第68話生きる死体
Bランクの魔物、ハイオークの群れが目の前にいる、ハイオークは女騎士の敵とも呼ばれる存在、だが今は女騎士が蹂躙していた。
チナツはテレポート剣士だった。
チナツの固有スキル『一の制約』
自分の覚えている魔法のうち一つを魔力1で発動できる、代わりに他の魔法を一切使えなくなる。
それをチナツはテレポートを選んだ、そのおかげで常にテレポートし放題、いきなり相手の頭上にテレポートしたり、躱す時にもテレポート、テレポートしまくって敵を蹂躙し放題なのだ。
「終わった〜これで君達もBランク冒険者だね」
ハイオークの頭蓋骨をつかみ上げながら笑顔でこちらを向く。
俺たちがDランク冒険者に上がると、あの爺が今度はハイオークを倒してこい、などと言い出した、そうすればBランクに上げるそうだ、その話を聞いたチナツがお詫びという名目のもとハイオークを殺しに来たのだ。
あと最近になって最初の堅い口調は無くなった、元々あの言葉遣いは素ではなく、ほかの冒険者たちに女だからという理由で舐められないためとのことだ、もう俺たちのことを信用しているから素でしゃべってくれているが、ギルドに戻ればまた堅い口調に戻る。
「あ、ああ、でもこんな事いいのか?」
笑顔で頭蓋骨をむしり取るチナツに引き気味の顔でそう伝える。
「いいのいいの、クエスト達成したらランクあげるって言ったのおじいちゃんだし」
「さーて、じゃあ報告しに行きますか、捕まって」
チナツから伸びてきた手を俺は握ると一気にギルドマスターの部屋に飛ばされる。
ギルドマスターの爺はチナツがついていくことを知っているため、いきなりテレポートしても驚きはしない。ただ俺が殺したといい、机に惨たらしい頭蓋骨を置くと...
「今回もクリアしたのか!?お前一人で!?」
そう言ってたいそう立派な驚き顔を見せてくれる、くそロリコン。
いや、ロリコンではないのか?シスコンのほうが正しいか。
「えーと、まあ、はい」
何とも言えない俺の気持ち、実際俺一人でもこの程度のクエストはクリアできる、それなのにチナツに頼って魔物を討伐してもらっているという、この意味が分からない状態を何とかしてほしい。
こともなげにさらりと答えると、何故か爺が負けたように悔し気な顔をした。
「くっ!!だったら次は竜を退治してこい!!そうしたらAランクにあげてやる!」
「竜!?さすがに無理だよ!」
口調が違うことを知っている爺の前ではチナツは素だ。
というか爺がその口調をやめてほしいと頼んだらしい。
理由はたしか、娘と距離を感じておじいちゃん泣きそうだったか?シスコンも大概にしろ。
「大丈夫じゃろ、わしなら速攻殺せるわ!それよりさっさと行ってこんか!!」
怒りごえと共に部屋を追い出された。
流石にこの態度に俺もイラっときた、この爺絶対にいつか叩きのめしてやる。
冒険者ギルドの酒場、人が多く集まっているが、チナツを避けるように、周りには人がいない。
冒険者取締役として怖がられているようだ。
「今回も任せてくれ!!だが今回は近くにいるのも危ないだろう、だからまた明日ここに来てくれ、クエスト達成の竜の角を渡すから」
堅い口調でそう言うと余裕そうにこちらに笑いかけて手を振り、すぐにテレポートしていった。
「大丈夫ですかね?」
ここ数日で仲が良くなった妖狐が心配そうに声を上げる。
「大丈夫だろ、自分でできるっていったんだし、それより今日は自由行動にしよう、俺少し見に行きたいところとかあったし」
「そうですね、じゃあ私はカフェで一日限定メイドやってきます」
それは休みになっていないような気がするが、本人が楽しいならまあいいか。
「ミキはどうする?」
「俺もカフェに行く!!」
迷惑をかけなければいいが...まあその点は安心できるか、エミリーがいるし。
「そっかじゃあここからは別行動で」
冒険者ギルドを出ると、お互い別々の道に歩いていった。
店が爛々と並ぶ大通り、そこには人が凄い量集まっている、その中でもとても小さな出店のようなところに近づくと。
「万屋あいてる?」
知っているすかしたイケメンに声をかけた。
「あいてるよ〜って王じゃん、何しにきたんです?」
「今日偶然暇だったから、少しは儲かってるのか見に来たんだ」
「案外儲かってるよ~ほら」
布袋に大量に詰まったお金を見せびらかすように俺の目の前でじゃらじゃらと鳴らす。
確かに稼いでいるようだが、一人足りない。
「リヒトはどうした?」
「リヒト先輩なら、ほらあそこ...」
先輩呼ばわりなのが気になるがあえて突っ込まず、オークのさしたほうを見る。そこには人だかりができており、その真ん中でマジックを披露していた。右手に持った小さなハンカチからDランクの魔物、怪鳥が群れで飛び出してくる、怪鳥は周りの人間を襲おうとすると、リヒトがパチンと指を鳴らし。
「ぴぎっ!?」
空中で鮮やかな色彩を彩りながら爆発四散させた。
悪趣味だが、爆発自体は綺麗だ。それにしてもどうやったんだ?明らかに魔法は使ってないし、だからって体に仕込める量じゃない。
「何やってんだあいつは...」
あきれ、凄さがあいまってそんな言葉が出た、万屋なんてやめてマジックで食ってけばいいのに。
「リヒト先輩が言うには、客に興味を持ってもらうには面白い事、もしくはおかしなことをして興味をひかせることが大事、とか言って人を集めだしたんですけど.....」
万屋よりも、リヒトのマジックに客がとられている、これでは全くの無意味、いや害悪だ。
「一応止めようとしたんですけど、客に批判されちゃって...」
「あいつのことはもういい、それよりも情報の方は?」
「案外集まってますけど、どれも信憑性が薄いし、役に立つとは.....」
「それでもいいから教えてくれ」
「それでもいいなら.....ここの隣のおじさんがね」
「おじさんが?」
「ハゲてるんだって~風呂掃除を頼みにきたおばちゃんからの情報」
「いや、それは本当にどうでもいいだろ、他は?」
「他?.....ああ、そう言えばこんな話聞いたっけ、実は少し先の家なんだけど、そこには二人のラブラブ夫婦が住んでるんだよ、でもその夫婦の旦那さんの方から死臭がしたんだって」
「へぇ」
これは面白い事を聞けた。死臭がしたということは誰かを殺した、もしくは殺人現場に出くわした、その二つだけだ。この国でそんなことができるのは相当立場が大きい人間、もしくは他国からの貴族、スパイなど。俺はこのスパイを見つけなくてはならない。
俺たちはまだ来たばかりで日が浅い、それに情報も少ない、こんな状態で国を亡ぼすことなんかできない。
だからスパイの持つ情報が必要だ、まあ普通はやすやすと話してくれるわけないが、所詮はスパイ、大体国から金をもらって動いてる連中がほとんどだ、節操がない。これは悪口じゃない、ある意味俺の中での誉め言葉だ、どこの国にも属さず、金さえもらえば何でもやる、味方の国だろうがお構いなしで忍び込み機密情報を盗んでは、他国に高値で売りつける、良く言えば猫のように気ままな自由人とでもいったところか。
だから俺たちも売ってもらうだけだ情報を。
「その夫婦の家はどこだ?」
「王も興味もってくれたようですね、ちょうどよかったです、実はその夫婦から家の掃除の依頼が来てるんですよ、今から僕たちが行くつもりでしたが、リヒト先輩があの調子ですし、代わりに一緒に来てくれませんか?興味あるんでしょう?」
「そうだな、そうするか、でも専門的な掃除なんてできないぞ?」
「大丈夫です!そこらへんは先輩に教えてもらった専門道具がありますから!」
専用の道具箱を手に、誇らしげに胸を叩いた。
大きな和風な家の門、扉を数回叩くと、扉の下についている小窓が開く。
「どちら様でしょう?」
「ど~も、依頼されてた万屋ですけど」
「ああ、妻が言っていた万屋さんでしたか」
青年がそう言うと、扉を開ける、すると後ろから女性が青年に歩み寄ってきた。
「どなたでした?あら、あなたは万屋さんですねお入りください」
その女性は万屋に依頼したご本人、青年よりも少し年下といった感じだろうか。
すると青年はいきなりよろけると女の人に寄り掛かった。
「あら、あなた、少し疲れてるんじゃない?」
「そうかも...少し休んでくるよ」
旦那と思はれる青年は笑顔で一礼すると、その場を後にした。
「ではよろしくお願いいたしますね、万屋さん」
旦那さんにも負けない笑顔を向けた、それが作り笑いか、偽物かどうかは断定できなかった。
「こういう粘り気はマッデザータの唾液が一番なんですよ、なんでかというとですねマッデザータは汚染された地域に出る特殊な魔物なんです、そこの食べ物はすべて汚染されて食べれないけどマッデザータは食べられる、なんでだと思います?」
「え...えーと...なんでかしら?わからないわ」
魔物の唾液が少し気持ち悪かったのか軽く引き気味のお姉さん、だがイケメンの言葉を無下にはできず、ちゃんと対応している。
その隣にいるイケメン魔物ですよと教えてやりたい。
「マッデザータは体内の唾液で異物を溶かし正常に戻すことができるのです、それは木も例外じゃなく.....ほら、ピカピカでしょう?」
唾液を垂らしたところをふき取ると、キラキラと補正がかかったように光り輝いていた。
「凄い!凄いわ!!」
魔物の唾液など忘れ、ただ実用性に声を上げ驚いている。
「どうでしょう奥さん、マッデザータの唾液、今ならたったの銀貨一枚、安いですよ!」
「10瓶分買ったわ、今金貨を持ってくるわね」
元々裕福な家庭なため金貨をとりに行けるが、普通は銀貨一枚でも高い。
それほど儲けている、もしくは強盗とか?死臭がしたのだ別段あり得ない話ではない。
それにしても、死臭がしたという旦那のほうはどこにいるのだろう?
「俺は別のところを掃除してくる、オークはあの人と話していてくれ」
「わっかりました!!~、あの人に他の便利グッズも売りつけて見せます」
商売熱心なことはいいが、裏目に出ないことを祈ろう。
廊下を歩きながらモップでごみが出ないようにふき取っていく、こう掃除してみて思うが結構な大きさの家だ、それにしたって本当に旦那の姿が見えない。
(外に出てるのか?...いやでも.....んっ?)
目についたのは僅かな光が漏れ出る部屋の扉、鍵が刺さったまま放置されている。
恐る恐る扉を開ければ、そこには青年が椅子の上に座り込んでいた、その青年は開いた瞳で俺を見る。
「旦那さん、ですよね?私は奥さんにたのまれてここの掃除をしていま..す?.....」
そこまで言って違和感を感じた。
今俺は、この男と話しているはずだ、いや、話しかけているはずだ。
それなのになんだ、なんで、こんなにも無機質なんだ?
まるで物に話をかけているよう...な....
そこで一気に頭の中のピースがはめられていく。
分かった、俺は勘違いしていたんだ、誰かを殺したから死臭がついたんじゃない、殺人現場にいたからついたわけでもない、そんなことよりも最も単純な答えだった。
この死体から発せられる死臭だった、ただそれだけのことだった。
だがそれでもわからない、何故さっきまでこの死体は動いていた?まるで、生きているように。
いや、もしかしたら俺たちが目を離したすきに妻が殺したという可能性も.....
それはないか、そもそも俺たちがここに来た原因が死臭だ、今死んだ青年の死臭を過去の人間が嗅ぎ昔の俺たちに伝えたとでも?そんなことのほうが馬鹿げている、ならどうやって?どうやって生きていた?
そこで俺の目についたのは青年の手に乗っている指輪だった。
(....分かった...そういうことか...)
おずおずと指輪を手に取る、一瞬もう終わらせてやろうと指輪を壊してしまおうかそんな考えに至るが、その前に確かめなくては本当にそうなのかと。
死体の人差し指を手に取ると、その反対の手で指輪をゆっくりと差し込む、一番奥まで入れるところで
後ろから驚くべき本気の殺意を感じた。
(っ!?)
その殺意はすさまじく強力、今まで感じたことのない、だがその殺意を放ったのは強きものではない、ただの女性だ。大切な者を侵害されたときどんなものでも怒る、それがただ本気で殺そうとする意志でも。
そしてそれだけ殺意が出ているのに手が出ないわけがない。
俺が殺意に驚き後ろを振り向けば、静かな怒りを見せる妻の黒い眼をみて、俺の顔は吹き飛んだ。
「ふふふふふ、わ、私は悪くないわ、こいつが悪いのよ...」
自分の持っている巨大で禍々しい槌、それにはべったりとこの少年を殺したという証拠の血が大量に付着していた。
流石にいくら旦那の秘密がばれそうだったからという理由で殺したということに罪悪感を覚えたのか、まるで自分のせいじゃないと訴えかけるように一人ブツブツと何やら言っている。訴えかける相手もその場にいないというのに。
「別の部屋に行きましょう、トオルさん」
女の人は旦那さんもといトオルさんにそう呼び掛けて座っている体を持ち上げこの部屋の出口に向かった、だが途中でつっかえてしまったようだ。
「なにかし...ら...」
そこで絶句した、だっておかしいじゃないか、なんで死んだ少年が旦那の足をつかんでいる!?
壁に叩きつけられている少年の遺体の手はまっすぐと伸びて旦那の足に向かっている。
「離して、離してよ!!」
女は少年の手を無理やり引っ張るがびくともしない、文句を言いながら力任せに踏んづけたりしている。
「放すのはお前だ」
「っ!??」
蹴っていた少年の手が今度は女の足をつかみ言葉を発した。
それだけでも驚愕だというのにそのまま少年は女の足を後ろに引っ張り、体制を崩させてしりもちをつかせた。そして手を一気に女の頬に伸ばしわしづかみにした。
「いい加減旦那を放してやれ」
「っ!?何の話よ!放せって言われても私は旦那を束縛してなんか...」
目を逸らそうとするがユウキは手に力を込めてこちらに目を合わせた、ちゃんと俺の目が見えるように。
「してるだろ」
「してないわよ!」
「じゃあいい加減逝かしてやれよ」
「っ!?」
図星だったのか色濃く目に戸惑いの感情を浮かべる。
「いつまでこんなことを続けるつもりだ?」
「何の話!!あなたの言っている意味が理解できないわ」
あくまでしらを切りとうすつもりらしい。
「お前がしてるお人形遊びの話だよ」
その言い方に色濃く怒りの表情が見て取れる。
「おっと悪い言い方を変えるよ、いつまでこの夫婦ごっこをするつもりだ?」
「茶番!?茶番ですって!?」
「ああそうだ、くだらないただのくそみたいな茶番だ、違うか?」
「違うわ!!茶番なんかじゃない、私たちはれっきとした夫婦よ!」
「死体の夫婦か、お似合いだな」
「死体じゃないわ!!トオルさんはちゃんと生きてるわよ!!今はただ寝てるだけで!.....」
「お前の旦那は目を開けて寝るのか、器用だな」
「っ!」
忌々しそうに俺をにらみつける。
「ほら起こしてくれよ、寝てるだけなんだろ?それともなんだ、起せないか?」
「っ!わかったわよ、見てなさい」
女はトオルに近づくと指輪を手にする、そしてまるでプロポーズするように指輪を人差し指に入れた。
「起きて、起きてくださいトオルさん」
するとさっきまであきらかに死体だったというのに、命が宿るかのように目をこすり立ち上がった。
「うん?...おはよう、カナ」
青年の声を聞いて理解した、やっぱりか、この指輪は死者も生き返らせる。厳密には記憶の中の自分を自我として起こし、まるで死者が生き返ったように見せているのだ。
「ほらどうですか生きてるじゃないですか、死体だなんて冗談はやめてくだ!....」
「じゃあ失礼してっと...」
「何を?.....」
俺はトオルの頭をさわり、にやりと笑った。だがしばらく声を発さなかった。
時が止まったように感じる長い時間、たった数秒なのに...
ユウキから発せられた第一声はカナの考えうる最悪なものだった。
「このブラコンが!」
ブラコン、家族にも言われていた最悪な言葉。頭の中にも鮮明に残っている言葉、それをしている人はいないはず。
「トオルさんじゃないだろ!お兄ちゃんと呼べ!!」
「なんで知って.....」
「他にも知ってるぞ、トオルは貴族で、ピクニックに来ていた時に魔物に襲われて死亡、家族も一人もいない、そんななかお前だけが生き残った兄に守られてな、その時偶然通りかかったこの国のクズ王に拾われた、その時その指輪をもらったんだろ?『その指輪をつければ死者でも生き返る』ってそそのかされて、これだけいえばわかってくれるか?他にも今お前の兄が何を思っているかもわかるぞ?」
「な、なにを思ってる?...」
ただの疑問だった、私はお兄ちゃんを幸せにさせてあげられているのか、だがそんな疑問の答えは幸せだと確信していた。
「知りたいんだな?じゃあ教えてあげよう」
俺はいやらしい笑みでカナの頭に触った。
『俺を殺して』『なんで生きて...』『開放してくれ』『なんでなんでなんでっ!!』『地獄だ』『誰か気づいてくれ』『俺は死んだんだ』『頼む頼む頼む』.....
こんな発狂したような言葉が永遠と続いていた。
「あ、ああああああああああああああああああああ!!??」
絶叫を響き渡らせてその場にペタリと力なく崩れ落ち意識が消えた。
「本当にこれでいいのか?」
「ああいいんだこれで」
トオルは自分の意志でしっかりとしゃべる。
だってそうじゃなきゃおかしいだろう、指輪をつける以前の記憶に従って行動する、ってことは自分は死んだってことを理解してるわけだ、それなのに普段通り暮らせるわけがない、ってことは自分の意志で普段通りに見せていたわけだ。
ちなみにさっきカナに送り込んだ記憶は俺の昔のころの思いの断片、実際発狂物だ。
「生きてたくないのか?」
「君が言う通り僕は死んでるよ、生きてるとは言わないただの物さ、それに妹、カナには自分の人生を歩んでほしいから.....」
妹の人生など特に気にもせず、興味なさげに死体に聞く。
「ふーん、でお前はどうする気だ?」
「僕は...このまま森に向かうよ」
「森?」
「魔物の餌になってこようと思って.....」
「魔物のえさ?...痛くないのか?」
「死んだときに体の機能が動いてないから痛くないよ」
それでも魔物に食われるのは気持ち悪いだろう、折角ここまで関わったのだ、死体だとしても魔物に食われるのは後味が悪い、だったら。
「木造大蛇」
家の床をぶち破って出てきたのは大きい木の蛇。
「こいつに食われないか?」
「なんだいこれは?」
「俺のペットだ、楽に死体を殺してくれる」
死体を殺す、変な言葉遣いだ、でも今回に限り意味はあっている。
死体を殺さなければ何度でも指輪を使って生き返らせられる。
「じゃあお願いしようかな」
憑き物がが落ちたようにほっとした表情になると椅子に座り、指輪に手をかける。
「今日は本当にありがとう...」
妹に向けれるはずだった、兄のはかなげな笑顔は一心に俺に向けられる。
兄としても不本意で、俺からしても不本意だ。
俺は本当にお前らを助けるつもりなどさらさらなかった、ただ俺はこの女を見て、同じようなことをしたかもしれない自分の姿が映りあがってきた、ただそれだけなんだ。
それがどうしてもほっとけなかった、いらいらしたんだ。
椅子の上に力なく倒れている死体、その手のひらには指輪が転がっていた。
俺はその指輪を手に取ると、ポケットにしまい、死体を抱き上げた。
「木造大蛇、口開けろ」
木造大蛇の口の中に死体の体をやさしく置く。
木造大蛇は早く食べたいのか体をうずうずさせていた。
「なるべく傷つけずにたべろよ」
その一言で木造大蛇の口は閉じた。
今になって考えてみれば俺がもし同じようなことに気づき子供たちや俺の味方だった人たちの死体に指輪をつけて、生き返らせるまがいの事をしたらみんなは喜ぶだろうか?それとも怒る?それとも悲しむ?それとも.....こんな風になった俺を蔑むだろうか.....
まあ今はそんなことを気にしていてもしょうがない、それにどんな感情を抱いていようとも俺にそれを否定することはできないのだから。
そんな自虐に呼応するように頭が激しく痛んだ。
「痛ってー」
頭を押さえる、すこし水っぽかったので自分の手を見てみると、出血多量で死ぬレベルの血が出ていた。
今更だが、顔から血がたれ服も紅色に染め上げていた。目から映る外の景色も薄っすらと赤色だ。
「まさか一般人にここまで損傷させられるとは.....あっやばい...」
最近の謎の頭痛のせいでろくに寝ておらず寝不足だったせいもあるのか、一気に視界が朦朧とし意識が混濁する。
急いで回復魔法を使おうと思い立ったが、その時にはすでに体から力が抜け意識が消えていた。




