第71話作戦会議
朝5時過ぎ、まだ太陽が上り始め、外が明るくなったころ。
「んっ.....うるさいな....」
外から聞こえるものうるさい歓声に目を覚ましていた。
何があったのか、窓の外を見ていると大通りの真ん中に神輿が担がれ、その上には女と玉座にふんぞり返り、にやにやと笑う、クズ。
「あの野郎.....今はさぞいい気分だろうな」
俺の今回の復讐対象現人神リク、確実に殺さないと。
俺は外で行われているパレード(茶番)を見に立ち上がると服を着替え始めた。
♯
「何の騒ぎでしょうか、これは.....」
「まだ眠いのですよー、布団にもどりたいのですー」
いち早く事態に気づいたカノンは隣の妖狐を叩き起こし、逃がさないように妖狐の服の首元をつかみ、
外に出てきていた。
家の目の前にはたくさんの人が並び、真ん中には神輿、そしてその神輿に国の人間たちが歓喜の声と割れんばかりの拍手を送っていた。
「あの、これは何をやっているんですか?」
今何が起こっているのか事態を把握するため、目の前の男性に声をかける。
「え?もしかしてリク様を知らないのかい?」
心底驚いた顔で、こちらに振り向く。
リク様?全く知らぬだ。
「ええ全く、最近来たばかりなので」
「そうなのか、実はねこのパレードは現人神リク様に感謝の気持ちを伝えるパレードなんだ」
「現人神?」
「現人神ってのはね、この世に人の身で現れた神様のことを言うんだ」
「どうして神様だといえるんですか?」
「それはね【言霊】を使うからだよ、僕たち人間は神であるリク様の言ったことを何でも聞いてしまうんだ」
なんでも言うことを聞いてしまう?それはあの指輪のようなものだろうか。
それともまた別のスキル?
「あいつは神なんかじゃないぞ」
後ろから声をかけてきたのはとても嫌なものを見る目でパレードを見ていたユウキだった。
「ご主人さまも見に来たんですか?」
「まあな、でもこんな茶番やっぱり見る必要もなかったな、そんなもの見てる間に段取りについて話した方が良さそうだ、カノン、妖狐みんなを起こしてきてくれ」
「分かりました、ほら妖狐も寝ぼけてないで行きますよ」
「ふぁーい」
カノンの言葉に妖狐は頼りなさそうに言葉を返した。
♯
「なんじゃこんな時間に.....わしはまだ寝たいんじゃが?.....」
二階の階段から不機嫌そうに降りてきたのはリン、後ろに半寝のミキ、寝癖がひどい、そしてしっかりと起きているエミリーだ。
ゴブリンは早起きですでに起きて剣の訓練を行っていた。
「悪い悪い、早いうちに話しとくことがあったんだ.....あれ妖狐、オークとリヒトは?」
リビングに姿が見当たらない。呼びに行ったはずの妖狐に声をかけるが。
「どこにも見当たらないのです.....もしかしたらもう仕事に.....」
「たっだいまぁ♪」
妖狐の言葉を遮り玄関からリビングに能天気な声が響き渡る。
「って、まだみんなおきてないよねぇ♪だってその時間を見計らったんだしぃ♪」
オークの無駄に上機嫌な声、確実に酔っていることがわかる。
「それにしてもリヒト先輩ってばぁ♪お酒弱いなぁ♪...そうだ、今度はゴブ様もさそって....」
そこまで言いながら玄関からリビングにつながる扉を開けると、オークは固まった。
「誘ってどこに行くのですか?」
目の前には確実に怒っている妖狐、オークはずんずんお酒の勢いが消えていき、真っ青な顔になる。
肩に担いでいたリヒトをゆっくりと下におろすと。
「や、やあ、今日もかわいいねぇ妖狐ちゃん」
いきなり妖狐を誉めだした、だがそれが逆に妖狐の神経を刺激したようで、キレ気味だった。
「そんなこと私が聞いたのですか?さっさと答えるのです、ガリ豚」
「は、ははは...はい...」
静かに頭を下げると、悲しそうに反省してるように話し始めた。
「なんだ、別に大したことないじゃないか」
ただ、万屋で予想以上に儲かったのでそのお金でリヒトと一緒になってお酒を飲みに、夜の世界に繰り出した、ただそれだけのことだ。
「全く何をしてるのですか、少し説教が必要なようですね」
「ひえぇぇぇ、厳しいよ、妖狐ちゃん」
涙目で訴えかけるオーク、どこか演技臭いようにも感じる。
だが嫌がっているのは演技ではなく本当だろう、前にも説教されたことがあったようだ。
「別にいいよ妖狐、オークだって羽を伸ばしたかったんだろ、それよりもオークも座ってくれ」
「さっすが王、話分かるぅ!」
俺の救いの手に歓喜の声を上げる。
「王、そんなに甘やかしては行けないのです」
「何か罰を与えたほうがいいんじゃないですか?」
「酷いよ~エミリーちゃん」
何の罰もなしに乗り越えられると思っていたオークに手痛いエミリーの一言。
罰といっても、俺は特に悪いことだとも思っていない、でもそれでは妖狐とエミリーが納得しないだろう。
「そうだな.....別にいいんじゃないか?罰は、だってオークとリヒトは一番きつい担当だしさ」
「まあ、それなら...」
妖狐が何か物足りなさそうな顔をしていて、オークがほっと肩を撫で下ろしていた。
全く理解してないな、オークとリヒトがどれだけ大変なことになるのかを。
「さて、もうそろそろ説明を始めるぞいいな?」
皆に確認をとるとこくりとうなずいた。
「まず今日を合わせた一週間ですべての準備を整え、この国をつぶすんだが、やってもらうことが四つある、まず一つが戦力の強化、まあ各々の個人的な能力を上げることだな、二つ目が国民の開放、これはすべてオークとリヒトが担当だ、詳細は後で伝える、三つ目は指輪の内容、秘密を探る、これも後で話そうか、そして最後に他国からのスパイ探し、これは俺が担当するから、まあ気にしなくていい、ここまでで質問あるか?」
できるだけなるべく簡単に伝えたつもりだが....どうだろう少し簡単に伝えすぎたかもしれない。
「えーと、個人的な能力を上げるとはつまり何を?」
「そうだな、まずはこれだな」
リビングに置いてある布バックを手に取ると机の上にさかさまにして中に入っているものをすべて出した。
やはり布バックに入るわけのない量の武器、防具、アクセサリーなどが机にばらまかれた。
「これは!?...全部四級と三級の武具!?これをどこで!」
ゴブリンのスキル【鑑定眼】で見るとどれも昔見たことのないものばかり、少々興奮して身を乗り出し、ユウキに迫る。
「まあ、いろいろとあってな、にしてもゴブリンは装備に詳しいんだな」
「一応、魔物の種族はゴブリンキングですが、元はゴブリンシーフですから」
この色黒な男が宝漁りとか、似つかなすぎる、だがそれは人間の姿をしている時だけでゴブリンの姿の時はやせ細っているのだろうか?......どうでもいいか....
「取り敢えず好きに選んでくれ、残った奴は回収するから」
「ふむ分かった、では好きに選び.....」
装備に手を伸ばす、リンを引き留める。
「お前は必要ないだろ、知ってるぞお前の装備」
リンの装備は上から、【黒精霊のドレス】【黒精霊の靴】【魔王ムールの腕輪】【賢者の指輪】【アンデルセンのネックレス】どれも【特級】という特殊な級の装備。
そしてどの装備も内容が、国宝に指定してもいいほどの物だった。
黒精霊の装備、体技、魔法、武術、による攻撃を30%激減。
魔王ムールの指輪、すべての状態異常耐性を付与、ステータスを隠蔽。
賢者の指輪、消費魔力を二分の一にする、魔法の威力を40%増加。
アンデルセンのネックレス、望んだステータスのうち一つを+1200、魔法の加護をすべて取得。
本当にふざけているとしか言いようのない装備、だがリンからしたらこれも全然ちゃんとした装備ではないのだろう。
何せ自分の武器さえも持ち歩いていないようなやつなのだ。
「リン以外は選んでいてくれ、装備の効果についてはゴブリンに、話の続きはそのあとでする、その間リンには少しこっちで付き合ってもらうぞ」
リンの腕をつかみ庭に出る、家の庭は無駄に広いので魔法を使っても大丈夫だろう。
「主様少し強引じゃぞ、女の子の扱いはもっと優しく丁寧にじゃな.....」
「魔力変換をやってみてくれないか」
リンの言葉を遮り、お願いをすると少し驚いた顔をする。
「.....まさか主様が魔力変換を知っていたとはの.....最新の魔法技術だから知らぬと思っておったが...誰に聞いた?」
「今、お前に聞いたんだ」
「ふむ、笑えぬ冗談じゃ、まあ良い、見せてやろう」
リンの体から大量の魔力があふれ出る、その膨大な量に一瞬たじろいだ。
【竜眼】を使い、俺の目は黄色く変色している、そのためリンが放出している魔力を見ることができるのだ。
そしてわかる、俺とリンとの差、まずリンの魔力の量が桁違いだということ、そして、熟練をうかがわれる滑らかさ、魔力の密度、精密さ。
格が違いすぎる。
俺は正直、もう少し強くなればリンと対等くらいにはなれると思っていた。
だがそれはただの自惚れだったようだ。
俺が自分の非力さに気づいていると、リンが魔力を黒く変色させ、一気に庭を黒く染めた。
「わしの魔力は固有魔力【漆黒】、この魔力が広がる領域内では、相手の動きは遅くなり、わしは加速する!」
リンがそう口にした瞬間、リンの姿は霞となって目の前から消えた。
「まあ、それ以外にも使い道はあるが、これ以上は秘密じゃな.....これで良いか?魔力変換は見せたぞ?」
後ろからの声に振り向くが、またもやそこに姿はない。
どこに行ったのかわからず、体を振り向かせると、そこには今度こそリンがいた。
「お前、決闘の時も使ってたな?.....」
「言いがかりじゃ、これを使えば相手にならぬ」
少し腹が立つ言い方だが全く持ってその通りなのだろう。
少し悔しい、だがこれでリンの役職が決まった。
「リン、お前には先生になってもらう」
先生、という単語にリンは嫌そうに顔をしかめる。
「先生じゃと?わしには向いておらん、そもそも何を教えるんじゃ?」
「みんなに魔力変換を教えてくれ、俺も空いてるときは手を貸す、どうだ?」
「.....別に教えてもいいが.....その先生というのをやめろ...」
リンはかたくなにも先生と呼ばれるのを断る、過去に何かあったのだろうか?
「分かった」
俺はリンの過去が気になりながらも、小さくそう答えた。
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「んーやっぱりこっちのほうが.....」
エミリーが可愛らしく首を傾げ、服を手にする。
「見た目はこっちですが.....能力的には....」
年頃の女の子にとって能力は二の次、一番は見た目、可愛らしさなのだ。
「やはりこれです!」
予想通りエミリーは見た目に負け可愛らしい装備を手に取った。
「それにしても皆さん早いですね、私が一番時間かかっちゃいました、お待たせしました」
エミリー以外は、直ぐに装備と武器を手に取った、まるで時間を惜しんでいるように。
「別にいい、王が戻ってくるまでに決めていれば...」
「ん?呼んだか?」
庭から戻ってきたユウキが王という単語に反応を示す。
「いえ、なんでもありません」
「そうか?....ゴブリンは槌を選んだのか...装備もなかなか...」
ゴブリンが選んだものは、【赤竜のジャケット 三級】【狼革の靴 四級】それに【祝福の腕輪 三級】そして武器は【青竜槌 三級】
どれも装備の中では強いと称されているものだ。
だが、なぜ槌を選んだんだろうか、ゴブリンは剣のほうが得意なはずだ。
「んー?」
「どうかしましたか?王」
俺がゴブリンを見ていると気になったゴブリンが声をかけてくる。
確かに使えない武器かもしれないが、本人がそれでいいと決めたのだ、口出しする必要はないだろう。
「いや、なんでもない.....皆装備は選んだな?話を進めるぞ、まず戦力の強化についてだが、そこはリンに担当してもらい魔力変換の技術を教えてもらう、あと、スパイを見つける担当は、俺、妖狐、ミキだな、そして最後に.....はいこれ」
俺はオークと酔いつぶれているリヒトに黒色の服を、カノン、エミリー、ゴブリンに白色の服を渡し、説明をすると。
「「「えー!?」」」
三人から不満の声が漏れた。
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白い、白い、真っ白い部屋、高級な素材で作られたベッドに、誰かさんの肖像画、そして机に椅子、クローゼットにキッチン、そして大量の食材、至れり尽くせりな部屋、だが
「気色悪いですねぇ」
一言ポツリと部屋に響いた。
「やはり僕には絵はよくわからないようだ....」
部屋中に飾られている絵画、意味の分からない気持ち悪い絵が飾られている。
あのリクが言うには名のある絵画師が書いたものらしいのだが、シンには気色悪いとしかとらえることができなかったようだ。
この絵を破棄してもいいものだろうか?そんなことを考えていると、ふいに扉が開いた。
「よっすリーダー、邪魔しに来たぜ」
「アキ?何のようですか?」
「ただの暇つぶしさ.....そうだリーダー、あんたも手伝ってくれよ、あの馬鹿の説得」
「今回も失敗したのですねぇ?」
シンの言葉にバツが悪そうに頭をかく。
「だってよお、あの馬鹿全く理解してねぇんだぜ?そろそろおじさんの心も折れちゃいそうだぜ?」
やれやれと大げさにリアクションをとる。
「それは我慢の心がでしょう?つい殺してしまいそうだと?」
「さっすがよくわかってるじゃねえの」
そう言ってめんどくさそうに頭に手を置いた。
「それにしても困りましたねぇ、保護して終わりにしたいと思っていたのですが.....
アキ、少しこの部屋にいてください」
シンは何を思いったったのか、窓を開けると、いきなり飛び降りた。
自由奔放なリーダーに少し頭を悩ませる。
「さて、俺は.....紅茶でも飲むか」
机に置いてあるマグカップが目に入る、湯気が出ていることから入れたばかりなのは明白だ。
シンが気をきかせてくれたのだろう、冷めないうちに口に含むと、直ぐに戻した。
「苦いなぁ、おじさんこう見えて甘党なんだぜ?」
アキはそう言いながら大量の砂糖をマグカップに注いだ。
正義・人のことをこの話ではシンと略しています。
新キャラと間違えないように注意してください。




