第13話カノンの壊れ方2
こんな毎日が2年間続いたある日。
カノン14歳の秋半ばごろ。
私は、いつも通り学校に向かい、学校に着き自分の席にすわる。
いつも通り授業が始まるまで黙って座っている、まるで機械のように二年間同じことを繰り返してきた。
ただ唯一毎日違うのは...
「おはよう」
私に声をかけてくれたのは、ユウカちゃんだ。
結構前からユウカちゃんとよくしゃべるようになり、このしゃべる内容だけは毎日違った。
そして、生きていると実感できた。
「おはよう」
あいさつを返し今日もいつも通りユウカちゃん話をした。
今日は、1時間めから4時間めまで体育のテストだった。
テストの内容は、至極簡単なことだった。
クラス12人だけで森に入りゴブリンを5体倒すだけだ。
支給品として、レザー6級一式の装備、それと武器が各種一式のうち好きなものを一つ。
私はレザー装備を手に取り着る、そして武器の中から短剣、レンザダガー6級を二本取ると腰につけた。
先生からの注意事項を聞き、終わると早速テストが始まった。
全員で森の中に入っていく。
みんなパーティーを組んだりしているが、私は1人で森に入っていった。
そもそも私とパーティーを組んでくれる物好きな人間、又は獣人などいないからだ。
森に入るがゴブリンが全くいなかった。
私はよくいじめでこの森に行かされることが多かったから、ゴブリンからの隠れ方、息のひそめ方などを身に着け【隠密】スキルを手に入れていたので隠れて後ろから首を切ろうと思っていたのだが。
本当にどこにも見当たらない。
(おかしいな、ここはゴブリンの森と言われる位ゴブリンが多いのに)
よく見かけるゴブリンがいないことを不思議に思いながらしばらくの間森を探し歩いた。
しばらく探し歩いていると、
「"あああああ!?ー"」
と言う悲鳴が森の中に響き渡った。
私は、とっさに悲鳴の聞こえた方向に向かって走り出す。
そこには、ユウカちゃんと私をいじめていたグループの人達が30匹位の
ゴブリンに囲まれていた。
その内の1人の人間の子が腕を切り落とされていた、だが案が一は出ていない、これなら助かるだろう。
(さっきの、悲鳴は、この子か。もし、ユウカちゃんがいなければ見捨てていたのに.....)
仕方ない、とゴブリン達と戦う決意をして二本の短剣を腰から引き抜いた。
「おい、どうすんだよ!」
「逃げるしかないだろ!?」
「でも、どうやって.....」
そんな話会いをしている中に私は、ある方向からゴブリンの首を短剣技LV2【フィジカルエッジ】で切り裂くと、真ん中に躍り出た。
私が来て、皆驚いているが、ただ一言
「逃げて」
そう叫んだ。
私が来た事でいじめっ子のグループ達が
「カノンを盾にして逃げるぞ!」
と、まあそんなゲスいことを言っている。
(まあ、逃げてくれれば私も逃げられるからいいんだけどね....)
とりあえず、飛び込んできたほうの道を開けてやると
「おい、あそこから逃げるぞ」
そういって私を置いて一目散に逃げて行った。
もう、全員逃げただろう、私も逃げようと振り返ると、そこで気がついた。
(え!?.....なんであの子は、逃げてないの!?)
最初に腕を切り落とされていた子だった。
慌てて逃げるように言おうと近づくと完全に泡を吹いて気絶していた。
(くそ、どうする?...)
今私には選択肢が与えられたのだ、見捨てて逃げるのか、それとも見捨てずに戦い続けるのか。
どうせこんな奴、助けたところで.....
そんな思いが浮かぶがすぐに振り払う、母さんが言っていた「困っていた人がいたら助けなさい」と。
頭に響き続ける言葉が頭から離れず、結局見捨てる事も出来ず、短剣を構えると一か八か戦う事にした。
♯
もう、すっかり真夜中だ、周りにはゴブリンの血の海。
その真ん中には、腕を切り落とされた少年と、身体中キズだらけでズタボロの私がたっていた。
「はぁー...はぁー...」
とても呼吸が荒い、
(つ、疲れた.........喉から血の味がする、身体もとても痛い、これから、どうやって村まで帰ろう)
考えてみる、だけど何も思いつかない。
朝の森ならすぐに出口が分かるのに、夜の森だと平衡感覚を失う
(とりあえず、あの子を背負って頑張って歩いて見よう...かな)
それしか、考えつかず、疲れているはずなのに、力を振り絞り森の中を闇雲に歩き回った。
どれだけ歩いただろうか。
身体じゅうが軋んで痛い。
近くにあったはずの村は、どこにも見当たらない。
それでも歩き続けた。
(み、見つけた)
村の明かりが見えてくる。
(あともう少しだ)
村の目の前まで来れた、だがそこで足が言う事を聞かなくなり倒れてしまう。
(後もうちょっと......なのに............)
そこで、意識が消えた。
ふと目が覚めると、首には冷たい感触、背中には無機質な床の感触が伝わってきた。
体を起こすと目に見えるのは鉄の棒。
そして見てみると首につけられているのは首輪で、ここは牢屋だと理解した。
(どうなっているの?)
どうして私が牢屋に入れられて入るのかが分からない。
そして今、どう言う状況なのか全く理解出来ずにいた。
結局あの後何がどうなったのか、普通なら声を出して確認するのが普通だが、カノンはそれをしなかった、そもそも誰かに助けてもらえるような生き方じゃなかったため、そこら辺の感覚がマヒしていたのだ。しばらくしていると、歩く音が牢屋の外から聞こえてくる、顔をのぞかせてみると見えたのは村の門番役の男、牢屋の扉を開けると。
「出ろ」
そう、私に一言言ってくる。
ここで喚いていても仕方ないので、言われた通り出る。
牢屋から首輪のチェーンを外すと、それを引っ張り階段を上った外に連れていかれた。
外に出てみると、処刑台が2つ設置されており、そこには母親と父親がいた。
(なんで?どうして父さんと母さんが処刑されようとしているの?)
意味が分からない、私が戸惑っていると、門番が
「ここに座れ」
そう言って処刑台の前に座らせられる。
私が座ったのを確認してから村長が処刑台の上で演説の様なものを始めた。
「この夫婦は、獣人と人間のハーフの子供を産んだ、悪魔の夫婦だ!
そして、その子供が今回の学校のテストによるゴブリン退治の最中に仲間が窮地に陥ったとき仲間を見捨てた。さらに、逃げるな、と止めた私の孫の腕を切り落とした。
そんな残虐非道な事が許されていいのだろうか!」
そんな村長の言葉に処刑を見に来ていた村人たちは、
「悪魔の夫婦を殺せ!!」
「そうだ殺せ!」
「一家全員皆殺しだ!」
「「「殺せ、殺せ、殺せ」」」
そんな村人の殺せコールに、私は、
「ふざけないで、私はそんな事して..........むぐー!?」
門番に口を抑えられる。
また、村長が話をする。
「そして決めました。夫婦には、悪魔の子を産んだ責任を死をもって償ってもらいます、そして悪魔の子には、人間の奴隷として売り障害苦しんでもらおうと思います!!皆さん!!罰は、これでどうでしょうか」
「うぉーー!!!」
「そうだ、それにしろー!」
村人からは賛成の声がする
「では今からここで悪魔の夫婦を殺したいと思います」
「うぉーー!!」
「おい、クズども言い残したいことは、あるかね?」
「1つだけ.......カノン、辛い思いさせてごめんね」
母親は、ニコッと笑って、
「殺れ」
その、村長の一言で母親の首と父親の首が私の目の前に落ちた。
私は泣きわめきたいのに口を抑えられていて喋れない、ただ涙が溢れ落ちる。
(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、)
ずっと心の中で悔しさをかみしめる。
この時、私の中の決定的な1つ目の何かが壊れた。
村長が私に向かって
「そいつは、奴隷商人が来るまでの1週間牢に閉じ込めておけ」
私は最初の牢屋に連れていかれた。
檻に入れられてから、私は1人になった、そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!」
泣き叫んだ。ひたすら泣いた、自分のふがいなさを、自分の役に立たなさを、かみしめながら叫んだ。
のどがおかしくなるほどに、ただひたすら叫び続けた。
奴隷商人が来るまであと1日になった。
6日間は、ずっと泣き叫んでいたが、6日間の間でだいぶ心の整理が出来た。
どうにかして逃げようとしたが、結局諦めるしかなかった。
(奴隷にされたら、楽に殺して貰えますように)
そう、祈る事しか今の無力な私には出来なかった。
諦めて檻の中の隅にまるで死んでいるように横たわっていると、檻の外にユウカちゃんが見えた。
私はとっさにたすけを求める。
「ユウカちゃん助けて」
そんな私の言葉に首を傾げて
「何言ってんの?」
その言葉に思わず
「えっ..........」
動揺の声がでる。
「いや、あんたがここに入れられたのは、私が村長に嘘の事を言ったからだよ?それにあんたがいじめられてたのは、私が裏で虐めるように指示したからだよ?分かってんの?」
その言葉を聞いて私は完全に固まってしまった。
「ど........どうして?そんな事を?」
「何そんな事も分からないの?あんたが嫌いだからに決まってんでしょ」
「でもあんなに仲良くしてくれて」
それを聞いて爆笑するユウカ、憐みの目まで向けてくる。
「仲良くしたフリをした方がお前の惨めな姿が見られるからだよ、
なんで今言いに来たのかわかる?明日になったらいなくなっちゃうじゃん、
だからその前に最後に惨めな姿を見ようと思ってね、じゃあな、せいぜい苦しめクソカノン.....
あっそうだ最後に聞きたいことあるんだった.....お前生きてて楽しい?」
ユウカそう言って私の表情を見て散々笑うと外に戻って行った。
そして、このとき完全に私の中の何かが壊れた。
(絶対に、絶対にいつか...こいつらを、この村の奴らを殺してやる)
そんな復讐心がカノンに芽生えた。
次の投稿は、明日かあさってになります。




