第52話話し合い
すいません、書くのを忘れてましたが、魔銀貨は一枚日本円で5万円です。
「ふぅ、これでどうでしょうか....」
奥から平民のようなまともな服を着たミキと、少し服が破れているおじさんが出てくる。
声音が少しぐたっとしていることから疲れている事すぐわかった、ミキが酷く反抗したのだろう。
「姉ちゃん!!」
「ミキ!!」
ミキがおじさんの手元から離れると2人でお互いの名前を呼び合い抱き合った。
普段からこれだけ仲がいいのか、それとも解放されたうれしさから少し気持ちが高ぶっているせいかもしれない。
ただ俺は冷めた目で見ていた。
「姉ちゃん!逃げよう!今なら逃げられるよ!!」
「ダメだよ、私達はもうあの人の物なんだから」
ミキの提案に否定を表すエミリー、案外聞き分けがいい子なのかもしれない。
まあ、そもそも俺から逃げることなんてできないけれど。
「そんな悲しいこと言わないでよ!!俺が今からこいつを殺してやる!!おりゃあぁぁあ!」
ミキは思い切り一歩踏み出すと殴りかかる体制をとり一気に俺に向けて駆け出すミキ。
俺はそこに足を突き出し、盛大に転ばせた。
「うっ!!」
流石に顔面からは痛かったのか顔をさすっている。
顔をさすり終え、俺の方をキッと睨むといきなりすぐに立ち上がり、そのまま飛びついてきた。
「があああぁぁぁぁ!!」
咆哮をあげ、牙をむき出しにすると俺の腕に牙を差し込んだ。
俺の手に深々と刺さり血が垂れる、どうだとばかりにミキはこちらにドヤ顔をしてきた。
「はぁ、もうそのままでいいから少し大人しくしててくれ、おじさん」
「は、はい、なんでしょうか、その子供を取りましょうか?」
「いやいい、それより奴隷の契約書は?」
「はい、こちらに」
俺はそれをまじまじと見ながら噛まれていない方の手でペンを手に取りさらさらさらと書いていく。
「はい、これが金額な」
俺はカウンターの上に、布袋から取り出した指定金額を置く。
その金額をしっかりと確認してから、受け取るともう返さないとばかりにささっと厳重な箱にしまった。
「えーと、魔銀貨15枚、銀貨8枚、銅貨4枚、ちょうどですね、まいどありがとうございました」
背中におじさんの声を聞きながら、大人しいエミリーと左手で手をつなぎ、右腕の間に暴れるミキを挟み込むと。
少し黄ばんだ暖簾をくぐり。
「また来るよ」
いつか来るであろう、ホープとの戦争を思い浮かべながら、おじさんににこりと微笑んだ。
♯
宿屋の下にある受付、食事処になっているホール、そこに俺はエミリーとミキを連れて一足先にきていた。
そこの予約してある部屋でエミリーとミキに説明しようとしていたのだが.......
「えーと、誤解だ」
「何がですか!!」
「こんな子供を買ってきおって!この、ロリコンが!!」
「確かに買ってきたけど、理由が.....」
俺は今、カノンとリンの前で正座させられていた。
なぜこんな事になったのかというと、エミリーとミキに詳しく情報を話そうと宿屋に向かうと偶然にもカノンとリンがいて問答無用で説明と言う名の説教にあっていた。
全く勘違いも甚だしい。
「なんで奴隷なんて買ってきたんですか、しかもあんな可愛い子を.......まさか!!」
エミリーの顔を見て何か変な事を想像したのか、カノンは顔を真っ赤にして身体をよじらせる。
「そう言うことですか....わかりました、ご主人様の気持ちは....だったらせめて私に声をかけてください、そうすればいつでもご主人様の期待にお応えして!!......」
「ちょっと待て、お前は何をいってるんだ、少し落ち着け」
ずいっと、少し膨らんだ胸部を見せつけるようにして、こちらに顔を近づけてくるカノンを宥めると。
ロリコンなどという変な称号をつけられないためにしっかりと説明をした。
てか、エミリーと俺は肉体年齢的には近いはずだから、ロリコンではない気がするが.....まあ、精神年齢を考えればロリコンか。
「この子達を買ったのは馬車のためだよ」
「馬車?かの」
「いちいち、場所によって乗り換えてたらめんどくさいだろ?だから騎乗スキルを持っている奴隷を雇ってきたんだ」
「だからってあんな可愛い子じゃなくても!!」
「まあ、そこはただ目に止まっただけなんだがな」
まだ何か言いたげなカノンは頬を膨らませている。
悪いけど流石にどうしてこの二人を買ってきたのかは言えない。
だって流石にそんなこと言ったら幻滅されるどころではないだろう。
「まあ理由はわかったのじゃ、じゃがこの子らをこれからどうする気じゃ?このまま旅に連れていく気か?」
「愛の教団までは連れてこうかとおもってる、それ以降は例の場所に」
「まあ、それならわしはいいかの」
リンの了承を得られたので、今度はカノンの方を向くと...
「カノン?.....」
無言、口を堅く結び窓の外を見て拗ねてしまっている。
これは完全にお怒りになっていらっしゃる、だがちょっとかわいいと感じてしまった。
「ごめんって、次からはカノンも連れていくからさ、な?」
「....わかりました、今回は許します、でも、頭撫でてください」
「えっなんで?」
俺の質問には全く答える気がないのか、理由などないのか無言で見つめられる。
もう完全に頭撫でられるのを待っている、そのねだる瞳に最後の最後に負けた。
「わかったよ、これでいいだろ?」
「えへへへぇ♪」
さっきの怒り顔など何処へやら、一気に満面の笑みに早変わりした。
しばらく撫でてやって、手を離すと顔をしゅんと悲し気に歪める。
また、撫でたくなる衝動に駆られるが、撫で出したら終わりそうにないので意地でもやめた。
もう、撫でてもらえないと流石にわかったのか、いつものカノンに早変わりした。
「さて!認めてあげます、けどまず自己紹介をしてください!」
「は、はい!私はエミリーと言います、見ての通りエルフ族です、得意なのは精霊魔法です!」
いきなりカノンに指で刺されテンパってしまったのかだいぶ片言だが、まだちゃんとしている。
問題なのはこっちだろう。
「なんだよ!お前ら人間の言うことなんか聞かないぞ!!」
瞳がとても殺意満々に輝いている。
その攻撃的な言葉がやばいと感じたのかエミリーが声を上げ叱りつけた。
「こらっ、ミキ!」
流石に姉の言うことには逆らえないのか、びくっと肩を揺らし体をすくめた。
「うう、だって姉ちゃん、こいつら人間だよ!!俺らを散々苦しめてきたんだよ!!」
「そんなの関係ないよ!自己紹介するだけなんだから!」
流石にエミリーの言葉は効いたらしく、渋々話し始める。
けどまあ、確かにミキの気持ちも分からないことはない。
ただ俺には関係がないというだけだ。
「俺は、獣人の銀狼族、得意なのは長剣、魔法は炎系ならできる......」
「ほうほう、名前はなんと言うのじゃ?」
「誰が人間に教えるか!!」
「人間じゃなければいいんですね」
「ああ、そうだ、ってお前獣人の女か?じゃあ俺に協力しろ!俺が剣さえ手に入れればこんな弱っちい男俺がすぐに......」
「すぐに?なんですか?」
ただ、淡々ととんでもない威圧の込められた言葉を放つカノンに、ミキは少し戸惑いながら。
「なんだよお前!俺がお前を助けてやるって言ってるんだぞ!お前もその男の奴隷だろ!!」
「ええ、ですが私は望んでご主人様の奴隷になったんです、身も心も全て捧げて」
身も心も捧げないでくれ、そう言うのは心に決めた相手に言って欲しい。
「それなのに逃がしてやる?あなた程度がご主人様を倒せるわけ..もがもが!?」
俺は後ろからカノンの口に手を回し、無理やり押さえつけた。
カノンは逆に嫌そうにせず、少し頬を染めていた。
なんかこいつ変な世界に目覚めてないか?....
「はいここまで、言い争いはやめよう、彼はミキだよろしくな」
無理やりその場を納め、ささっとカノンから手を放す。
そして最も伝えたいことを伝えた。
「取り敢えずミキとエミリーに言いたいんだが、故郷に返してやる」
「本当ですか!!」
「..........」
エミリーは嬉しそうに頬をほころばせ.....ているように見えた。
その本心には何かがあった...それだけがユウキは理解できた。
それに比べミキは素直に期待している。
「だが、その前にエミリーとミキは馬車を扱うスキルを持ってるだろ?それを使ってある場所まで送って欲しいんだ」
「分かりました、そこまでしっかりとお送りさせていただきます」
「それは良かった、それでだ、もう一つ提案なんだが強くなりたくないか?」
「強くですか?」
「俺はせっかくお前らを助けてもまた奴隷にされたら嫌なんだ、だからもう捕まらないように強くしてやろうと思ってな、別に嫌ならいいんだ」
別に無理やり強くしよう、だなんて思っていない。
ただせっかく助けて、また捕まったらこっちの後味が悪いだろう。
「それは、本当ですか?私は強くなれますか?友達をもう、失わずにすみますか?」
その瞳は先ほどのエミリーのものでははない、まるで人が変わったように瞳が汚れていた。
「ああ、もちろんだ、俺が絶対に強くしてやる、って事で一ヶ月程ここに滞在する事にしたから」
まあ、少しばかりの休憩も兼ねて一か月滞在をする。
流石に獣人の国で働き続きだったしな。
休む片手間にエミリー達を強くする。
「わしはいいがカノンは?」
「私も構いません、ですが、エミリーちゃんはやると言いましたけど、ミキ君は?」
「一緒にやろ?」
エミリーがミキにそう、頼むように口添えすると。
「俺は......」
少し悩むようにミキは歯噛みをし、顔をゆがめる。
このままでは断られるような気がした俺は。
「人間を殺すんじゃないのか?」
明確な目標を立ててやった。
人として成長するとき、殺意以上に素晴らしいものはない。
「.....分かった俺も姉ちゃんと一緒にやるよ」
俺の方をギロリと睨み、そう口にする。
その瞳はいつか殺してやると俺に訴えかけてきていた。
「俺はエミリーを担当するよ」
「では私がミキ君を立派に育ててあげましょう」
そう言ったカノンの顔は何が面白いのか満面の笑み浮かべ、ちろりと舌を出した。




