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復讐するため今日も生きていく  作者: ゆづにゃん
第六章 国ホープでのたわいもない日常
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第53話ミキの笑顔

連続投稿出来ました!

よくできたな、と自分でもびっくりしています。

ここはカトレア平原、そこはたちの悪い冒険者を皆殺しにした思い出深き場所だ。

実際思い出もクソもない、一瞬で終わった出来事だが、殺意を向けられ殺しあったのだ。

流石の俺も覚えている......少しだけ...

まあ、とにかく今でもあいつらを殺した事に後悔はない。


「ここら辺でいいな」


「はい、ここら辺でしたら、遠慮なく魔法をぶっ飛ばせます!」


今俺達はカトレア平原の果てに来ていた、エミリーのスキルや魔法を見てみやろうと思っていたのだが。

エミリーに聞いてみると、なんと精霊魔法が使えると言ってきたのだ。

精霊魔法を使う所など見られれば大惨事になる、それほどに珍しく希少な魔法なのだ。

そのためにわざわざカトレア平原まで馬車に乗ってきた。


精霊魔法:それは精霊と契約し魔法と似て非なる力を使う魔法だ。

エミリーは精霊と契約していないようだが、そこら中に飛んでいる微精霊に頼めばとんでもない威力の魔法を放つ事が出来る。

ある意味上級魔法に匹敵するだろう。


「では、始めます!【私は願う、炎よ、紅蓮の炎よ、我が前に顕現し敵を打ち倒せ、『炎精霊の激熱(フェアリーズフレア)』】!!」


エミリーの凛とした声が平原に響くと共にエミリーが前に手を突き出す。

すると手の平の先から古代文字が円状に刻まれたの赤き魔法陣が浮かび上がり。

次の瞬間、そこからとんでもない量の炎弾が飛び出した。


「ッ!....これはすごいな」


目の前にあった雑木林が一瞬で燃やされ、灰に変わる。

だがそれでも炎弾は終わることを知らず、しばらくの間地面の土を焦がし、岩を砕いた。


「これが、私の....ま..ほう.で..」


魔法が切れると、ふらつきながら一歩後ろに後ずさり、エミリーはよろりと尻餅をついた。


「おい、大丈夫か?」


肩を持ち荒れる息を整えさえながら、ゆっくりと平原に腰を着かせた。

風になびくエミリーの髪が鼻をくすぐり、花のような香りがする。

流石エルフ族といったところだろうか。


「すいません、この魔法...魔力消費量が....多くて一回で.魔力が尽きちゃうん..です、少し休めば....」


「無理するな、これを飲め」


エミリーに手渡したのは、紫色の飲みたくなくなるような液体が入った小瓶だ。

俺がアイテムポーチから取り出した、これは魔力回復ポーションだ、エミリーを俺の膝の上に倒し魔力回復ポーションを口につけさせる。


「慌てるな、ゆっくり飲め」


エミリーは俺の言葉を聞き、ポーションを見ると少し怪訝そうな、いやそうな顔をしたが、俺の顔を二度見した後、恐る恐る口をつけゆっくりと飲み干した。


「もう、大丈夫です」


全て飲みほした後、まずそうに顔をゆがめた後、だるさが消えたことを理解したのか寝転がる体をゆっくりと持ち上げ、草原に吹く風に煽られながら軽く伸びをし始めた。

その様子を草原に腰を下ろしていた俺は見ていたのだが、今冷静に考えるとおかしな事実が浮かんできた。


「なあ、聞いてもいいか?」


「何でしょう?」


「こんな力があったのにどうして捕まったんだ?これだけ力があれば奴隷商人ぐらい余裕だと思うんだが」


精霊魔法は、上級魔法を超えた、超級魔法と呼ばれるほどの異次元な強さを誇っている。

いくらエミリーが使いこなせていないからといっても、上級魔法の下位程度の強さはあるはずなのだ。

それだけの強さがあるエミリーが、どうして奴隷商人ごときに捕まるのだろうか。

そのことを聞くとエミリーは少し恥ずかしそうに頬をかいた。


「それは...今見せた通り魔力消費量が多く、一回放ったら魔力枯渇で倒れちゃって、そこをミキと一緒に捕まってしまい.......」


なるほど、どんなに強い力があろうと一回きりの魔法など意味がない。

流石に相手も馬鹿じゃない、魔力が切れた後を狙ってきたわけか。


「それにしてもなんでエルフと獣人が一緒に暮らしているんだ?」


「それは.......」


とても言いにくそうにして少し顔に影が曇る、これは失言だったか。

これがエミリーの本性に近づく何かであることは間違いない。


「悪い、不躾な事を聞いたな、忘れてくれ」


「待ってください、確かに今は話せませんが、いつか、必ず......」


その言葉には明確な意思がこもっていた、俺はそれに静かに頷くと。


「ああ、待ってるよ」


と言って笑いかけ、静かにエミリーの頭を撫でた。

しばらく撫でた後俺はおもむろに立ち上がり足を延ばし始めた。


「あの、ユウキさん何をしてるんですか?」


「ストレッチだ、エミリーもストレッチしとけよ」


「えっ?」


ストレッチという言葉を聞きエミリーから不思議そうに言葉が漏れた。

何故そんなことを、別に今からそんな動きをするわけでもないだろうに。


「えって、今から宿屋まで遠回りして走るぞ」


この人は何を言っているのだろう、本気でエミリーはそう思った。


「え!?宿屋までどれだけ距離があると思ってるんですか!?」


行きは馬車できた、それはエミリーが行きも帰りも、ではきついと考えたからだ

それに、それ程の距離はない、多分あっても10キロ程度だろうし。


「大丈夫、いける、いける」


「ユウキさんならいけるかもしれないですけど、まだ私13歳.....」


「なんだ、俺の一個下じゃないか」


「へっ!?一個下、ってことは14歳!!でも私達を買うお金はどうやって.........」


そんな事を気にしているエミリーに俺はにやりと笑い。


「企業秘密だ、じゃあ走るぞ、ちゃんとついてこいよ、倒れたら止まってやるから」


その言葉を言うと同時に俺は走り出した。

置いてかれると感じたのか後ろから慌てて走り出したエミリー。

今エミリーにはたった1歳の差が、とても深い谷のように感じていた。


           ♯


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ようやく、つきま、した」


カトレア平原から走り始めて、一時間くらいたっただろうか、ようやく宿屋に着くことができた。

ユウキは慣れているせいか、たいしてきつそうにしていなかったがエミリーは肩で息をして、玉のような汗を流していた。


「なかなか頑張ったな」


「凄いですね、ユウキ、さんは、よく息も、切らせず......」


スタミナが尽きていないのは小さい頃からよく走っていたのと、ステータスを魔物から奪ったおかげだろう。今では10000を超えたくらいはあるのではないだろうか。


「そのうち慣れるさ、それより頑張ったエミリーに良いものを食べさせてあげよう」


疲れた顔で不思議そうに首を傾げたエミリーに、俺は静かにほほ笑んだ。


「な、なんですか、これは!」


エミリーの座っている席の目の前にはかぐわしい匂いを放つ甘いものが。


「昔教えてもらったんだが、ホットケーキというものだ、ここにある明快樹の蜜をかけて食べるんだ」


この料理は昔勇者が俺に食べさせてくれた料理だ、あまりの美味しさに材料を聞き出し、うまく作れるように何度も作ったものである。

今では他にもケーキ、シュークリーム、などなど色々と作れるようになった。

今回は帰りに偶然ホットケーキの材料の魔物、明快樹が現れたため作ってみたわけだが、うまくできただろうか。

エミリーはナイフとフォークを使い一口サイズに切り分けると口に運んだ。

あまりの美味しさに目をパチクリさせている。

最初はゆっくりと食べていたが、美味しいと分かった途端すごい速度で食べ始めた。

完食し終えると、急に立ち上がり俺に詰め寄ってきた。


「このホットケーキとやらの作り方を!!」


「まあ、教えてやっても良いんだが、少し難しくてだな......」


その言葉を聞いてあからさまにしゅんとうつむいてしまう。


「分かった、これからも作ってあげるからそんな顔しないでくれ」


「ありがとうございます!」


笑顔で俺に抱きついてくる、まるで娘ができた気分だ。

もし俺があのまま生きていたらこんな可愛い娘や、息子が出来たのだろうか。

.....なんて、考えてしまうような気分に陥っていた。


「でも、これからもちゃんと走るんだぞ?」


「はい!分かりました!!だから...お代わりを......」


そう言いながら恥ずかしそうにお皿を差し出すエミリーを見て、ほっこりとしながらホットケーキをテーブルに差し出した。


            ♯


空は、赤で塗り潰したような夕焼け空。

時刻は四時を過ぎていたくらいだろうか。


「なあ、これはどういう事だ?」


「えーとですね、少し厳しくしすぎたと言いますか......」


そう言ってカノンは目をそらした。

宿屋の一階ホールにある、個人使用オーケーのキッチンで、ご褒美にエミリーにホットケーキを振舞っていると。

ドアの開く音がした、確認してみると帰ってきたのはカノン達だ。

だが、帰ってきた中、カノンに鍛えてもらっていたミキは一緒に行っていたリンの後ろから離れない。

その瞳はカノンをまっすぐと見据え、少し濡れていた。

さらの、どれだけ怖い目にあったのか微かに肩を揺らしている。

流石の俺もこんな事だとは知らない。

ともかく確認のため、ミキの前に座り込み目を合わせた。


「大丈夫か?」


「......カノン姉ちゃん...怖い...」


聞いてみると、微かに唇を揺らし、言葉を発した。


「何が怖かったんだ?」


「ご主人様の...話....何度も....」


「おい」


俺の的確なツッコミをされカノンは後ろを向いた。

何をやってるんだろうこいつは、俺が鍛えろと言ったのは忠誠心でも性格でもない、力的な意味だったのだが....

まあ、勘違いしたと言う事にしておこう。

するとまた、ミキが微かに唇を揺らし。


「逃げようにも....捕まって...拷問.」


「おい」


俺の視線をかわしてそっぽを向く。

勘違いもクソもないじゃないか、拷問してる時点でただムカついたから虐めたかっただけだろうが。

俺と視線を合わせないようにしているカノンに、俺はため息を吐きミキに近づいた。


「大丈夫だ、安心しろ」


「うわっ!?」


俺の顔を見た瞬間驚き後ろに一歩下がった。

カノンにどんな事を聞かされたんだろう?....もしあまりに変な事を伝えていたら、少し説教も致し方ないぞ。

けど、そんな事言えるほどミキの心は治っていない。

ひとまず、これ以上カノンに預けるのは危険だ。


「悪いけどリン、お前がミキを鍛えてくれるか?」


「ええっ!」


カノンが驚いているが、当然の決定だ。

こいつに預けたら何をしでかすかわからない。

そこの所、年配の魔王様は丁度いいといえる。


「わしはいいが?」


「それは良かった、このままカノンにあづけたらどんな事になるか分かったもんじゃないからな」


それにしてもカノンは何て拷問をしたのだろうか、あの元気なミキがこんな事になるとは........


「今日はもう休もうか、部屋を二つとってくる」


俺はミキの心傷を心配しながら一階の受付に向かった。




「ふぅ、疲れた」


俺はアイテムポーチを投げ捨て、ベッドに倒れこんだ。

その時忘れていたが、アイテムポーチには爆発物を入れていたので、下手をすれば爆発していたと、後で気づいて少しドキドキしていた。

ちなみに今俺がいるのはベットが2つある部屋で、右隣りに隣接している部屋はカノン達がいる、ベットが3っつある部屋だ。

当然、男女で分かれている。

だから当然ペアは....


「うううう〜」


ミキだ。

部屋にきてからすぐに布団にこもってしまった、こんなになるとは何をしたのやら。

にしても流石にカノンはやりすぎなような気がする、何をしたのか知らないが.......

まてよ?これ、うまく使えるのでは?


「なあミキ?」


声をかけるとビクッと震えうめき声がきえた、布団を少しだけめくると目には確実な警戒心が現れていた。


「大丈夫だ、俺は怖くない」


そう言って布団に手を突っ込みミキに近づき頭を撫でる。

誰もがホッとするように、まるでミキの父親のように接する。


「俺はお前を殴ったりいやな目に合わせるような人間じゃない落ち着け」


「うっ......」


ミキは逃げたいのに逃げられない、と言った感じだ。

やはりこの程度じゃあ、警戒心が解けるわけないか。


「お前は人間は酷い奴ばかりと言ったがリンの事はどう思った?」


「俺を、助けてくれた......庇ってくれたやさしい人間?.......」


「つまりそういう事だ、人間にも酷い奴とやさしい人間がいる、それとは反対にカノンみたいな怖いやつもいるってことだな」


俺はそう言って自嘲気味に苦笑する。


「簡単にいうとお前達を捕まえた人間のような奴らは悪い奴ら、リンみたい奴をいい奴ら、そういうのを理解できるようになれ、そうすればお前は強くなれる、分かったか?」


今までは俺に対して敵意むき出しだったが、俺の言葉が効いたのか、それともカノンのおかげで弱っていたからなのか分からないが初めて俺の言葉を真に受けてくれた。


「うん!俺頑張る!!」


「ああ、頑張れ、お姉ちゃんをちゃんと守れるようにな」


そう言って俺は頭を優しく撫でた。

とても気持ちよさそうにしているので寝るまでの少しの間、俺は頭を撫で続けた。

昔はこんな風に子供の頭を撫でていたっけ、少しだけミキの頭を撫でている時だけ、懐かしきあの日々が頭に浮かんでいた。


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