第64話妖狐
「姫~置いてかないでくださいよ~」
「そんなに焦っても王は死んだりはしない」
フードを被った獣人?もしくは人間、が姫と呼ばれた狐耳の獣人に走り寄ってきた。
「遅いです、王がピンチなんですから直ぐに駆けつけなくては」
「いやいやいや、それはヨウコちゃんの勘違いでしょ~」
「王は、これぐらいではやられんよ」
「そういう問題じゃないのですよ!王もそう思いますよね?」
くるりと体を回転させこちらを向く。
いきなりこっちに話を振られても困る、というか...
「王って誰だ?」
フードを被った二人と、少女に疑問をぶつけると。
「王は王ですよ?」
「王は王だ」
「王は王だね~」
同じような答えが返ってくるだけだ。
話にならないなぁ、ほっといてもいいのか?
「それは困るのですよ~」
その返答に驚きを隠せない。
今こいつ人の考えを読みやがった...!?
「そうですよ~?王が嫌ならやめておくのです」
「別に嫌ってわけじゃないけど...」
こいつが先日話していた悟りなのか?...
「ご名答です!」
そうらしい、何せ自分で認めてるしな。
「それで、何の用で俺達に接触してきたんだ?」
「だからですね...」
獣人の少女が何かを言いかけた瞬間、咄嗟に少女の頭めがけて飛んできた矢を素手で捕まえる。
「ちっ!」
矢を射ったと思われる冒険者はすぐに大勢の冒険者たちの後ろに潜り込み姿を消した。
「話はあとにしようか、その前にこいつらを何とかしよう」
「ありがとうなのです!」
「お互い様だ」
軽く礼を言いあい、冒険者たちを見据える。
「なあ、今すぐ引き返して、イクモにこう伝えろ、お前たちじゃあ俺たちに全くかないませんでした、今日のうちにここにイクモが出向かなければ村のやつらを全員殺す、そう伝えろ、もし文句があるやつ、もしくは俺たちに勝てると思ってるやつは前に出てきてくれ」
すると5人の人間が、前に出てきた。
「お前らなんかオーガを殺した俺たちパーティーにかかれば余裕なんだよ!」
自慢のように放つその言葉を無視して後ろに振り返り。
「誰か相手したいやついる?」
「私はやめとこうかな」
「わしも勘弁じゃ...今日は疲れたいろいろと...」
それは同感だな、俺もできれば戦いたくない、というか疲れた。
「じゃあ、俺が戦いたい!」
唯一乗り気なのは、ミキくらいだ、だが...
「王、俺にやらせてください」
フードを被った人間?が俺の前に膝まづくと相手をさせてくれと懇願をしてきた。
こっちからすればありがたい限りだ。
だって実力を測れるから。
「ミキ悪いが今回は譲ってくれ...」
「え~最近戦ってないんだけど.....」
「次は譲ってやるから、な?」
「うー、わかったよ、でも次は絶対にちょうだいね」
「ありがと、じゃあいいよやってみてくれ、あ、でも殺すなよ?」
「分かりました、ありがとうございます」
体の足元まである長いコートに着いたフードをぺらりとめくると特徴的な灰色の短髪があらわになる、そして右手に剣を取り出した。
(あれ?なんでしょうあの剣見たことがあるような?.....)
カノンが疑問に首をかしげていると、男は一気に踏み込んだ。
「きたぞ!気をつけろ!」
「反応が遅い」
「え?」
疑問の声とともに一人を剣の柄でみぞおちをつく、その痛みによって倒れる瞬間にそいつを蹴り飛ばしその反動で跳躍すると反対側にいるもう一人を剣の刃が付いていないところで吹き飛ばす。
そして後方にそのままバク転して飛んできた矢を回避した。
流れるようなその動きに少々驚きを隠せない。
「さっき姫を射ろうとしたのはお前か」
ギロリと黒い瞳でにらみつけると、驚いたように慌てて後ろに走り出した。
この距離じゃあ追いつけない、だったら。
「俺は孤独な戦士だ」
その言葉を言うと一気にすべての能力が跳ね上がった。
その言葉を聞いて気が付いた、いや気が付かされた。
(まさかあなたは私と殺しあっていたゴブリン、なの?でも、どうして人の姿に?...)
カノンが頭の中で考えている中、ゴブリンはひとりであばれ周り、5人を完全にノックダウンさせていた。
「これでいいな、さっさとイクモに伝えろ」
「は、はい!?ーー」
悲鳴交じりの返事をして立ち去って行った。
「じゃあ今度こそ話をしようか」
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古びた大きい家にある別室に移動する。
そこで話し合いに参加するのは、謎の3人組とユウキ、カノン、リン、ミキだ。
エミリーは個室で寝かせている。
「では、自己紹介から、私は妖狐です」
銀髪の少女は立ち上がり優雅に一礼をすると席に着く。
こんな感じで会話を進めるようだ。
「ヨウコちゃんですか、いい名前ですね!」
「名前ではありませんよ」
名前じゃないのか?ということは偽名?
「じゃあ次は俺が言うね~」
最後の3人目がフードを外すと、そこにはなんともチャラそうなイケメンな男の顔、髪の色は茶色だ。
「俺がオークで、こっちの不愛想なひとがゴブリンだよ~」
「よろしく、王」
「ねえ?固いでしょう?ほら、もっと笑顔を出さないと~」
そういって無理矢理ゴブリンの量頬を引っ張って口を笑わせる。
すると、ゴブリンは頭に青筋を浮かべながら無理矢理笑顔を作ると。
「殺すぞ」
「怖いこと言うな~ゴブゴブは」
「え~とゴブリンはオークが嫌いなのか?っていうか名前なのかそれは?...」
「俺が哺乳類でこいつが空気なら俺は呼吸やめます、それくらい嫌いです、あと確かに名前だが名前じゃないというか.....」
「それは種族名ということでいいですか?」
カノンの言葉に自己紹介をしていた奴らが首を縦に振り認めた。
「ということはやはりあなたは私と殺りあっていた...」
「そうだぞ、少女よ、あの時は引き分けだったな」
「ってことはあなたは馬鹿なことをして死んだ、オーク!?」
「流石に辛辣すぎじゃないかな?俺泣いちゃうよ?」
そう言って泣きまねをして見せるオーク。
こいつらの言い方からして集落を攻めてきたのはこいつらで間違いなさそうだ。
「そんなことはいいから一から説明してくれないか?」
「えーと、一からってどこからなのです?」
「集落を攻めてきた原因から...」
正直説明しなくてもわかっていると思うのだが、まあ念のためと言ったところだろうか。
「分かりました、まず最初の始まりがですね、黄色いオーガなのですよ」
黄色いオーガ、俺たちを殺しに来てエミリーに傷をつけたあいつか。
結果リンが殺したと思うが...あいつが原因なのか。
「オーガ一頭がいきなり黄色い姿になって森で暴れまわっていたのですよ、そのオーガを止めようとゴブリンとオークが止めに向かったのですがかなわなくてですね、負けてしまったとおもったら体が黄色く変色したのですよ、そうしたら二人も破壊衝動が少しだけ出てきたので、森に被害は出させたくないので人間の集落でやるように誘導したのですよ」
人間の集落を襲わせる、まあ妥当なところだろう。
「なっ!なんで人間の集落でやるの!人に被害を出させないでよ!お前達のせいで何人か死んだんだぞ!」
激怒するミキ、多分今回のせいでエミリーがけがをしたことが原因だろう、だが訳が分からないようで首をかしげると。
「何を言っているのです?それは全てこちらのセリフなのですよ」
「何言ってるんだ被害を受けたのはこっちだろ!」
「ミキ、それは違うぞ、一番被害を受けたのはそっちで、いつも根本的に悪いのはわし達人間じゃ」
「なんでそんなことを言うの?」
ミキは本気で訳が分かっていないのだろう、だって自分たちにとって魔物は敵という概念しかないだろうから。
「実際事実はそうじゃからじゃ、今回でオーガ達はわしら人間の倍死んでおる、それに人族はいつも魔物を見つければすぐに殺そうとするじゃろ?」
「でもそれは、魔物に殺されないために...」
「その通りじゃ、だが最初に何もしてこない魔物を殺したのは人族じゃ」
「え?でも歴史には、魔物たちが襲ってきたため返り討ちにしたって...」
「それは完全なる嘘なんじゃ」
その通りだ人は都合の悪い事実をすぐにもみ消す。
本当に醜い種族は人族のことかもしれない。
「でも、どうしてそんなことを?...」
疑問の声にこたえたのは妖狐
「醜かったから、ただそれだけです」
悲しげな声とは裏腹に顔は笑顔だ。
昔から人間は見た目で差別をする傾向がある...いや違うな、昔から人間は見た目で差別をする習性がある。
『習性とは=動物のそれぞれの種に一般的に認められる行動様式』それが人間にとっての差別。
だがそんなこと裏切られた時から人がどれだけくずなのか理解しているわけで、そんなことに対して俺は何の興味もわかない、それよりも気になるのがこの妖狐という魔物の心情だ。
俺にも悟りのスキルがあればこいつの心情が読めるのに。
「では、話を続けるのですよ~それでですね、その破壊衝動を収めるために、オーガを連れてきてみたらすぐに殺されちゃったんですよ、それで偶然にも王が見つかったというわけです、ですが、王は人の姿をしていたのでこちらも合わせて人の姿にさせていただきました、まあいずれ人の姿にはなるつもりでしたが」
王ねぇ、ただ俺は気絶してただけだってのにどこに王のようそがあったのだろう、あるんならリンだろう、だって実際に魔王だからな。
「取り敢えず二つ質問いいか?」
「はい、なんでしょう」
「まず一つ王ってなに?」
そう、これが一番聞きたかった。
俺の事を王というがそもそもそれは何なのか全く理解できない。
「王は王としか言いようはありませんが?」
「そういったあやふやな感じでいわずに一つ教えてくれ、こたえたいか、こたえたくないか」
「...今はまだ、確信がないので...」
要するところ言いたくないということか、まあそれくらいであきらめる俺じゃないが今のところはいいだろう。
「分かったじゃあいい」
「甘いよ兄ちゃん!」
ミキが何やら言っているが取り敢えず気にしない。
「もう一つ、俺達の敵か?それとも味方なのか?」
それを聞いて驚きの表情をする。
「どうやって人間になったのか聞いてくると思っていたのですが...」
「味方ならいずれ教えてくれるだろ?」
「そりゃあ、そうだね~」
オークがおちゃらけた感じで口をはさむ。
オークってのはもともと女好きで有名だけど、その性格を引き継いだ結果女殺し用のこんなイケメンになってしまったのだろうか。
「確かにその通りなのです...では我ら魔物たちはあなたに忠誠を誓います」
妖狐がそう言うと隣のゴブリン、オークも頭をぺこりと下げた。
昔王様だった時もこういうことは何度かあったがやはりなんだかむずがゆい。
「俺はお前たちをどんな風に扱えばいいんだ?」
「私達のことを仲間のように扱っていただけるならありがたいのです、まあ奴隷とでも思ってくだされば」
「そういえば妖狐のランクは?」
「私がSランクで、この二人がAランクなのです」
Sランクの魔物、確かとんでもない化け物と聞いていたのだが、ただの獣人にしか見えない。
唯一違うところと言えばしっぽが生えているかどうかくらいだろう。
「なあ、妖狐って有名な魔物なのか?」
リンにこっそりと耳打ちする。
「有名も何も絶滅種じゃ」
絶滅種、それは個体が少なくなり滅ぶ寸前の魔物のこと。
「その中でも妖狐はとても良い毛並みのためいまだに人間に狩られているのじゃ」
良い毛並み、試そうとおもむろに妖狐に手を伸ばし頭をなでる。
すべすべとしたふわふわとした髪の毛、見た目も銀髪が光に反射していてなんともきれいだ。
確かにこれは病みつきになる。
「気持ちいいのです~」
髪の毛がこれだけ気持ちいいのなら、しっぽはどうだろうか。
気になって掴み、もふりだすと。
「ひゃんっ!」
少女さながらの声を上げる。
「そ、そこはダメなのです!」
力が抜けた表情をしながら頬を染めている。
「わ、悪い」
「ご主人様?何をしているのですか?」
「嫌ちょっと待て、少し興味本位でな...」
言い訳のように言い続けていると。
「いいんですよ、私は王のためならどんなことでも...」
「なんかその言い方には語弊があるんじゃないか!?」
それにしたって魔物にこんなに慕われるとは。
「うーん、なんか変な感じだな、魔物の王が人間なんて」
「王が人間?何を言っているのです?.....」
妖狐の本当にわからなそうに首をかしげている。
「そういえば王にお願いが...」
するとオークがそこまで言いかけると
「話を!話をさせてください!」
イクモが扉をけ破って入ってきた。
息を荒げていることから焦っていることがわかる。
「俺は少し隣の部屋で話をしてくる、えーと妖狐も話に加わってくれないか」
「王のたのみとあらば」
「ほかのみんなは寝ててくれ、あと布団は五着しかないから誰かが一緒に寝てくれ」
そういうと別室へと移動した。
「じゃあわしはエミリーと寝るかの」
リンはそういうとエミリーの布団の中に潜り込む。
「ゴブゴブ一緒に寝る?」
「俺は一人で寝させてくれ」
ゴブリンは一人遠くの布団に体を入れた。
「じゃあミキ君だったよね、一緒に寝よ?」
確実に断られると思っていたのだが、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「別にいいぞ」
「あれ?てっきり断られると思ったのに」
「兄ちゃんが仲間だと認めたんだから、信用できるってことだし」
そのミキの言葉が何故かうれしくて顔を笑ませる。
「王は本当に信用されてるんだね、そういえばみんなの名前知りたいな」
「そうですね、布団に入りながら自己紹介の続きをしましょうか」
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「ん?待っててくれたのか」
別の部屋から戻ってくると一か所だけ月明かりが差している、そこにはカノンが布団の上で座っていた。。
「一緒に寝るっていったじゃないですか」
「そうだったな」
二人して布団の中に入り体をうずめる。
「なあ、これいつまで続くんだ?」
「一生です」
「それは無理だろ、カノンだって誰かと結婚するんだから」
「その誰かはきまっているので」
「へえ、いるのか、だったら俺なんかと一緒に寝てていいのか?」
「いいんです、それより少し肌寒いので寄ってください」
布団の隅でカノンに背を向けているユウキをこちらに向かせる。
そしてカノンはピタリとくっついてきた。
少し近すぎる気がする、でもまあ今日は確かに肌寒いし当然と言えば当然なのか?
少しカノンの寝顔が気になり目を開けると、、同じく目を開けているカノン、ばっちりと目が合ってしまった。
窓から差し込むおぼろげな月明かりがカノンを照らしている、なんとも綺麗でなめかましい。
「あ、あの、そんなに見つめられると照れるんですが...」
頬を赤く染めながら見つめてくる。
そんなカノンがとてもかわいく見えてきてしまい、こんなカノンに好かれる奴がとてもうらやましい。
「お、おやすみ...」
おずおずとそういいながら瞼を閉じた、なんだかこれ以上見つめあっているといろいろとやばい気がする。
「...へたれです...」
普通に寝ると思っていなかったカノンはつい本音を漏らしてしまう。
「へ?何か言った?」
「なんでもないです、さあ寝ましょう」
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「ふう、いい満月なのです」
古びた家の縁側に座り空を見上げる。
「おい妖狐よ、お前はなぜユウキを王とする?」
エミリーの布団に入っていたはずのリンが家の扉を開け妖狐に話をかける。
「へえ、王はユウキさんというのですか名前を聞いていなかったので、教えていただきありがとうございます」
「そんなことはどうでもいい、それよりもお前は昨日のユウキを見ていたのか?」
「そうですけど?」
「ということはお前はこの前のユウキの原因を理解しているのか?」
「そんなの分かりませんよ」
さも当然とばかりにいう、そしてリンの嘘発見のスキルに何の反応もない。
「分からぬのか...」
「そんなことよりも魔王様、王の正体に気づいていますか?」
「主様の事か?」
「魔王様に主様って呼ばれるなんて王は飛んだ大物なのです」
「主様の正体、そんなもの人間じゃろ?」
その答えに深くため息をつくと。
「違いますよ、できれば言いたくないのですが答えを教えてあげるのです、あなたと同じ者なのですよ」
「おい、それはどういう意味....」
リンの言葉を無視すると縁側から飛び降り。
「さーて王にお願いされたこともありますしさっさとやってしまうのです」
一人でに夜空を見上げながらつぶやくと、森に向かって走り出した。




