第40話魔導書
少し投稿が遅れました、申し訳ないです。
クリムに無理やり手を引かれ、兵士の訓練所のある森を抜けると、町まで戻ってきてしまった。
「おい、いいのかよ、あいつら放置で」
引っ張られ連れていかれる最中何度も同じようなことを言い続けたのだが、
「今ひどい目に合っていますよ」
と返してくるだけの一点張りだ、ちゃんと説明してほしいものだ......あとそろそろカノンにも離れてほしい。
森を出てからずっと腕に抱き着いている。
街の中を歩いていると、カノンが美少女なだけあって、妬み嫉みがはげしい。
街ゆく人たちの目線が本気で殺意がこもっていて怖いから離れてほしい。
(そういえばなんで、俺に抱き着いてくるんだ?......もしかしてさっきのことか?)
もしそうだった場合さっきのことを本気にしている可能性が高い、それは困る。
正直、さっきのはカノンがひどい目に合うのを回避するためにしただけだ。
さっきの俺の女宣言だって........え?なんでそれで腕に抱き着いてくるんだ?.......もしかして俺のことが好きなのか?........じゃないと俺の腕に抱き着いてくる理由が.........
いやちがう、変な思い込みはするな。
また昔と同じ苦い思いをする気か。
多分だが、復讐のためうまく俺を使うためにカノンも好きなふりをしようとしているだけだろう。
そうだそうに違いない。
なら好きにさせておいていいだろう、だが万が一がある、帰ったらリンに相談してみよう。
取り敢えずカノンには、離れてもらうことにした、じゃないと目線だけで殺されそうだ。
「わるいけど、少し離れてもらっていいか?」
「えっ!?」
そんなショックな顔をされると、演技だとわかっていてもさすがにつらいところがある。
慌てて弁解をしだす。
「周りの人の目が、少し気になるから.....な?」
ユウキがそう言うとカノンは周りを見渡す、そして理解したのだろう目線が一つに集まっていることを、その瞬間顔を一気に赤らめた。
「す、すいません....」
そう言って俺の手からゆっくりと手を放し、3Ⅿほど距離を取った。
「......」
「......」
急に離れられるとこれはこれで気まずい。
しばらくの間二人に静寂が包んだが、クリムがそれを見て、ため息交じりにぶち壊してくれた。
「つきましたよ、どうぞ中に入ってください」
案内された家は他の家とは別物で貴族の家のような豪邸。
「「お邪魔します」」
カノンと俺はそういって家の中に足を踏み入れた。
中の床は大理石でできていて正面には二回に続く階段が設置されており、その右側にはダイニングなど、まるで新居のような奇麗さに見とれていると、階段からメイド服を着た女の人が降りてきた。
狐耳をしたショートヘアの女の人だ。
「お帰りなさい、クリムさん」
「ああ、今帰った」
クリムに笑顔で挨拶をすると、ユウキ達に体を向け観察するように見つめられる。
「そちらの方達は?」
「仕事仲間だ、今から地下の図書館を使うから」
「分かりました、あとで紅茶を持っていきますね」
「頼む、じゃあ行きましょうか」
そう言って正面階段の裏側、隠されているような地下に続く階段を少し警戒気味に入っていった。
地下に続く階段を下りている最中、暇なので適当に雑談をしていた。
「クリムってメイドやっとているんだな」
「違いますよ、彼女は私の妻です」
「え?....メイドじゃないのか?じゃあなんでメイドの服を?」
「もともと彼女は私のメイドだったんですよ、そしてなぜか妻になってもメイド服が気にった用で家事をやるときはいつもメイド服なんですよ」
「ということは、主従関係の恋愛ですか!」
やっぱりカノンも女の子だ、こういう話は気になるし憧れも持っているのだろう。
食い気味にその話に興味を向ける。
「あ、あの!その時の話聞かせてもらえませんか!参考にしたいので......」
参考?クリムは一瞬意味が分からなかったがすぐに理解した。
ちらりと首をかしげるユウキを一瞥するとニコヤカに微笑んだ。
「聞きたいのでしたら妻に聞いてください、一階のダイニングにいると思いますので」
「ありがとうございます、ご主人様行ってきます!」
「ああ」
ユウキのオーケーと、とれる言葉を聞いてカノンはダイニングに急ぎ足で向かった。
「なんであいつはあんなに意気込んでるんだ?」
「.....なんででしょうね?」
なんとなく理解している故、なんて返せばいいのかクリムは少々言葉が詰まった。
「おー、すごいな」
クリムに案内されてついた場所は、家向きの大きさではない、とても広く並の図書館レベルの本がある。
ここまで集めるのにどれほどの金と時間がかかったか.....感嘆の言葉しか出ない。
「そういえば聞き忘れていましたが、何故本をお探しに?」
「実は―」
聞かれたのでバルザから頼まれた事をできるだけ簡単に簡潔にすべて話した。
するとクリムは確かに、と相槌を打った。
「ああ、そういう事でしたか、それにしてもキリアさんはなんでもできるのですね」
「なんでもってわけじゃないさ」
「そんな謙遜なさらず」
謙遜ってわけじゃないんだけど。
実際できることは少ない、その事実に変わりはない。
「まあいいや、それより天候に関する魔導書ってあるか?」
「魔導書ですか、確かこちらにまとめてあるはずです」
そう言って案内された本棚には大量の魔導書があった。
「これは、凄いな.........」
普通に感嘆の声が出た。
ドルトンの家で見た物もあれば全く知らないものも多数ある。
これだけの物を集めるのはお金と時間がかかるはずだ、それだけ本が好きということか。
にしても魔導書がこんなに........魔導書?クリムは魔法を使えるのか?
「なあ、クリムって魔法使うのか?」
「いえ、使いませんし、使えませんよ?」
「じゃあ、この魔導書は?読んだんだろ?」
「読むには読んだんですけど、私には魔法の才能が無いようで.......唯一、初級の風魔法は覚えれましたけどね」
そう言って苦笑した。
魔法は才能がある属性の魔法しか覚えることができない。
そしてその魔法に関する知識、経験を蓄える事によって中級魔法、上級魔法を覚えることができる。
まあ、ユウキに関しては才能など関係ない、経験も関係ない、ただ、才能のある奴から魔法と経験を奪ってしまえば良いのだから。
(お礼として初級魔法をLV1分けてやろうかな?多分覚えさえすれば使えるようになるはずだ)
クリムは知識だけは膨大に持っているはず。
なら、あとは経験を積むだけだ。
そうすれば十分戦力になるだろう。
それに正直なところ獣人の国には戦力が少なすぎると感じている。
使い物になるのがバルザとクリムと、まあギリギリ、フィリスぐらいなものだ。
それだけ弱かったから、余裕で城に侵入されたりするのだ。
もし、しっかりとした経験を積み、戦力を充実させていたのなら城爆破事件など起きなかったはずだ。
(まあ、爆破させたの俺だけど)
そう、内心皮肉を言う。
まあ、欠点はそこだけではないのだが。
獣人は種族によって得意武器、能力が分かれる。
例えば熊耳の獣人はとてもタフで盾役が一番向いている、今俺の付けているホワイトウルフなどはスピードが異様に早いためダガーが向いている、そして狐耳の獣人は回復魔法のみ使う。
これだけ見れば特に問題は無いように思うだろう、だが遠距離技、弓、魔法を使える者が一人もいないのだ。
戦いの基本は盾役を前に起き、後ろから遠距離で攻撃する。
遠距離役に近づいてきたやつを剣士が排除すると言った形だ。
もしこの状態で相手が弓や魔法を使ってくる奴らと戦った場合、まだ勝ち筋がある。
だがここに攻撃役の要である遠距離役がいなければ虐殺される可能性が高い。
これは例えばだが、こう言う状況に陥った場合、魔法、弓は必須という事だ。
なら、魔法、もしくは弓の使い方を覚えればいい。
言葉で言うのは簡単だ、だが遠距離に特化した獣人が一人もいない。
と言う事は、だ。
遠距離の技を、魔法を教えてくれる人がいないと言う事になる。
なら人間に教えて貰えばいい、そう考えるだろう。
それは自殺行為だ、人間は獣人の事を高く売れる物、と考える奴が大半だ。
それに万が一教えてくれる、気さくな人間が居たとしても獣人が納得しないだろう。
何せ今まで人間に虐げられてきたのだ、その人間に教えをこえ?巫山戯んな!と言う話になってくる。
まあ、ユウキが教えればいいだけな話なのだが。
(流石に全員はめんどくさい....この事も少し考えておくか.......)
「あの?キリアさん、大丈夫ですか?さっきからぼーっとしてますけど」
「あ、ああ、すまん少し考え事をしていたんだ」
「そうですか、ならいいですが......」
少し安心したような顔をすると、突然上から声が聞こえてきた。
「クリムさん!ちょっと来てくれません?」
「分かった!今行く!......すいません妻が呼んでいるので、あと、本は自由に読んでくださって構いません」
「ああ、分かったありがとな」
「いえいえ、最後までお付き合いできずすいません」
申し訳なさそうにしながらクリムは階段を速足に駆け上っていった。
「さて、ここら辺から読むかな」
少し楽しそうに頬を緩めながら、ユウキは本棚から一冊の魔導書を取り出した。




