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復讐するため今日も生きていく  作者: ゆづにゃん
第十一章平和を求めて
135/137

第132話支配者 第133話力と力と、更なる力

今回は2話分を1話で投稿しました。

流石にこの長さを1話で表すのは少し変なので...


【お前は悪くない!今すぐその魔力を止めるんだ!】


自分が死ぬほどの、肉体が悲鳴を上げる程の魔力をため込み始めるユウキに霊鬼は慌てて止めに入る。


「俺が悪くない?何言ってんだよ...俺が馬鹿みたいに生き返って復讐なんて始めたのがいけないんだろ?...」


自虐を始めたユウキの瞳からは流れていた涙が止まっていた。

それは何度目かの馴れだった。

ユウキはそっとその死体を見る...見るたびに心臓が痛む。

痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて...激しい憎悪が身を焦がしていく。

あふれ出る魔力が吹き荒れユウキの姿が禍々しく変わっていく。


―なんで...いつも俺のせいで...俺の仲間は...死んでいくんだ?


もう嫌になってしまった。

復讐の為なんかにこれ以上苦しみたくなかった...


サイコロのようにただの世界の気まぐれで死んでいく。

なんて...世界のせいにして...本当は自分のせいだと分かっているんだ...


自分が何もしなかったからだ、気づけないからだ、動かなかったからだ...

自分も幸せになりたいとそんな甘いことを考えて立ち止まった、自分の生きてきた道を振り返ってしまったからだ...


もし俺が、振り返ることもなく殺戮を続けていれば、こんな風に無様に隙をさらすこともなかったんだ。

...仲間が死んでしまうことは無かったんだ...俺の前から消えてしまうことは無かったんだ...


【...君は...負けを認めるのか?この理不尽な世界に負けを認めるのか?】


脳内がうるさい...

俺の嫌なことばかり言ってくる...じゃあどうしろって言うんだよ...

心のうちに投げかけた言葉は怒声とともに口から洩れていた。


「じゃあどうしろっつうんだよ!?...どうしたら妹は、カノンは、ミキは、フィリアナは...ツバキは生き返る!?いってみろよ!!」


怒りよりも悲しみに、感情に体から異音が走る。

もう全てを破壊してしまおう、怒りに絶望に魔力が荒れ狂い、ユウキの体からエネルギーが漏れ出て。

ユウキの怒声と共に、魔力の塊は雷のごとくあたりの地面を、生態系を破壊した。


「なッ!?回避!!」


もうそこは森じゃなくなっていた、ただ草一つ生えない地面が広がる場所だった。

それを見ただけで霊鬼の脳裏にはこの国一つ、ユウキが怒りで滅ぼす光景が浮かぶ。

霊鬼は奥歯をギリッと鳴らして、暴論を叫んだ。


【甘えるな!!】


それは怒鳴り声だ。

頭に響く怒りの言葉...


【君の仲間が死んだのは君のせいだ、全て君が悪い!】


それはとんでもない暴論だった。

そんなこと霊鬼も分かっている、それでも今壊れればユウキは二度と立ち直れない。

だったらこれしかない。


【君の仲間が勝手にここにきて死んだのは君の管理不足だ、もし死んでほしくのないのなら監禁でもしておくべきだったんだ!!】


「...なんだよ...それ...」


【本当に生きていてほしいのなら...それくらいするべきだったといってるんだ...】


絶対に無理なことを殴りつけるように言い続ける。

それは暴論なんてものじゃなかった、だが今ユウキに目標を与えなくては...本当に死を選ぶだろう。


【そんなこともできないのなら仲間なんて作らなければよかったんだ...】


「...そうか」


【それなのに君は仲間を作ったんだよ!しかも死なせた!だったらしっかり責任をもつべきだろう!?】


「...何が言いたい?」


【生き返らせるくらいしてみせろって言ってるんだよ!!】


それが絶対に達成できないことだったとしても...いずれ自分が恨まれることになるとしても...

だが...霊鬼は分かっていなかった...この男のイカレ具合を。

今まさにとんでもないことを考えている事に...


(...どうすればいい...頭をまわせ...)


また失う...嘆く前に行動するべきだった霊鬼にいわれようやく正気に戻る。

いや正気に戻ってはいなかった、正気なら死者を生き返らせる方法など考えるわけがなかった。

直後ユウキは跳ねた、ユウキがいた所の地面は斬撃のように深くえぐられる。


「ちッ...お前キリアだな?よくあの化け物から逃げてこれたなぁ?」


ナイフを片手にノーバンは余裕そうに笑みを浮かべたが...ユウキの瞳は殺意にあふれていた。

今にも殺したいという思いにあふれ、まるで瞳はギラギラの刃物のようだ。


「お前か?...」


【待つんだ!ユウキ!!】


莫大な魔力、無自覚に殺意にあふれたせいかリミッタ―が外れ霊鬼の魔力さえも吸収し自分の物にし始めている。

兵士たちは一瞬で悟、勝てない...

体が勝手に震え始めた...


「.....逃げませんか?」


一人の少女がポツリとつぶやく。


「もう無理だ...囲まれた...」


ユウキが手を広げ辺り一帯に広がったのは重力の幕、ユウキが指を振る、それだけで重力が至る所から体中に叩きつけられた。

体が吹っ飛び多少ダメージが通るが大したことは無い。

ノーバンも、他の廻来教の人間も普通に対応してくる。


「この程度かよおい!展開霊装・来やがれ【死神】!」


地面が割れそこから黒い光が漏れ、出てくるのは二本の鎌だった。

大きい漆黒の刃、持ち手の下には鎖でつながれている。

それを手にすると一気にノーバンの力が増大したのを肌で感じ取れた。


「いくぜッ」


一歩踏み出したその時、ノーバンの体が消えユウキの手とぶつかり合い衝撃波が木の葉を揺らす。


「ッ!?...よく止めたなぁ...」


地面を蹴るとノーバンの姿が消えて、無数の斬撃がユウキを襲ってくるが全てユウキの手が防ぐ。

その一遍たりとも廻来教の兵士たちは見ることが出来なかった。


「よくしのぐじゃないか!...それもいつまで持つか...ッ!?」


そんな強気な態度はすぐに掻き消えた...

ユウキが小さくこうつぶやく。


「...くたばれ」


右手があり得ない速度でノーバンの顔面を掴み上げる。

必死にもがくノーバンに向けてそっと自分の額を向けた。


「ごみクズが」


ユウキの角の間から高密度の魔力がたまり、瞳が赤黒く染まる。

瞬間、逃がさないようにつかんだノーバンをエネルギーの閃光が焼き払った。

着弾した所からエネルギー波が辺りを吹き飛ばす。

閃光の煙が晴れるとユウキの手首がなくなる、まあすぐ生えてくるが。


「...お前...正気かよ!?」


ノーバンに左腕は無かった。

そして俺には右手首から先がなく、あまりの魔力量に自分の顔にひびが入っていた。


「てめぇ...そのバカげた力を使いすぎたらどうなるのか分かってんのか!?自分の存在ごと消えるぞ!?」


ひび割れた頬が、破片となって崩れ砂のように散っていく。

それは命の代償。

何百万年貯め込まれていた霊鬼の魔力を使うための代償だ。


「なんで...お前を殺せる力があるのに救えないんだ?」


ノーバンを圧倒しても心の中に感じるのは、ただの虚無感。

結局自分が何も救えなかったという事実だった。


「お前を殺せば俺の気分は晴れるのか?なあ、教えてくれよ」


渦巻く憤怒、渦巻く殺意、渦巻く悲しみ。

多数の負の感情がユウキの中で暴れまわり、それを体内に息づく【永遠】霊鬼として顕現した。


【...魔法やスキルは全て感情により制御される...そして使い手の負の感情が多ければ多い程魔法とスキルは強力無比なものに変わる...だから...今のユウキには...―】


ユウキの体から灰が吹き荒れ、霊鬼の姿はおかしいものに変わった。

それはいままでとはまるで違う。

復讐を目的としたものではない、ただの殺戮を目的とされた力の権限だった。


【誰も勝てない】


今までのユウキの姿とは一遍。

白い白いローブに身を包んでいた。

髪の毛は白から蒼黒く、瞳には深い模様...頬には蒼い謎の紋章が...


「なんだ...その姿...」


「なんだこれ...霊鬼になれない...」


【これが君の臨んだ姿だ...殺意にまみれた力さ...もともとあの霊鬼は私の力を使っていたに過ぎない、その力を君が...【永遠】が染め上げた...黒く、それでいて白く...】


どうすればここまでの力の権化になれるのだろうかと、ノーバンはただ疑問を浮かべる。


【それでいてまだ、ギフトが残っている...君は本当の化け物に成り上がったんだね】


兵士達の頭には一つ、考えが浮かぶ。


「...ッ!?...嫌だ...帰りたい」


それは【逃走】、この場にいるだけで頭が痛くなる、腰が抜けてしまう。

だがノーバンにはまた別の思考が浮かんでいた。


(最高だ!...)


「俺はお前を尊敬するぜ!俺の全てをかけて殺すに値する!!...この世界は殺し合いこそが生きる意味!俺の生きる糧になる!」


「...そんなことどうでもいい...どうして死んだと思う?理由を教えてくれ...」


もう俺には考え付かなかった。

どうすればいいかは分かっているんだが、どんな力を望めばいいか...分からなかった。


「あぁ?そんなのお前が間に合わなかったのがいけないんだろ?」


間に合わなかった、ノーバンの言葉が酷く胸を打つ。


「んな事どうでもいいだろ!?さぁ!!俺と殺しあおうぜ!!」


(その通りだ、俺が無能だったんだ)


あの時間に間に合いさえすれば...皆助かった。


―そうだ...間に合えばいいんだ...


「そうか...間に合わせればいいんだ...」


ユウキは自分の体にとてつもなく分厚い魔力の壁を張り巡らせる。


辺りから吹き荒れる魔法など全く意に返さない。


その状態でユウキは目をつぶると、思考にふけり始めた。

自分の世界に入り始める。

その思考によってできた幻覚の真っ白い世界の中、目の前に白髪の霊鬼がいた。


【君は...私は君の事を尊敬するよ...君は...本当にかなえてしまうんだね】


にこやかにほほ笑む霊鬼は嬉しそうに、それでいてこれから起こる未来を想像して悲し気に微笑む。


「そうだ...間に合わせればいいんだよな...」


俺は心の底からギフトに願った。


―俺は...もう一度やり直したい...どんなに惨めだとしてもやり直す力が欲しい。


その言葉にギフトは反応する、そしてどのような力を望んでいるのかギフトは問い始める。


―もう一度同じ運命に流されることを望む?


―違う、俺は...また別の運命に...変えたい


―それは世界の常識への反逆?それとも...?


―.....俺は...この世界の常識を...【支配】する...自分の意のままに操る事を望むッ!


そして心臓が跳ねた。

頭の中でひたすら文字が浮かび上がる、高速で脳内を駆け巡る。


―了承、スキルを発現。刻印を刻みます。


右手の甲に白い、古代の象形文字【クロノス】が刻まれた。


自分の世界から戻り目を見開くと、魔法の嵐がユウキを襲っていた。

その状態、魔力の壁を解くとその凶悪な魔法を受けながら指を天高く上げ叫んだ。

もう一度、と。

自分の唯一の願いを叫んだ。


「...俺の全魔力で時を支配しろ!【クロノス】ッ!!」


「時を支は...!?―」


ノーバンの声を置き去りにし、クロノスの紋章が光り輝き光が天に上った。

瞬間景色が灰色に包まれた。

動き始めたノーバンが止まる。


ユウキだけが動ける世界で、目の前に時間が出てきた。

右には+左には-...-のボタンを押すとそれだけ時間が巻き戻り、+を押すとそれだけ時間が進んだ。


最大限-を押していくと灰色の世界も戻っていく。

自分が空に浮かんでいくとそこで急に止まった。

その止まった景色は最悪の瞬間だった。


(...なんで...ここまでしか...)


その状況は、カノンが、ツバキが、ミキが、死にかけている瞬間だった。


「くそッ!!」


-のボタンを叩きつけるが、全く動くことは無かった。

すると目の前に10の数字が出てきた。

それはカウントダウンのように9...8...7と減っていく。


(時間制限か!?...この距離...どうすればいい?)


少し前の黒髪八割、白髪二割の霊鬼の状態でどうやる?

魔法で間に合うわけがないそもそも魔力は零だ。

だからと言って斬撃でも放つか?当たるわけがない...どうすればいい?どうしたらいい?

考えている間にカウントは5...4...3...と減っていく。


(今手を届かせなくてどうする!?...届かないなら俺に生きる意味なんてない!意地でもつないで見せろよ俺!)


無理矢理思考を巡らせるが、魔力零の今の俺にできることなんて限られてくる。


(...俺にできるのか?...)


その時...3...2...1カウントダウンが進み、カウントは0になった。

瞬間霊鬼は全く別の、先ほどの謎の姿に変わった。


「やってやるッ!!」


【本当に時が戻って...ッ!?君は一体何をやってるん...―】


脳内の言葉など置き去りにして、ユウキの姿が霞んだ。

それは空気を蹴飛ばした純粋なステータスによる速度、それでも間に合わない。


「くっそ!なんか出ろぉ!!」


叫んでも何か出るわけもない。

だが、何故かポーチにしまっておいた閃光石が腕の裾から飛び出た。

空で激しい光が起きて、一瞬兵士共の気を引けた。


「なんだ?」


「ん?」


その数秒は確実に命をつないだ。

だが、魔力がないせいでほとんどの攻撃手段を奪われている、唯一の頼みの綱は新しいこの俺の力。

どうすればいい?わからない、俺にはいったい何ができる?

間に合わせたいんだ...どうしても...


(もっと...速く!)


願うと両脚から翼のようなものが生えた。

それはユウキの願いに応じた結果の姿。

異常なほどの速度、風切り音がよく響いてその勢いのままカノンを殺した兵士の顔面を打ち抜いた。


「魔力!」


蹴り飛ばしたことによる魔力の入手に声を上げ、即座に右手を前に【ゲート】を展開...奪った魔力量では三つ、ミキ、ヒースミル、ツバキに飛ぶ大剣の所に一個づつだけだった。


「穿て!!」


それぞれとつながる目の前の【ゲート】に向けて、残りかすのような魔力を拳に込めた。

放たれるのはちょっとした衝撃波のようなもので、軽く兵士を転ばせる程度...


「ッ!?魔力が足りない!?...くッ!」


軽く飛び上がり近場の木を蹴りぬいた。

蹴った場所に深々と穴が開く、目の前に見えるのはよろめく兵士。

兵士に飛び込みながら体を一回転、無理やりそこで体を止めると勢いをつけて顔面を打ち抜いた。

すぐさま地面に倒れるカノンを抱きかかえて、もう一度地面蹴った。


「次!」


次に向かったのはツバキ、弾かれた大剣を手に取り遠くの兵士にぶん投げた。


「なッ!?【破魔】!」


飛んでくる大剣に兵士は闇魔法を放つ、飛ぶ大剣に呪詛が絡まり砕け散った。

そこで見えたのは...


「んなッ!?...げほッ...」


飛んでくる拳だった。

正確に顔面を打ち抜かれ後ろに吹き飛ぶ兵士、木を何本も砕いてようやく止まる。


「ユウッ!?ふぎゃッ!?」


走り抜けつつそのままツバキの背中の服を掴む。

最速で駆け抜けてヒースミルのもとへ...

消耗しきりながら化け物を必死に操っている、ヒースミルのもとで、近くに倒れているミキも回収。

その後立ち止まるとヒースミルの肩を優しく叩いた。


「ありがとうな...ヒースミル...」


「ッ!...あなたは...」


「あとは俺がやるから...ゆっくり休んでくれ...」


ぼやける視界の中見えたのは優しげな微笑み。

ヒースミルはそこで魔法を解除した。

闇からできた千手は雄たけびのような声を上げてちりじりになっていく。

倒れるヒースミルを抱き留め自分の後ろツバキに手渡した。


「ツバキ...皆を頼む」


「ユウキ...」


土を被ったノーバンが起き上がり、殴り飛ばしていた奴らもノーバンの後ろに集結しだす。

その数6人、そこらの冒険者などなら余裕な数だが、これが廻来教の兵士となると話が変わってくる。

つまり化け物一匹と、化け物の群れの戦いだ。


「...間に合わせてやったぞ、クソ野郎」


「あ?いきなり何言ってんだお前...」


「お前が負け犬だって言ってんだよごみクズが、さっさとくたばりやがれ」


「くたばるのはてめぇだ、展開霊装・来やが...―」


そんなことを言う暇を与えてくれるほどユウキは優しくなかった。

あの兵士たちのど真ん中にいるノーバンの足元まで接近、そのまま腹部を蹴り上げる。


「それはもう見た...」


地面から生えだす鎌の持ち手をユウキはつかむ。

本来なら使用者以外決して使えぬその武器、だが今魔力の戻ったユウキならばできることがある。


「...【支配】する...来い【死神】」


手にしたそれはノーバンの時とは違う真っ白い鎌だった。

これの利点は三つ、まず一つ相手の放ったものを支配するため魔力量が少なくて済む。

二つ、奪う必要がない、三つ、奪えない力も支配することで手に入れられる。

霊鬼に聞いた廻来教の兵士の中で中級兵以上の兵士からはどんなことをしたのか知らないがスキルや魔法を奪えないらしい。

だがこの支配なら、廻来教の奴らのスキルを自分の物にできる。


「...お前..何をした...」


「鎌がお前なんか主じゃないってよ」


鎌を軽く振り回してそう宣言する。


「てめぇッ!!」


投げ出されている状態で強引に体の向きを正し空を蹴る。


「何をぼーっとしてやがる!【略奪の魔法使い】の皆魔法だ!」


「【生命の略奪者】は殴りかかれ!!」


「おう!」


「ああ!」


殴りかかってくるその一撃一撃は地面を砕く。

ユウキは黙ってすべてを完璧にカウンターとして打ち抜いていく。


「吹き荒れろ【雨霰】」


「暴れて!【怒緑】」


吹雪の塊がユウキを襲い、地面から巨大な木の根が現れ横なぎにユウキを狙う。

それを難なく回避すると、上から【生命の略奪者】がユウキを狙っていた。

蹴りに、殴り、締め技。

身動きの取れない状態のユウキは向かってくる拳をまず回避、すれすれでかわし切ると、そいつの背中を蹴りぬいて後ろの奴に当てる。

その勢いに乗り、目の間の奴の腹部を殴り飛ばした...その時。


「捕まえた!」


後ろから絡みつく様に三人がユウキの腕と足を捕まえる。

ほどけないようにガッチリと腕も足も全身を使って。


「今だ!殺れ!」


足に絡みつく男が苦し気に叫ぶ。

ユウキは動けないことを理解して上を見上げた。

見上げると無数の魔法陣が展開されていて、その奥に紅黒い形状の剣を構えるノーバンがいた。


「ユウキッ!!」


慌てるツバキの声。

多数の魔法が爆風をまき散らし、金属音が響いた。

それはノーバンの剣と、ユウキの持つ【死神】の激突によるもので、その風圧が煙を吹き飛ばした。

その煙に紛れてノーバンとユウキは姿を消した。

だが至る所で火花が散っていることから激突しあっていることだけは理解する事ができる。


「お前も変な姿になったな...」


ユウキは自分と比較するように口にした。

ノーバンの右半身が、らせん状に黒く染まっているのだ。


「これは呪いだ」


最速の斬りあいを行い、どちらも傷付き合いながら会話を行う。


「呪い?」


「俺は殺せば殺すほど、恨まれれば恨まれるほど強くなる..んだよッ!!」


「ぅぐッ...」


両腕を引っ張られ腹部に凶悪な一撃が入る、内臓が悲鳴をあげなどに熱いものを感じた。

地面に叩きつけられ土が舞い、鮮血も舞う。


「せっかくだ、お前の記憶もいただくか...」


自分の右手首を折りちぎると、そこには柄があってそれをノーバンは引き抜く。

それはとてつもなく禍々しく、美しいナイフだった。


「カテドラルナイフ...こいつで斬られた場所は...」


実践してみようと振るわれたナイフを間一髪のところで回避。

深々と地面に突き刺さるナイフを抜き去り、いやらしく舌を出しながら説明を続けた。


「動かなくなるんだぜ...こいつに記憶を奪われるからなぁ...」


「記憶...」


「足を斬られれば、その足を動かした脳の感覚の記憶が消える」


「つまり...足の動かし方を忘れると?」


「話が早くていいな」


そんな事に何処か聞き覚えがあった。


(そういえば師匠の足がうごかなくなったのって)


浮かぶのは松葉杖を使い苦笑いを浮かべる師匠の姿だ。


「お前が原因か...返してもらうぞ」


ユウキの手に光のようなものが集まると、そこにはいつの間にか剣が握られていた。

それは剣というにはあまりに美しい。

陽がなめらかに剣を映し出す。


「ビューティフォー...実に美しいじゃねえか」


「なんだこれ...」


【君が武器を望んだ、だから出た...それだけだろう?】


「...やっぱり、この力の使い方がよくわからん...霊鬼の方が有能じゃないのか?」


あの布が凄く扱いやすかった。

あの布を使えれば、あんなに苦労する必要もなかったんだが...


「まあいいか...って...やばいな」


軽く素振りをするが軽すぎて、うまく扱えない。

そのくせ切れ味が凄すぎる。


「この鎌どうするか...収納出来たり...できたな...」


鎌が消えてしまう。

だがなんだがどこかにあるような感覚がある、やはり収納できたのだろう...多分。


「さてやるか...俺もいろいろ試したい、その後に死ね」


「いいねぇ...最高だぜ...お前は俺が命をとして殺し合うに値する!死ねやあぁぁぁあ!!」


咆哮、その後に鳴る金属音。

激しい斬りあい、闘争が始まった。


「例外者が...本気だ...」


「どうしてあんなに強いのかしら...お相手も化け物ね」


その争いを兵士達はただ傍観することしか出来なかった。


「なぁ、今の内にあのガキども捕まえた方が良くないか?万が一もあるだろ...」


「そうだな、あいつら程度なら捕まえられるだろ...よしっ!行くか」


兵士同士意思疎通を図るように頷きあうと、ユウキを見つめるツバキに向けて一歩を踏み出した。


「テメェら動くなッ!!」


瞬間の出来事だった。

ノーバンの怒声に目を剥いたとき、その時にはもう既に手遅れだった。

上を見上げると化け物が手をかざしていて、地面に叩きつけられたノーバンは必至に抜け出そうともがいているり

手をかざしているところから白い、純白の魔法陣が浮かび上がり、極大の光の雨が降り注いだ。


「う、うぁぁあ!?手が!手がぁ...」


「やめて...誰..か..たす.......け....」


「これは【聖雨】!?.....私の..魔法!?それも威力が段違いに強い...どう、して...?」


兵士がその雨に触れるたび体がドロリと溶け落ちていく。

これの持ち主の兵士が使った時の威力はせいぜい皮膚を軽く溶かす程度の雑魚スキルだと思っていたのに...

あの化け物が使うだけでこんな、最悪な魔法に変わってしまうなんて...

動いた者達全て溶かされ、ノーバンの声に気づいた兵士は生き残る。


「...あなたがどうして私の固有スキルを持っているのですか!?」


「さて、なんでだろうな?...魔法がお前の事嫌いになったんじゃないか?」


「何を!?...ッ!?」


「行かせませんよ...」


苛立つように前に出てきた兵士に対し、邪魔をするように降ってきた人影。

銀の髪を揺らし、尻尾を揺らす。


「私は殺しが嫌いです...けど、貴方達はそれ以上に嫌いです...私の大切な主人を泣かせる...そんな貴方達を私は殺したい」


その魔物を見た一人の強面の兵士は、前に出ていた兵士を後ろに下がらせ自分が前に出る。

しっかりとユウキが見ていないことを確認して。


「下がれ.....なんだ、お嬢ちゃんが相手してくれるのか?人の真似をしか能のない魔物風情が」


「食われるだけの人間風情がいい度胸ですね、さっきからお仲間さんがあっさり溶けてるのによくそんな偉そうな顔できるものですねぇ...厚顔無恥もここに極まれり、ですか....雑魚が偉そうぶってんじゃねぇよ」


ユウキの口調っぽく、煽ると額に青筋を浮かべ顔を怒りに歪ませる。


「女狐が程度が!!...死ね!!」


瞬間、男が鋭く加速。

妖狐に向けられた拳は、昔の出会った頃のユウキと同レベルくらいのもので...

だが妖狐は目をつぶってそれを回避、その腕をすかさずとって腹部を膝で蹴り上げた。


「なんだ...お前!?...」


「私は白狐、全てを見通す心眼の持ち主です」


開けた瞳には幾何学的な文様が浮かび上がっていた。


「我が主人に代わりに、貴様らの相手私がしましょう...どうぞ楽に...散ってください」


宣言した白狐の目の前に、天から美しい剣が落ちてきて目の前に突き刺さる。

上を見上げるとユウキが剣を手放していた。


「使え、俺には合わん」


「はっ!?よそ見してんじゃねえぞ!!」


遅いくるノーバンの剣に、咄嗟に作り出した黒くそれでいて重い。

いつもの黒剣・壊ではない、黒剣*桜花。

自分の血で染め上げた、黒の中に混じる桜のような血痕と流れるような血の筋。

その剣で斬り合いをまた始め会う。

ただそこで少しだけ不安を感じた。


(どうして...さっさと殺さないんでしょう?)


今のユウキの力ならすぐに殺せるんじゃないか...誰も勝てないだろう...なんて思っていたのに...


(攻めあぐねてる?...)


相手の体に纏う深い闇。

あれが空中において有り得ない動きを見せている。

勢いをつけて曲がれないはずなのに、いきなり曲がり曲がり曲がり。

しかも剣さばきも異常だ。

回転しながら穿つ、まるでドリルみたいな剣筋からいきなり丁寧な4連撃。

とんでもない強者だ。


「よそ見してんじゃねぇぞ!!【雷炎】!!」


放たれる魔法を一瞥もせずかわし、懐に飛び込むと剣で切り裂く。


「なッ!?」


「遅い...今の、主人の力を手にした私に勝ち目はありません...さっさと貴方達を片付けて主人の手助けに向かいますか...」


そう口にしたその矢先、だった。

上から溢れ出る魔力がとてつもなく膨れ上がり肌がピリピリと痛む。

本能が逃げろと囁いて、驚いて目を向いた先には激怒するユウキが...


「どういう事だ...!!」


地面に深く叩きつけられ、地面に埋まった状態のノーバンを強く踏みつけ、ユウキは怒鳴る。


「どういう事だと?...く、くくくくくッ!!」


「フィリアナには確かに息があったはずだ!...」


「分かってないな?...カテドラルナイフで切られた場所は機能をしなくなる...つまり...」


その意味がようやく分かった。

切られた場所は機能をする方法を忘れる...

最悪を想定して...慌ててツバキの隣に横たわるフィリアナに駆け寄る。

その口からは小さく息が漏れていた。

生きていることはわかる、ただ前髪を上げだおでこに傷ができていた。


「お前...ふざけるなよ...フィリアナの記憶を全て消したのか?」


「...く...くふはははは!!結局お前は妹一人救えないんだよ!」


ユウキは指先から【擬似・世界樹の雫】をフィリアナの額に垂らす...傷はすごい速度で治る。

今は確認できないが...記憶は戻っているのだろうか?

そんな心配をする俺をノーバンは嘲笑う。


「馬鹿が!!記憶の消去は人間として正しく機能している証拠だぜ?回復魔法で何を治すっていうだ?ん?」


「...てめぇ...」


「そこの女?...そんな息をするだけの人形に守る価値なんてないんだぜ?」


「何を言って!?...ユウキ?」


そっとフィリアナを抱きかかえ感情のない顔で平地の外に向かって歩みを進めた。


「どこに行く気っすか?...」


「リンなら...どうにかできるかもしれない」


「最悪の象徴『虚無の魔王』ねぇ...無理だっつーの...あの魔王がいくら力を尽くそうが治せるわけがねぇ...そもそももう死んでるようなもんだ...喋り方も、目の覚まし方も、体中の全ての筋肉が動かせない...あとは死を待つだけだ...く.ふ...くふははははッ!!」


―俺は今...どんな顔をしているんだろう...


心のうちの絶望が心臓を飲み込んでいく。

自分の見える視界が黒く染め上げられていく...やっと救えたと思ったのに...

時を戻して、自分が本当に化け物になってまで救おうとしたのに...


(また...取りこぼした...)


「う...あ...」


「ユウキ!しっかりしてくださいっす!!」


「いい顔だなぁ...キリア?...いや、ユウキか?」


眩暈に酷く襲われ足元がぐらつく。

自分の積み上げたものがすべて崩れていく音がした。


『「結局お前は何も救えないんだよ!」』


ノーバンの言葉があの勇者の言葉と酷くかぶる。

頭が痛い...もうやめてくれ...


「...消えてくれ...もう嫌なんだ...」


喜々として笑いながらノーバンは語りだす。

それは...ユウキが壊れる内容だった。


「...そうだ!教えてやんねぇとなぁ...あの妹、最後までお兄ちゃん、お兄ちゃん、ってお前を呼んでたぞ?かわいそうになぁ...」


「や...めろ...」


頭が痛い。

頭の中に流れるのはフィリアナとの楽しく、嬉しく、愛しい日々。

二度と帰ってこない日々...

嫌だ...止めてくれ...もう、思い出したくないんだ...

これ以上思い出したら...俺が...悲しくて寂しくておかしくなる...


「最後になんて言ってたと思う?...『ごめんね』だってよ!謝るべきはお前だってのになぁ!?」


その言葉が頭に残って離れない。

今まで、ここに来るまでに死んだ人たちの言葉がよみがえる。


―ごめん

―...ごめんなさい

―すまん

―許してくれ...

―ごめんね


(なんで...皆謝るんだよ...)


俺のせいで死んだのに...止めてくれよ...

どうして俺のせいで死んだ人たちは...皆最後に謝るんだよ...

...やめてくれよ...俺に謝らせてくれよ...


(俺を...おいて行かないでくれよ...)


手を伸ばしても、皆俺を置いて行ってしまう...

どうせなら...俺も連れて行ってくれよ...

もう...一人は嫌なんだ...


「フィリアナ...お兄ちゃんもう疲れちゃったよ...」


体にまとわりつくあの姿が塵のように溶けていく...


「帰ろう...ツバキ、妖狐...」


右手を振りかざして、ゲートを展開させると倒れているカノンたちを飲み込ませる...あとで開放すればいいだろう...


「え...分かりましたっす...」


「...主がそう言うのなら...」


フィリアナを抱きかかえたまま...一度学院に向かう...

だが、当然阻まれた...


「...何を言ってやがる腑抜けが...妹を実質殺した俺を恨むこともないのか?...」


「.....」


「はッ!最低な兄だな...もう、あの時感じた価値がお前にはねぇ...廃人が...」


「...お前が俺を壊しすぎたんだろ...」


「そうか...それは失敗だった...ただ、俺らもこのまま帰るわけにもいかねぇ...俺らはお前の首を持ち帰るように言われてるんだ...ッよ!!」


振るわれる剣、それは正確にユウキの首を狙ったものだ。


「させませんッ!」


その剣を妖狐は腰に差した剣を抜刀して打ち返す。

が、圧倒的なステータスの差に妖狐の体が後ろに飛ぶが...そっとユウキが抱き留める。


「......今俺がどうしてこう無心でいられると思う?...」


「.....は?...」


「いま少しでも力を使ったら...抑えられそうにないんだ...」


体の中に住む霊鬼がいま必死に俺の魔力を押さえているが...いま溢れ出せば...確実にこの国を亡ぼすだろう...


「じゃあ...お前の仲間をまた殺せば、本気になるってことだ...ッ!?」


「そうか、なら殺される前に殺そう...【クロノス】」


ユウキの姿がまた変化すると、突如紋章が光り輝く。

瞬間、瞬き一つしていないのユウキの姿が消える。

ノーバンにも捉えられない。


「...ぐはッ!?...ちッ!..どこ..ぐッ!?」


左手でフィリアナを抱きしめつつ、右手にゲートを展開...

その状態でノーバンの体を次元的に引き裂いていく。


「なんで...捉え..られな...」


両腕と、心臓にゲートを当てえぐり取る。

ユウキはノーバンの前で姿を現した。

これはクロノスに時間を支配させて、止めたのではなく一時的に自分以外の速度をあっとうてきに遅くしたのだ。


【...や...止めてくれユウキ...安い挑発に...乗るな!...魔力を抑える身にも...なってくれ】


苦しげな声が頭に響く。


「....お前...人間じゃないな...」


「それは...お互い様だろう?...あいにくと...俺は心臓が5あるんでなぁ...」


「じゃあ、それもえぐり取るだけだ...」


【...止めてくれ!...この国が滅んでしまう!!】


霊鬼の悲痛な願いは...


「双方手を止めよ!!」


奇跡的にもかなえられた...

はるか上空から響く声がユウキの手と、相打ち覚悟のノーバンの手を止めた。


「てめぇは!...」


そこにいたのはゴブリンとオークを後ろに連れて上空に堂々と立っている金髪ロリ魔王だった。


「この争い、このわし『黒の魔王』の名のもとに辞めてもらおう!!」

下、ちょっとしたネタバレ注意です。


















※そろそろユウキ編が終わりますね~...

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