第50話Aランク冒険者
馬車に体を揺られながら、窓から入る気持ちのいいそよ風がユウキの髪を揺らす。
たまにちらりと、外の木陰、風景を見ては手元の本に目を落とした。
そんな風にリラックスをしていた、ユウキの後ろの席ではリンとカノンが二人で仲良くおしゃべりをしている。
たまに自分の名前が聞こえるが気にすることもなく本に意識を向けていた。
「あの、ご主人様?」
「........ん、悪いなんか言ったか?」
本に集中し過ぎていたためよく声が聞こえなかった、唯一分かったのは自分の名前が呼ばれたということ。
クリムからもらったしおりを挟み本を閉じた。
「いえあの、この馬車どこに向かってるんですか?」
「ああ、話してなかったな、次に向かうのは愛の教団だ」
「愛の教団ですか?」
首を横にかしげ猫耳をせわしなく横に揺らしている、こんな風に仕草がいちいち可愛いのがカンに触る、少しドキッとするからやめてほしい。
「愛の教団の〜、わしはできる事なら行きたくないかの〜」
不満そうなリンはカノンの手をどかすと、無防備なその膝に頭を預けて、太ももに頬ずりを始めた。
こいついつかセクハラ罪で捕まればいいのに....
「リンちゃんはなんで行きたくないんですか?」
膝に頭を乗せているリンの頭を優しくなでながらそう問いかけると、苦い顔を浮かべる。
この見た感じだと、リンが子供にしか見えない、そしてカノンが母親、俺が....おじさんかな?
俺だけ年的に考えればそれが妥当なところだろう....俺が父親だなんてそんな高望みはしないぞ。
「いい加減そのちゃん付は辞めてくれんか....あの国はな気味が悪いんじゃよ」
「気味が悪い?ですか」
「まあ、言って見ればわかるさ、けどその前に一度ホープに寄ってから向かうからな」
そこでいろいろと、整えたいものもあるし、食料も装備も、ポーション類の補充もしておかないといけないだろう、ついでに日常品も。
「本当ですか、私少しよりたいところがあったんです」
「そうか、じゃあ一度ホープの宿屋に泊まって、次の日から愛の教団に向かおうか」
「分かりました」
「わかったのじゃ」
2人の了承の声を聴くと再び本に目を落とした。
「すいませんね旦那、これ以上近づくとあっしが人間に捕まってしまうもんで」
「いや、ここまで送ってくれただけでもありがたい」
「それはどうも、ではあっしはこれで」
馬車のおじさんは俺達を国の裏手に下ろすとそそくさと立ち去って行った。
俺は確実におじさんが立ち去って行ったのを確認してからリンに
「もう取っていいぞ」
と合図を送り、自分も白色の狼耳を外した。
「む、もういいのか?結構気にっとったんじゃが、これ」
そう言って頭の上の金色の垂れ下がった犬耳を外す。
「ん~」と何か悩んだ末、もう一度頭につけると、見せつけるようにリンが前に立ちふさがってきた。
「主様よ、本当にいいのか?取って、今取るとこれ以上可愛らしい獣耳付きリンが見れなくなるぞ」
「お前が獣耳つけてたいだけだろ、それに俺はお前が獣耳付けてようが、付けてまいがどっちでもいい」
本当に興味ないのだが....しつこく付きまとってくるリンがうざい、マジでうざい。
特にわざわざポーズをとってくる辺りが....
「主様よ、そこは、どっちも可愛いぜリン、というところじゃろ」
「誰が心にもない事を言うか」
「本当につれないの〜」
仕方ない、とばかりに犬耳を外すとアイテムポーチに突っ込みひとりでに歩いて行く。
全く勝手な奴だな、と心底思いながらも後ろからリンを追いかけるように、ホープ入り口付近まで歩いて行った。
ホープ南門前、その大きな扉をあきれ半分に見上げていた。
「でかいの〜」
リンのその呆れるような言葉を流しながら、俺は一人アイテムポーチを漁りはじめた。
「リンさんは初めてですか、ホープに来るのは」
「うむ、初めてじゃな、それにしても無駄にでかい扉じゃな....こんな事に金使うなら税金減らせ、と言われそうなもんじゃがの」
全くその通りです、すいません。
俺があの無駄にでかいとびら付けました。
過去の過ちが今になってユウキの胸を締め付ける。
もう恥ずかしくてたまらない、特にこの国はやばい、ユウキの建てたものがくっきりと残っている。
「どうしました?」
「いや、なんでもないぞ!」
少しだけ赤くなった顔をごまかすように顔を振ると、不思議そうにカノンが首をかしげていた。
「そうですか、なら別にいいのですが」
「それより、早く入らぬか?」
待ちきれない様子のリンはそわそわとしている、これだけ見ると本当に子供のようだ。
だが実際は何倍も年上なんだろう...合法ロリ婆、こんなこと口に出したらマジで殺されるだろうか。
「ああ、わかった、けどその前にカノンこれを」
そう言って赤色の革でできたリング状のものを手渡した。
何を隠そうこれは、何と俺が自作したものである。
スキル製作を使い材料を集めた後、頑張って徹夜で作り上げたのだ。
「わるいんだがそれを首に付けてくれ、じゃないと国の人間に捕まっちゃうから」
「そうでしたね、それじゃあ仕方ありません」
いつも通りの顔だが、何故か何かを諦めたような表情をしているように俺は感じた。
もしかしてだが俺に見て欲しくないような物を買いに行きたいのだろうか、ならば気を使ってあげるのが大人というものだろう.....
「今回は別行動にしよう、リンとカノン、俺は一人で行動するよ」
「分かりました」
そういっているカノンの声音はどことなくホッとしたような声で、少しだけ嬉しそうな表情をしていた。
ああ、本当にカノンの表情は見にくい、なんていうか自分の素を出さないようにしているように感じる、そのうち素で喋ってくれるようになるだろうか。
そんな心配いまする必要はない、軽く割り切ると、先ほどアイテムポーチから取り出しておいた袋を二つ取り出した。
「後これ、お小遣いな」
小さい小袋を二人に投げ渡す。
カノンは小袋を開けると目を丸くして、瞬かせた。
「これは....少し多すぎませんか?」
中には金貨、銀貨、銅貨、が偏りなく多量に入れられていた。
「これ、全部でどれくらい入ってるんですか?」
「30万くらいかな」
「30万ですか!?」
「お主いつの間にそんな稼いだんじゃ?」
リンの知る限り、そんなことをしている暇などなかったはずだが....そんな真摯な疑問にユウキは答えられなかった。
まさかリンのダンジョンの物を売っただなんて言えるわけがない、下手したら殺される。
「隠れて色々とやってたんだよ、それよりさっさと行こうぜ」
これ以上追及されるのは嫌だったのか、いい加減に返事を返すと早くいくようにせかしたてる。
「その隠れてが知りたいんじゃが....それもそうじゃな久しぶりの休みじゃ、今日はめいっぱい楽しむのじゃ!!」
「そうですね!たまには楽しみましょう!」
そう言って女子二人は楽しそうに国の中に入って行った。
俺はその後ろからゆっくりと、久しぶりに帰ってきた我が国を一歩一歩かみしめるように入って行った。
国の中に遅れて入っていくともうリンとカノンの姿は見えない。
俺の動きが遅かったのか、あの二人の動きが速かったのかは定かではないが....ただ連絡手段が消えた。
今更だが、宿屋の場所を伝えていなかった。
あ、いやリンには伝えた、ちゃんと聞いていたかどうかはわからないが、まあ大丈夫だろう。
「さて、俺も用事を済ませるとするか」
そう口にして、大通りを歩き出した。
一人、目的を果たすためぶらぶらと歩いていると、ホープのいろいろな物が目にとまる。
だが、どれも自分が王様だった時にあったものばかり、それに自分が作ったものも多々ある。
今の王は何をしているのだろうか、唯一変わったことと言えば......
「おい、そこのにいちゃんツラ貸せや」
治安が悪くなった事くらい。
「はぁー、全く手間掛けさせるなよ」
不良3人を路地裏の壁に埋めて、再び歩き出そうとして、ふと目に止まった。
(なんの騒ぎだ?)
少し後方、赤毛の短髪男と長髪の藍色をした男とがごてごての鎧を着飾り、大通りを歩いている。
その周りでは国民たちが盛大な拍手を送り、祝福をその二人に注いでいた。
「Aランク冒険者様万歳!!」
「流石ですレイ様、キミヲ様」
「流石、そんな事ないぜ?あの程度一捻りだったよな、キミヲ?」
赤毛男ことレイは調子にのっているような声音で隣の長髪キミヲに声をかける。
「あの程度造作もない」
「だよな!だからさ....こんなにお祝いみたいに盛り上げなくていいぞ?」
なんというか、申し訳なさそうなレイの声、だが近くにいた国民は否定を表すように首を横に振った。
「いえいえ、そう言うわけにもいきません、なにせ国が手を焼いていた公害な魔物を倒して下さったのですから」
その言葉を聞いて俺は合点がいった。
(ああ、そう言うことか....多分あの二人は国に忠誠を誓った専属の冒険者って所か)
Cランク冒険者以上の者は国の専属冒険者、もしくは兵隊になる事が出来、収入を得る事が出来る。
ただし国の危機には命をかけて戦うことを絶対とされるし、国の命令は絶対とされる。
悪い言い方をすれば国の犬だ。
その中でもAランク冒険者で国に忠誠を誓うのはとても珍しい事だ。
Aランク冒険者になれば貴族の立場が与えられ上の名前を頂く事が出来る、そしてAランク冒険者ともなれば相当な額を稼いでいるのだ、それなのにわざわざ国の為に尽くす奴などそうそういない。
そしてSランク以上の奴等は数が少ないうえ、だいたいが戦闘狂で国よりも戦いを求めダンジョンに潜ってしまい国などに見向きもしない。
その為、せっかく手に入れた貴重な人材を手放したくない国の人間は、民にとても素晴らしい人だ、最強の人だ、とか言ってこんなお祭り騒ぎみたいにしたのだろう。
そうすれば、いい気分な冒険者は辞める事も無いだろうから。
(本当に狡いて使いやがって.....)
やれやれ、とばかりに首を振ると。
「へ、死ねや!!」
さっき俺に叩き潰された不良が懐のナイフを取り出しこちらに向けて突っ込んできていた。
俺はそちらをちらりと横眼で見て、腕に強化魔法をかける。
完全にぶっ飛ばそうと、こちらに来るタイミングを計っていると。
「おい、お前」
その怒り声と共に手がこちらに真っすぐと伸びてきた。
その手はそのまま不良の首を鷲掴みにすると、嫌な音を響かせている。
「ッな、うが...!?」
「俺さ、人殺しが嫌いなんだよ、今逃げるなら見逃してやるからよ」
レイはそう言うと不良の首から手を離した。
レイの手から不良が滑り落ち
「ガ、ガハッ!ゲホッ!、ゲホッ!........お、覚えてろよ!!」
倒れていた二人を連れて走り去っていった。
(ありきたりな不良だなぁ)
そんな事を思いながらある意味感心していると....目の前から覗き込んできた優し気な笑顔が。
「大丈夫か?」
こちらに向けられてきた手に俺は苦笑いしながらもその手を取った。
あの後何故か助けられたあげく、昼飯を奢ってやると店に連れていかれた。
(めんどくさい、取り敢えず適当に猫被っとくか)
「先程はありがとうございました」
そう言ってペコリと頭を下げると、
「いや、いいよいいよ、俺達も助かったし、むしろありがとう、みたいな」
何故か逆に俺
「私何かしましたか?お礼を言われてしまった。
だが、やっぱりあの人だかり、というかパレードのようなものを鬱陶しいと感じているのだろう。
「お前のおかげであの鬱陶しい人溜まりから 抜け出せた」
「だよなー本当に助かったぜ」
レイはそう言うとキミヲの肩に手を置いた。
するとキミヲは鬱陶しそうにレイの手を払う。
それなのに全く反応しないのはいつも通りだからだろうか。
「そういえばお前名前は?」
「キリアと言います」
「そうか、キリアっていうのか、あ、俺はレイでこっちの目付きの悪い奴はキミヲだ」
「誰の目付きが悪いと?あ?」
「おいおい、怒んなよ」
蒼い瞳をぎらつかせながらキミヲはレイを睨みつけた。
そんなキミヲをどーどー、とばかりに宥めた。
「あ、そういえばキリアって冒険者なのか?」
「何でそう思うんですか?」
「いや、まあ、そのなんだ」
そう言ってこちらに口を近づけて、そっと耳打ちをしてきた。
「あんまり言っちゃいけない事なんだろうけど、俺の固有スキルに「運命」ってスキルがあるんだ。
そのスキルはいづれの未来の布石を知る事が出来るんだけどさ」
布石か、全く不思議なスキルだ。
未来の布石ねぇ...多少なりとも未来に干渉をするスキルか...
「そして今、これがいづれの布石だと出たんだよ」
「布石ですか、それは良い方にでましたか、それとも悪い方にでましたか?」
「それは....わからない」
あいまいに言葉を濁すように首を振ったレイ。
答えたくないのか、はたまた本当に何も知らないのか。
「そういえば答えてませんでしたね、私は冒険者です」
「やっぱり!!」
机の上に思い切り手を置きこちらに身を乗り出してきた、その瞳は爛々と輝いている。
「ですが最低ランクです」
そういうと少しだけ瞳の色が収まった、多分だが強い人が好きなのだろう。
だがさすがに戦ってやるわけにはいかないし、俺の強さを教えてあげるほど俺は優しくもない。
このまま逃げ切ってしまおう、そんな風に考えていた俺にレイが予想外な提案をしてきた。
「そうなのか....じゃあさ俺達と一緒にパーティー組まないか?」
「え?俺がですか」
「そうだ、はっきり言って俺達はお前によって何が起きるのかが怖い」
「だから、行動を一緒にしようって事だな!」
そういいながらキミヲの肩に手を置くと、イラつき交じりにキミヲがレイの手をはねのけた。
「だからいちいち肩に触れるな!」
「うおっ!怖っ!」
キミヲの声にいちいち大げさなリアクションをとるレイ。
それを見て俺はふっとほほ笑むと、頭を下げた。
「すいませんが私は一緒に行くわけにはいきません」
「そうか、じゃあせめてどこに住んでいるかだけでも......」
「すいません私旅をしているんです」
レイがとても残念そうな表情を浮かべると、キミヲがすっと目を細めた。
「そうか、じゃあもし近くに来たら声をかけてくれないか」
「分かりました、ではご飯ありがとうございました」
俺はにこやかにそう言って立ち去った、俺がこの国の敵であるということを悟られないように、まるで只の青年であるかのように。
キリアがいなくなってからも、店に残っていたレイは自分の髪の毛をくるくるといじりながら隣を向いた。
「なあ、キミヲどう思う?」
「何がだ?」
「さっきの子供だよ」
「.......どうだろうな、嘘をついているかもしれないし、本当の事を言っているかもしれない」
「お前のスキルで分かんないのか?」
キミヲのスキル『察眼』相手の行動を先読み、予測する。
そして相手に敵意があるかどうかを理解することができる。
「そこまではわからん、わかるのは殺気があるかないかだけだ、そう言えばお前の方の布石はどれだけ先だ?」
「結構先...だと思う」
「そうか、なら今のうちに鍛えておくか、それしか回避方法がないんだろう」
「回避方法というか今回は少しおかしい........」
「なにがだ?」
「いつもは回避方法が表示されたり、なにが起こるか少しは教えてくれるんだが、今回は一切それがない」
「おい、それは回避方法がないということか?」
最悪な想像が頭の中に浮かぶ、あの青年によって俺たちが殺される最悪な想像。
「わからない........まあ取り敢えず鍛えとこうぜ」
今いくらそんなことを考えていても仕方ない、レイの前向きな提案にうなずくと席を立った。
「そうだな」
そう言って鍛錬の為に店から出て行った。
もう二度と昔のような無力を、味あわないために。
ようやく50話達成です!!
読者の皆様いままで私の作品を読んでくださりありがとうございます!
これからも復讐するため今日も生きていく、を頑張って投稿していくのでどうかよろしくお願いします!




