭さ。
魔物だったゴブリンは慣れているはずなのに吐き気がしていた。
そして当然エミリーも長居したい場所ではない。
「そうですね、早く出てしまいましょう」
あたりを照らす魔法を使っているエミリーが前を歩き後ろをゴブリンが警戒しながらついて来ている。
早足で長い通路を抜けてしまうと、いきなり太陽の光がエミリーを照らした。
「ここは?....」
「多分....国の中の公園だな」
木々の隙間から見える家を遠目で確認する。
「こんな所につながっているなんて....」
服に付いた土を手で軽く払うと、木々から出てすぐに家に戻ろうとした時、ふとエミリーの目に入った。
それはなんの記念かよく分からない石碑、そこには文字が彫られていて、
『愚王ユウキの惨めな姿をここに称える、現人神リク』
それは確実にユウキを知る者怒らせる言葉。
「こんな物が......」
その時エミリーはつい、その石碑に触れてしまったのだ。
頭の中に急に映像が浮かび上がる。
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「やめろっ!!やめてくれ!」
子供達が囚われ数人は殺され、体から内臓が飛び出している、ユウキの目の前にはリクの卑劣な笑顔。
♯
「うあああああああああ!!」
雨空を見上げながら背中に剣が突き刺さっている女の人を抱きしめ、涙を流し、喉がおかしくなるほどの叫び声をあげる。
♯
「絶対に....生きて...」
目の前で少年の首が吹き飛び目の前に落ちた、そして空中に血が舞う。
「あ、あ、ああああああ!!?」
狂ったように叫び散らす、喉から血が吹き出ようと、いくら首の縄が締め付けられようとも、俺の怒りは収まらない。
♯
頭に強制的に浮かび上がる映像、どの映像も全て怒りと悲しみが深く深く伝わってくる。
あまりの酷さに、私は咄嗟に手をどかした。
「ひっ.....あ.......」
頬が濡れていることに気づき手を当てて見ると、いつのまにか涙が流れていた。
目をこすり涙を拭うが、また涙が流れ出して来る。
「おい、いきなりどうした?何があっ.....」
あまりのエミリーの異様さにゴブリンが声をかけようとしたその瞬間、近くの地面が爆ぜた。
「おいおいまじかよ、侵入者って女かよ.....ついてねえなぁおい」
土煙が上がった場所から出て来たのは髭を摩る黒髪の男、見た目からして自分達よりも年上なのだけは分かる。
「あんまり女の子を傷つけたくはないんだけどよ......どうせ今見逃してもお前ら殺す事になっちまう、恨むならお前らの主人を恨んでくれよ」
この男、アキは黒の魔王ことリンのことを言ったつもりだったのだろう。
だがこの時エミリーにはユウキのことを馬鹿にしているとしか思えなかった。
(殺す?ユウキさんの仲間を?...また?...そんなの....絶対に許さない!...)
ユウキを悲しませる事をする、その発言にエミリーの悲しみを怒りが超え、涙が止まった。
手を上に突き出すと
「もうこれ以上あの人を...泣かせない!.....『精霊炎魂』!!」
エミリーの突き出した右手から紅の魔法陣が浮かび上がり、とんでもない熱さを誇る巨大な炎弾が発生し始めた。
エミリーが手をアキに向けて振り降ろすと、炎弾が一直線にアキに向けて落ちていく。
確実にこれで終わる、ゴブリンもそう思っていた、だが次の光景を見た瞬間ゴブリンの体が動いた。
「う、嘘......」
まだ躱したなら理解できる、けど....この男は。
「受け止めた...の?..」
アキは炎弾を体で受け止めそのまま消し去ったのだ。
驚きで放心しているエミリー、その懐にアキは一気に踏み込むと。
「戦いってのは、やられたら、やり返される、当然だろう?なあ、嬢ちゃん」
アキは右足を軸に体を急速に回転させエミリーの腹目掛けて左足を突き出した。
鈍い音が響き渡る、だがその音が響いて来たのはエミリーからではない目の前でエミリーを庇ったゴブリンからだ。
「うぐっ!!.....」
ゴブリンの腹からは嫌な音が響き、一旦間をおいて後ろに吹き飛んだ、石や木に当たるが止まることなく打ち抜き、愛の国の防壁にあたりようやく止まった。
「が....あ.....」
恐怖で体が竦んだ、人間が出せる威力ではない、こんな化け物がこの国にいる、それなのに私達はこの国を潰そうとしている......本当に出来るのか....
エミリーはそんな事を考えるが、その前に私は死ぬのではないか、そんな結論に至った。
「まあ、嬢ちゃんも俺の手で殺しても良いんだけどよぉ」
アキは防壁にめり込んでいるゴブリンをちらりと見ると。
「見逃してやるよい、この国から仲間連れて逃げな、明日の朝にはお前らの住んでる場所に人が大量に押しかけるだろなぁ、その前に逃げるこった....それが利口な選択よ」
そう言って立ち去ろうとして、止まると。
「けど、もしまた俺に会ったら次はねえぞ、次会った時は戦場だ、死ぬも生きるも自分の腕っ節次第よ、もしかしたら嬢ちゃんが勝つかもしれねえがなぁ」
何が面白いのか分からないが、何故か歯をむき出しにしてニヤッと笑うと、その場から立ち去っていった。
この時エミリーは最も重大な決断を下した。
♯
夕食の準備をしようと包丁を取り出し、洗い終わった野菜の入っているボウルから一つ取り出すとまな板に置き、切り始めた。
「さて、今日はどんな料理にしましょう」
いつも作っている野菜の盛り合わせを作りながらメインの料理を考えていると、ふと目に入った。
「ご主人様.....こんな所に魔物の肉を置かないでくださいよ..全く...」
魔物の肉が入った袋を倉庫にしまおうと、キッチンを出ようとした時、家の扉がドンドンと強く叩かれる音がした。
「はーい、ちょっと待ってください」
エプロン外し手で軽くたたむと机の上に置き、玄関に向かった。
「どちらさまでしょう....ってエミリーちゃん!?それにゴブリンさんも!一体どうしたんですか!?」
扉を開けてみるとそこには冷や汗を流し魔力欠乏で青い顔をしているエミリー。
その背中には無理矢理担がれ口から血を流しているゴブリン。
「とりあえず中に入れてください、それとユウキさんを呼んでくれますか.....」
「まっててすぐ呼んで来ます」
カノンが焦りながら階段を上っていく。
その間に家に上がると背中に背負っているゴブリンをゆっくりとおろした。
「どうしたエミリー、何があった?」
階段からカノンと一緒に降りてきたユウキは只事ではないとすぐに説明を求める。
「その事についても話しますがそれよりゴブリンさんが!......」
「ああ、分かってる」
ユウキはゴブリンのに近づくと、背中に背負い上げ、一階のリビングに向かいふかふかのソファの上に寝かせた。
体を見てみるが特に傷は見当たらない、ただ胸の部分に蹴られた後がくっきり残っている。
「これは俺には無理だな、リン!ちょっと来てくれ!」
「なんじゃ?どうした」
ユウキの声に気づき、庭からリンが顔を出す。
そしてゴブリンを見て何かを察したのか、家に上がりソファに近づいて来た。
そしてゴブリンに触れる。
「これは......酷い...」
「どうだ?治せるか?」
「うーむ、わしじゃあ無理じゃな.....」
お手上げ発言に少し驚く、まさか魔王様が無理だと言うと思っていなかったのだ。
「そんなに酷いのか?」
「うむ、蹴られた部位を中心に骨と内臓がぐちゃぐちゃになっておる.....これをやったやつは体術の天才、もしくは強化魔法の天才じゃろうな......それとも...両方か?....」
ゴブリンの蹴られた後を回復魔法で少しだけでもよくなるようにかけつつ、やった相手の事を考える。
「ともかく、少しゴブリンを借りてくぞ、わしの部下に回復専門の奴がおる、そいつに頼んでみるわ」
リンが軽々とゴブリンを持ち上げ、二階の自室に連れていった。
「ああ、頼む....それで?何があった?」
「はい、実は.........」
今まで起きた出来事を細かく説明をした。
資料を盗めた事、見つかってしまった事、あの、アキという男の強さについての事。
だがエミリーはユウキの石碑の事だけは何も言わなかった。
「ふーむ、ゴブリンを一発、それも手を抜いてか.....どうするか....それに明日には家に攻めてくる....いつ家がバレた?...それに何故そこまで俺達を敵対視する?....何をしようとしているかまでバレてるのか?...」
考えて見ても、そのような事がどうしてバレたのかが分からない。
(今はそのことは置いておこう....それよりどうする?その男をどうにかしない事には計画は終わりだ.....)
どうするか、そんな考えをしているとエミリーが服の袖を引っ張った。
「どうした?」
「あの、その男の事なんですが.....私に任せてください」
なんの根拠があっての言葉か、それとも勝てる自信があるのか......それはないか自分で言ったのだ化け物だと。
「大丈夫なのか?化け物と言ったのはエミリーだぞ?」
「確かに今の私には無理です」
今の?その言葉が妙に引っかかる、まるですぐに化け物を超えて見せると言った様な口調だ。
「じゃあどうするんだ?」
「新しい力が欲しいです」
そう言うとエミリーは決意を込めた目でこちらを見つめてくる。
それで納得がいった、なるほど、けどその選択は正しいのか?と聞き返したい。
だが実際エミリーが勝つにはこれしか方法が無い、それでも十分な賭けだが。
俺は家の時計の時刻を確認する。
短い針が6時を指し示していた。
「分かった、庭でやろうか」
俺の了承の言葉にエミリーは素直に喜ぶ表情を浮かべる。
「はい!」
いい返事をして庭に出て行くエミリー、それを見ながら後ろに振り返るとカノンに声をかけた。
「カノンには悪いんだが、この前説明した緊急の作戦で行くって皆に伝えといてくれるか」
「え!?でもあの作戦ってほぼただの殴り込みじゃあ.....」
カノンなりに心配しての反論だったが
「大丈夫だ、少しだけアレンジを加えるから」
ユウキの言葉を聞いてついつい信用できる気持ちになってしまう。
「.....分かりました、信じます」
仕方なさそうに口にするとまず二階にいるリンと妖狐、ミキに話をしに行った。
「エミリー、じゃあ色々と試そうか、その男に勝てるように」
俺はエミリーを追って庭に出た。
エミリーはゴブリンの仇を取ろうと思っているかもしれないが、着々とユウキと同じ復讐者の道を歩み始めている事を、まだ知らない。
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リクの城高さざっと60メートル、それを素手で登る人影が一つ。
「よっこらせっと、ふぅ、いい運動になった」
アキは壁を登り終えると一つの空いている窓に飛び入った。
「運動になったってことはやはり強かったんですね」
自室で本を読んでいたメイは、机の上に本を置くと、席を立った。
メイはエミリー達を殺してきた事をいい運動になった、といったのだと解釈している。
だがアキにとっては全く違った。
「違う違う、俺が運動になったって言ったのはこの城を登ってきた事だよ、そもそもあの程度じゃあ運動にもなりゃしねぇ、期待外れもいいとこだ」
「じゃあ殺してきたんですね」
メイの安堵の表情、だが実際には殺していないアキは言いにくそうな表情をしつつ。
「えーとなぁ、奴さん逃げ足だけは速くて....逃げられちまった....」
目が泳いでいるアキをメイがジトーと睨む。
そしてはぁとため息をつくと。
「また例のお遊びですか?いい加減にしないと痛い目見ますよ?」
アキには悪い癖があった、わざと敵を逃がし挑発して泳がせ1日猶予を与える、そして前よりどれだけ強くなったのか確かめて殺すのだ。
「実際負けてないからいいだろう?それに今回の相手は負ける要素ゼロだ、100%俺の勝ちの生温い死闘だ」
絶対に勝てる宣言に少し驚きの表情を向ける。
「珍しいですね、どんな相手にも可能性があるって戦うアキが.......そんなに舐めてかかって大丈夫ですか?」
「大丈夫でい、100%勝ちだ、だって相手は魔法使いだぜぇ?」
アキの今までの戦いで一度も魔法使いに負けた事はない、なにせ。
「そうでしたアキさんは魔法耐性の異能者でしたね」
アキには魔法使い殺し専用の異能があるのだから。
「だけど念の為黒の魔王がいる所に押しかけた方が良いだろうな」
アキのど正論にメイも頷くが面倒くさそうに肩をすくめると。
「その事なんですが.....リクの野郎が『その程度俺達に任せておけ、出しゃばるでない』などと言い出しまして」
「じゃあいいんじゃね?放置しとこうぜ」
おもむろに近くのソファに飛び乗ると仰向けに寝転がる。
「そういうわけにもいかないんですよ、闇の魔王様から殺されない様にって指示を受けてまして......あと、寝ないでください、私の部屋です」
メイの言葉を無視して机の上に置いてある本を手に取ると適当にページを開き目を隠す様に本を顔の上に置いた。
「どうしましょうかねぇ......あとそれ私の本ですけど、目隠しにしないでください」
メイの言葉を無視して、アキは眠りに落ちた。
「グガァーーー」
「寝るなぁ!?ー」
メイの絶叫が城に響き渡った。




