第65話愛の国
「なあ主様、なんじゃこれは、今からわしらは集団で殺されるのか?」
「いや、一応味方だから、それにお前が殺されることはないだろ」
朝起きて家の前に来てみれば、人間の大群、しかも血塗れの斧を片手に持っている奴など、多々いる。
「な、何とか間に合ったのですよ!」
そいつらの真ん中を割って出てきたのは妖狐。
「こんなに多いのか?...」
「これでも結構な数を殺されたのです」
実はこいつらは全員魔物だ。
昨日妖狐に頼んで森にいる魔物を全て人にすることを頼んでおいたのだ。
そいつらを全てあそこに送り込むために。
「いや、でも流石にこの数は馬車が足りないんじゃ」
「そのことに関しても問題ありません、朝の三時頃にカノンさんを叩き起こして馬車を大量に作ってもらいました」
そう言って妖狐が自身ありげに大量の馬車を見せる。
その付近には燃え尽きたカノンがたたずんでいた。
「わかるか、あれが本物のSだぞ」
「そうじゃな...」
「どうしたのです?みなさんそんな顔をなされて」
俺たちのひきつった顔に何かを感じ取ったらしい。
「おお、これは素晴らしい!これだけあれば国に行くことも可能でしょう!」
集落に住んでいる人間をまとめて歩いてきたのはイクモだ。
昨日の話のとおり朝一で来てくれた。
「じゃあこれを渡しとくぞ、あとくれぐれも約束を破るなよ」
アイテムポーチから地図を取り出し渡す。
「はい!わかっています!しっかりと働かせていただきます!」
「分かってるならいいんだ、さてさっさと行こうか結構な時間を使っていて目的よりもだいぶ遅くなってしまった」
遅くなった原因は、エミリー誘拐、集落で馬車をせがまれ、そして魔物の襲撃。
なんていうか面倒ごとって重なっている気がする。
「なあ主様、昨日は何を話していたんじゃ?」
「それは愛の教団に行く途中で話すよ」
そんなことを言いながら馬車に乗り込む。
「本当にありがとうございました!」
その後ろではイクモが深く、深く頭を下げていた。
-----------------------------------------------
「なあ、こっちで会ってるのか?」
馬車が通るにはあまりにも無理があるであろう道なき道をとおっている。
まあ、もともとそんなことを想定して作られた道ではないのだろう。
「会ってるのですよ」
「ならいいんだが」
集落を後にした俺達は今、新しく作った馬車に乗り、森の中を突き進んでいた。
愛の教団に行く道で近道を知っていると妖狐が言ったのでその道を進んでいるのだが...俺にはただ遭難しているようにしか見えない。
「それより主様昨日の話を教えてくれ」
「それ俺もききたいな~」
「私も聞きたいです」
リンに加えて興味を示したのはカノンとオーク。
「昨日の話って言っても、ただ俺が「殺されたくないなら労働力を払ってもらおう、だがその代わりに、家あり三食飯付き、休憩もあり、という生活をさせてやる」って言ったらすぐに飛びついてきただけだぞ」
「へぇ、だからあの人あんなにかしこまってたんだね~てっきり暴力的な解決かと思ったんだけどなぁ」
少しオークは俺に悪印象を持ちすぎだ。
「じゃあ今日の朝の魔物たちは?」
「あれは、労働力が必要だからついでに魔物たちもいればはかどると思ったんだよ、でも、まさかあんなにいるとは...」
「そういえば労働力が必要なんて、何か作ってるんですか?」
「まあ、それは後のお楽しみということで」
そういうと俺は妖狐に向き直る。
「そういえば巫女さん?いまどんな占いが出てるんだ?」
「えっ!?!」
にやけ顔でそう言うと、驚きの表情を見せる。
実は昨日妖狐の頭を撫でた時に少しだけ記憶を見させてもらった。
その記憶には妖狐が固有スキル『巫女』を使い占いを聞くというだけの記憶だ。
だが、そこに出ていた占いには『白髪の男を王として仕えろ、さもなければ死を回避することはできぬ』というとんでもない内容だった。
それを理解した妖狐はゴブリンとオークにこういったのだ、『私は仕えるべき人をついに見つけました、その人は白髪の男だそうです、もし見つけたら至急教えてください』
この、内容を聞けばわかるだろうが、妖狐に仕える気持ちなど一切ない、ただ助かりたいだけだ。
さあ、今の俺の心を読んで、全てがばれてどんな気持ちなんだろうな妖狐?
「そ、それは違うのです...」
「そっかぁ、じゃあ今すぐお前を置いて言ったらどうなるんだろうな?」
俺が悪辣な笑みを浮かべると。
嘘がばれたためか、涙目になっている。
「許してくだ...」
「ってのは冗談で置いていく気なんてさらさらない」
「えっ.....」
「だってこれからも死なないために俺に尽くしてくれるんだろ?」
その言葉を聞くと、涙を流しながら。
「はいっ!がんばりますっ!」
といった。
「ってあれ!?なんで泣いてるの!?」
俺は妖狐の涙を見ると取り乱した、だって泣かせるつもりなんてなかったから。
「妖狐ちゃんこっちにおいで慰めてあげるから」
カノンが優しく頭をなでている。
なにこれ、なんか俺が悪いみたいになってない?
「うー王にいじめられたのです~」
妖狐もなんだかんだ乗り気だ。
っていうかお前が悪いからな。
「全く何をいじめられていたのかはわかりませんが、いじめるなら私にすればいいのに」
「お前は何を言ってるんだ!?」
最近カノンの様子がおかしい気がするのは俺の気のせいなのだろうか。
「主様いいこと教えてやろう、Sを泣かせられるのはそれ以上のSだけじゃぞ?」
「いらない情報ありがとなっ!」
ぎゃあぎゃあとうるさく馬車の中でしゃべっていると。
「兄ちゃん!森の出口が見えてきたよ!」
いろんな意味でナイスだミキ、愛の教団についたら肉を焼いてやろう。
「本当ですか!」
「ようやく見えてきたのじゃ」
森から見えてきた光を抜けた先にはまっさらな平原、その先には円形の防壁に囲まれた都市。
「あれが愛の教団ですか、外からじゃあまりわからないですね」
「中は地獄だよ」
「そんなこと言うなんてオークは来たことがあるのか?」
「いえ入ったことはありません、ただ仲間が昔つかまっていて話を聞いたことがあっただけです」
そんな話をしているうちに馬車は直ぐ都市の目の前まで来た。
俺は馬車から飛び降りミキから手綱を借りると、停留所に止める。
「これに並ぶの?」
馬車の中から出てきたミキが入り口に並んでいる列を見ている。
「ああそうだよ」
「え~めんどくさい」
「じゃあ誰かが一人並べばいいんじゃないですか?」
カノンがそう提案すると
「そのことなら問題ないよん」
変わった口調でそう口にしたのは...
「だれじゃ、あいつ」
「そういえば言ってなかったけ、あいつは何でも屋だ、ミクロス卿を殺した時にあったんだ」
「依頼主早く来てくれー、順番取っといてやったから」
「分かった、みんな早く来てくれ、住民登録するぞ」
「わかったよ~」
返事を聞きながら中に入った。
「よくいらっしゃいました、愛の国へ、それでは何の御用件でしょうか」
「ここにいる皆で住みたいのですが」
「分かりました、では皆さん、一緒に暮らすうえでの関係性を教えてください」
そうか一緒に暮らすとなると関係性を示さないといけないのか。
「えーと...」
「私は彼の妻です」
いや、何言ってんのお前...まあいいかどうなっても一緒だ。
「で、わしとエミリーミキと妖狐は主さ...父さんと母さんの子供じゃ」
「ず、随分若い夫婦で子だくさんですね、そちらの方たちは?」
話を振られたリヒトは。
「それで僕は、この子の父で~す」
リヒトはそういうと俺の肩に手を置いた。
「ま、また若いお父さんで」
ひきつった顔をしているお姉さんに、俺は苦笑いを浮かべると
「ええ、よく言われるんです」
と口にする。
正直なところこんな家系ないだろと口にしそうだが必死に抑え込む。
「ではそちらのお二方は?」
「えーとねぇ、俺はこの子の兄です」
今度はオークが俺の肩に手を置く。
「それでこっちが俺の兄だよ~」
「.....」
ゴブリンは無言で頷く。
「は、はあ、分かりました、ではこちらのリストを見てください、どの家に住むかをお決めになってください」
「二つほど質問いいか?」
「どうぞ」
「名前とか年齢を書いたりはしなくていいのか?」
普通の一般的な国に住む場合、絶対に必要なことだ。
「別にいいですよ、だってそんなことしたところで意味ないですから」
「家のお金は?」
「払わなくていいです、好きな家を選んでください」
「そうか...じゃあこれで」
色とりどりな家がある中で俺は一番大きく庭付きのとても豪華な家を選んだ。
「分かりました、では皆さんここを出たらすぐにこれをつけてください」
渡されたのは綺麗な指輪、それを人数分。
「では、楽しい日々を」
女の人はまだ人間味のある声で俺達を国の中へと送り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わあ!ここが愛の教団ですか!」
目の前に広がっていたのは綺麗としか言いようのない国だった。
待ちゆく人には笑顔がはびこっている、いや笑顔の人しかいない。
そんな初めての光景に俺とリン以外のやつらは楽しそうな表情をしていた。
「王?その指輪つけなくていいのです?」
「これはつけなくていいんだ」
「そうなのです?」
「そこら辺の詳しい話は歩きながら話そうか」
道沿いの隅により歩き始める。
「そうだな、どこから話そうか、まずはこの国の上下関係からでいいか。この国に今周りに歩いている人間は全員、死んでる」
「えっ!?」
「悪い、悪い、言い方を間違えたな、どういうことか今教えてやるから、オーク少しそこの子に・・・・って言ってごらん、ちゃんと手を見せながらだぞ」
「え...そんなことしたら俺完全に変質者...」
「大丈夫だから!」
オークの背中を叩き、女の子二人の前に突き出す。
「うう、王のお願いだからやるんですからね!」
嫌そうに女の子の前に立ちふさがる。
「あの?私たちに何か?...」
オークは首をかしげている少女に手を見せつけると。
「お、俺の手に、き、きき、キスをしろ!」
恥ずかしそうにオークがそう言うと。
「さすがにそれは...」
「最低なのです...」
カノンと妖狐にそんなことを言われて涙を流しているオーク。
「俺だってやりたくてこんなことをしてるわけじゃないのに.....もういいですよね」
悲しさ交じりにこちらに戻ってこようとした瞬間、オークの手を引っ張られ
「えっ?」
少女たちはひざまずくような態勢を取りオークの手にキスをした。
「これでいいでしょうか?」
「は、はい?...」
てんぱりながら返事を返すと。
「では私達はこれで」
「さ、さようなら...」
他の人たちが驚愕している間リンが口を開いた。
「これだから嫌いなんじゃこの国は...」
「王、これはどういうことですか?なぜあの馬鹿の言うことを聞いたのでしょう?」
「実はこの国でその指輪をつけていると自我が消えて、指輪をついていない者にお願いされればなんでも言うことを聞くようになるんだ」
「自我がない?ならなんで普通に生活しているんだ?」
「自我がなくても昔の記憶に基づいて生活するようになるんだ」
「え、それって指輪を外せば元に戻るんですか?」
「戻るよ」
「それなら直ぐに外さないと...」
先ほどの少女たちに向かって走り出そうとするカノンの肩を掴み
「やめろ、指輪を外せば国にばれるようになってる」
「じゃあどうすれば?」
「この国をつぶす」
「えっ!?」
あまりに大規模なことに声を上げる。
「何を驚いているんじゃ?それだけ大規模なことをするからこいつらを信用したり胡散臭い万屋に依頼なんてしたんじゃぞ」
「あはは、俺って胡散臭い?」
リンの言葉に苦笑する。
「続きは家の中でしようか?」
俺は目の前の扉を開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分の為の玉座にふんぞり返り、自分の為に仕えこうべを垂れているメイドと執事を見、ステンドグラスの先に見える自分の為だけに出来た国を見据える。
「はっはっはっやはりこの景色は何ともいい」
玉座の上でにやついた笑みを浮かべ、玉座に肘を置き頬杖をつく。
(この国の女は金は全て我の物、ここでは、愛の国では我が神なのだ)
愉悦間に浸っていると執事が扉を開け入ってくる、そしてリクの目の前でひざまずいた。
「現人神リク様、三人程の客がいらっしゃいました」
「客だと?名前はなんと名乗っておる?」
「正義・人と名乗っております」
「正義・人....ようやくきおったか、客を通せ、それと食事の準備をしろ、残った者は我を運べ」
リクがそう言うと周りの男たちは玉座を担ぎ始めた。
(正義・人、別名狂った正義、子供だろうが女だろうが自分の正義に背く者は悪と断定し殺す、実力は申し分なし、さてどうするか...)
長い横長のテーブルの反対側に玉座のまま座らせる。
「やあ、どうもお招きありがとうリク様」
藍色の髪をした少年、正義・人だ。
「招いてはいないけどな、それより座れ食事の準備をさせた」
「これはこれはご丁寧にありがとさん」
髭を生やした黒髪が無鉄砲に席に着く。
「全くダメですよ、人さんに許可も取らずに」
「メイ、別に気にしてないからいいよ」
「ですが...」
「リーダーがこう言ってるんだ細けいこと気にすんじゃねいよい、そんなだから姑とか言われるんだ」
「!?そっそんなこと言われていません!アキさん勝手なこと言わないでください!」
「まあまあ落ち着きなよ、話が進まないだろ?」
人が優しくそう投げかけると二人とも落ち着きを取り戻し、席に着いた。
「それでどのような用件だ」
「私達はあなたを保護しに来たのです」
「保護?」
メイがそれに続く。
「はい、少し前の事ですがアセロラとドルトンが何者かに殺されました」
「だからこのままここにいれば危険だろう?だからこの国を捨てて魔王軍のもとに来てほしいってわけさ」
「何を言っておる!ここまで作り上げた国を捨てろというのか!」
「分かってください、それほどまでに相手は危険かもしれないんです」
「話にならん!我は行く!我は自分の悪を全うするだけよ!」
リクは席を立つと、他の部屋に向かってしまった。
「おい待ってくれよ」
「話を聞いてください」
アキとメイが呼び止めようとリクが歩いて行った先についていく、一人残った人は
「なにが悪だ、お前の悪なんざただのおままごとだろ」
そうぼやいた。
正義・人の事は第49話の最後を見ればわかると思います。




