第75話脱走
少しオーデンの言葉が読み取りづらいかもしれません。
申し訳ないです。
マルドレイはじっと、ただ座っていた。
愚王と会ってから1週間がたった、そして今日は断罪の日、愚王を国民達の表彰台に立たせ殺す。
殺すと言っても愚王の子供達をだ、あれだけ涙を流し、自分を犠牲にしてまで殺させまいとしていた、あの子供達だ。
その光景をマルドレイは高台で座りじっと見ていた。
「や、やめろ!!頼む!!俺を殺してくれ!!」
ただひたすらにもがき、忌々しそうに処刑台を見て、その傍に立つリクに懇願をした。
「何を言っているんだ?私は神、神は愚かなる愚者に慈悲など与えない」
「そ、そうだ俺は愚者だ.....けど子供達は!.....」
だが、その言葉を遮り、哀れみの目を向け。
「そしてその愚者に育てられた子もまた愚者になる、なら、私は完全なる愚者になる前に二度とこのような運命にならぬよう苦しめて殺すのも神の優しさなのだ.....そんな事も分からぬとは....やはり愚者はこれだから....」
やれやれと肩をすくめると、縄を解こうともがいている俺が気に食わなかったのか、無理矢理背中を蹴り地面に顔から叩きつけられた。
「ぐっ!!」
口から血を垂らしながら、地面にうずくまると、無理矢理髪の毛を強引に引かれ顔を上げさせられる。
「あうっ.....!!」
「ちゃんと見ていろよ!!」
リクがそう叫ぶと後ろの男がユウキの髪の毛をさらに引く。
「私が代わります、リク様が愚者の髪を持つなど、そんな汚らわしいもの持たせるわけにはいきませんから」
「その通りだ、じゃあ頼むぞ」
リクが手を離すと、代わりの男がユウキの髪の毛を引き、強引に処刑場を見させられる。
巫山戯てる、マルドレイの心の中ではそんな言葉が浮かび上がる、どうして、苦しめる必要がある?愚王はともかく、子供達にはなんの罪もないだろうに。
止めようと思い、席を立ったが、その時。
「王様!僕は...大丈夫だから.....僕の分まで生きて?」
子供のその言葉を聞いて、マルドレイは一瞬たじろいだ、なんでそんな事を言われてる?お前らは今愚王のせいで殺されかけてるんだぞ?
理解しがたい事にマルドレイの足は止まった。
「何言って...〜!?ーーー」
このままでは本当に死ぬだろう、そう思った俺はすぐに言い返して止めさせようとしたが、後ろの男に口を塞がれ声にならない。
「ふふっ!!はははははは!!なんとも惨めだなぁ!愚者!」
リクは笑う、笑う、俺を馬鹿にして、散々笑い続ける。
しばらく笑いこけると、処刑台の上にいる子供を見た。
「さて、お前は今から死に、地獄に落ちるだろう.....でも回避する方法を教えてやる、それは私を神と崇めこの国の仲間になる事だ、さぁ?どうす......」
「ぺっ!」
リクは子供を引き込んで拷問するつもりだっただが。
そのリクの顔に少年は唾を吐きかけた。
その瞬間固まっていたリクの笑顔が憤怒に変わる。
「貴様ぁ!!神である我に唾を吐きかけおってぇ!!」
「ぐえっ!?」
リクは自分の巨体を揺らし、本気の蹴りを少年に叩き込んだ。
そして次に。
「うっ!」
少年の呻き声が聞こえた、そしてその後響く音はフライパンの当たる打撃音。
「汚れてる!!」
「我等の神であるリク様に唾を吐きかけるなど!!君の魂は汚れてる」
「汚れてる!!」
「汚れてる!!」
汚れてるのセリフのコールをしながら、少年に色々なものが飛んでくる、刃物に食器、お皿に酒瓶などなど。
体に傷や、あざをつけながらも少年はまっすぐとユウキを見つめて、笑った、ただ儚げに、悲しそうに、哀しそうに。
少年は流石に着々と近づく死に涙をこぼす、それでも少年は間違ったことはしていないと、腹をくくっていた。
「あ、あああああああ!!」
体に巻きついている縄に力を込めて契ろうとするだが、それでも切れない。
あまりの怒りのあまり握った手からは血がポタポタと垂れ、余りに噛み締めた口からも血が垂れていた。
マルドレイはただその光景を、本当に腐った国だ、と実感しながら、少年を助けなかった罪悪感に苛まれた。
そして、少年は最後に飛んできた包丁が胸に刺さり死んだ。
♯
「ぅぁ....あぁ....ああああああ!!」
牢屋に絶叫が響き渡り、壁を殴ったり、暴れ回っている音がし続けている。
その結果牢屋は血まみれで愚王の手の皮膚は裂け、血が吹き出していた。
その牢屋の鉄の柵の前でマルドレイは座っていた。
(もう、かれこれ一時間.....頭がおかしくなったのか?...にしても...そんなに泣くくらいなら罪なんて犯さなければいいのに....)
そう思って気になった、あれだけの事をやられるのだこの愚王はどんな罪を背負ったのか、と。
「なあお前さん、どうして指名手配なんてされてるんだ?」
牢屋に向けて言葉を紡いで見るが、返事は返ってこない。
ただ、疲れたのか荒い息を吐いて血塗れの壁に背中を預け座り込んだ。
「どんな罪でここに入れられたんだ?教えてくれないか?」
「.........教える必要もない....だって信じないだろ?」
「それは....聞いて見ないと....」
「じゃあ教えてやるよ.....俺が何もしなかったからだ」
「.....へ?」
なんだそれ、本当に意味がわからない、嘘としか思えない言葉だが、一応SSランク冒険者のマルドレイは分かる、目を見てみれば分かる、嘘をついていないと。
「はっ、どうせ信じないんだろ、別にいいさ....」
「いや、信じる....本当のことなんだろ?信じるから、今まで起きた事を教えてくれないか?」
すると愚王は驚いたような表情をした。
どうしてこの時俺は聞いてしまったんだろうか、ただ気になったからなんだろう、ただ聞いてから後悔した。
そして何故だろう、涙が止まらなかった、今までどんなに辛い話を聞いても泣けなかった、なのにどうしてこいつの話は痛みや辛さが伝わってくるんだ?
そんな俺に愚王は苦笑すると。
「......お前が泣いてどうするんだよ....ったく」
そう言って牢屋の鉄の柵から手を突き出すと、牢屋の外で泣いている俺の背中を優しく撫でた。
その撫でた手はとても優しい。
そして先程泣いていた男の言葉ではないし、歳的には
「......なぁ、俺も話したんだ、今度はお前が話せよ」
「あ、ああ、分かった.....」
マルドレイは涙を拭うと自分の情けない【裏切り者】の話をした、笑いたければ笑えばいいそう思っていた。だがユウキは笑いもせずただ真面目な顔でその言葉の重さ一つ一つを受け止めていて、なおかつ俺を褒めていた。
俺はこの時からこの愚王という優しすぎる人間を友と、呼ぶようになっていた
それからと言うもの、牢屋では愚痴り話や、昔の話をするのが日課になっていった。
♯
血生臭い匂いが充満する地下牢、誰もが少しは怖気付くであろう、だか今はその地下牢に似つかない楽しげな笑い声が響いていた。
「ーでよぉ俺初めての時にゴブリンに殺されかけたんだぜ?今ではSSランク冒険者でも、昔はただの弱虫なんだよなぁ」
「そうやって自分が弱いって言えるのがお前のいいところだよ」
俺はマルドレイを褒めると、最近はもう見慣れた牢屋の天井を見上げる所々が壊れかけている天井。
そして俺はそこの尖って硬い天井の破片を横目で見る。
「なぁマルドレイ、俺の懸賞金いくらだ?」
決意を込めて口にした、あと2日でまた断罪の日今度は絶対に殺させない。
「なんでそんな事を?」
疑問を口にするマルドレイ、そんな事決まりきっている。
これが俺が考えついた結果なのだから。
「.....お前に、冒険者に依頼を頼みたい、金は....俺が今から自殺する、その首を使ってくれ、だが代わりに、どうか、皆を逃がしてくれないか?.....」
何を言ってるんだ?お前が死ぬ?.....
あのクソどもよりも早く?
懸賞金をくれるだと?.......お前の首と交換した金になんの価値があるんだよ!!
「お前の首の金じゃ、依頼には到底たらねぇよ、そんな馬鹿なことはやめて今日は一度寝ろ...」
「..........ああ、少し冷静じゃなかった..」
牢屋に置いてある申し訳程度の布を体に被り、瞼を閉じた。
マルドレイは1人決意を固めた目で地下牢の階段を登ると、ある部屋を目指した。
♯
「ふむ、これは中々」
グラスを片手で軽く転がしながら、中に入っている氷を鳴らす。
すると、
「失礼ーしまぁすぅ」
とてもリクを神として見ているような感じではなくオーデンが不躾にも扉をノックもせず開けた。
「相変わらず君は傲慢だな.....」
だが、リクもそのことに関してオーデンの場合だけは何も言わない。
なにせオーデンが一番リクを信仰していて、最も優秀だからだ。
「わたぁしぃは、ただぁ、リク様にぃみとぉめぇられたぁ証拠ぉが欲しいい、だけぇでぇすよぉ?」
「それが友のように接することか?」
「そのとぉーり、です!」
ソファーに深く座り足をかけているリクに指を指すとニヤリと笑った。
いやらしく下品に。
「今日はいい報こぉくがふたぁーつ、まずひとぉ〜つはリク様の好みの女、というかぁ愚王の小娘を数人見繕って起きましたぁ、あとでぇ?お楽しみにぃ?」
「ああ、流石だなぁ」
これだからこいつは使える、リクの趣向を完全に理解し、そして全てを見透かしているように、物事の本懐を理解して行動する。
こいつが動いて間違っていたことは無いに等しい。
「二つめぇはリク様のぉ望んでぇいたぁ特殊〜銃がぁ完成い、いたぁしましたぁ、奴隷で試しうちぃしてぇみたぁとこぉろぉ、予想通りのぉ〜結果にぃなぁりまぁしたぁ」
オーデンから聞かされた結果、報告に歓喜に打ち震える。
ついに私は最強の神の武器を手に入れてしまったのだと!.....
「分かった、では更に強化できるようにしておけ!........」
「はぁい、わっかぁりましたぁ!」
聞き取りづらい音程、だが機嫌が良いことが分かる。
オーデンは機嫌の良いステップで部屋を出た。
「ちょっと待て、伝えるのを忘れていた、マルドレイを見張っておけ、それと愚者の見張りを2人増やすようにしろ......」
「おっけぇー、です!」
変に大きい声を出して、部屋を出ていった。
唯一この男、オーデンの悪い所はどんな結果になると見えていようと主人の言葉を絶対として助言しない所だ。
♯
マルドレイは1人会議室にいた。
正確には1人では無い他の教会のトップの奴らもいる、ただ少し寝てもらっているが。
俺は部屋にかけてある、牢屋の鍵に手を伸ばす、これで助けられるそう思った、だが
「まさかぁ、また裏切るとわぁ、私は驚きが隠せませーん?」
いつの間にいたのか、後ろにはオーデンが。
「裏切る?なんの事だ?俺はただ脱走されないように鍵を自分で持っていようとしただけだが?」
違う、本当はユウキと子供達を逃がしてしまおうと考えていた。
「誇りたかぁーき、信者の皆さーんを、気絶させるなぁどぉ.......全くひどぉーい事をしますねぇ」
「気絶?なんの話だ?俺はただ子守唄を歌って寝かせてやっただけだぜ?肉体言語でな」
マルドレイの悪びれもしないその様子に、何故かオーデンは笑った。
「そうですかぁ、それは疑ってもうしわけぇ、ございまぁせぇーん」
靴音を大きく鳴らしながら、マルドレイの横を通り、止まると。
「貴方の娘はこの国にいる事をお忘れでしょぉーかぁ?」
いきなり意味不明な事を言い出した。
娘?何を言ってる?この国にはいないぞ、今は旦那と仲良く暮らしているはずだ。
「どういう事だ?」
「これ以上貴方に裏切られぇたくありませんのでぇ、貴方の母国からつれてきまぁしたぁ」
そういうことか.....こいつ!余計な事を......
「まさか、まさかまさかまさかぁ、娘の指まで切りたいのですかぁ?」
流石にそう言われてしまえば何もいえず、黙って鍵をポケットに入れる。
「私も流石に鬼でわぁ、ありまぁせぇん、ですからぁ、何もしない事を私わぁオススメいたしまぁすぅ」
♯
嫌な匂いが鼻に付く、自分が勝手にいっているだけだが俺は血の匂いが嫌いだ、だってなんか気持ち悪い?から。
そんな俺なのにどうして血の匂いが濃いこんな牢屋にこなくちゃいけないんだ。
「ったく、なんで俺が.....愚王の警備なんか....え?」
イラつきながら牢屋の前に来ると、目を疑った、そこには頭から血を出して死んでいると思われる愚王の姿、そして近くには血がつき壊れた天井の破片。
「なっ!?うっそだろ!?おまっ!......ちっ!!めんどくせぇ!......どうして俺の時ばっかり!.....」
慌てて懐に入っている牢屋の鍵を取り出す、オーデンが持っておけと言っていたが、実際に今役に立っている。
まさか、この事を見越して?.....いやいや、考え過ぎか.....
そんな事を思いながら牢屋の鍵を開けた。
警戒しながら、ゆっくり、ゆっくりと近づいていく、いつでも剣を抜けるようにして。
「死んでる?よな........う、うん死んでる、そうだ」
血に触りたく無い男は適当に結論を出すと、牢屋の外に振り向き出ようと....して首から地面に叩きつけられた......
「......がっ!?おまっ....え!?生きて....」
「悪いな、けどこうするしか無いんだ」
無理矢理地面に叩きつけるとそのまま首を締め付けた。
男は必至の抵抗をするがそれを無駄に終わった。
ユウキは血塗れの頭を優しく触ると、その触った手を見る。
まるで人を殺したような手だ。
「少し....やり過ぎたな....けど..そんな事言ってられるか!!......『活人剣』!!」
倒れている男の剣を抜き去ると七聖剣の第7の剣『活人剣』を発動させ牢屋の鉄格子を切り裂いた。
「ようやく出れた.....あれ?切る必要なかったな」
今更だが牢屋の鍵が開いている事を思い出す、ただ格好付けたみたいになってしまった。
少し恥ずかしいと感じていると。
「おらっ!ちゃんと歩かねぇか!リク様がお待ちなんだよ!!」
「いっ、いやあぁぁぁぁあ!!!」
見たのは、ユウキの孤児院の子供達がそれも女の子が無理矢理連れていかれていた。
俺はそれを見るや、すぐに。
「『風聖剣』風・一閃×3」
剣に風が纏わりつく、その剣を振ると、風の刃が三連飛んでいく。
だが、この風の刃に殺傷能力はない、ただ。
「なんでお前、牢屋から出てっ!.....がっ!?」
男が風に触れた瞬間、壁に一回転して叩きつけられた。
そして首がだらんと垂れる。
「「「「王様ぁ!!」」」」
女の子は嬉しさに声を上げる。
歓喜に涙しているものまで、だが。
「王様、これからどうするの?」
1人冷静な女の子がユウキに聞いた。
「みんなで逃げるんだ.....今度こそ...」
ユウキは決意を固めると、ある壁を見つめて剣を強く握った。




