第51話戦闘用奴隷
食事処から出て、第二区の路地裏を抜けた先、暗黒街と呼ばれる闇市にきていた。
ここには多くの奴隷商人、他違法なものまで出回っている、市場だ。
だから闇市、ただ一つ言わせてもらうと結構危険である、この場所では死人が出て当たり前、窃盗、殺害、暴漢なんでも起こる。
絶対にカノンたちを近づかせたくないところの一つだ。
そんなところの路地裏に曲がり、迷ってしまいそうな所をただ記憶の思い出せる限り突き進んでいた。
「ん~なんとかごまかせたかな?」
正直なところさっきの『未来』の固有スキルには内心ビビっていた。
未来への布石、あいつら国の人間と将来関わるかと言えば、当然関わることになる、というか多分敵になるだろう。
何せこっちは国の勇者様御一行を皆殺しにする予定なのだから。
(それにしてもあいつらは....殺したくないな)
あの二人を見て思った率直な感想だ。
完全に自己的だが、あいつらはいい奴のような気がする。
もし俺がただの一般人なら命を助けてもらったってことだし、それに命を助けてあげた代わりに、金銭をたかるわけじゃなく逆に心配して飯を奢ってくれたわけだ。
(こういう奴がまだ残ってたのか......)
実はこの事に少し戸惑っていた。
俺は国民に殺されてから信頼など薄っぺらい戯言だと思っていた。
いくら人を助けても金さえあれば一瞬で寝返るレベルの薄さだと。
それを昔の俺は知らず、国民は知っていた、だから誰かがどんなに傷つこうが、他人、関係無い、で済ませ無視しているのだと。
昔の俺のお花畑な頭では、皆んな悔しいんだ、自分の力ではどうしようもなくて、助ける事が出来なくて.........なんて思っていた。
今思うと昔の俺をぶん殴ってやりたい。
この偽善者が!!と。
(本当に昔の俺は恥ずかしい......)
正義の味方ごっこをしている子供といっしょだ。
今すぐこの黒歴史を頭から消し去りたい。
恥ずかしい思い出に少々顔を赤らめていると、目的地に着いた。
俺はその店の暖簾をくぐり奥で煙管を加え口から煙を吐いている店主に声をかけた。
「すいません、奴隷を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「ん?....らっしゃい、何用の奴隷をお探しで?」
「馬車を使いこなせる、戦闘用を1人、他にも2、3人戦闘用が欲しい」
「どの程度の金で見繕えばいいですかい?」
「ざっとこれくらいで」
そう言って大きめの袋をドサっとカウンターに置いた。
「これは!?」
中に入っていたのは大量の魔銀貨。
店主もびっくりしたようで後ろに一歩退いた。
だが、すぐに体制を整えて絶対に買わせてみせる、と決意を込めた目で
「こちらへどうぞ!」
と丁重にもてなされた。
「戦闘用でしたら、こちらなどがお買い得となっております!!」
「私を買って!!たんとサービスするわ!!」
「俺は力に自信があるんだ!!」
ざっと牢屋を見て回っているが、どいつもこいつもアピールはするが目が死んでいる、これじゃあ、使い物にならない。
そんな奴隷達の声が響き渡る中静かな牢屋がひとつ。
そこの奥には、翡翠色の髪の毛をした少女が1人。口には布が詰め込まれている、その目はとても腹立たしい、昔の俺を見ているようだ、目には未だ希望が写っている。
「お前....まだ助かるなんて思ってるのか?」
つい俺は語りかけてしまった、それがなぜなのか俺は自分でも理解できない、つい反射的にしてしまったのだ。
すると、少し俺を睨みつけた後、挑発的な笑みを浮かべた。
その顔を見ただけで、俺は理解した、いやさせられたというべきか....次にこいつのとる行動が手に取るようにわかる。
だから俺はそれを確認するため店主に出すように促した。
「悪いけどそいつを牢屋から出してくれ」
「はい、わかりました!!」
おじさんにそう言うと慌てて牢屋から少女を出させる。
近くで見ると本当にきれいな少女だ。
だがボロボロな服と、手や足の傷が悲壮感を漂わせている。
「口の布を取ってくれないか」
「はい、ただいま!!」
おじさんが布を取ると、その少女は俺の目を真っ直ぐに見据えて、ニヤリと笑った。
そして、大きく口を開けて、勢いよくその歯を突き落としたのだ、自分の舌に。
「やると、思ったぞ」
「!??!?」
だが、少女の舌は切れていない、なぜなら、舌を噛み切る瞬間に少女の口に手を突っ込み自分の手を噛ませたのだから。
その俺の行動が異常者に見えたのか、目の前の少女は俺を困惑した表情で見つめていた。
「ああ!!すいません!!」
俺の手に刺さっている歯、そこからは血が垂れている、それを見たおじさんが慌てて頭を下げる。
だが俺はそんなことが気にならないほど、こいつの事に興味がわいた。
「なんで..私を生かす?」
まあ、実は分かっていたこいつが自殺する事が、昔の俺ならば奴隷を買うような下衆どもに散々嬲られるくらいなら責めてもの反抗として自ら死ぬ.....まあ、なんて言うか昔の俺と似ているのだ、それが腹立たしかった。
まだ、死ねる、反抗できる、と言った希望の目をしているのが、昔の俺の目をしているのが。
「それは、お前がもう俺の物だからだ....おじさん、こいつ買った!」
だからこそ気になった俺はこんな風に堕ちてしまったが、他にどのような結末があったのか。
俺のこのバッドエンドルート以外の、ハッピーで幸せ思考のルートはあったのか。
「わかりました!ですがそいつはエルフ族ですので結構値がはりますよ?」
「いくらでも出す、取り敢えずこの子にもういちど自殺防止の布を噛ませて置いて、上等な服を着せてもらえるか?」
「服はどれくらいの物を?」
「その子に選ばせてやってくれ、俺はそれまで他の奴隷を見ている」
「わかりました!出来次第すぐにお届けいたします!」
声を張り上げてエルフの少女を連れて行った。
その時エルフの少女が俺に希望のまなざしを向けていたことを、俺は気づいていたが、知らないふりをしていた。
(やっぱりわからない、どいつも同じような顔をしている)
一通り見て回ったのだがどいつもこいつもアピールするだけして目が死んでる、それをどうにかしてほしい、そうすれば少しは考えるのに。
「お待たせしました服を整えてきました、どうでしょうか」
「ありがとう、また買う時は声をかけるからもどっていいぞ」
「わかりました、これで買い物が終わりな場合は一度カウンターにお寄りください手続きがありますので」
「分かったありがとう.......さて、と」
そう口にして女の子の方に振り向く、すると体をビクッと震わせた。
昔の俺に似ていると言ってもまだ子供だ、流石に怖いのだろう人間が。
悲鳴を上げさせる為に鞭で叩かれたり、殴られたりしたのだろう。
子供の可愛い顔に痣ができている。
腕にも傷、痣が沢山あった。
俺は顔の痣に優しく手を触れさせる。
女の子は痛めつけられると思ったのだろう体が強張らせ、体を震わせ目を閉じている。
俺はその女の子に新作魔法、『治癒魔法』を使った、痣は綺麗に消え去り、女の子の顔をあったかい光が包み込んでいる。
ちなみに治癒魔法は回復魔法×付与魔法を4:6の割合で合成する事により出来上がったスキルだ。
女の子は俺に触られた場所に触れて驚愕の表情をしている。
俺はその女の子に目線を合わせて、とても安心するような笑顔で微笑みかけた。
「安心しろ、俺はお前の味方だ......いきなりこんな事言っても信じられないかもしれないが俺はお前を傷つけない、安心してくれ」
口内の布を取り外し、女の子の頭に手を置き優しく撫でる。
それだけで瞳が少し濡れていた。
「名前を聞いてもいいか?」
少しだけ目を細めてから一泊間を置いて教えてくれた。
「........エミ、リー」
「エミリー、そうか俺はキリアだ、これからよろしくな」
「よろしく、お願い...します」
今までのきつい鞭の後に飴をくらったせいで涙が堪えきれなかったのだろう、翡翠の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「泣いたっていいんだ、もう我慢しなくていい」
俺はそんなエミリーを、優しく抱き留めた。
その時の俺はどんな顔をしていただろうか....少なくともいい顔はしていなかっただろう。
エミリーの鳴き声が完全に消えたのを確認して、そっと肩をつかみ体から引きはがすと優しく問いかけた。
「なあ、エミリー?知り合いとかいるか?」
エミリーは目をこすり涙を拭き取ると。
「一人だけ、獣人の男の子で私の事をお姉ちゃんって呼んでくれて.....」
「その子の牢屋は?」
「あそこに....」
指をさしたところは、とても狭いところだった。
わざわざのぞき込まなければ見えないところ、そんなに嫌なものが....
「あんなところに......へぇ」
牢屋の前まで行き少年の顔を覗き見てみると、そちらは完全に人間不信とかしていた。
「エミリー姉ちゃん!!巫山戯るな人間!!エミリー姉ちゃんを奴隷にする気か!!」
獣人の少年は、牙をうならせ、そのやせ細った体で俺に必死に抵抗しようと牢屋から手を伸ばし。
その鋭い爪で、俺をひっかこうと必死だった。
「違うよミキ!私達をここから出してくれるんだよ」
「何が違うんだよ姉ちゃん!俺はもう騙されないぞ!!人間なんか全員クソだ!死ねばいいんだ!」
「そんなこと言っちゃダメだよ!少なくともこの人はいい人だよ!」
たったあれだけで随分信頼してくれたもんだ、最初は死のうとしてたくせに。
いや、ただの演技か?
まあ、疑っても仕方ない取り敢えずこいつも買わせていただこう。
「おじさん!こいつもよろしく頼む!」
声を張り上げると、焦りながら急いで此方に向かってきたおじさんの商売魂に感服する。
「はいわかりました、先程と同じように?」
「ああ、そうだ、俺たちはカウンターで待ってるから」
「わかりました!」
そう言っておじさんは牢屋から出たがらないミキを軽々と持ち上げて連れ去っていった、正直今の光景に俺は少しばかり唖然とした。




