第26話奴隷
あらすじを少し変更したのに気づいてくれましたか?
「決闘を始めるのはいいのじゃが、私は、何にスキルを当てればいいのじゃ?お主か」
「あそこの巨大な岩でいいだろ、あの岩をどっちの方が粉々に出来るかを競えばいい」
そう言ってユウキは、教会の裏の岩を指差す。
というか俺に技を撃ってみろ、即死だぞ。
てかお前は俺とお前との実力の差が分からないのか?
「ああ、いいじゃろう、だが本当に粉々に出来るかでいいのか?私が本気を出せば粉々になるどころではなく、岩を消し去れるぞ?」
幼女は、勝ちを確信したように俺に忠告をしてくる。
確かにその通りだ、消し去ってしまえばそれは最も粉々にしたといえるのだろう、できればの話だが。
「そんなに自信があるのなら先にやって力の差を見せてくれ」
小馬鹿にするように幼女に言ってみれば、ピクッと一瞬震えると、簡単に乗ってきた。
「ああ、いいじゃろう、そこまで言うのなら力の差をとくと見せてやろう!」
幼女は、勝利を確信したようでにやりと口角を釣り上げると、すたすたと歩いて岩に手を置くそして
「消えろ」
と静かに告げた。
だが当然ユウキが瘴気の固有スキルを持っているため岩が消えるわけが無い。
「.............?....!?なんで岩が消えてないんじゃ!?」
岩が消えていないことに幼女は、おののく。そしてそのあと、現実逃避をするかのように首を振り
「こ、これは、何かの間違いじゃ..........消えろ!........消えろ!..........消えろ!消えろ消えろ消えろー!!」
消えろと、叫びながら半泣きになっている。
この幼女は見た目が可愛いだけに俺が泣かせていると思うと少しだけ罪悪感がわいてくるが。
実際には化け物であることに変わりはない。
「な、何故じゃ、何故消えないんじゃ!わしはしっかりとお主の後を継いだはずじゃ.....やはりわしではだめなのか?」
そう言って悔しそうに下を向く、途中から何を言っているのかわからないが、ただ自虐をし始めている。
「お前がやらないんだったら、俺が先にやらせてもらうぞ」
ショックを受けている幼女を俺は冷たく切り離すように、岩のすぐそばで下を向いている幼女を手でどかす。
「しっかり見とけよ」
下を向いている幼女を上に見させる。
ユウキは岩に向かって手を置き見せつけるように幼女同様に
「消えろ」
と、唱えた。
ユウキが唱えた瞬間手が触れた場所から岩が黒く染まり、ボロボロと消え去った。
使ってみてわかる、これは崩壊というよりも腐敗だ。
自分が持っているはずのスキルを目の前で使われた幼女は、呆然としていた。
しばらくすると口から微かな声が漏れだす。
「何故...お主が、トニア...いや私の.....スキルを持っているんじゃ?」
「何故?お前、洞窟でダメージを受けただろ?その時にお前の固有スキル奪ったんだよ」
俺の説明を聞いた幼女は、震えながら
「う、奪った!?」
スキルを奪うという暴挙、それに現実味が無い、そしてそれができるという目の前の男。
少しぞっとした。
「こ、今回の決闘は、な、無しにしようぞ、私も今回は、見逃そう、だ、だからスキルを返すのじゃ......」
などと言いだす。
魔王様ともあろうものが震えている、それほどまでに大事なスキルなのか、それとも本当に俺に怯えているのか。
そんなこと知ったことでもないが。
「そうか、でもどうすれば決闘を無しにできるんだ?」
「お互いが、無しにすると言えば無しになるのじゃ」
俺が無しにする方法を聞いてきたことで、無しにしてくれると幼女はホッと胸をなでおろした。
撫でおろす胸もないように見えるが。
「そうか、でもそんな事をする必要は無いな」
俺のその言葉を聞いて幼女が反論をしてくる。
「今回の決闘は、お主がズルをしたでは無いか!こんな結果は無効じゃ!」
この幼女が言っている事は正論なのかも知れない、だがユウキには関係のないことだった。
「俺がズル?今持っている力で正々堂々やったぞ?それに大事なのは勝敗だ、そして勝ったのは俺だ、どうして俺にとって都合のいい事を無しにしなくちゃいけないんだ?」
「なっ!お前ぇ!?」
「さて、魔王様、確か俺が勝った場合、なんでも一つ言うこと聞くんだよな〜」
ユウキはニヤリと口角を釣り上げた。
♯
「やめろー私を引っ張るでない、手を離せー!」
今ユウキは決闘の報酬を叶えるため自分の部屋まで幼女を引っ張っていた。
「お主、私をどこに連れて行くきじゃ!」
「どこって俺の部屋だけど」
「お主の部屋に連れて行って何をするのじゃ.......まさか!体を要求する気か!?」
「いや、あり得ないから、お前みたいな幼女に誰が体なんか要求するかよ」
絶対にありえないと言うと「誰が幼女じゃー!」と叫んでくる。
抵抗する幼女を無理矢理部屋に押し込んだ。
「とりあえずそこに座ってくれ」
辺りを警戒しながらも、なんとか幼女は座ってくれた。
「じゃあ早速命令だ"動くな"これだけだ」
俺が動くなと言うと急に幼女の体がピクリとも動かなくなった。
「これだけでいいのか?」
「ああ」
(これが契約書の力か.....魔王でさえ抗うことができない.....それは置いといて、それよりさっさと済ませるか)
ユウキは幼女の後ろに回り込み腕をまくる。
そして右肩の服を少しだけはだけさせた。
「やっぱり体目的じゃないか!?」
失礼な勘違いをして涙目で訴えてくる幼女を無視して、はだけさせた右肩に触れる。
そして、あるスキルを発動させた。
ユウキの手のひらはほんのり赤くなっている。
「ちょっ!?熱い!熱い!熱い!熱い!」
俺の右手から広がった熱はリンの体に移り、赤く模様を残した。
熱がっている幼女に使ったスキルは、奴隷スキル『奴隷刻印』、盗賊を殺った時に偶然手に入れたスキルだ。
正直使う予定は無かったが魔王を奴隷にしたら使えるのではと思い使うことにした。
(それにしても、随分な痛がり用だな.....いたがってるのに座ったままなのは契約書の影響か)
流石に可哀想になったので、
「動いていいぞ」
と言って、すぐに奴隷刻印を押した場所に回復魔法『ヒール』をかけてやる。
「な、何をしたのじゃ?........」
何をされたのか分からず涙目でこちらに聞いてくる幼女。
「ん?奴隷にしただけだぞ?」
平然と言った俺の言葉を聞いて幼女は固まった。
しばらくするとピクッと動き。
「な、な、何を平然と言っておるかお主ー!?魔王を奴隷にしたじゃと!?」
「ああ、そうだよ、って言うかあんまり叫ぶな、うるさいから」
「これが叫ばずにいられるかー!普通こんな事あるわけがない事じゃぞ!?」
「ん?普通のことだろ?人を奴隷にしただけのことだぞ?」
「それは、お主の普通の基準がおかしいんじゃ!それと、私は人ではない魔王じゃ!」
今にも噛みつきそうな勢いで怒鳴り散らす。
「とにかく、奴隷契約を破棄するのじゃ!」
その言葉にユウキは首をかしげた。
「え?いやに決まってるだろう、奴隷契約を破棄して俺になんの得がある?それとも他に奴隷契約を破棄する理由が?」
本気で意味が分からなそうにユウキは幼女を見つめた。
流石にその目を見て魔王も理解する、こいつ冗談じゃなく本気で言ってやがると。
ど、どうすれば......
不安そうに魔王の中にはそんな言葉が浮かぶ、そして気づいた。
ならば、魔王を奴隷にするよりも素晴らしい物を上げればいじゃないか、と。
「そうじゃ私の宝をやろう!金銀財宝全て!さらに黄金の魔道具まで!......どうじゃ?欲しかろう?...分かっておる、わしはちゃんと約束は守る女じゃ、ほらぼさっとしてないで奴隷契約を破棄.....」
「別に興味ないぞ」
勝手に一人で盛り上がって、勝手に頷いて、勝手に奴隷契約が解除されると勘違いしていた魔王様に容赦ないユウキの一声。
「だ、だったらお主は何を望む!?金か!?女か!?地位か!?.....女ならサキュバスを食べても....」
「いらない....それにお前に頼み、というかお前が言ってる風に言はせてもらえば望みがあるんだよ」
幼女の最低な裏切り行為、自分の部下を食べていいですよ、と差し出す上司。
誰の目から見ても最低だ。
これ以上変な疑いをかけられる前にユウキは魔王の言葉を遮った。
「な、何を頼む気じゃ?」
自分の体を抱きしめながら、警戒を色濃く浮かべる。
「そんなに警戒しないでくれ......これを見てくれ」
アイテムポーチに手を突っ込むと、中に入っている紙を一枚取り出し幼女に手渡した。
その紙を見た瞬間幼女の顔が驚愕の表情に変わる。
「これ.....本気でやる気か?」
「ああ、その通りだ、そのための材料や場所もろもろを手に入れてきて欲しい、魔王ならそれくらいできるだろう?」
挑発的にそう口にすると、鼻で笑われた。
もうその挑発には乗らないという意思表示だろう。
「確かに配下に頼めば時間はかかるだろうが出来るかもしれん、だがそんな事をしてわしに一体なんの得がある?」
「奴隷契約の破棄と、復讐を手伝ってやる、それと瘴気LV1まで返してやる。これでどうだ?」
これは契約だ、というかこうしておかないといろいろとまずい、今奴隷契約をしている時点で幼女は俺に手を出せない、だが配下の者ならば俺などひとひねりだろう。
だが、その作戦を今幼女たちはとることができない、理由は俺が固有スキル瘴気を持っているからだ。
もしこのまま俺を殺せば固有スキルごと消える。
ならどうするか、それは簡単だ、俺に固有スキルを戻させてから殺すのだ。
そのための商談、だが俺だって簡単に殺られるつもりはない、当然それまでに強くなりこちらが亡ぼすつまりだ。だがどちらが先に条件を満たすかといえば、当然魔王だ。
だから俺はそれまでにこいつらをやり過ごす方法を模索するのだ。
「それでいいじゃろう、だが瘴気LV5まで返せ」
流石にLV1では使いがってが悪い、魔王から反論が上がる。
「LV2でどうだ?」
「LV3」
そう言って幼女は、こちらを睨みつけてくる。
これだけは返してもらうと言う意思表示が見て取れた。
「仕方ないLV3まで返すよ」
「よしっ!」
幼女は嬉しそうに、ガッツポーズをした。
♯
獣人の国の真ん中にそびえ立つ大樹、その樹に寄り添うように建てられた城にはアセロラと言う姫が住んでいた。
アセロラは、まさに傲慢を表したような姫だった。
そんなアセロラは今、豪華なソファーに体を横たわらせて、四つん這いになっている物に足をのせていた。
アセロラはすぐそばの机に置いてある、ハーブティーを手に取り口に注ぐ。そして、
「ふぅー」
と息を吐いた。すると、ドアから[コンコン]と言うノック音が響く。
「入りなさい」
アセロラの声が聞こえたのを確認してから、傭兵は恐る恐るゆっくりと扉を開けた。
中に入るなりアセロラの目の前までくると、ひざまづいた。
「夜分に失礼いたしますアセロラ様。どうしてもご報告したい事がございまして」
「何かしら、言ってみなさい」
そう言って足元の物をグリグリと尖った靴で押さえつける。物は悲鳴を上げないように必死に堪えていた。
「実は、先程見回りをしていた者達が、もう誰も居ないはずの町の教会に明かりがついていたとの報告がありまして........もしかしたら、奴隷として売り出された者達が何らかの方法で戻って来たのでは無いかと........」
その言葉を聞いた瞬間アセロラは、その場に立ち上がり足元の物を思い切り蹴飛ばした。
「がっ!?」
物の腹には深々と靴がめり込んでいた、内臓をやったのだろう口から血を出し転げ回っている。
「何をしているの?あなた達の仕事は、奴隷をしっかりと売り出す事でしょう?あなた達は、誰のおかげで奴隷にならずに済んでいると思っているの?」
傭兵は冷や汗を流す、もしこのまま機嫌が悪ければ自分は奴隷行き、目の前の物、こと獣人と同じ運命をたどる可能性がある。
そう思うと冷や汗が止まらない。
「そ、それは、もちろんアセロラ様のおかげでございます」
「なら、しっかりと仕事をしなさいな、じゃないと、次はあんたを売り出すわよ?」
「はっはい!分かりました、しっかりとアセロラ様の御期待に応えられるよう頑張らせていただきます」
まくしたてるようにしてさっさと部屋から出ようとしたところ、アセロラに呼び止められた。
「あっそうだ、そいつ片付けといて、もう使えないみたいだから」
そう言って口から血を吐いている物を指す。
「ま、まってく、ださい、わ、私はまだ大丈夫です、だから!どうか、どうか!捨てないでください!!」
涙ながらに必死に叫び頭を地面にこすりつける。
それをアセロラはごみを見るような目で一瞥し。
「家具が何か、言ってるわ。うるさいからさっさと捨てなさい」
「はっはい!ただいま」
慌てたように傭兵の男は獣人の首を掴み部屋から連れ出そうとする、がまた呼び止められた。
「あと、教会の事だけどあいつを連れて調査をして来なさい」
「あいつとは?」
「獣人の国最強の男の事よ」
「分かりました、ではゴミ捨てに行って来ますので私はこれで」
そう言って傭兵の男は獣人を引っ張って扉から出て言った。
傭兵の顔には恐怖が刻み込まれていた。




