第38話疲労
私には今ある悩みがあります。
獣人の国に来て早一か月その間に初めての友達ができました。
その友達はフィリスと言って、私とは比べ物にならないくらいかわいらしい女の子です。
よく教会に来ては私を遊びに誘ってくれるとてもいい人です。
ですが、フィリスさんはご主人様を狙っています。
これは恋愛的な意味の狙っているではなく、命的な意味でです。
フィリスさんはどうやら私がご主人様に無理矢理奴隷にされた、もしくは買われたと勘違いをしてるようです。
せめて弁解しようとフィリスさんに言ってみましたが「え?でもキリアがカノンにゃんのこと自分の奴隷だと言い張ってたニャンよ?」と言われてしまいました。
なので「なんでそんなこと言っちゃうんですか!」と、ご主人様に聞いてみたら、「そのほうがおもしろいだろ?」なんて返されました。
フィリスさんはご主人様のすきをついては倒しに、殺しに来るので、私は心配で最近は夜も満足に寝ることができません。
まあ、それも仕方ないのです。なにせ心配で眠れないのは私がご主人様のことが好きで仕方ないからなのですから。
はぁ、なんで好きになってしまったんでしょう?これが惚れたら負けというやつなのでしょうか......
そんな事を思いながら今日こそは満足に寝るぞ、と意気込んで布団を頭まで被った。
♯
太陽が顔を出し辺りを照らし始めた頃。
布団から体を起こし、ベッドから降りると軽く伸びをした。
そしていつも通りひもで縛られているフィリスを起こす。
「おい起きろフィリス」
「........」
声をかけるが目を覚ます様子もなく、たまに体をよじらせ寝息を立てている。
まあいつものことだ。
特に気にした様子もなく寝巻きから普段着に着替え始める。
それにしてもフィリスには困ったものだ。
毎回夜中に侵入してきては寝首を搔こうとしてくるのだから、寝るに寝れない。
ただでさえ最近は獣人の国の復興が忙しくて満足に寝れていないというのに.......
まあそんなことを言っていても仕方ないし、始まらない。
とりあえずフィリスを背負って食堂に向かった。
ユウキが食堂に入るとエプロン姿の彩香利が可愛らしく出迎えてくれる。
本当にこの姿を見るとユイナが思い出せてしょうがない。
「おはようございますキリアさん、御飯で来てますので席に座ってください」
「いつもありがとなフィリスの分まで作ってくれて」
「いえ、ただ作る量が増えるだけで手間はたいしてかかりませんので」
そう言って台所に向かった。
彩香利が言ったように席に着き、そして隣の席にフィリスを置く。
そして御飯を口にした、多分これもフィリスが夜に襲ってくる理由の一つだろう。
毎日侵入してくるフィリスを見かねて食事を作ってくれるのは喜ばしいことだが。
そのせいで夜に侵入してくるのが習慣づけられているような気がする。
それに正直彩香利の料理がうますぎるのも原因だと思っている。
(いい加減手を打とうか.......でもこの事態を引き起こしたの俺だしなぁ)
ユウキが面白半分で弁解をしなったのが一番の原因だ。
それなのにフィリスにトラウマを植え付けたり、他の誰かに頼るのは気が引ける。
(まあいいか、もう少しの辛抱だ、城ができたらいなくなる予定だしな)
考えに耽っていると、隣からうめき声が聞こえた。
「ふにゃ〜」
両手両足を伸ばすと目をパチクリとさせる。
一通り終えるとユウキの方に振り向き軽く挨拶をした。
「あ、おはようキリア、いい加減カノンにゃんをてばなせにゃ」
「朝から死ねとはご挨拶だな、昨日も俺に返り討ちにあってひもで縛られたのわすれたのか?」
「う、うるさいにゃ」
そう言って悔しそうにそっぽ向いてしまった。
「ご馳走さま.....せっかく彩香利が作ってくれたんだから残さず食えよ」
食べ終わった皿をキッチンに置くと、フィリスの頭に手をポンと置き、扉の側に掛かっている外出用のコートを羽織る。
「それくらいわかってるにゃ」
文句ありげなその言葉を聞きながら教会の門を開けた。
城跡に来てみると獣人達が、木材や石材を運びせっせと城作りに励んでいた。
昔のように強要されて作っているわけではないので、皆笑顔を振りまいている。
(もう始まってたか......仕事早いな)
そんなことを感じながらいつものところ、自分の仕事場に向かおうとした、だが人だかりが目に入り気になって近づいてみると、そこにはリンが獣人たちからもてはやされていた。
「流石メルリン様です!!」
「あの固い岩をいとも簡単に破壊してしまうとは!!」
「メルリンさんに勝る採掘師は獣人の国に一人もいません!!」
「それほどでもあるかのう!」
そう言って自慢げに高笑いをしていた。
リンはこの国の貿易用品として、採掘場で貴重な鉱石を掘り出させに送った。
当然リンを送ったのには、理由がある。
リンが一番採掘をするのに向いている魔法を覚えているからだ。
瘴気魔法を使い鉱石、宝石以外の石材を消す、腐敗させる。
それだけで鉱石ががっぽがっぽとれるのだ、採掘師達からすれば神の所業だろう。
「今日もよろしく御願いしますメルリンさん」
「うむ、今日も任せておくがよい」
「おお、なんと力強いお言葉」
そんな様子なリンたちを見て軽く苦笑する。
(あまり調子に乗らせないでほしいのだが....)
まあ、問題さえおこさばければどうでもいいか、そう軽く切り捨てて自分のやるべきことがある場所に行った。
4番の3ほど直った城の城壁部。
そこに来てみると、バルザが他の獣人達に指示を出していた。
近づいていくと、こちらに気づき手を振り、御構い無しに早速仕事を持ち込んで来た。
「ここら辺の石材溶かしてもらっていいか?」
「ああ、分かった」
そう言って消化魔法『消化液』を使い石材をドロドロに溶かしていく
「おおさすがキリア!」
バルザの感嘆の声が聞こえるがユウキは無視してバケツに溶かした石材を流し込んだ。
「終わったぞ」
そう言って無造作にバケツをバルザに渡す。
「じゃあ次は.......」
そこまで言って急に何か考えるように無言になった。
いつもの馬鹿丸出しのバルザとは思えないほど真剣な顔つき。
「どうした?」
何か変な空気を悟ったキリアはバルザに声をかける。
「なあ、少し無茶なお願いしてもいいか?」
「俺にできることか分からないから、とりあえず言ってみてくれ」
「.........実は最近な雨が降らないせいで作物が育たないんだ」
「だから雨を降らせてくれと?」
その言葉に肯定を示すように頷く。
流石に無茶じゃないか、と思うが......
「........」
「できそうなのか?」
下を向いて考えこんでいるユウキに心配そうなバルザの声。
「やってみないとわからないかな、実際試したことないし、それに雨を降らせるってことは天候操作系の魔法を覚えなくちゃいけないからな。それに自力で作り出すにしても天候についてのある程度の知識が必要になってくる」
「つまりどういうことだ?」
あまり理解できていないようで首をかしげる。
はぁ、これだからゴリラ脳は....
「今すぐには無理ってこと.......時間さえもらえればできると思うけど、城の建設もあるしな」
「それもそうか......」
「まあ、時間があったらやっといてやるよ」
それを聞きいきなりバルザの顔が笑顔に変わる。
「さっすがキリア!やっぱりお前は最高だぜ!」
いきなりおだて始めたバルザ、このままでは話が終わりそうになかったので、強引にこちらから切らせてもらう。
「だから今は他の仕事を回せ」
「それもそうだな、まずお願いしたいのは町にある家の建設をしているところに行ってくれ」
「何をすればいいんだ?」
そう言うとバルザはニッと笑い。
「すごく過酷な労働作業だ」
キリアを試すように、目を細めた。
♯
空は赤く染まり、太陽は半分が隠れ切った頃。
バルザは司令塔としての役割を果たし暇になったのでキリアの様子を見に行くことにした。
(さてどうなっているか.......って嘘だろ!?)
バルザは驚きのあまり目を見開いた、
なにせ、そこには昔アセロラによって崩壊させられ第3区画の家が全て再構築させられていたのだから。
ざっと200建ある家全て。
(これ....やったのキリア......だよな...いやあいつ以外あり得ねぇ!.....)
これをやった当の本人の姿が見えず辺りを見渡してみると道の隅で大工たちが人だかりを作っているのが目に入った。
「おい何してんだ?....なっ!?」
近づいてみるとその真ん中でキリアが青い顔をしてぶっ倒れていた。
呼吸も荒くまるで死ぬ寸前、瀕死に陥っているように見えた。
「お、おいキリア大丈夫か!?」
あまりの酷い様子に焦りながら声をかけ、体を揺する。
だが返事も帰ってこない、既に意識がないのかもしれない。
「あっバルザさん」
「おい、何があったのか説明してくれ」
「は、はい実は、このキリアさんが木材を魔法で作りだしてくれるはずだったんですが、キリアさんが家の形をした木材出した方が早いと言い出しまして......」
「ほうほうそれで?」
「家を一軒ずつ作っていったんですよ、でもさすがに魔力が持たなかったみたいでして、私たちが用意していた魔力ポーションを飲みながらやってくれてたんですよ、でも最後の家を作り出したとたん倒れてしまって......」
それを聞いて苦々しそうに顔をゆがめる。
どれほどキリアに、この少年に荷が重いことさせてしまったか、苦労をかけたかそう考えるだけでかわいそうに感じる。
(少し無茶させすぎたな、それにキリアに頼りすぎな気がする......)
「分かったキリアは俺が預かる、みんなは仕事に戻ってくれ」
そう言ってユウキを背中に担ぎ城跡に向かった。
もう仕事をさせない、後は自分達だけの力でこの国を復興させようと誓いながら。




