第60話守りたいもの
前回の投稿から少し間が開いてしまいました、これからも投稿ペースが落ちると思います申し訳ありません。
ミクロス卿の豪邸の目の前の門には馬車が用意されていた。
当然ユウキたちが逃走用に準備したものだ、その馬車にはカノン、リン、ミキがそろっていた。
「まだ、来ませんね、エミリーちゃんとご主人様、何かあったんでしょうか?.......」
「俺ちょっと見てくるよ」
ミキが豪邸に走り出そうとした時
「おっ、ようやくきたようじゃぞ」
ミクロス卿の豪邸から1人の人影が出て来た、それはエミリーを背負ったユウキだった。
「早く乗るんじゃ!!他の兵隊に見つかる前に逃げるぞ」
「悪い、少し遅れた」
俺は馬車に素早く乗り込むと隣にいる、カノンの隣にエミリーを置く。
「カノン、エミリーを頼む」
「分かりました」
「ミキ!馬車を出してくれ」
「わかった、兄ちゃん!」
先頭に座っているミキは手綱を握ると馬に打ち付ける、すると勢いよく走り出した。
俺は後車台に乗ると右手にスモッグ石を持ち豪邸に向けて投げつける。
そしてすぐさま火炎魔法LV2『火炎槍』をスモッグ石に向けて放った。
豪邸を少しかすった程度だが豪邸の中に設置して来た、スモッグ石に引火して豪邸を丸ごと吹き飛ばした。
「主様はなにをしとるんじゃ!妙に目立たせおって!ミキ、全速力で走らせるんじゃ!」
「分かった姉ちゃん、行けっ!!」
ミキは馬に鞭を打ち最高速度で国から逃げ出した。
時刻は朝8時、昨日の騒動はどこへやら国から逃げ切った俺達は馬車の旅を満喫していた。
「やはり、美味しいです」
「上手いの〜」
馬車の中は後ろの座席にユウキとリン前の座席にカノンとエミリーが座っており、リンとカノンが甘味を食べ随分気分が高ぶっていた。馬車の先頭ではミキが器用に甘味を食べて首を傾げている。
「俺この甘いのより肉の方がいいよ、その、愛の教団?だっけかそこに着いたら肉作ってよ、兄ちゃん」
俺は、凶悪な人族から、兄ちゃんにランクが上がったのだが、カノンは.....
「ミキ、お肉なら私が作ってあげます」
「.....姉ちゃん....毒入れないでね?」
「あなたは私をなんだと思っているんですか!!」
姉ちゃんにランクが上がったものの警戒心は消えないようだ。
「少し静かにしててくれ」
俺は冷ややかにカノン達のやり取りを見つめながら本に目を向ける。
「あ、あの皆さん」
「どうしたんじゃエミリー?」
俺達に注目されているエミリーはぺこりと頭を下げ。
「助けていただきありがとうございました」
お礼を口にした。
「私達は仲間じゃないですか」
「水臭いやつじゃ」
カノンとリンのその気兼ねなく発した言葉を聞き、エミリーの頭にはユウキの記憶のカノンとリンについての記憶がフラッシュバックしていた。
「はい......そうですね、私達は似た者同士なのかもしれません......」
カノンは意味が分からないのか首を傾げている、リンは何か察したのかこちらに耳打ちして来た。
「主様よ、エミリーに何かしたのか?」
「特に何もしてないよ」
「本当にか?」
「本当だよ」
そう言うとあくびが出た。
寝ていなかったからなのか、それとも色々とありすぎて疲れたからなのか睡魔に襲われる。
リンの質問から逃げる良い言い訳にさせてもらおう。
「悪いリン、俺は少し眠いから寝させてもらう、愛の教団への道案内頼む」
「...(逃げたな).....分かったわしがやっておこう」
本音を言わず、ユウキの言葉に頷くとユウキは瞼を閉じた。
数分もすると寝息が聞こえてくる。
リンが顔を覗き込むとそこにあるのは幼い子供の顔。
(本当にこの子供があの残忍な人間なのか?)
幼い寝顔を見ているとこっちもつられてあくびが出た。
(分からなくなる道のりは、まだ先じゃし、少しくらい寝てもよいか)
愛の教団への道のりは途中まで道なりに進んで行けばいい。
進路変更地点までまだ先、そう理解しているリンは隣の子供に寄り添うと、そっと瞼を閉じた。
「あの、カノンさん.....」
エミリーから遠慮がちに発されたか細い声。
「どうかした?」
「どうしてユウキさんの奴隷になろうと思ったんですか?」
「ユウキ?その名前はご主人様から聞いたの?それとも、見たの?」
見たの?とは記憶を見たのかと言う質問だ。
「見ました」
「........そっかぁ、じゃあ私の過去も知ってるんだよね」
「....はい」
今も頭に浮かび上がるカノンの記憶。
痛くて、苦しくて、寂してくて、信頼していた友達に裏切られて、全てを憎みそうになる記憶。
「あっ、答えてなかったね私がご主人様の奴隷になったのはね〜」
こうしてニコニコしているカノンが、あの記憶の当事者である事が信じられないほどの悲惨で苦しい記憶。
「私がご主人様の事を好きになっちゃったからだよ」
自分で言って少し恥ずかしそうにしている。
あえて後ろにいるユウキに聞こえる声で言ったのだが..........
期待したカノンが振り返ると
「寝て、ますね....ってリンちゃんくっつきすぎですよ!ずるいです!」
少しガクッとしているカノンにエミリーは質問した。
「死にたいと思いませんでしたか?」
「うーん、確かに私も最初はそう思ったけど....今はご主人様に目標をもらったから....」
ユウキからもらった目標.....
「...それが復讐......」
「ご主人様がエミリーちゃんに教えたって事はエミリーちゃんも復讐をしたいんじゃないの?」
「私は認めたくはありませんが、確かに私は村のエルフ族を、こ、殺したいと思いました、ですが私の復讐なんてユウキさんと比べればちっぽけなものです........」
昨日見た記憶にはカノンとユウキのものだったがユウキの苦しみは、孤独は、並大抵のものではなかった、私のように死にたいなんて思えるほど生易しいものでもなかった。
「確かにご主人様と比べれば私の復讐だって小さいものですよ、でももう私の復讐相手にはご主人様の憎んでいる者達も組み込まれているんです」
「それは好きだからですか?」
「ううん、私はねご主人様を苦しめた人が許せなくて、ご主人様を守りたいから.....」
カノンから出た言葉は予想していたものとはだいぶ違った。
まさか強者を守りたいと言う言葉が出るとは。
「守りたい?ユウキさんなら並大抵の相手になら負けないと思いますが」
「違う、私が守りたいのはご主人様のこの日常、とても騒がしくて、孤独じゃなくて、辛くなくて、悲しい事なんて何一つないこの日常、みんなが生きていけるこの日常を私は絶対に守りたいの」
「どうしてそんな日常を守りたいんですか?」
「だってみんなで仲良く喋っている時にご主人様の顔を見るとまるで夢を見ているような、幻想を見ているような顔をしているんだもの、なんかその顔を見ているとね、ご主人様が凄く遠く感じるんだよ」
それはそうだろう、ユウキは今まで平和でとても楽しく暮らしてきた、だがすぐにそんな日常は壊され絶望のどん底に叩きつけられた、今の平和な日常が幻想に見えても仕方ないだろう。
「だから私はその幸せな日常がいっときのものじゃないように守り続けたいんだ」
「そうですか.....」
カノンにはユウキの日常を守るという目標がある、じゃあ私には?私には何の目標があるの?
結局の所生きている意味が見つからない、帰る場所もなく、やりたい事もない。
(これからどうしましょうか)
ユウキは私達を村に返してくれると言った、だから私はミキだけを返して私はどこか遠くに行くつもりだった。
これ以上戦争の道具にされないために。
でも遠くに行って何をしよう、それよりもまず遠くとはどこに向かえばいいのだろう。
自分には本当に何もない事を痛感していた。
「それにしても良かった〜」
「何がですか?」
「え?だってエミリーちゃん、村に帰らないんでしょ?って事は一緒に居られるじゃん」
カノンはニコリと笑いかけてきた。
「.........」
「あっ、それとも村のエルフ族を殺すのかな?どっち?」
カノンの質問に応えようと口を開いた時.....
「私は........」
盛大な激突音と共に車体が大きく揺れた。
「どうかしたのミキ!?」
エミリーは慌てて窓から体を外に突き出し、前方にいるミキに声をかける。
「前の門にぶつかっちゃった、これ以上進めないみたい」
ミキの言う通り馬車の前には木でできた門が建てられていた。
その門はすごく昔から建てられていたものだろう、所々が少し腐敗しツタが巻き付いている。
だが、相当しっかりとした作りになっているのだろう、何せ馬車が激突してもびくともしていないのだから。
リンがそう分析していると、隣のエミリーが酷く驚いていた。
「いつから起きてたんですか!?」
「あんなに大きい音を聞けばいやでも起きるぞ」
その言葉を聞いてエミリーはホッと胸をなでおろした。
何せ、今のリンの言い方からしてカノンと話していた時に起きていたということはないからだ、そういう意味でエミリーは心配していたのだろう、だがリンは............
(.....それにしてもまさか主様が話すとは...だからエミリーの様子がおかしかったわけか.....)
実は寝たふりをしてエミリーとカノンの話を聞かせてもらっていた。
あえて、ユウキにくっついてカノンに意地悪したのは秘密だ。
「それにしても主様は寝たままじゃな」
リンの隣で寝ていたユウキは全く起きる気配がない、それどころか顔が少し険しくなっている。
(昔の夢でも見ているのか?)
ユウキが一向に起きないことを少し心配していると、大きい怒声のようなものが門から聞こえてきた。
「お前たちは何者だ!顔を見せ、身分を証明しろ!でなければお前たちを敵とみなし即刻とらえさせてもらう」
門から出てきた男はローブで顔を隠している、それなのにこちらだけ顔を見せろとはすこしごういんなきがする、だがそんなことお構いなしにカノンが馬車から飛び降りると。
「待ってください私達は.....」
弁解を始めた。
「待てカノンわしから話そう」
馬車から飛び降りると、カノンを手で制し前に出る。
リンはカノンが喋ることを危惧しているのだろう、カノンが素直にすべて話すことを。
何せ相手が何者なのかわからない、それに敵なのかさえも。
「わしたちは旅の商人じゃ、証拠は後ろの積み荷かの、次の国に売るための食糧や便利道具なんかがはいっておる」
実際には売るためではなく旅の食糧だが。
「なぜ旅の商人がこのような場所に?」
「次の国に行く途中で迷ってしまったんじゃ」
リンの即答にフードの男は手を顎に当て考えるようなそぶりをする。
「その話に嘘はないか?」
「何の力もないわしらが嘘をついて何の得がある?」
(まあ、嘘だがな)
「.....分かった、だが首を見せてもらおうか」
首?なぜそんなことをするのか分からなかったが信頼されるのならばと服をずらし首を見せる。
「よし分かった、お前らが敵ではないと認めよう、だが悪いのだが少し付き合ってはもらえぬか」
「なぜじゃ?」
「リーダーが話をしたいそうだ」
「それに応じれば返してもらえるのか?」
リンの言葉に首を縦に振る。
「......分かった」
リンが小さくそう答えると目の前の門が開いた。
「ミキ、馬車を進めてくれ」
「信用できるの?」
先ほどまで黙って相手を観察していたミキが口を開く。
「分からん、じゃがひとまずついていこう」
「姉ちゃんがそう言うなら」
ミキはゆっくりと馬車を動かし門の中に入る。
すると門は締まり馬車の周りを数人に包囲された。
「気分を悪くするかもしれないが、もしものためだ許してくれ」
男はそう口にしつつ馬車の手綱をミキから取り、自分が馬を誘導し始める。
門の中は何といえばいいのか、昔の家をそのまま利用した感じだろうか、言い方は悪いがかなり古ぼけている。
その奥にはテントのようなものも見える。
しばらく古い家を見ていると一つの大きい家が見えてきた、だが当然古ぼけている。
「この中だ、馬車は預かっておく」
男の言葉にこくりとうなずくとカノンに向き直り
「念のためカノンはここで待ってユウキを見ててくれ」
「分かりました!」
カノンは快く引き受けてくれた。
なので、カノンとユウキを置いてリン、エミリー、ミキの三人で中に入っていった。
家の中の床に足を踏み入れるとギシッと鈍い音がした。
その奥には三人の男たち、なんともえらそうな顔立ちだ。
その三人はリンたちを視界に捉えると、ぎろりとにらみつけ........
「どうか馬車を譲ってください!!」
盛大に土下座をかましてきた。




