第41話恋の行方
最近サブタイトルを考えるのが大変になってきました。
「どうかしたのか?」
妻に呼び出されたくリムは、地下室にユウキを置いて出て来ると。
クリムは少しめんどくさそうに、妻に問いかける。
「あ、クリムさん、こちらのカノンさんに恋愛相談をされたのですが、どう答えればいいのかわからなくて」
そんなこと私に聞かれても、そもそも私を口説いたのだってあなたでしょうに.....
私に恋愛なんてわかるわけがない、だからと言って期待に応えないわけにもいかないだろう。
「そういうことか、じゃあカノンさん?どのようなことを相談したいか教えてください」
クリムがそう聞くと頬を少し赤らめ、乙女の顔をする。
うっかり惚れてしまいそうなほどかわいい顔に少しポッとすると、隣の私の妻であるミナの目がガチで殺すぞという視線を私に向けていて、ぞっと肩を震わせた。
「.......ご、ご主人様に、告白みたいなことをされた、のですが、私も、好きです、といえばいいのでしょうか......」
ん?....告白?キリアさんが?
それって本当なのでしょうか、キリアさんが人に告白しているイメージが浮かばないのですが。
......もしかして、さっきの森でのことを言っているのでは?
もしそういう勘違いをしていたら....そんな予想がクリムの頭の中で組み立てられていき、出た答えが修羅場不可避....
「告白されたのはいつですか?」
流石にそんな思いをさせるわけにはいかない、それとなく自然な発音で聞いてみた。
「今日です、けど」
(やっぱりそうでしたか.....あれは仕方なくやっただけでしょうに.......これは、教えてあげたほうがいいのでしょうか?)
クリムが腕を組み顎をさすりだし考え始める。
そんなクリムの悩みもつゆ知らず、妻が勝手に喋り始めた。
「告白されたんなら、自分も好きだよって言ってあげなきゃ!男の人はね、告白した後返事が来ないと振られたって勘違いする人が多いのよ」
「そうなんですか!?」
「そうよ!だからアタックあるのみよ!」
「分かりました!今から行って返事をして来ます!」
「ちょっと待ってください」
意気込みながら図書館に行こうとする、恋話に花咲かせた女子どもをクリムが慌てて服の裾をつかみ止めた。
ふぅ、危ない危ない、少し考えている間になんて恐ろしい案を出しているんだこの恋愛脳共は。
「なんで止めるんですかクリムさん!」
頬を染めながら、こちらに反抗的な視線を向けてくる。
今止めなければ勘違いの元、告白をしてしまうだろう。
(もう、言うしかないですね....)
「カノンさんは勘違いしています」
「?」
クリムの言葉の意味が飲み込めず首をかしげる。
ただようやく前進する動きを止めることはできたようだ。
「実はー」
カノンとユウキがこれ以上悲惨な、修羅場に会う前に話す事にした。
「そ、そうだったんですか.......」
修羅場回避のために、勘違いを正してやると予想以上に肩を落としてしまった。
「残念ながら」
クリムもそう口を挟むが、実は本当の事を話してはいない。
少しだけ話を変更した、できるだけカノンが傷つかない方向に。
まず、キリアは告白したわけじゃない、と言う事を説明する。
そしてその後、どうして告白まがいのような真似をしたかを説明する。
その説明の内容は........
1 キリアさんが怪我をしてバルザの家に運ばれた。
2 その時ベッドにいるアリアに気づかず布団に入れてしまった。
3 そして目を覚ますと、バルザがいてどうして妹と寝ていた、と説明をさせられる。
4 正直意味がわからないキリアさんはどうしたら自分が無罪であると信じてくれるかを聞く。
5 するとバルザはアリアの事が好きじゃないと言う証拠を見せるために、お前の一番信用している女に告れと命じられた。
6 それであのような暴挙に出てしまった、結局悪いのはバルザだ!
この時に、カノンが信頼されているため、と強調しておくのがポイントだ、あと全責任をバルザに押し付けるのもポイントである。
流石できる男クリム!誰も傷つかない(バルザを除く)でまかせ!
だが、このでまかせが少し的を射ていたおかげで、後で大変になるとは、この時のクリムは知るよしもなかった。
落ち込んでいるカノンの肩に妻は優しく手をポンと置き、微笑みかけた。
「よかったじゃない、一番信頼されていたんでしょ?だったらいくらでもチャンスはあるわ!」
「ミナさん....ありがとうございます、そうですよね、ここからですよね」
カノンはゆっくりと立ち上がると決意にこぶしを握る。
妻のミナは、その言葉にうんうん、と頷き。
「そうよ、今からご主人様落としちゃうぞ作戦開始よ!!」
「はい!!」
いい声で返すカノンを見ながらクリムは一人、めんどくさいだろうなぁ、内心そう感じていた。
恋愛脳共の作戦をひとしきりに話され、ぐったりとした様子でクリムは妻にキリアのもとに向かわされた。
「すいません、キリアさん、今から仕事がありますので妻と私は家を空けます、待っててくださってもいいですが、どうしますか?当然帰る場合は本を持ってってくださって構いません」
できるだけ帰ることをおしつつも失礼のない態度をとる。
これが大人的対応というもの。
「んー?どうするかな?帰ってもいいけど、持って帰る本が多くなるんだよな」
「それなら、アイテムポーチを貸しますよ」
準備万端なクリムは懐からアイテムポーチを取り出した。
「そうか、じゃあお言葉に甘えて本を持ってかせてもらうよ」
「では、入れてください」
持ってきていた、アイテムポーチのあけ口を両手で閉まらないように広げキリアに向けると、大量の本が次々と入り込んでいった。
ただひたすら本を入れている間暇なのでせっかくだから聞いてみることにした。
「あの、キリアさん?」
「なに?」
「キリアさんは好きな人はいませんか?」
「好きな人か、いない、かな?」
「何故自分で言っておいて疑問系なんですか?」
キリアの言い方が妙に引っ掛かり失礼だとわかっていても、つい追及をしてしまった。
「うーん、そうだな、あえて理由を言うと俺は好きだと気づいていないだけなのかもしれない」
「と言うと?」
「俺はさ、今、殺るべき事があるんだ、それの事で頭がいっぱいで自分の気持ちに気づけないのかもしれない.......これだけ言うと格好つけてるみたいだけどな.....さて、これで終わりだな」
にこりと苦笑を浮かべると、重い腰を上げパンパンになったポーチを肩にかける。
「じゃあ、先行ってるから」
それだけ告げると階段を登っていった。
その後ろ姿を見ながらクリムは少しさっきの言葉について考えていた。
(キリアさんのやるべき事とは、自分の感情が分からなくなる程に大切な事なのでしょうか?...)
深く考えても余計に分からなくなる一方だ、ただ一つ言えるのはそのやるべき事に関して首を突っ込まなほうがいいということだけだった。
「悪いな、本貸してもらって」
「別にいいですよ」
「また今度返しに来るよ....行くぞカノン」
「はい、また今度」
玄関でとても簡単にお別れの言葉を交わすと、一人すたすたとキリアは外に出ていった。
仕事があるといっていた、あまり手間を取らせないほうがいい、といったユウキなりの配慮だ。
その後ろではミナとカノンが見つめあい手を握り合っている。
「頑張ってねカノンちゃん!」
「はい!ミナさんに教えてもらった作戦生かして見せます!」
「そのいきよ!、それより早く行きなさい、あなたの思い人が待ってるわよ」
「は、はい、ありがとうございました!」
思い人、その言葉にカノンはほほを染めると、軽く頭を下げお礼を告げ、キリアのもとに走り出した。
家の前からキリアの姿が完全に消えたのを確認すると、見送って振っていた手を止めた。
その手で自分のメイド服を掴み、バッと翻すと、メイド服がきれいに脱げ取れた。
メイド服の下には茶色をベースとした目立たない男性服が.....
そして最後にどこにしまってあったのか、いつの間にか手に持っていた黒い帽子を深く深く被った。
「ふふふ!さて私たちも行きましょうか!」
「え?」
そのノリノリな発言におもわず戸惑いの声が漏れる。
「当たり前ですよ、カノンちゃん達若輩が成功するのか見届けるのも人生の先輩たる私たちの務めです」
自慢げに告げるミナにもう苦笑いをするしかない、だってすでに目の前のミナは行く気満々だ。
そして家の中で権力が弱く、愛妻家の私には断ることなどできないだろう。
「いや、そんな努めないだろ、それにお前が見たいだけだろ」
軽い反抗を見せると、ミナはむすっとした顔で歩き出し。
「ごちゃごちゃ言ってないで早くいきますよ」
「分かった、分かったから、耳をつかまないでくれ」
予想通りクリムも一緒にいくことになってしまった。
(.......うまくいきませんね)
今、ユウキとカノンは教会に戻る道、商店街をあるいていた。
ミナから教えてもらった相手に自分を意識させる方法、その一番基本的なことは手をつなぐこと。
これの大変なところはどのタイミングで、どれだけ自然に手をつなげるかということ。
(.....これはさすがに無理ですね)
ユウキは右手に本を持ち、左手をポケットに入れてしまっている。
これでは手をつなぐことは出来ない。
「ん?どうかしたか?」
カノンの視線が気になったのか本から目を離し、カノンをまっすぐと見つめると、
「な、なんでもないです」
恥ずかしかったのか、そっぽを向いてしまった。
「そうか?」
特に用がないならいいか、とまた本に目を向け始めた。
「なんであの子あんなに鈍感なのよ!!」
「そんな文句言っても」
後ろの草の茂みでこっそりと覗き見ているミナが声を上げ、ぐぬぬ、と力強く拳を握っている、そのこぶしの中にはクリムの耳が入っていて、少し痛かった。
(可笑しいわね、なんで気づかないのかしらあんなに好意を伝えているのに)
見た感じカノンはキリアにできるだけ近づき、手をつなごうとするアピールをしているのに。
(可笑しいわね、あんな美少女があんな近くにいたら嫌でも目に入るでしょうに、そんなに本が好きなのかしら、それとも何か他に理由が?.......まさか...ホモ?)
今キリアは最低最悪な勘違いをされていた。
(こうなったら次の作戦に)
「ご主人様、あの、お腹が空いたのでどこかで食べていきませんか?」
「もう昼か、でももうすぐ教会に着くぞ?」
少し先を見ると、教会のとがった屋根が自己主張気味に飛び出ていた。
(今です)
内心そう言葉にしてユウキの前に飛び出した、そしてそのまま、あの数時間で習った技を発動させた。
「お願いします、私凄いおなかすいちゃって」
手をおなかのあたりに軽く置いて、胸を前に押し出す、そして最後に相手の顔を下から見上げた。
これがミナに教えてもらった技の一つ、その名も『おねだり♪』
(これは決まったわね、あんなかわいいポーズされたら顔を赤らめることうけあいよ、なにせ女の私でさえ顔を赤らめてしまったんだから)
カノンもミナもこれは決まった、そう確信したのだが....
「じゃあ、あそこの店に入るか」
顔を赤らめるでもない、可愛いというわけでもなくただ平然と言葉を返されただけ。
「え.....あ、はい」
なんの反応もないユウキの言葉に驚きながらも、提案された店に入っていった。
「な、なんでですか!どうしてあんなに鈍感なんですか!あれじゃあクリムさんといい勝負ですよ!」
「おい.......っていうかいいのか店に入っていったぞ」
「はっ!忘れてました、急いで追いかけましょう!」
そう言って不審者二人は、店の人に白い目で見られつつも、慌ただしく店に転がり込んだ。




