第36話魔法について
今回は少し短めになっています。
獣人の国を一望できる高台、そこには昔建てられた教会の跡が痛々しく残っていた。
そして今現在、高台には石造りの謎の地下室と、十字架が建てられている、その十字架にはアセロラがくくりつけられていた。
そして今アセロラは目を覚ました。
「........ここはどこ?......痛っ!」
目を開けてみれば目に飛んでくるのは私の国。
誇らしげに思ったその時、顔に僅かな痛みが走った。
そこでようやく自分の顔が腫れている事に気づき顔に手を伸ばそうとするが、できなかった。
「な、なによこれ!?」
そこでようやく自分の体がどうなっているかを理解する。
両腕、両足は紐で固結びにされており、首のあたりも絞め殺さない程度に軽く結んである。
「ようやく目が覚めたか.........」
状況を把握できたところで、声が聞こえた。
目の前には見たこともない、いつ作られたかもわからない地下室に続く入り口、そこから一人の男が悠然として歩きでてきた。
その男の外見、声の音程から異様に若い事だけは理解できる。
「これをやったのはあなた!?今すぐほどきなさい!!」
アセロラの甲高い声が響く、その男は鬱陶しそうに顔をしかめ歩き始めた。
「..........」
「そうよ、ちゃんと理解できたのね!クソガキの分際で.......あとで褒めてあげるわ」
その腹の立つ言葉に男は無言でアセロラに近づいていく。
そして縄に手をかけずそのままアセロラの頭に手を伸ばした。
「私の頭に触れないでちょうだい!!汚れるでしょう!?」
伸ばした手をアセロラの頭に乗せると、アセロラが喚き散らす、流石にうんざりしていたのか、男は目を見開くと。
「黙れ」
底冷えする声音でアセロラの眼を睨みつけ言った。
流石に恐怖を抱いたのか、一瞬だけ口をつぐむ。
その隙に無属性魔法を発動させた。
アセロラは送り込まれた直後びくっと震えたがすぐに無言になる。
「...........」
時間がかかりそうだ、そう踏んだユウキは本を取り出し、岩の上に腰を下ろした。
20分程放置していたら笑い声が聞こえて来た。
(ようやくか......お預けくらった犬の気分だったぞ..)
「あはははははははは!!ユウキ、あんたって本当に馬鹿ね!!私達に復讐をする!?馬鹿じゃないの、そんなくだらないことするくらいならもう殺されませんように、とか祈りながらメソメソ暮らせば!?」
「.....お前、なんでそんなに偉そうなんだ?今の状況りかいしてんの?」
「ええ、してるわ、でもあんたに私は殺せないわよ。私にはこの美貌と権力があるもの!」
自信満々に言い放つアセロラ。
そもそもだが美貌と権力があるから殺されない、その考え自体間違いだが、アセロラの中ではそうなのだろう。
だからまずその考え方の中枢部から破壊していかないと。
「へぇー、じゃあまずその二つから壊して行こうか.........確かお前は赤髪の女の子に権力の大きさとしてあの城のことを言ってたよな」
「ええ、そうよ、あの城があるから私はこの国の麗しき姫なのよ!」
正直何が言いたいのかよくわからないが、話を続ける。
「そうか、じゃあその立派な城が無くなったら.....どうなるんだ?」
「なに言ってるの?頭わいてるんじゃないのかしら?そんな事あり得るわけないでしょう?」
「へぇ、じゃあ城見てみろよ」
ユウキが指をさす方向には紫色の煙
煙の出ている場所は城があった場所で間違いない。
「.....何よあれ?」
「見てればわかる」
そう言って火炎魔法LV2『火炎槍』を手に出現させる。
ちなみに火炎魔法とは...........
この世界には基本的な魔法が3っつある。
初級魔法と言われる属性魔法。
中級魔法と言われる特化型魔法。
上級魔法と言われる概念魔法。
この三つを全て炎系統に当ててみると。
初級魔法=火属性魔法
中級魔法=火炎魔法
上級魔法=爆炎魔法となる。
そしてこの初級、中級、上級にはそれぞれ個性がある。
初級は、失敗作と言われている。
それは何故か、例えばユウキのよく使う、『獄炎』は上級魔法と同レベルの殺傷能力があるが至近距離でしか当たらず、遠くから飛ばすことが出来ない。はっきり言うと実践向きではない。
他にも『ファイアーボール』は飛ばせば距離もあり、スピードも速いが魔物でも倒せるのはE〜Dあたりだ。
このように使い勝手が悪いのが初級魔法。
そして中級魔法は一つの能力において特化しているのだ。今、ユウキの使っている『火炎槍』は『ファイアーランス』の上位互換で、飛距離のみに特化している魔法になっている。
ちなみに火炎魔法を覚えるには火属性魔法をLV7以上にしなければならない。
ユウキはスモッグ石の爆破実験を行っていたらLVが上がり中級魔法を覚える事が出来たのだ。
(さあ、考えているとうりになってくれ、よ!........)
思い切り『火炎槍』握り、振りかぶる。
そして、城に向かって投げ飛ばした。
『火炎槍』は城に向かって炎をなびかせながら突き進み、空気を焦がすような音を立て、城に突き刺さった。
「ーーー」
その瞬間、城を赤い閃光で包みこみ、とんでもない爆音を引き起こす。
耳をつんざくかのような爆音、それが収まると一気に爆風が吹き抜ける。
爆風を耐えきり、城を見てみるとそこには完全に破壊された城跡だけが残っていた。
「......な!?なんてことしてくれるのよ!?あの城を作るのにどれだけ費用と時間がかかったか.......」
だいぶショックを受けているようで何やらブツブツ言っている。
その状態のアセロラを鼻で笑う。
もちろんアセロラに聞こえるように笑う。
その笑い声を聞きアセロラはユウキの事を恨みがましく睨みつける。
「なんだ?怒ってるのか?この程度で怒れるなんて幸せだな。今の内にその幸せを噛み締めておけよ」
親切にそこまで言ってアセロラのお腹に触れた。
「お前の美貌だっけか?その美貌でどれだけバケモノにならないか楽しみだ♪」
そう言って心底楽しそうに瘴気魔法LV1『状態異常付与』を行使する。
当然、付与する魔法は毒魔法と消化魔法だ。
前回、男達に付与した時はすぐに死んでしまったが今回は瘴気魔法のLVを下げ、すぐに死ぬ事が出来ず、なおかつ少しづつ体が腐り、溶けていくように設定した。
(さあ、どうなるんだ!!早く見せてくれお前の苦しみを!!)
そんなユウキの期待とは裏腹に
「何も起こらないじゃない!」
本当に何も起こらなかった。
「結局あんたには私を殺す力もないのね!!流石は愚王ね!!そんなんだから孤児院の子供達も助けられないのよ!!」
顔に笑顔を浮かべながらこちらを散々馬鹿にする言葉を並べる。
次の瞬間.....
「........え?........」
目の前に飛び散る鮮血、そして空を舞う自分の右手。
「あ、あぎゃ!?ーー」
「うるさいな♪」
悲鳴が聞こえた事に心底嬉しそうに言葉を放つ。
「それにしてもなんで瘴気魔法うまくいかなかったんだろうな?」
そんな事を口走りながら剣を振るい両手、両足を切断する。
「あがぁぁぁぁぁあ!?」
なぜこんな事をするのか、それは至極簡単な事、縄を解くのがめんどくさいからだ。
そのまま腕ごと切った方が早いと思ったからだ。
縄がきれて四肢を失ったアセロラが地面に倒れこむ、そして悲鳴が聞こえなくなった。
痛みのあまり気絶してしまったのだろう。
ユウキは倒れているアセロラに近づき髪の毛を掴み持ち上げる。
「ここからが本番だぞ♪」
凶悪な笑みを浮かべながら地下室に続く扉の入り口を開けた。
その中からは吐き気を催すほどの悪意と殺意、そして復讐心が込められていた。
「ようこそ、俺の部屋に♪.....」
地下に降りるための階段、一歩一歩歩くたびに絶望、悪夢がアセロラに迫っていった。




