第37話宴
城爆破事件から三日がたっていた。
現在、獣人の国は昼夜問わずお祭り騒ぎだ。
人族から解放されたため、国を挙げての宴..........建前ではそうなっているが事実、アセロラから解放された嬉しさから始まった宴だ。
そんな宴にユウキも(強制的に)参加していた。
爆発した城跡に木の椅子、木のテーブルを置き酒や食べ物食べてどんちゃん騒ぎ。
その一つの席に座りジュースを口に運ぶ。
(前まであんなに絶望的な状況だったのに、よくこんなに体力あるな..........いや....だからこそか?)
騒ぎ立てている奴らを見て少し感心していると
「食べ物持ってきました〜」
カノンがテーブルにスパゲッティ-が盛られたお皿を机に置くと、ユウキの隣の椅子に座る。
若干近い気もするが......まあ、勘違いだろう。
「おいしそうだな」
「主様、まだあるぞ」
そう言ってボアのステーキ、生野菜の和え物等々をユウキの前に置く。
そして隣の椅子に腰を下ろした。
「リン、戻ってきてたのか」
「主様ひどいぞ、なぜ一言教えてくれないのじゃ」
「なんのことだ?」
「アセロラのことじゃ...........同じ仲間なんじゃから誘ってくれてもよいじゃないか」
「いやお前は仲間じゃなくて奴隷だろ、それにお前がどこにいるのかもわからないのにどうやって誘えばいいんだよ」
ユウキの言葉などどこ吹く風で食べ物を軽くつまみ
「つれない奴じゃのー」
そう言って口に入れる。
「って....ペットじゃないわぁ!?」
「いいご身分ですなぁーキリア」
挑発するかのようなその言葉を言ってくるのは、完全に出来上がっているバルザだ。
顔も真っ赤で足取りも不安にこちらの肩を掴む。
「バルザさん飲み過ぎだよ」
隣では妹のアリアがため息交じりにバルザに寄り添い、体を支えていた。
「おいキリア、俺にもかわいい子紹介しろよ.....オメェだけずりぃぞぉ?」
酔っ払いの相手は懲り懲りだ、適当にリンを指差すと。
「カノンはだめだけど、この幼女なら連れてっていいぞ」
キリアのその言葉を聞くと、バルザは赤い顔を近づけてリンを見る。
リンが酒臭そうに鼻をつまんでいた。
「さすがに俺も子供に興味はないぞ」
「誰が子供じゃあ!?」
うがー、と食って掛かってくるリンをカノンに押し付けバルザの方に質問を返せば。
「お前酔いすぎだろ、どれだけ飲んだんだ?......っていない....」
キリアがそれとなく聞いてみるがもうそこにはバルザいなくい、少し遠くの他の兵士たちに絡んでいた。
その様子にアリアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すいませんキリアさん、実はバルザさんさっきまであそこで飲み比べをしていまして....」
そう言って人だかりの出来ている方を指す。
そこには顔を真っ赤にして倒れているクリム、そしてその状態のクリムをうちわ出仰いでいる猫耳少女がそこにいた。
(確かあの子は........カノンが苦戦したって言っていたフィリス?だったか......)
カノンから聞いていた話を思い出していると、フィリスがこちらを見て、驚いたように固まると.......一気に地面を蹴った。
俺の真横をすごい速さで素通りしてすぐ隣にいるカノンの前で土埃を撒き散らしながら止まり。
「カノンにゃん!」
突拍子もなくカノンに抱きついた。
「フィ、フィリスさん!?」
驚いているカノンの顔を笑顔で見つめると、肩を掴みまた突拍子もなく
「また会えてよかったにゃ、私を倒したカノンにゃんがこれからの副団長にゃ!」
「え?それってどういう?.....」
いきなりのことにカノンが混乱し、動揺していると、いつのまにか後ろに現れた人影がフィリスの頭を引っ叩いた。
「ッ!?いッたぁ!?」
とても良い音を辺りに響かせて、猫耳を激しく揺らしながらその場にうずくまる。
「うちの馬鹿が申し訳ありません」
華麗に一礼してみせたのは、さっきまで酔いつぶれていたクリムがそこにいた。
流石は上司と言ったところだろう、部下が話をややこしくする前に止めるとは。
(この人も苦労してんだな.......)
同情の目で見るも、特に気付くことなく話をし始めた。
「私が一から説明しますので、私達獣国騎士団にはある掟がありまして......」
「掟、ですか?......」
「はい......団長、副団長が獣人に負けた場合勝った者がその役職に就く事になっているのです」
「だから副団長であるフィリスちゃんを倒した私が副団長ってことですか!?」
「そうにゃ!」
元気な良さそうなフィリスの声、自分の役職が下がるという事を理解しているのだろうか?
そんな疑問も、フィリスの笑顔を見れば理解していないだろう事がわかった。
「ですが私も強制するつもりはありません、自由意志というやつがありますから」
クリムは礼儀正しく他人事のように話を進める、だが突然クリムは私情を挟んだ。
「ですが、できる事ならあなたにやってほしいものです......私はもう疲れてしまいました.....」
こめかみを抑え、何もわからず首を傾げているフィリスにため息を吐く。
「え、えーと......どうすれば....」
困ったようにこちらを見つめてくる、カノンの求める視線を受け流し
(こっち見られても困るんだけど.......まあ、なんとかなるだろ)
食事を再開した。
果物を口に入れようとしたその時.......空気が凍った。
「カノンは主様の所有物なのだからダメに決まっておるだろう?」
いきなりのリンの爆弾発言に、ユウキは手に持っている食べ物を落としてしまった。
クリムも「え?.....」と、驚きの表情をして固まっている。
それもそうだ、今の俺は狼の耳をつけている。
つまり獣人が獣人を奴隷にしている、アセロラと同じ事をしているということになってしまう。
今すぐ黙れ、そんな俺の心の声も届かず、リンは喋り続ける。
「それにカノンに聞くのも筋違いじゃ、カノンのご主人に決定権があるのじゃから、そこにいる、ユ.......キリアに聞くといい」
バレないように息を潜めていたキリアをリンは無情にも指をさし、正体を露わにした。
周りの視線が痛い中、一人殺意の視線が混じっている事に気付く。
「どういうことにゃ?カノンは奴隷なのかにゃ?ってことはあの獣人を殺れば騎士団を入ってくれるのかにゃ?」
可愛い顔して物騒な事を言いながらレイピアを振り回しユウキに近づいていく。
流石に自分の主人に危機が迫っている事を理解したカノンは、弁明を口にするが......
「ま、待ってください!ご主人様に何もしないでください、それに私は、自ら望んでご主人様の物になったんです!!」
その言葉を聞きクリムが興味深そうに
「ほう....」
と頷き。
リンがニヤニヤしながら
「大胆じゃのう」
と言った。
その言葉を聞き一瞬で自分が何を口走ったのかを理解したカノンは、茹で上がったように顔を真っ赤にして、
「はうぅぅぅ...........」
いつもの自分には似ても似つかない恥ずかしそうな声を上げた。
「今のは聞かなかった事にして、俺逃げるわ、なんか危ない気がするし......」
そう言って殺意剥き出しのフィリスを一瞥すると。
「あとリン、お前、帰ってきたら尻叩きな」
「なんでじゃ!?ひどいぞ主様!?」
お仕置きの内容だけ言って我関せずとばかりにそそくさと立ち去った。
♯
教会に戻ってくれば、とても静かで物音一つしない。
既に皆寝てしまったのだろう。
自分も寝ようと部屋に戻ろうとした時、窓が開いていた。
窓から顔をのぞかせれば、ほのかに聞こえる呼吸音が屋根から聞こえる。
気になって窓から屋根を覗き込んで見るとそこには彩香利が腰をつき星空を眺めていた。
ユウキも屋根の上に軽く登ると彩香利に話しかけた。
「なにしてるんだ?こんなところで」
「あ、ユウキさん、ちょっと星空を眺めてまして」
いきなり現れたユウキに驚く事もなく、平然と返事を返す。
やはり子供ではない肝の座り用だ。
「星空か、星空を見てて楽しいか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、こんなに綺麗な星空見たの初めてなので」
感慨深そうに空を見上げる彩香利の横顔があまりに微笑ましいので、彩香利の隣に腰を下ろし、同じように空を見上げた。
「日本じゃ、星空は見れないのか?」
「見れるには見れるんですが、こんなに綺麗な星空は見れませんね」
「そうか......」
小さくそう言って空を仰ぎ見る。
「けどこれからはいくらでも見れるな」
優しく、昔の俺に戻ったように彩香利に微笑むと、彩香利の驚き顔を一瞥して、星空に視線を戻す。
黒く染まった俺とはかけ離れた、光り輝く星空。
ふと気づけば無意識のうちに手を伸ばそうとしていて......
咄嗟にその手を止めた。
自分には光を求める権利などないから。
♯
この世界には大きく分けて4つの国がある。
一つは獣人、ドワーフ、エルフの集落を合わせた国。
二つ目は昔ユウキが納めていた国ホープ。三つめが精霊の国ミストラル。そして最後に四つ目が魔国と言われている最近できたばかりの国、闇の魔王が納める国だ。
魔国には城下町と立派な城が建てられている。当然城下町には魔族がすんでいる。
薄暗い部屋、窓から入る月明かりが玉座に座る"何か"の足元を照らしていた。
玉座から見る外の光景を見て、昔の事を思い出しほのかに微笑んでいると。
「魔王様♪ご報告が〜」
能天気で陽気な声が、扉の外聞こえてきた。
「入れ.....ジーズだな、何用だ?」
目をバンダナで隠して、前が見えていないはずの女は、長く伸びる銀髪を揺らしながら的確に魔王の居場所に向かう。
「獣人の国の姫♪アセロラが何者かに殺された〜もしくはさらわれましたぁ、私その何者気になりますよ〜♪」
「そうか......」
そう小さく残念そうに嘆息した。
いい素材だったというのに.....また我々の願いが遠ざかる。
「誰が殺したのか見当がついているのか?」
もしかしたら死体だけでも譲ってもらえるのでは、と、そう考えて聞いてみるが。
「いえ〜アセロラの姿かたち痕跡一つ残らず消えていました♪誰が殺したのか皆目見当つきません♪唯一残っていたのは〜..」
そう言って懐から一枚の封筒を取り出した。
「魔王様に♪向けた手紙?と思われる物だけでした〜」
「悪いがその手紙を読ませてもらえるか」
「それはわぁ.....ちょっと」
少し嫌そうに、その華奢な腕を引っ込め手紙を隠そうとする。
「私に見せられぬ内容でも書いてあったか」
「.......その通りでございますよ〜この手紙はアセロラが書いたように見せかけた手紙でぇ?ひたすら悪口が書いてありました♪」
「それでも良い、見せてくれるか」
内容を伝えたのに、それでも読むという我等の魔王。
そこまでいうのなら私達が配慮する必要はない。
「......魔王様がぁ♪そこまで言うのならば、拒む理由は無いのです♪」
しまいかけた手紙を取り出し、我等の魔王に手渡した。
魔王はそれを黙って受け取り中身を開く。。
確かにジーズが言うように内容はひどいものだった。だが
(これは.......)
「わっはっはっは!なんとも面白いやつよ」
「?何か面白いことが書いてありましたかぁ?」
「そんなところだ」
そう言ってさっき書いてあったことについて考える。
『次はお前だ』手紙の上に押された判子、その周りに小さく書かれた古代語文字。
(次か.......次とはいつになったら来るのだろうな?)
この最悪最強の闇の魔王にケンカを売ったこの勇敢なる馬鹿といつになれば会えるのだろう。
できることならば勇者が私を殺す前に来てほしいものだ。
そんな事を思いながら静かに自分の野望のためにまた歩み始めた。




