第43話父親の死
気づいている方も多いと思いますが名前を変更しました。
粉雪→東雲 椛
人間の国ホープそこは今、とても静かな空気が包み込んでいた。
その理由は第47代目国王が死んだため、そして今日はその葬式。
この時の第一王子ハヤトは涙を流し、第二王子ユウキは国の者たちと同じようにただじっと虚ろな目で父親の棺を見ていた。
これは、生前のユウキが13際のころの話だ。
葬式が終わった次の日、城は異様な静けさだった。
本当はすぐにでも次の王様を決めるため、バタバタするのが普通なのだが、少しもめているのだろう。
何せこのままいけばハヤトが王様になるのだから。
前の王様、ユウキの父親はとても無慈悲で厳格で頑固な王様だった。
いい王様とはいいがたかった、この国ホープのためになるなら躊躇うことなくほかの国に戦争を吹っ掛け、利益がないならば女、子供であろうと殺した。
そしてユウキはこの父親のことが大嫌いだった。
ユウキは今も嫌いになったあの出来事を覚えている。
ユウキが5歳程の時だ、一歳年上の兄と一緒に地下施設に連れていかれた。
そこで見せられたのは奴隷を、人を殺す瞬間だ。
それを父親はリアルタイムで俺たちの目の前で実演して見せた。
奴隷の返り血をたっぷりと浴びて扉から出てくると、俺たちの前にしゃがみこんだ。
そしてナイフを俺達の手につかませる。
「お前たちも同じことをやってみろ」
この人は何を言っているのだろう、本気でそう思った。
そんなことできない、そういう前に無理矢理蹴とばされて地下施設の中に入れられてしまった。
蹴られたところを少し痛そうにしながら顔を起き上がらせるとそこには同い年くらいの少女がいた。
その少女は手と足を動かないようにひもで縛られていて口はテープで止められていた、そして涙を流していた。
殺せるわけがない、そう思った。
無理だとばかりに、手からナイフが零れ落ちる。
ユウキはゆっくりと助けを求めるように兄の方を見ると、そこには血まみれの兄がいた。
兄は殺したのだ、奴隷を。
兄はちまみれの身体で父親のところに向かいほめてもらっていた。
兄を見る父親の目線がユウキの方に向く、その目線が痛かった。
兄の狂気の目線が痛かった。
俺はその二人の視線を背中に受けながら呆然と立ち尽くした。
そしてかすかに唇が動き言葉が漏れる。
「無理.....です、僕には.....」
その言葉を聞くと父親は興味が無いとばかりに踵を返し、兄を連れて施設から出て言った。
この時だ、この時から俺は父親が嫌いになった、いや、人間として見れなくなった。
そして父親も俺の事に興味が無くなったのだろう、兄ばかりを甘やかせ、力を与え、自分の思考を兄に植え込んだ。
自分以外は全て道具という思考を.....
それからだ、それから兄は変わってしまった。
自分以外には何をしてもいい、その思考の元に行動した。
そんな身勝手な王子が王様になろうというのだ、揉めない方がおかしいというものだ。
そしてその揉めているのが、ハヤトを王様にしろ、という人達とユウキを王様にしろと言う人達だ。
そして今ユウキとハヤトは会議室に呼ばれていた。
「どうしたんだ、何故俺がここに呼ばれた」
兄がめんどくさそうに頭を掻きながら口を開く。
「俺はこれから王様になった時の予定について考えているんだ」
「実はその事なんですが.....」
兄の側近が、言いづらそうに口を挟む。
それを察した父親の参謀であった男が前に出て代わりに内容を伝えた。
「第1王子ハヤト様、実はあなた方の父上は最後にある遺書を残しておりまして、その話をしようと」
そう言って懐から一枚の紙を取り出した。
「ここで、読ませていただいてもよろしいでしょうか」
「読んでみろ」
ハヤトの言葉を聞いてからしっかりと丁寧に遺書を読み上げた。
『これを読まれている時、私はもうこの世にはいない事だろう、私が死んだ事で次の王を決める事に揉めているだろう、だから私が次の王を決める為の案を出させてもらう。
王とは、民と国を守る為に戦う力が必要だ、その力を持つ者を王としろ、血筋など関係ない!強き者を王として迎え入れるのだ!ここに王決定戦の開幕を宣言する!!』
遺書の言葉を聞いた、上級貴族達は揉め始める。
そんな中兄一人だけはいやらし気に笑っていた。
自分の部屋のイスにすわり、背もたれに体重をかける。
けだるそうに少し上を見ると、そこには王決定戦の張り紙が貼ってあった。
それを見て思わず言葉が口から漏れでてしまった。
「全く勝手だよなぁ」
「何がですか?ユウキ様」
そう言って後ろで可愛らしく首を傾げているのは同い年の少女で、メイド服がとても似合っている。
彼女の名前はヒマリ、俺の専属メイドだ。
出会ったのは5歳の頃、彼女は元々奴隷だった。
ここまで言えば分かるだろう彼女は俺が殺す事の出来なかった少女だ。
あの後俺が頼み込んで生かしてもらえることができたのだ、ユウキのメイドとなる条件付きで。
何故俺のメイドにすることが条件だったのか理解できなかったが、生かしてもらえるのならと、その条件を飲んだのだ。
「何がって、父さんのことだよ」
「ユウキ様のお父上が何か?」
「変な遺書残してくれたせいでめんどくさいことになった」
「まあまあ、お父上様なりに心配しての行動だったのかもしれませんよ?」
「それはないよ、それに俺的に言わせてもらうと、死んでまで出しゃばらないでほしいってのが本音かな」
俺のその言葉にヒマリは軽く苦笑する。
確かに嫌っていることは知っていたが、この大会を開くこと自体が優しさに見えるのは私だけなのだろうか。
だってハヤトを王様にしたいのなら遺書なんて残さなければいい、なのにわざわざ残した、それはユウキさんにもチャンスを与えてくれているのではないか。
「そう言えばどうするんですか?大会出るんですか?」
「いや、棄権しようかと思って」
「え!?なんでですか!?」
それは父上のご好意を無駄にするということ同義だ。
だがそんなことを言っても嫌っている御父上の好意を素直に受け取るとは思えない。
「だって俺王様とか興味ないしな」
それにこの人は、上の立場というものを嫌っている。
どんな人にも平等に接してしまうのだ。
それは確かにいいところではあるのだが、威厳というものが皆無の王になるだろう、それだと自分勝手な行動を起こすものも増えてくる。
それが自分でもわかっているからこその辞退だろう。
「でもせっかくそれだけ強い力があるのに.....」
ユウキにはある力があった、『七聖剣』第8代目の勇者の力だ。
王族は魔王を殺した者と結婚することになっている。
それにはある理由がある、勇者の力を王族が取り入れ強い基礎能力を手に入れるためだ。
そして、まれにだが先祖返りという現象が起こる。
過去の勇者の持っていた固有スキルを手に入れることができるというものだ。
その中でも最も強いといわれているスキルをユウキは手に入れていた。
「別にいいんだよ、王様は兄がやればいい」
「そうですか、ユウキ様がいいならいいんですが」
いくら私がユウキ様に王様になってほしいと願ったところで、私の中ではこの人の気持ちが一番大切だ。
掃除をしながら、主へ決定をゆだねていると。
「さて、棄権しに行きますか」
「何言ってんだお前」
重い腰を上げると、そこにはいつから居たのか半開きの扉には兄が佇んでいた。
「お前が王決定戦に出ないなんて許さねえぞ?お前は公衆の面前で俺にボコられるって運命があるんだからよぉ、ほら俺は優しいからお前の分の参加証もとってきてやったからな」
口元を歪め狂気じみた顔で、ニヤリとほくそ笑むと無造作に紙を投げ捨てる。
その余裕はどこから生まれるのか.....それもすべてあの父親の育て方の問題だ。
「まあ、せいぜい観客を盛り上げてくれや」
こちらの言葉など一切聞く耳も持たず、ポケットに手を突っ込みながら片手でひらひらと手を振り、部屋を出て行った。
こう勝手な行動ばかり、すべては自分中心だと勘違いをしているのだろう、そして自分の弟のことも道具としか考えていない、どうせ今回の王決定戦だって兄の力の誇示を目的としたことだろう。
兄の自分勝手な行動に口からため息が漏れ出る。
「どうしますかこれ」
ヒマリが地面に落ちている参加証を拾い上げ、掃除用具を片手にまじまじと見つめていた。
「少し貸してくれ、.....これ、特殊参加証じゃないか」
皮の紙で作られた豪華な参加証、さらには長ったらしい文章の皿にした王家の刻印が施されている。
この刻印が指し示すのは王家の血筋の者の優遇措置。
「特殊参加証?」
「最初の戦いを無視して準決勝から参加できるんだ」
そんな措置をするのは、王家の恥を作らないため。
王族であるユウキとハヤトがまんがいちにも初戦敗退などすれば、王家としての名に傷がつく、別に俺は王家なんか傷がつけまくればいいと感じているが.....
流石の兄も王家の恥をつけることはためらったようだ。
「そうなんですか、それでどうしますか?」
「そうだなぁ、適当に負けることにするよ、兄にあたる前にさ」
正直怠いし、わざわざあんな兄のために戦ってやるほど俺はお人よしではない。
当たる前に適当なところで棄権すればいいのだ、最悪の場合はバックレればいい。
こんな風に甘く、この時の俺は考えていた......
その考えをユウキの部屋の外ではハヤトが帰ったふりをして盗み聞きをしていた。
「俺と当たる前に負けられると困るんだよ.....手を打っておくか」
強烈な悪意を放っているその瞳はもう兄とは呼べない、何か―
「ふふふふふ!ははははは!」
マントを翻し城の中に消えていく兄、そこからはただ悪意のある笑い声だけが響いていた。




