第44話コロシアム
王決定戦初戦はバトルロイヤルだ。
Aブロック、Bブロックに分かれ最後まで立っていたやつの勝利とした。
そしてその、初戦開幕日にユウキはと言うと.......
「ふぁ~~」
と城の天辺の屋根に寝そべりあくびをしていた。
そこから見える景色、そこにはドーム状に作られた、コロシアムがある、そこから凄い歓声が聞こえてきた。
その歓声に呆れたように、鼻を鳴らした。
(全く物好きな奴らだな、勝つのは兄に決まってるのに)
兄にも先祖返りの勇者の力と伝説の武器があった。
勇者のスキル『奇盾』と勇者の残した伝説の聖剣『エクスカリバー』が。
奇盾の能力はなんとも言えない最悪な能力だ。
相手の攻撃無効化、攻撃反射だ。
盾に当たった攻撃を全て消し、斬撃に変えて反射する。
まさに勇者によく見るチートスキルだ。
そして『エクスカリバー』これの能力は、約束された勝利、全く意味がわからないだろうが、簡単に言うと全てが持ち主に味方する。
天候や、運さえも。
こんな奴にどう勝てばいいのだろうか。
国民ならば全員知っている、それなのに無謀にも挑もうと言うのだ。
「ま、勝手にすればいいけど」
吐き捨てるようにそう言ってその場に立ち上がる。
すると、聞き覚えのある幼い声がした。
「ユウキおじちゃんここにいたよ!」
「お、ルクスじゃないか、こんなとこまで来るとヒマリに怒られるぞ、あと俺はおじちゃんじゃねえ」
可愛らしく足に抱きついてくる子供に、ほっと胸があったかくなるのを感じる。
この黒色の髪の毛をした子供はルクス、ヒマリの義理の子供で、ヒマリが言うにはくるっ、とはねているくせ毛がチャームポイントらしい。
元々この子はドワーフの親の子供だったが、親が兄に暇潰しとして殺された為、ヒマリが面倒を見ている。
元々親二人はこの城のメイドと執事でヒマリと仲が良かった、その親友が殺されたと聞いた時ヒマリはショックで塞ぎこんでしまっていた。
それを心配した俺はせめてその二人の子供を生かしてもらえるように兄に何度も頭を下げて譲ってもらったのだ。
本当はクルスをドワーフの国に返すつもりだったがヒマリが自分が育てる、と言い出した。
実は返すことにはあまり俺も乗り気ではなかった、ドワーフの国には年齢差別と女差別がある。
成人の男が一番偉いそう言った国である。
簡単に表すと、こんな感じだ。
成人の男→子供(性別男)→成人女→子供(性別女)
なんとも差別の酷い国だった。
だから俺はそのヒマリの願いを了承したのだ。
「おじちゃん、何ぼうっとしてるのいつものやつやってよ」
「はいはい、分かったよ」
こちらに手を伸ばしてくるルクスの、手の脇に手を入れ抱き上げると。
「いくぞ!」
そう言ってそこから地面に向けてジャンプした。
高さ的には、結構な高さだ。
どうやらここから落ちるスリルがたまらなく好きなようで一度やってやると何度もやりたがるようになった。
地面に着地すると、下には呆れ顔のヒマリが待っていた。
「やはりここにいましたか」
「ママ!!」
そう言ってクルスは一目散にヒマリの足に抱きついた。
「全く、調子のいい子ですね、それよりユウキ様、私何度も言いましたよね。あんまり変なこと教えないでくださいって」
クルスの頭を撫でながら、ヒマリは困ったようにユウキを見る。
「すまん」
俺は頭を撫でながら、謝罪の言葉を口にすると。
面白そうにクルスは笑った。
「おじちゃんママに怒られた!」
「こらっ、クルスもですよ」
その声を聞くと「きゃ〜」とクルスは楽しげに逃げ出した。
「本当に困った子ですね」
その様子を見ていたヒマリは腰に手を当て、ため息をついた。
「あ、そうでしたユウキ様にお願いがあるのですが」
「ん?なんだ?」
「しばらくこの子と遊んで上げて欲しいのです」
目で指し示したのはボールで可愛らしく遊んでいるクルス。
正直遊んであげたい。
「別にいいけどヒマリは?」
「実はハヤト様に呼ばれていて」
「..........行かない方がいい」
少し間を開けたあと俺はそう口にした。
俺は何度もハヤトに呼ばれて酷い目にあっている奴を見ている。
行っていいことなんて何も無い。
「大丈夫ですから、ほら離してください」
俺はとっさにヒマリの服の裾を掴んでいたらしい。
ヒマリはまるで子供を宥めるような声を出して俺を落ち着かせて、手を離させた。
「安心して待っていてください」
最後にそう言って行ってしまった。
俺はこの時ヒマリなら大丈夫だ、そう思ってしまったのだ。
本当はこの時に全力でヒマリを止めなくてはいけなかったのに。
決勝戦開始日。
結局あの後ヒマリは戻ってこなかった。
俺はクルスをメイドに預け、面倒な式殿が終わったあたりにコロシアムに向かった、愛剣を手にして。
コロシアムにつくと、そこには大勢の客が集まり、賭け事をする声などで大いに盛り上がっていた。
その中に城に仕えているメイド達が、まるで俺を逃さないかのように立ち塞がっていた。
「お待ちしておりました、ユウキ様こちらでございます」
「ああ、ありがとう」
俺は執事が案内してくれた控え室に入るとそこには、3人の人達がいた。
一人は拳法か、拳には包帯を巻いている、二人目は魔法使いだろう、高価な杖を手にしていた。
そして最後、三人目が
「よお、待ってたぞ」
ニヤニヤと笑い、鎧に身を包んだ兄だった。
「ヒマリをどうした」
憤怒のままに兄を睨みつける。
その怒りの表情を見た兄はせせら笑った。
「なんだ?怒ってんのか?」
「ヒマリを返せ」
そう言って胸ぐらをつか見上げる。
もうこのまま首を絞め落としてしまいたい。
だが、それでも兄の顔から笑みが消えることはなかった。
「ああ、別にいいぜ?だが、条件がある、ちゃんと俺と戦え、俺と戦う前にわざと負けようとしたら......」
そこまでいって俺の手を軽くほどくと耳元に口を近づけて
「殺すから」
そう囁いた。
兄はそこまで言うと
「じゃ、せいぜい頑張れよ」
と言って、第1試合の始まりの鐘の音と共に控室から立ち去って行った。
コロシアム第一試合ハヤトVS拳法か
ハヤトによる瞬殺で戦いは終わった。
そして今コロシアム第ニ試合が始まるところだった。
俺が試合場の真ん中に立つと、試合開始のゴングが鳴り響く。
俺は相手の魔法使いの方に軽く喋りかけていた。
「棄権してくれませんか?」
その言葉に、戯け笑うようにして女の人は否定の言葉を口にする。
「ごめんなさい、あいにく私王様の席、いや王女の席が欲しいのよ」
そんな風に言はれても、俺はあの兄以外に危害を加えるつもりはない。
だから、どうにかして棄権してもらはないと。
「あなたは魔法使いですよね?」
「そうよ」
「どれ程の魔法を使えますか?」
「爆炎魔法LV1まで使えるわ」
爆炎魔法.....その程度なら実力差を理解してもらえるかもしれないな。
「それはすごいですね、ですがその魔法でこれに勝てますか?」
そう言ってユウキが『七聖剣』第1の剣『爆聖剣』を愛剣にまとわせる。
すると、愛剣は紅く光り輝き始めた。
俺はその剣をかるくふるうと俺の後ろで火柱による爆煙がまった。
「なっ!?なによそれ!!」
「どうですか?勝てますか?」
その言葉に少し考え込むそぶりをして、踵を返すと。
「無理ね、今回は諦めるわ」
すたすたと歩き控え室に戻って行った。
この時ユウキは正直ホッとしていた。
(物分かりがいい人でよかった)
できる事なら無容易に人を傷つけるのしたくなかったから。
コロシアムの玉座にある席、そこで兄は怒鳴りつけていた。
「な、なんだよ!あの力!!」
ハヤトはユウキの見たこともない力を見て、おののきふためいていた。
「ふざけるなよ、ユウキごときがあんな力を持っていいわけないだろうが!.........」
自分以上の力を持つかもしれない者を目の当たりにした悔しさに拳を力強くにぎった。
「見とけよユウキ、調子にのるのも今の内だ!.....」
今からユウキの悔しさに、自分の愚かさに顔を歪めることを想像して、ハヤトの顔から笑みがこぼれた。




