第42話デート
カノンを後ろに店に入ったカフェはとても雰囲気が良かった。
壁は木材で重点的に作られ、絵画や鉢植えのなどが所々に置かれている、そんな風に凄く質素でいい感じを醸し出していたというのに、天井には全く質素じゃないシャンデリアがつけられていてすべてをぶち壊していた。
「いらっしゃいませって、あれ?キリアさんじゃないですか」
なんでシャンデリアなんかつけたんだろう、そんな風に見上げていると、店員に挨拶をされた。
上に向いていた顔を正面に向けると、目の前にいたのは店員服姿の少年だった。
「お前ミトか?」
「お久しぶりです」
こいつはミト、獣人の国解放群のリーダ。
獣人の国復興にとても協力してくれており、手伝いに行くとよく合うのだ。
最近はあまり会わなかったがまさか店の手伝いに回されていたとは
「おひとり様ですか?」
「いや二人だ」
そう言って後ろにいるカノンを見せる。
すると、ミトはとたんに驚いた表情をして肩に手を回してきた。
「まさかの彼女っすか!?いいっすねー、あんな可愛い彼女がいて!!」
鋭く口を尖らせ耳元で怒鳴る。
少し耳がぽー、としてきた。
「なんでお前は少し怒ってるんだよ」
「別に?先越されたなんて思ってないですからね?」
本心が丸出しで拗ねたように、そっぽ向いてしまった。
「そもそも彼女じゃないからな?」
「そうなんすか?だったら俺がもらってもいいですか?」
変な方を向いた顔をすぐに戻すと、期待を込めた眼差しでこちらをじっと見つめて来た。
俺はミトのその言葉のいい方に少しムッと、顔を不満げに歪めた。
「おい、カノンは物じゃないぞ」
「まあまあ、そんなことで怒らないでくださいよ、取り敢えず一緒に御飯食べれて、お知り合いになれればいいですから、あとご飯俺がおごりますよ」
絶対に逃がさないという執念が感じられるミトの迫力に、少しだけ後ずさる。
まあ、確かに今手持ちの金が少ないのも事実。
「まあ、それならいいか?」
キリアの了承に首を縦にブンブンと降ると。
「ほら早くいきましょう、カノンさんも」
そう言って俺とカノンの手を取り引っ張って行った、その時ユウキはふとあることを疑問に思った。
(ん?カノンさん?.....なんでミトが名前を知ってるんだ?)
少し気になったが、結局気にすることもなく席に着いた。
「それでさ、バルザさんに凄い怒られちゃってー」
席に着き注文を終えると、ミトが必死にカノンを口説こうとしていた。
「は、はあ」
俺の隣でカノンにしゃべり続けるミト、あきれた様子のカノンはただ、うなづいているだけだった。
奥側の席では、変装しているクリムとミナが席に着きじっとカノンたちの様子を覗き見ていた。
その様はただの変態にしか見えていない。
「なんですかあの人?」
顔に影がかかり今にも呪い殺しそうな瞳でミトを見つめている妻。
その様子を夫であるクリムはなんとも言えない表情で見ていた。
「あれはミトですね」
「ミトさん、ですか、よく覚えました、カノンさんの恋を邪魔する敵として」
ずっと待っていたのかナイフを取り出しうっとりとその切れ味を眺めている。
サイコパスにも程がある、てかそのナイフで何をする気なんだ。
「何怖い覚え方してるんだ」
「そんなことより何とかしないと......」
うーん、と頭を悩ませるミナ。
しばらく悩むと思いついたとばかりに今手にしたナイフを構えた。
「このナイフを投げて気絶させれば......」
「ちょっと待て、そんなことしたら死んじゃうから、おい、実行に移そうとするな、私が何とかしてくるから!」
そう言って仕方ないとばかりに席から思い腰を上げた。
「それでさ、そのあとにクリムさんから、.....ん?あんたなんか用か?」
ミトが鬱陶しい熱弁をしていると、その席の前でじっとこちらを見ている老人が目に入った。
目の前にいるのは少し年をとったお爺さんらしい人。
(なんだろ?....その割にはガタイがいいな)
バルザから教えてもらった相手の強さやステータスを肉体を見て予測する技術、バルザ程ではないが多少は使える。
少し怪しげな目でキリアが老人を見ていると、誤魔化すように老人は咳を吐いた。
「ゴホンッ....悪いんじゃが、あんた店の人じゃろ?実はトイレが詰まってしまって、どうにかしてほしいのじゃ」
「仕方ないなぁ。カノンさんすこし待っててください」
そう言って老人に連れられトイレに入っていく。
中に入るとミトはトイレを覗くが特に何も詰まってもいない、むしろ洗浄したばかりでピカピカだ。
「嘘つかないでくださいよ、おじさん、今俺大事な......イッ!?」
カノンとの時間を邪魔されて少しイラつき交じりでそう言うと、頭をぶったたかれた。
鋭い音が辺りに響く。
「誰がおじさんだ」
そう言ってヅラとメガネを外すと、そこにいたのは若さあふれる鬼畜な兵士、クリムだった。
痛みに頭を押さえながらミトはクリムの顔を見ておどろきに顔が染まる。
「え、ええ!?クリムさん!?なんでここに!?」
「それはこっちのセリフだ、お前が何でここにいるんだ」
めんどくさそうで嫌な顔を見せるクリムは眉を潜める。
「あれ?クリムさん、いつもの敬語は?」
「今は仕事中じゃないからな、そんなことはどうでもいい、それよりお前がなぜここにいる」
クリムがそう聞くとミトが自慢そうにしゃべりだす。
「実は俺いま、デート中なんですよ」
「誰とだ?」
「カノンちゃんです」
自慢げに言っているがすぐに嘘だとわかる、何せカノンはキリアの事が好きなのだから。
「お前とじゃないからな.....ふぅ、取り敢えずお前はこれをかぶれ」
そう言って先程までクリムがつけていた、変身魔道具を投げ渡す。
「これは?」
「この変装道具を使ってあの二人を尾行するんだ」
その言葉にミトは嫌そうに手を振り顔を歪めた。
「いやっすよ、せっかくのデートを台無しにするなんて」
「お前のせいでそのデートが台無しになってるんだよ!」
「?」
クリムの言葉をよく理解できていないため、ただ首をかしげるミト。
ただわかるのはクリムがとてもめんどくさいことをさせられていて気が立っているという事。
「取り敢えず反対側の席に行くぞ、そこで説明してやるから」
「だから嫌ですって、聞いてるんです....むぐっ!?」
「うるさい」
喚くミトの頭に無理やり帽子をかぶせると、首を掴みそのまま席まで引っ張って行った。
「ええええええ!?そうなんですか!?」
「しー、声が大きいわよ」
カノンがキリアの事が好きで、いま頑張って落とそうとしている事、その協力をしてあげている事。
ミトは驚いていた、クリムがそんなことに協力するような奴だった事に。
「気づかれたらどうするのよ」
そう少し迷惑そうな声を出す美人のお姉さんがまさか、なんと頭のお堅いクリムさんの妻だというのだから、驚きだ。
妻のミナさんの問い詰める言葉にミトは頭を下げる。
「す、すいません、それよりも本当にカノンちゃんは、キリアのことが好きなんですか?」
確かにそう思っても不思議はないだろう、何せカノンは美人で可愛い、スタイルもいい。
それに比べてキリアは普通だ、顔もスタイルも、カノンみたいな美人がキリアのような普通の人を好きになるだろうか?
ふつうあり得ない、カノンならもっとイケメンの男や財力がある男をものにできるだろう。
だから聞いているのだろう、本当にそうなのかと。
「確かに私もそう思うわよ、でもあの子の思いは本物だったわよ」
その言葉を半信半疑に思いながら、キリアの座る席に目を向けた。
飯はとっくに届いたが、先に食べているのも忍びないのでミトが帰ってくるのを待っていた。
「遅いなミトのやつ、先食べてるか」
あまりの遅さに結局待ちきれず、先に食べていることにした。
「そうですね!」
何故かカノンがうれしそうな声を出すが気にせずに、「いただきます」と声に出し、机の上に出されている魚に手を付けた。
ご飯を食べているユウキを見ながらカノンは上目遣いで機会をうかがっていた。
ミナに教えてもらったご飯を食べるときに相手をメロメロにする方法、あーんを実行するために。
これをやるときに大事なのは強引さだ、どれだけ積極的に自分のペースに持ち込めるか。
これをうまくやらないと、相手が恥ずかしがって失敗に終わる。
失敗だけは避けようとタイミングを見計らっているのだ。
じーっとユウキを見てタイミングを見計らっていると。
「これ食べたいのか?」
食べ物をねだろうとしていると勘違いされてしまった。
「ち、違いますよ」
否定したがそれを遠慮しているととられてしまったようだ、
「いいからはい、口開けろ」
「え.....あ、はい」
つい口を開けてしまい、逆あーんをされてしまった。
(や、やばい、嬉しすぎて心臓がぁ....)
カノンは俯くと自分の胸に手を当てる。
もう爆発しそうなくらいドクンドクンと鳴り響いていた。
まずい、このままでは私が逆にドキドキさせられて終わる、そう感じたカノンは負けじと自分のオムレツを一口サイズに切り取り。
「お返しにどうぞ、あーんしてください」
スプーンですくうと、してやったりと少しほくそ笑んだ、が。
「別に俺はいらないんだけど、まいいか、あーん」
少し恥ずかしそうにしながらも口を開け、スプーンに食べついた。
「うん、これも美味しい.....どうかしたか?」
「い、いえ、なんでも」
カノンの頬が紅く染まっていて、心臓がばくばくな事をユウキは全く気づきもしない。
「くー!これじゃあ効力が薄れちゃうわ」
悔しげにそうつぶやくミナ。
この技は本来自分からやることによって相手に気があるのでは?と思わせドキドキさせるのが正しいやり方だ、だが相手に先にあーんをされてしまった後にあーんをしてもお返しとしかとられない場合がほとんどだ。
これでは、あーんにしかドキドキせず気があると思わせることができないのだ。
「やるわね、キリアさん」
何故か少し褒めているかのような口調だ。
(こんなことで褒められても絶対キリアさんうれしくないだろ)
そんなミナにクリムは内心突っ込みを入れていた。
その隣ではミトが絶望に染まったかのような声を喉から絞り出していた。
「嘘、だろ、本当に好きだったのかよ、こんなことならファンクラブになんかはいらなければ.....」
そう小さくぶつぶつと言っているのをクリムは聞き逃さなかった。
「それ、どういうことですか?まさか.....」
その言葉にはっとしたミトは慌てて言い訳をする。
「ち、違いますよ!俺はカノンさんを押し倒そうとか、そんなことしてませんからね!?」
「そうなんですか、でもそのこと知ってるのってあそこにいた人だけなんですよね」
ミトの額に冷汗が浮かぶ。
「どうやってバルザから逃げてきたのか知りませんが、すこしお話しをしましょうか」
そう言って悪辣に笑った。
その時ミナはクリムの顔を見て、これはもう尾行は終わりだと感づいた。
「それにしても本当に遅いなミトのやつ」
「先に帰りますか?」
「それもそうだな」
そう言って席から立ち上がりカウンターに向かう。
「おじさん、ご馳走様、お代はミトでつけといてくれ」
結局ミトはカノンとろくな話もできず、さらに飯をおごらされて、しかもクリムによる説教という、最も損な役回りをさせられていた。
「あいよ、またのご来店お待ちしてるぜ!」
おじさんの声に微笑みを返し外に出た。
教会に戻ってみると採掘師の獣人たちが扉の前に集まっていた。
「どうしたんだ?」
ユウキがそう聞いてみると、一人の若い採掘師が答えてくれた。
「実は、リンさんが鉱山を丸ごと破壊してしまって、その分儲かるには儲かるんですが、翠玉
や藍玉などのできる鉱質ごと破壊してしまって」
「それで何でここに集まることになるんだ?」
「いやリンさんが、主に頼んでくる、とか言って教会に入って行きまして」
あいつ問題ばっかり起こしやがって。
「そうか、じゃあせいぜい主を頼りにしてくれ」
そう言って見捨てるように教会に入った。
今俺の目の前で金髪の少女が正座している。
こんな美少女?いや美幼女と言うべきか、妙に正座が板についている。
「違うんじゃ主様!私が悪いわけじゃないのじゃ」
正座をしてる魔王様は、訴えかけるように言った。
「だから言い訳する前にどうしてこんなことになったのか理由を言ってみろ」
ユウキがそう聞くと、しゅんとした表情になる、まるで親に怒られる子供のようにさえ見える。
「みんなの期待にこたえたかったんじゃ」
ユウキはその言葉を聞くと深くため息を吐いた。
「カノン、復讐のスキルで岩山作れるか?」
「少しきついかもしれません、私の復讐スキル創造は、大きさや精密さによって必要な魔力の量が増えるので岩山一個作りだすとなると......」
それもそうか、となると岩山一個作り出すには土魔法の上級魔法位でないと無理だろう。
(俺の力じゃ無理だろうな)
「悪いけど俺には無理そうだ、お前の部下に魔法が得意なやつとかいないか?」
「一人いるが?」
「そいつに頼ってくれ多分解決できるはずだから」
そう言って部屋に戻った、もう関わりたくないようでその態度は妙に冷めていた。
「はぁー」
ベッドに横たわりながらため息を吐く。
「今日は本当に疲れた」
いろいろなことがありすぎて、一気に疲労に襲われた。
(しばらく外に出たくない)
引きこもりの様な言葉を内心くちにしていると、扉をたたく音がした。
扉を開けてみると、そこにはカノンがいた。
「どうしたんだ?」
部屋の中入れてベッドの上に座らせる。
「あの、ご主人様の昔の話が聞きたいなと思って」
カノンが話を聞きに来たのはクリムのアドバイスからだ。
『カノンさん』
『はい?』
『妻がキリアさんの落とし方の話をしていますが、私はまずキリアさんのことを深く知るべきだと思いますよ、カノンさんはキリアさんのことをどれだけ理解できているのか、自分の思った通りの人物だったのかそこから考えてみてください』
『..........』
クリムから教えてもらったことを思い出していると
「俺の話か......」
「なんでもいいので」
少し考え込むようなふりをして、
「そうだな、じゃあ、話をしようか、俺の家族の話と......初めて人を殺した話を」
そう、淡々と話し始めた。




