第27話鬼神
少し中途半端な感じで終わっています。
すいません
城の地下牢に[カツン、カツン]と足音がこだまする。
誰かが来たのだろう。
その誰かの足跡はアセロラに反逆した者たちが囚われている牢屋を越えてさらに響いていた。
そして反逆者の中でも、人脈、強さ、権力をかねそなえている一番厄介な者をとらえている牢屋の前。
「あなたがグレモニア=バルザ将軍ですかな?」
男はそう言って牢屋のバルザ?を見下す。
声をかけられたバルザは、キッと男を睨みつけ、
「何の用だ?」
「おお、怖い怖い、そんな顔で睨まないで下さいよ」
余裕の表情でバルザを見下ろす、だがその目に嫌悪は映っていない。
「私は、あなたに憧れているのですよ?」
バルザは、馬鹿にされていると思い睨みに、さらなる力を入れる。
そんな様子のバルザを見て、やれやれと言った感じで話をし始めた。
「獣人の国の戦力では、圧倒的に不利、どんな者でも自分の命惜しさに逃げ出した、その中、たった1人で鬼魔王の軍勢に挑み、全滅させると言う偉業を成し遂げた、
それから、前王様に名字をもらい、さらに英雄、鬼神バルザ、と言う名誉な称号を手に入れた、まさに伝説の人物、このような素晴らしい功績をあげた人物に憧れないわけがないでしょう?」
そう言ってニヤニヤと笑う。
「まあ、今では反逆者として、投獄中ですがね」
面白そうに牢屋の中のバルザを見る。
「そんなあなたに、とってもいい話があるんですよ、上手くいけば牢屋から出れますよ」
「なんだ?」
「奴隷として売り出された子供達がある協会に潜伏しているとの話がありましてね、そこの調査に行ってもらいたいんですよ、当然居た場合連れ帰って下さい」
「もし断ったら?」
「あなたが一番よく分かっているでしょう?あなたの妹さん、いや自称妹さんがどうなる事やら、奴隷として売り出されるかもしれないですし、もしかしたら、もっとひどい事に........」
「バキッ」
男が「ひどい事になる」と言おうとするとバルザが牢屋のの石の床を思い切り殴りつけ、音を立てて割った。
それを見て興味深そうに
「やはり、投獄中でも、鬼神は、鬼神でしたね..............
では、私はこれで、あああと、扉は開けてありますので
教会の件をやってくれるのなら、牢屋から出て来てアセロラ様の前にいらして下さい、まあ、どうせ来るでしょうけれどね、あと自分の名前はクリムと申します。以後お見知り置きを」
そう皮肉のような言葉を残して、クリムは立ち去った。
牢屋に残ったバルザは、
「くそが」
と文句を言いながらも嫌々立ち上がり、妹の為に牢屋からでた。
♯
「カノン、よろしく頼む」
「分かりました、ほら、魔王さんも手を出してください」
「うむ」
そう言ってカノンは、幼女の手を掴む。
「では、いきます」
カノンは、手を少し強めに握り直し、スキルを発動させた。
すると、ユウキの腕が光を放ち始める
そしてゆっくりとカノンへ移り、幼女の腕に移って行った。
「出来ました」
そう言って、「ふぅー」と息をつく。
「少し無理をさせたか?」
「大丈夫です。少しこの無属性魔法の魔力消費量が多くて少しだるくなっただけですので」
どんな者も魔力を使いすぎると、体に気だるさや、吐き気、気持ち悪さ、酔い、などの症状を巻き起こす事が多い。
「カノンが大丈夫ならいいんだけどさ、きつくなったら言ってくれよ?」
ユウキがカノンを心配していると、
横で幼女がステータスを見てほっとしていた。
「うまく言ったようじゃの、これでひと安心じゃ...........少し主様にお願いがあるのじゃが」
「何で主様?」
ユウキの疑問に逆に首をかしげる幼女
「私は奴隷じゃぞ?お主が主人なのだからそう呼ぶのが普通じゃろう?それに、そこの赤髪の娘もご主人様と呼んでおるではないか」
当たり前であるかの様にそう言い放つ。
(まあ、こいつがいいならいいか)
「で?お願いって何?」
「私を名前で呼んで欲しいんじゃ」
名前?ああ確かに今まで散々幼女だの魔王だなと言っていた。
そんな事気にしなくてもいいだろうに。
「別にいいけどなんて呼んで欲しいの?幼女?メルリン様?クリスティーナ様?」
「なんで名前で呼んで欲しいと言っておるのに幼女がでてくるのじゃ!!あと様づけはやめろ!」
俺の例としてあげた名前の中に幼女があったのが気に入らず激怒する。
「じゃあ、メルリン.........いや、リンにしよう」
「うむ、まあいいじゃろう」
少し渋々といった感じでOKを出すリン。名前を文字られたのが嫌だったのだろうか?
「分かりました、では私もこれからはリン、と呼びますね」
カノンからも了承をえた。
こうして、ペット(奴隷)の魔王の名前が決まった。
「では主様、私はサキュバス達に計画書の事について話して来るからの」
計画書と言うのはこの前リンに見せた紙の事だ。
「ああ、頼む」
「任せておくのじゃ」
そう言ってリンが門を開けようと手を伸ばすと、逆に扉から開いた。
そこには大勢の獣人の傭兵。
大量の傭兵が教会の前で仁王立ちしていた。
「我々はアセロラ様の命令でここに来た。ここにいる獣人の奴隷をかえしてもらおうか」
そんなふざけた事をぬかす、威勢のいい男。
「なあ、主様?こやつら殺っていいか?」
それには、ユウキも同感だった。だが
「いや、待ってくれ、もしかしたら使えるかもしれない」
リンにそう耳打ちをする。
「何をコソコソ話をしている、早く奴隷を連れてこい!」
「何故お前らの言う通りにする必要がある?」
「何を言うか!これはアセロラ様の命令だぞ!アセロラ様の命令は、絶対命令!!どんな者でも従うのがこの国のルールである、だからさっさと奴隷差し出せ!」
そう言って、教会に足を踏みいれようとして来たので。
咄嗟に黒剣を取り出し教会の入り口ギリギリの地面に線を引いた。
「これ以上入って来たら殺す」
そう言うと、傭兵は鼻で笑い。
「出来るものならやってみろ、バカバカしい」
そう言って線より前に足を出した。
瞬間、首に向かって黒剣が無慈悲に降り抜かれた。
確実に首元を捉えたはずなのだが。
(手応えが、ない?)
ユウキが黒剣を振り抜いたが空を切ったように感じた。
驚き傭兵を見てみると、巨大な手に首を掴まれあぶくを吹いていた。
こんな事できる奴?いたか?、首をつかんでいる男を見てユウキは驚いた、何故ならそこには生前見知った男がいたからだ。
(な、なんでバルザがここに?)
黒と青を混ぜたような髪をした、鬼神がそこにはいた。
「おい、お前ら.........こいつらとの力の差も分からないのか?」
バルザは、傭兵達に説教を始めた。
相手の強さがどれ程なのかと言う事、
自分が助けなかったら死んでいた事、
そして、最後に俺でも勝てるか分からない、と付け加えると、
「あの鬼神でも勝てるか分からない?」
「俺たちはなんて化け物に........」
と怖がる傭兵達がいる一方。
「う、嘘に決まってる」
「そんな事があるわけがない」
本当の事を信じずに、ユウキに突っ込んで行く馬鹿がいた。
当然その2人は、線を越えたので首を切り飛ばした。
それを見た、他の傭兵達は真実だと確信して、恐怖のあまり逃げ出した。
「に、逃げろ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
「嫌だ俺はまだ死にたくない!」
悲鳴や叫び声をあげながら、バルザを置いて城に逃げていった。
教会の前には1人ぽつんと立っているバルザ。
「お前は逃げなくていいのか?」
「ああ、すまないが奴隷を連れ帰らなければいけないからな」
「お前はこの仕事をやりたくてやってるのか?」
ユウキのその言葉に首を横に振り、少し怒りの表情を作ると。
「やりたいわけないだろ、俺は嫌々やってるんだ、やらないと妹が殺されるからな......」
「なあ、お前はこの国の現状をどう思う?」
俺の言葉にバルザの眉毛が少し上にピクリと上がった。
「現状だと?」
「ああ、この国は今アセロラに全て私物化され、この国の全ての獣人が物と同じ扱いを受けてる、変えたいと思わないか?」
「どうして、そんな事を聞くんだ?変えたいに決まっているだろ!?だけどな俺には今そんな事をできる力がないんだ!!」
(良かった昔のバルザだ)
正直ホッとしていた、もしこの国の現状を見てなんとも思っていなかったらどうしようかとかんがえていた所だ。
「なあ、立ち話もなんだ、中に入らないか?お前の望んでいる事が可能かもしれない」
「そんなわけないだろうが.......」
「どうしてそう思う?」
「.........この国は昔から続いてきた伝統ある国で節制を厳しく管理している、悪い奴には法のもとによる裁きをってな、けどその裁きを与える法そのものが腐り落ちてる、詰まる所悪いことしてなくてもこの国で1番偉いアセロラが気に入らなければそれは悪なんだよ、法による裁きの対象だ......その法そのものにどうやって勝つ?どうして覆せるというんだ?この国を........既に俺の仲間もあいつの手中の中だ。
クリムに至っては何故か俺と敵対してる......もう一度聞く、どうするってんだ?」
「壊すんだよ、その法そのものを」
完全にいかれている答え、バルザからすれば最低最悪この国を滅ぼすと言っているような答えだ。
「何言ってやがる、そんなことすりゃあこの国の伝統の統制が......」
「そんなものクソ以下だ、投げ捨てろ」
いきなりの昔からの獣人の偉人たちに暴言を吐く、そんな事国に聞かれれば即処刑だ。
「はあっ!?お前伝統を捨てろだあ!?そんな事すれば.......」
「どうなるんだ?伝統ってのは元来幸せや、統制を取るため、国のためにやる事だ、だが今はどうだ?法に従い一切の異論を認めない、確かに裁判をやらない、大胆だがいい発想かもしれないな、だけど今その伝統のおかげでお前らは幸せなのか?もし幸せなら別にいいさ、俺はこの件から私情も全て捨てて手を引いてやるよ、けど幸せじゃないんなら伝統もプライドも全部捨てちまえ、そんなものに一切の価値はない!......さあこれが最後だ、俺と手を組むか、国が滅ぶか!選べ!」
「ッ!.....」
まだ頭を抱えて悩むバルザにユウキは先程のように荒々しくなく、優しげに。
「法なんて、伝統なんていくらでも作り直せる、失敗した伝統を壊すことに何の罪悪感があるんだ?お前の妹を痛めつけているのだってその伝統だぞ?国ってのは伝統でできてるんじゃない信頼や団結、その人達がいるだけでそこは国なんだ」
「..........わかった、ひとまず話を聞こう」
半ばユウキの迫力に押されバルザは、教会の中に入った。
ユウキは、バルザの目の前の席に座る。そして軽くキリアとして自己紹介をして、これから行おうとしている事を一部(復讐)の事を除いて全て伝えた。
「もしかしたら、これなら行けるかもしれない.......」
うって変わって先程の事を前言撤回してプライドも伝統も全て投げ捨てたバルザが希望を見つけたような声を出す。
「だが、どうやって城に侵入する気だ?」
「バルザは、なんのためにここに来たんだ?奴隷を連れ帰るためだろ?」
「そういう事か......俺が奴隷として城に連れて行けばいいんだな?」
「そういう事だ」
バルザは、教会にいる獣人の子供達を一通り見る、どの子も幼く幼稚だ。
「誰を連れて行けばいいんだ?」
「そこはまだ考え中だ.....本当はリンに行ってもらいたいが、リンは獣耳が無いからなー、やっぱりカノンにお願いするしか無いか」
俺のコップに紅茶を注ぎながら隣で話を聞いていたカノンを見る。
「カノン、城に侵入して貰ってもいいか?」
「別にご主人様のお願いなら断ったりはしませんけど、何をすれば良いんですか?」
「書斎を探してくれ、その中にある、隣国との戦争についての資料と、アセロラの裏の商売についての資料を取って来てくれ」
「じゃあ、バルザさんの妹さんは、どうやって助けるんですか?妹さんを助けてからじゃ無いとバルザさんが自由に動けないんじゃ......」
バルザの妹を人質に取られたら計画が全て終わってしまう。
「そう言えばそうだな.......バルザ、妹がどこに囚われているのか分かるか?」
「多分だが、城のすぐ隣に豪邸がある、そこの2階にある一番頑丈な部屋、通称鳥籠にいると思う」
「じゃあ妹は、俺が取り返しに行く」
その言葉を聞いてバルザが
「本当に出来るのか?」
と訝しむ。
「城のまわりは、常に傭兵が見回りをしている簡単に突破することはできない、それに豪邸の壁は俺が壊せない様に魔石を混ぜ込んだ特注レンガが使われている、それをどうやって侵入する気だ?」
魔石とは、稀に地下深くから採取することができる鉱物だ。
物理では、破壊不可能で魔法をぶつけると魔石に吸収されてしまう、最高級の盾や鎧などに使われることも多々ある。
それを壁に使われていては、さすがにユウキでも破壊する事は不可能だろう。
だがユウキには、考えがあった。
「大丈夫だ、任せろ」
妙に自信ありげにいう俺が怪しかったのか、少しこちらをジトーと見ていたが、
「分かった、信じよう」
と言い信じてくれた。
「決行日はいつにするんだ?」
「今日から3日後だ、出来るだけ準備を進めておいてくれ」
「俺は何をすればいい?」
「自分のやれる事をやってくれればいい」
「分かった、とりあえず俺は城に戻る。3日後の朝にこの教会にカノンちゃんを連れに来るからな、じゃあな」
そう言って門を出ていくバルザに
「ちゃん付けはやめてください」
とカノンが冷ややかに言ったのだった。
バルザが帰ったのを確認してから俺はカノンの手を取ると席を立った。
「カノン、今から服買いに行こうか。カノン大都で服を買ってからずっとその服だろ、新しい服を買おう」
「いいんですか?準備をするんじゃないんですか?」
「いや、これも準備の一種だからさ」
カノンの手を引き獣人の国の服屋にむかった。
ユウキが大通りに出ると、獣人達は全員道を開けている。
まるで怪物や化け物扱いだ、身体能力で一般的には人間より獣人の方が上なんだがな。
「そんなに怖いかな?人間が」
「それはそうだと思いますよ、人間に何かしたら奴隷にされると思っているのですから」
「まあ、それも仕方ないか」
そんな事を喋りながら大通りにある一番でかい服屋に入った。
次の投稿は、できれば3日以内に投稿します。




