第1話 最悪な目覚め
ふわふわとユウキは浮いていた。
いや実際には浮いてなかったのかもしれない、ただ何ともいえない、力が抜け落ちるような浮遊感がユウキの体を支配していた。
気持ち良いとさえ感じる、浮遊感-------だが突如それは終わりを迎えた。
いきなり体が言うことを利かなくなり、硬い何かに思いきり叩きつけられたかのような衝撃が体を突き抜けた。
「う...あ...」
その衝撃を受け、気持ち良さのあまり飛んでいた意識が、舞い戻ってきた。
意識が戻り、浮遊感が消え、体の感覚が体に戻ってくる。
重い瞼を開けると飛び込んできた景色は白い天井、見覚えのないその場所。
(いたた....ここは....どこだ?俺は死んだはず.....なぜ意識があるんだ?)
何故かとても動きにくく、気だるい体に鞭を打ち、周りを見渡してみれば。
そこは新築の小部屋のような場所で、大人である俺の倍はありそうな木のさくに囲まれている、そして近くにはおもちゃが散乱していた。
なぜ、こんな物があるのか?おもちゃで遊ぶような幼い子供がいるのだろうか。
そんな疑問が浮かんだがすぐに払拭した。
そんなことを考えている暇は俺には無い。
(とりあえずここからでないと)
木のさくから出るため立ち上がろうとするが、うまく立つことができず転んでしまう。
(こんなに力が弱かったかな?)
どうにか無理矢理に木のさくにつかまりよじ登る。
だがそこでバランスを崩しごろりと転がり落ちてしまった。
そのまま木のさくから出ると下にはふかふかとした感触の良いジュウタンがひいてある。
(このジュウタンはどう見ても一級品だな.....それにしては無駄にでかい気もするが...)
手でジュウタンを撫で品質を確かめる。
(あれはドアか...?)
辺りを見渡していると、部屋の隅に無駄にでかいドアがあった。
(なんでこんなに全ての物がでかいんだ?まさか巨人でも住んでんのか?)
そんな妄想交じりの冗談のような事を脳内で口にしていると、唐突に何の前触れも無くドアは[ガチャ]と音をたてて開いた、そこには.....
豚のように肥え太った体に、無駄にでかい背丈、まさに俺から見たら巨人だ。
その巨人の顔は忘れるわけが無い...いや忘れられるわけが無い....憎き憎きドルトンだ。
そのままドルトンは部屋に足を踏み入れると、ドアを閉めた。
妙に軽い足取りでドルトンは俺の前まで来ると.....しゃがみこみ吐き気を覚えるような、あの蒼白な笑みを浮かべた。
(な......)
驚き一瞬放心したが、すぐに怒りが心の奥底から込上げてくる、そして次にとても残酷に殺された子供たちの姿が脳に浮かび上がって....
(殺してやる)
怒りは明確な殺意へと変わった。
とても動きにくかったが無理やり足に力をこめて立ち上がり拳を振り上げ、とっさに殴りかかっていた。
しゃがみ込んでいるその顔に殺意のこもった一撃、だかドルトンはその拳をお遊びのように平然と手で受け取める。
そしてすぐにユウキの反応できない速度で脇に手を入れて抱き上げると.....
「ベロベロバァー」
と、変顔を浮かべたのだ。
(…………は?....ふざけんなよ挑発しやがって....死ね)
ドルトンのアゴに向かって、反らせた右足で殺す気で蹴りをたたきこむ。だが...
「元気な子でちゅねー」
といって足蹴りを普通にかわされてしまった、そしてそのまま抱きかかえられ、必死によじ登った木のさくの中に置かれてしまった。
せめて罵倒しようと[クソ領主]と言おうとした、だが
「あーー」
と言ううめき声がユウキの口から微かに漏れ出た。
何故だ、おかしい、言葉が上手くしゃべれない、何故か周りの物は大きい、それに力も圧倒的に弱い。
(どう言う....ことなんだ?)
いまどうゆう状況なんだ?自分の手を見ると、そこには小さな幼子の手が存在していた。
(ん?.......まさか.......いやいや、まだ確信はないし)
いやな予感が頭によぎるが、すぐに首を振った。
自分の体を確認しようと、鏡を見ようと木の柵の隣にあるクローゼットの鏡を覗きこんだ。
そこの鏡には白髪のとても幼い子供が写っていた。
(これ....本当に俺?...なのか?)
自分の体をあちこち触る。
(どうなってる?)
♯
しばらく考えた後、結論がでた。
自分が生まれ変わった?
そしてユウキだった時の記憶を持っていること。
そして最後に....くそ領主の子供として生まれた事。
(くそが!なんでこんな奴の子供としてうまれるんだ!)
心底腹が立ち自分の体が気持ち悪くなってくる。だが、生まれ変わった、という事実にユウキは心底感謝した。
(二度とあの過ちを犯すものか.....今度は奪って奪って!!あいつらからすべてを奪い取ってやる!!)
この二回目の人生の中、どれだけの復讐ができるだろうか.....そんな復讐対象達のみじめな姿を思い描いて、子供に似つかないような悲惨な笑みを浮かべた。
だが、復讐するにも今の自分のステータスを確認しなくては何も始まらない。
神がくれるという全人類に共通する加護、さてどれだけ俺は神に愛されているのだろうか.....
「あーあー」(ステータスオープン)
少し期待しながら言葉を紡いだのだが、呪いのように言葉がうめき声に変換されてしまう。
喋れるようになるまでステータスは見れない、その事実にユウキは軽くため息を吐いた。
(仕方ない、しばらくおとなしくしているか....)
ごろりと木の柵の中、体を横にするとそのまま瞼を閉じた。
眠りに落ちたユウキの頭の中には幸せな夢が広がっていた。
あの復讐対象達を苦しめて皆殺しにするという幸せな夢を.....
夢を、願望を、現実にするためにユウキは今日も生きていく。
文がまた少なくなってしまったので次は、長くします