第54話精霊魔法
カトレア平原に続く森の中を、今俺とエミリーは走っていた。
木々の隙間から漏れ出る陽光が走るユウキとエミリーの姿を照らしていた。
数時間程走ると目の前の木々が開け、陽光が押し寄せる、眩しい日差しの中カトレア平原が見えてきた。
「ふぅ......だいぶ慣れてきたみたいだな」
カトレア平原の中心部、少し尖った大きめの岩の前まで来ると、俺達は足を止めた。
最近日課のように走っている中、ここがいつもの迂回ポイントであり、休憩場所だ。
「はい!」
俺が褒め言葉のような言葉を口にすると、エミリーは少し息を整えて満面の笑みを浮かべた。
「あの...最近気になってたのですが.....」
「なんだ?」
「....魔法を教えて貰えるはずでは?何故私は毎日走らされてるのでしょう?」
不安げなエミリーの顔、そんなに強くなりたいのだろうか?
.....まあ、そろそろそんな質問が来るとは思ってはいた、確かに理由を教えずにやらせるのも悪い気がするし、やる気にもつながってくるだろう。
「そうだな....そろそろいいか、試しに精霊魔法使ってみろ」
俺の言葉に不安げにうなずくと、手を前に突き出し魔法を唱え始めた。
「はい?分かりました....私は願う、炎よ、紅蓮の炎よ、我が前に顕現し敵を打ち倒せ、『炎精霊の激熱』!!」
そこからは赤き魔法陣が浮かび上がる、そして前と同じような炎弾が飛び出した。
エミリーの放った魔法は全く前と同じく、とんでもない火力を誇っていた。
ただいつもと違うのは....
「あれ...だるくない!」
いつもならこの魔法を放ってあまりのだるさに倒れつくしてしまうのだが....
いつものような辛さやだるさが全く無くなっていたのだ。
「分かったか?これが走らせていた理由だ」
俺はエミリーにしっかりと理解を持って、やる気を持ってもらうために説明に入った
「魔力を使い切るとだるくなるだろ?それは体の機能が働いて、無くなった分の魔力をスタミナを削って補おうとするからなんだ、魔力の自然回復力=スタミナって覚えればいい。
だるくなるのはスタミナを削られるから、なら魔力回復に使うスタミナよりも多くのスタミナを持っていればいい訳だ」
「だからあんなに走ってたんですか」
「ちなみにだが魔力回復ポーションは削られるスタミナを肩代わりして、さらに一気に魔力を回復してくれてるわけだ」
「実は凄い技術が使われてるんですね」
気づいて欲しいのはそこじゃなくて作ったのが誰なのかってところなのだが.....
まあ、そんな事年頃の少女が気になるわけないか....
俺が歳だからだろうか?....
「それにしても、もうだるくないのか、だったらいいな少し魔法の練習をしようか......はいこれ」
魔力回復ポーションが多量に入っているアイテムポーチを手に取りエミリーに手渡すと、エミリーは中を見て驚愕に目を見開いていた。
なにせそこに入っていたのは多量のアイテムポーションだけではない、多量の魔銀貨や貨幣が溢れているのだから。
(まあ、いきなりそんなの渡されたら困るよな......)
「疲れないだけで魔力は減ってるからな、ちゃんと飲めよ」
そう言って俺は何をするかしっかりと指示してあげた。
その後無造作に懐から爆発物でお馴染みのスモッグ石を取り出し遠くにほうり投げた。
「.ふぅ.......今何を投げたんですか?」
ポーションを飲み終えたエミリーは大切そうにアイテムポーチを抱きしめ、俺の隣で質問を投げかける。
「見てればわかるよ」
遠目に紫色の煙が出てきた事を確認して右手にファイアーランスを出現させた。
「ちゃんと見とけよ」
しっかりと指示を口にして俺はファイアーランスを振りかぶると、少し強めにスモッグに投げつけた。
当たると同時に爆発を引き起こし、爆風がエミリーの頰を掠め、地面に大きい風穴を開けた。
エミリーは愕然として口を開けている中もう既に爆発魔として爆弾に慣れてきた俺は淡々と説明を始める。
「エミリーの魔法は威力が高いが非効率だ、エミリーの魔力量は1200、普通の人間と比べれば凄い量だがエミリーの使う魔法は精霊魔法ただでさえ魔力量が多い。
さらにはエミリーの使う精霊魔法1回が1200丁度なんだ」
「えっ?なんで私の魔力量知ってるんですか?」
「えーと、そういうスキルを持っててさ......それで俺のさっきの魔法の魔力消費量は50だ」
「た、確かに、そう考えると私の魔法は非効率ですね.......ですがどうすれば?私は精霊魔法で水属性の魔法以外は使えますがどれも凄い威力、凄い必要魔力量で.........」
「まあ、確かにそれは仕方ないけど」
エミリーのステータスは俺が復讐のスキルで確認させてもらった、すると称号に、【精霊に魅入られし者】という称号があった。
その称号によると、精霊に愛され喜んで力になって貰うことができる。
そんな称号があれば逆に力を抑えた魔法を放つ事の方が難しいだろう。
「....頼めばいいんだよ、精霊に....」
「頼む?ですか」
そうだ、愛されてるって事は精霊達に意思があるって事だ。
それに愛されてるなら言う事を聞くはずだろう。
「ああ、精霊に頼むんだ、少し力を抑えてくれってな」
「精霊に....頼む.....少しやって見ます」
そう言って俺の方向を向いて祈るようなポーズをとった。
そこに微精霊がいるのだろうか、精霊に愛されていない俺にはよく見えない。
「なあ、俺の周りに精霊がいるのか?」
「はい、とんでもない量の精霊がたかってます」
「............なあ、エミリーから見て今の俺ってどう見えてるんだ?」
「えーと、光ってます」
凄い断片的に言われた、それにしてもそんなにいるとは、なんでだろうか。
にしても光ってるって、光蟲にたかられてるみたいでなんか嫌だな........
「お願い.....少しだけ力を抑えて.......」
エミリーがお願いしながら、急に虚ろな瞳で手を上に向けると、いつもとは違う魔法陣が浮かび上がりそこらじゅうに火が浮かび上がった、特に俺の周りに。
多分精霊が返事をするように火を放っているのだろう、少しだけ熱い.....
空中に浮いている火はエミリーの手の魔法陣に吸い込まれるように集まり巨大な炎弾と化した。
「精霊炎魂」
その言葉と同時に巨大な炎弾はまっすぐと落ちてきた、俺の元に。
「えっ?....エミリーこれ俺の方に来てないか?」
「.......え?あっ!逃げてください!!」
途中から自我がなかったのか、俺に声をかけられてから気づいたようで慌てて声を上げた。
(いや、逃げろって言われても....もう間に合わないだろ、仕方ない.....)
アイテムポーチからスモッグ石を二、三個取り出し左手の指に挟み持つ。
地面に手を置き、木魔法『水樹林』を発動させた。
地面から次々にしなった木が生え炎弾を葉と枝で包み込む。
この木は内部に水を大量に含んでおり、木の皮が破れると大量の水が溢れでる、そしてこの木の葉には衝撃を吸収する性質がある。
ある部族ではとても生活に重宝されているものだ。
俺は炎弾が木で食い止められているうちに上まで跳躍、スモッグ石を木で覆われていない上部の炎弾の中に投げ入れた。
炎弾は木々の隙間から爆発の合図のように赤く光り、とんでもない爆音と爆風を辺りに響き渡らせた。
しばらくすると風がやみ土煙が晴れる。
炎弾を包み込んでいた木々はこげながらも多少残っていた。
(大した生命力だな....さすが砂地の植物か....)
「大丈夫ですか!?怪我などされてませんか!?」
「大丈夫、大丈夫だから」
怪我がないか俺の体を手触りで確認し始め、服を脱がそうとしてくるエミリーに若干引きながらエミリーを引き離す。
「それなら良かったです、それにしてもやはりキリアさんは凄いですね」
「いや、エミリーの魔法の方が規格外だぞ?俺もまさかあそこまでしないといけないと思わなかったからな」
お互いに褒め合うようなことをして、俺は唯一気になった疑問を突きつけた。
「そういえばエミリー、今回は呪文唱えてないよな」
「あっ、そういえばそうですね」
「だったら別に唱える必要ないんじゃないのか?戦闘中であれば呪文を唱えればその分時間がかかり危険だ、省けるなら無い方がいいんだよカッコつけようの呪文なんて」
「カッコつけよう......酷い言いようですね」
「そりゃそうだろ?あんなもの......俺は一時期それが恥ずかしくて魔法を使わなかったくらいだぞ?」
まあ、昔の事だがあの時はとても魔法が嫌いだった。
他の人間は平然と言っているのに俺だけが恥ずかしくて使わないようにしていた時期があった。
まあ、あれも思春期という奴だろうか?.....
「そんなに気になりますかね?」
「俺は変わり者だったからな.....さて模擬戦してみようか」
懐かしい昔に想いを馳せ、すぐに意識を現在に帰還すると、俺は新たな訓練に入る事を決めた。
それは、簡易的な模擬戦だ。
いきなりの俺の申し出にエミリーは声をあげた。
「えっ!?早くないですか?」
「大丈夫だ俺はお前に一切攻撃をしない、一方的に魔法で攻撃してくれればいい、後これを飲みながらやってくれ」
そう言って地面に置いておいたアイテムポーチを投げ渡し、少し距離をとった。
「えっ?いやいやいや、どれだけの量の炎弾を放つ事になるか........」
完全に乗り気じゃないエミリーに。
俺はあま〜いあま〜い誘惑を誘った。
「もし俺に一発でも当てる事が出来たら今度はケーキなる甘いものを.......」
そこまで言いかけるととんでもない速度の炎弾が一発飛んできた。
俺は慌てて回避する、だが正直俺は結構びっくりしていた。
「ちッ」
エミリーの猫かぶりが消えた瞬間である。
甘味の魔力はすごいらしい。
「お前容赦ないな!」
俺はいきなりの攻撃に文句を口にしながら。
飛んでくる炎弾を避け続ける。
「くっ!なんで当たらないんですか!!」
エミリーの手から発生している魔法陣が消えそうになるとエミリーは魔力ポーションを手に取り口につける。
そして、空になったビンを投げ捨てた。
消えかけていた魔法陣の形が元に戻ると、また炎弾の数が増え始める。
「おい、ちゃんと狙えよ?」
飛んでくる炎弾をするするすると躱していくと。
「一個一個の炎弾を自分の意思で動かせ、精霊に頼りすぎだ、真っ直ぐとぶ弾なんて優しすぎるぞ」
「くっ!どうすれば......」
考えながら魔力回復ポーションを口にする。
俺はつっ立ちながら。
「ほらほらどうした?ケーキはいいのか?」
挑発するように言葉を口にすると、エミリーは少しむかっとしたのか両手を突き出し、魔力を練り始めた。
「これで!どうですか!!?」
10個ほどの炎弾で自分の意思で俺の周りを包囲させた。
甘味の力は偉大なようだ。
「くっ」
(流石にこれはやばいかな?だが甘いな)
コントロール出来ても威力が落ちてる、なら。
折角だ最近考えていた魔法を試す事にする。
付与魔法LV3ファイアーエンチャント、を俺の周りに付与した。
ファイアーエンチャントは炎耐性を付与する。
なら実際の炎に付与すればどうなるだろうか、簡単にいえば.....
「なッ!?」
消し去る事ができる。
燃えているものが、燃えない耐性を手に入れれば炎が消えるのは当然だろう。
「頑張れ、頑張れ」
俺は余裕の笑みを浮かべエミリーを真っ直ぐと見据えた、
「はぁ、はぁ、うっ!気持ち悪い....です」
「ポーション飲みすぎなんだよ」
気持ち悪そうにしているエミリーの背を俺はポンポンと叩く、するとさらに顔を青くさせた。
「それにしても諦めが悪いな」
「うう、だって.......」
目にほのかに涙を浮かべた。
今にも泣き出しそうなほど瞳をうるうるさせている。
「悪かった、悪かったから泣くな」
「.........本当に思ってるんですか?」
「ああ」
「だったらケーキ作って下さい」
「お前気持ち悪いんじゃないのかよ........」
いつも通りのエミリーに呆れて続きの言葉がでなかった、ただ苦笑いを浮かべただけ。
こんな風なエミリーの性格がどうしようもなく俺は好きだった。




