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復讐するため今日も生きていく  作者: ゆづにゃん
第八章反撃開始
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第74話【愚王】と【裏切り者】

深夜12時過ぎから開店する、大人達のお店。

幼い精神では、大人じみた店の雰囲気に飲まれ、入る事もはばかられる店が並ぶ愛の国第12区画、朝は料理店や仕立て屋が並ぶ表の顔、だが裏の顔はキャバクラ、奴隷屋、ホスト、カジノ、などなど、他にももっと酷いものがあるが省略させてもらう。


「きゃー!!」


黄色い歓声がホスト『天使の園』から溢れ出て来る。


「どうか致しましたか?ミセス」


心配そうに声を出し、そっと悲鳴を上げた隣のミセスの指輪のついている手に手を伸ばし、そっと重ねた。


「な、なんでもありませんわ!!」


慌てたようにミセスは返事を返す。

あまりのイケメンの優しい対応につい興奮して悲鳴を上げてしまったのだ。

今まではこの店にこの様なイケメンはいなかったが、ついこの間新人としてホストになったそうだ。

その、イケメンさと女遊びの上手さについ興奮して、ついホスト『天使の園』にお金を寄付してしまった。


「ルークさん、4番席指名入りました!」


遠くから聞こえてくる知らせに耳を傾けると、席を立った。


「おっと申し訳ありません、私はそろそろ次のお客様の相手をしなくてはならないので、では」


ミセスに華麗に一礼をすると席から離れた、名残惜しそうにしているが声をかけて引き止めるのはマナー違反だ。

ルークはその後、近くにいるミセスの傭兵達と思われる者に頭を下げると手を伸ばし握手する体制をとる。


「なんでしょう?」


傭兵達がいきなりのことに動揺を色濃く浮かべる。


「お勤めご苦労様です、ミセスにはご厚意にさせていただいていますので、挨拶をと.....」


「そういうことか....」


傭兵は無愛想にそういうと指輪のついた手を差し出してきた、それをガッチリ全員と握手すると、またもや一礼をして4番席に向かっていった。



4番席などの指名が入った席を全てこなしルークは1人スタッフルームに戻った。


「お疲れ様〜」


部屋に入ると、タオルを投げられた。


「ありがとうございます、ここ無駄に暑いんですよね.....そういえばリヒトさん.....今何人くらいですか?....」


ルークことオークはタオルを肩にかけるもうんざりした様な顔で聞く。


「うーんと、50人くらい?オークは?」


「30後半くらいかなぁ?にしてもこれ辛すぎるよ」


王の命令通りに動くと常に魔力を発動し続けなくてはいけない。


「確かにな、王は少しS気が強いよなぁ」


それがどれほどの疲労なのか分かるだろうか?

いいや、分からない、体験して見ない限り。


「でも、文句なんて言ってられないですよ、さて次の所にいきますか」


ユウキから貰ったアイテムポーチに入っている、ユウキ特製魔力回復ポーションを口にして、キャバクラに向かった。



オーク達がホストでバイトを始める1日前、ユウキ達がマルドレイと話していた。


「そうじゃな、どこから話そうか.....わしがここに来た話から.....」


窓の外をぼんやり眺め、記憶に浸ろうとしている、マルドレイ。


「いや、その話はいい、それよりもこの国の話をしろ」


だが、そんな事を聞いている暇など無い。


「.....まあいいわ.....で何が聞きたい?」


キリアのあまりのいいようにマルドレイは少し怒りをあらわにするが、反抗できるわけもなく素直に話しをしようとする。


「指輪について、それと14年前の事件の脱走者が何人いるか.......」


14年前と聞いてマルドレイは目を細める。


「14年前か.....愚王のユウキがこの国から逃げ出した話じゃな」


「ああ、そうだ」


何故かマルドレイは険しい顔をすると、はぁ、と深いため息をつく。


「14年前?何があったんです?」


妖狐が分からないようで、狐耳と尻尾をぴくぴくと横にせわしなく動かしている、俺はその妖狐の頭にいきなり手を置くと、撫で始めた。


「悪いけど、そこの話から頼む」


あからさまに嫌そうな顔をするが、俺との約束は破れないのか渋々話を始める。


「ふぅー.........14年前、この国はまだ発展壌土の国、どうしても他国に認められるものが必要じゃった、そこで愛の国は当時指名手配されていた愚王のユウキを捕まえて首差し出すことにした、その為隣の獣人の国がユウキを捕まえた事をいち早く聞きつけ、金を払いユウキを受け取ったのじゃ」


へぇ、だからか、だからあの牢屋から出され、この国に連れてこられたのか、でもそんなに簡単にアセロラが渡すか?

今度会ったら聞いてみるか、まだ辛うじて生きてるだろうしなぁ。

いやらしい笑みを浮かべていると隣の妖狐が、俺の本名を知っているためさらに頭からはてなを浮かべ俺の顔を凝視していた。

そんなに見ないでくれ。


「実際のところそこまでしか知らん、わしはその作戦に手を貸さなかったからのぉ........あと逃げだせた人数は0人じゃと言われとる、結局の所ユウキもここで死んだと言われておるが、どうじゃろうな」


俺はここで死んだと言われているのなら、助かったのが0人というのもデマの可能性が高い。

家に帰ったら記憶を見てみようか。もう思い出したくもないが。


「ユウキはここで死んでいない、自分の国では惨めに殺されたんだよ」


「ふーん、やけに詳しいな」


詳しいも何も俺の事なんだから知らないわけがない。


「もうそれはいい、それよりも指輪の事について」


「指輪....か....見ろこれを....」


マルドレイは手を突き出してくるだがあるべき指、人差し指がない。


「わしはこの国にスパイとして潜入した時指輪をはめるのなら住んでもいいと言われた、その時のわしは知らなくてな、ついはめてしまったんじゃ、そこからの記憶がない、記憶が戻ったのは母国の仲間に指輪のついた指を斬られた時じゃ........保管してあるが見るか?」


「そんなの誰が見るか、ていうかお前正気か?」


「じゃろうな、でもそれしかリクにバレない方法が無かった......」


SSランク冒険者でも逃げ出せないのか?そんなにやばいことが起こるのだろうか?

その事を聞こうと思ったが、マルドレイの自虐話が始まってしまった。


「そんな方法さえも見つけられず、ほとんどスパイの意味をなさないわしは、母国に見限られ、ただ漠然とこの国で過ごしていた。もうわかるじゃろう?貴様はわしを探しておったようじゃが、大した情報もないただの老いぼれじゃ......最近はそんな罪悪感からかイクモとか言う奴らを逃がしたりと.....全く無駄な事をしておる」


「....どうやって?」


イクモ達はマルドレイに逃がされたのか.....まあ、確かに協力者がいないと逃げるなんて無理だろう。

それにしても逃がせるものなのか?


「一度わしがイクモ達を奴隷商人に売って他国で売るように促し、その途中で知り合いの冒険者に頼み、盗賊の振りをさせて襲わせ、イクモ達を逃がした、流石に奴隷には指輪をつけないらしいからな...」


だろうな、間違って他国に指輪なんて渡せば直ぐに解読されて、秘密がばれるだろう。


「.......だが、こんな事を気分を紛らわせる為にやったが、魔物にでも襲われて死んでるかもしれん、結局わしのやったことは無意味だったんじゃろうな....」


自虐を言い続けるマルドレイに俺は言い返した。

その時妙に力が入ってしまい、妖狐の耳を握ったせいで「ひゃうっ!?」っと妖狐が可愛い声を上げていた。


「無意味じゃねえよ、俺はここにくる途中でイクモ達に会って、安全な所に避難させておいた、お前がやったその無意味が起こした結果だ、これでもお前はまだ不満か?」


ユウキの褒めるような物言い少し面食った。

先程から暴言しか吐かなかったと言うのに.....


「お前、変な奴だな.....わしを貶したいのか褒めたいのかどっちじゃ?」


「過去と今を合わせた結果だ.......」


意味不明な事をぽつりと呟くと。


「もういいや、俺は帰るから、妖狐とミキはもう少しいるだろうから6時には帰ってくるようにミキにも伝えとけよ」


「わ、わかりました」


マルドレイの発言をほぼ無視して一方的に発言すると、2人扉から出て行った。

部屋に1人残されたマルドレイは1人天井を見上げると。


「お前もこんな感じだったな、全く人の話を聞かん、だがあやつと違うのは、貶していたんじゃなく、わしを褒めていたな.......ユウキ、お主はこの国を変えてくれるんじゃなかったのか?.....なぜ死んだ?......ユウキよ....」


姿形が違うが似たような少年を見て、思い出したようにそう1人、誰に向けたか分からない独り言が寂しそうに部屋に響き渡った。



マルドレイ27歳、当時愛の国に住み始めた頃。

今日はスパイとして潜入することになった日。


「ようこそ歓迎いたしますぞ!!マルドレイさん」


リクの家臣である男に頭を下げられ、握手をする。


「こちらこそ、これからここに住むんでよろしく頼む」


「ええ!!ですがこの国に住む場合一つだけ問題がありまして.....」


「なんだ?」


マルドレイが訝しそうに家臣を見つめる。

すると家臣は右ポケットから小型の箱を取り出した。


「この、指輪をつけていただくことになっています」


小型の箱からは光っている指輪、それを摘み上げると、人差し指に通した。


「なんだってんだこれが.......」


その瞬間マルドレイの瞳から光が消えた。

愛の国に来た瞬間、たった数分でマルドレイという人間は終わりを迎え、人形にかわった。

なんともたわいもない終わり、そう思えた。


マルドレイ33の時、事件は起きた。

肩に長い材木を担ぐと、大通りを歩いて行く


「すみません、少し止まってください」


黒いローブを深く被った二人組。


「おう、なんだ?あんたら」


材木を肩に後ろを振り向くと材木が男の顔をかすめる。

二人組はマルドレイの顔を見ると、驚いた表情をし。


「やっぱりお前!?.......少しこっちに来い、命令だ!」


「はい」


指輪のついていない方の手を見せつけて二人組はマルドレイを路地裏に誘い込んだ、すると剣を抜刀し。


「人差し指を立て、そこから動くな」


「はい」


マルドレイは人形のように命令に従う。

片方の男が剣を振りがぶると狙いが逸れないように見据えると。


「おりゃぁぁぁぁ!!」


咆哮と共に剣がマルドレイの人差し指を切り裂いていた。

悲鳴が響くと思われていたが、マルドレイはそこで気を失った。


マルドレイは自分の家のベッドで身を覚ました、人形ではなく、人間として。


「どこだ?ここ.....」


マルドレイの声が聞こえた二人組は部屋に入ると、マルドレイを叱りつけた。

この2人はスパイの仲間だ。

母国への連絡が途絶えたことに不安になった2人が来てみると、案の定とのことだ。

金輪際このような事が無いように、などと言われ、失態についての罰は魔道具で知らせる、と言われたが、もう二度と知らせが来ることはなく、母国に帰れる可能性も無くなった。


マルドレイ35の時、マルドレイは母国の裏切り者として城に呼ばれていた。


「なんだってんだ、一体」


円卓状の席に腰を下ろすと、話が始まる。


「今から会議を始めます、議題はこの国の知名度、他国に認められる方法についてですが.....ちょうどいい物を見つけまして、これを見てください」


配られた紙には手配書、愚王ユウキ、報酬額魔銀貨......


「6千万枚!?」


思わず声が出てしまった、こんな額が動くとは、これほどの金があれば一生豪遊できるぞ。


「私達は彼をアセロラから譲り受け、地下牢に閉じ込める事に成功いたしました!!」


歓声と爆弾のような拍手が会議場に響きわたる。


「そして、この牢屋の警備をマルドレイさんに請け負っていただきたいと思います!!」


「なんで俺が.....」


文句を言おうとしたが、1人の男がこちらを見ると、目を覗き込まれると、ニッと笑い。


「だってあなたは母国を裏切ったんですから、まさか、まさかまさかまさかぁ、母国を裏切っておいてこの国まで裏切ると言うのですかぁ!?」


狂気に満ちた目でこの男、オーデンは首を傾げマルドレイを見る。本当にどこかネジが一本外れているとしか思えない。


「..........分かった」


マルドレイの了承を得ると歓喜に顔を歪め。


「これで!!これでぇ!!我らの神リク様の知名度はうなぎ登りぃ!!」


「「「うぉぉぉぁお!!」」」


オーデンたちのいかれた歓声が部屋に響き渡る。

これ以上ここにいると頭がおかしくなるのを感じて、マルドレイは1人愚王のいる地下牢に足を運んだ。



この国にはそもそも牢屋というものが存在しない、何故ならこの国に犯罪という概念が存在しないからだ。

ここだけ言えばよく聞こえるだろうが、実際には何をしても犯罪にならない、それだけだ。

現人神リクを讃える宗教にこの国の人間は全員強制的に入らせられる、というか指輪をつけた時からリクの事を神に思え、自発的に讃えたくなってしまうのだ。

そして、その国民達も知らない、リクの城の地下に存在している、愛総合整理協会。

そしてさらにその地下深く、そこにはこの国に存在する唯一の牢屋があった、だがそこは牢屋と言うにはあまりにも酷く、身勝手な所で、そこに入れられれば死刑は確実なのだ。


コツコツと牢屋に足跡がこだまする、マルドレイは牢屋がある地下に来た時点でもう既に嫌になっていた。

地下の気温は無駄に低い、それにほぼ廃墟と同じような所だった。


「ったく、どうして俺がこんな事を......ん?」


頭に腕を組みながら牢屋の前を歩いていると、右側の牢屋に1人、黒髪の男が下を向いて壁に背中を預けていた。

こいつか?

ユウキを見たことのないマルドレイは分からなそうに首をかしげる。


「お前がユウキか?」


そう投げかけると、男は黙って顔を上げた、その男の目は赤く腫れている。


「なんだお前、泣いてたのか.....」


自分の境遇に、痛みに、苦しみに、涙を流しているのだと、そう思った、なのに。


「家族が....殺されたんだ.....頼む、俺を殺してくれていい、だから、お願いだから......皆を助けて....くれ!」


この時マルドレイは驚愕に目を見開いた、この現状で他人を気遣う余裕があるのか?それとも本当にただの優しい人(馬鹿)なのか?本当にこいつが愚王なのか?


「お前の名前は?」


マルドレイの疑わしき目を真っ向から受け止め。


「.....ユウキ.....」


そう答えた。

これが【愚王】と【裏切り者】の出会いだった。


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