第114話自己研鑽
ニス=グリモア一等地、有力な貴族の多くが住む豪邸の立つ場だ。
その一つ、全くこの国に貢献していないのに何故か力を持つムー邸が一等地にドンと家を構えている。
その異常さ、何故それほどの力を持つか誰も知らない、その為か近所の貴族達からは国の裏の支配者、何かあくどい商売をしているなど、嫌な噂がたっている。
その理由が実は、魔王大戦時代、最悪の象徴とされた虚無の魔王の秘書を仕事にしているから、など誰も気づくはずもない。
そんな怖ーい魔王様が今、この家に滞在している事も誰も気づかない。
「ふむ、不思議な味じゃ」
時刻は5時頃、魔王様はムー邸に住み込んでいた。
まあ、理由はいろいろあるのだが、サキュバスとグナホ爺、スターマイン等、リンの部下の中で、最もしっかりしているだろうこの三人が、リンに仕事を押し付けられるあまり、ブチギレ必死。秘書のムーに休暇届けを叩きつけて何処かへ消えてしまった。
その時ムーは初めて知ったのだ、魔王の部下って休暇届け出せるんだと、そして決意した、絶対にその内自分もリンに休暇届けを叩きつけてやろうと。
そんな熱意を胸に秘め、渋々仕事をするリンに紅茶と茶菓子を出していた。
「サハラ茶と言う南方の特殊な茶葉でございます、なにやら作り方がとても特殊らしく、砂浜で育てるそうです」
「ふむ、作り方のせいなのかの?この味は......そう言えば、グナホ爺の行方は分かるか?」
「いえ、グナホ様の行方は不明でございます、何かご用事がごさいますのでしょうか?」
「いや、用事と言うほどのことではないのじゃが......虚塔の最終兵器があまりに留守にされるとのぉ....もし化け物みたいに強い者が来おったら困るじゃろ?」
虚塔、東方のフラスカの森最深部に建てられた塔は、雲を突き抜け伸びている、それは最も危険なダンジョンの一つとして数えられていた。
そしてその虚塔には、多数のSランク以上の魔物が放たれており、トラップ満載、その分宝も良いものばかりだ。
まあ、命の危険だらけ、いくら宝が良くてもそんなダンジョンに挑みにくるのは、変わった戦闘狂や、勇者などだ。
「大丈夫ですよリン様、いざとなれば他の方に頼めばよいでしょう」
「まあ、そうなんじゃが.....今わしの言うこと聞くやつ..おるかな?.....」
ジト目でムーを睨みながら、紅茶をすすると。
突然ムー邸のリビングに暗い穴が空いた、そこから出てきたのは、何処と無く見たことがあるような?大人びた顔をした白い狐耳の女性が、凍りついた少年を引きずって来ていた。
その見覚えしかない少年を見たとき、リンは驚きのあまり立ち上がり椅子を倒した。
「リン様!!ユウキさんが!」
「何があった!?」
白狐は、今さっきまでの事を話した。
エミリー達と素顔を隠して戦った事、闘技場の屋根で休んでいた時に、急に体に霜がつき始めた事。
それを聞いた時リンは少し顔を青ざめさせ、ユウキの頭をひっぱたいた。
「主様!!わしはいったはずじゃぞ!!安静にしていろと!」
「わ、悪い.....あは、は.....」
「笑えんわ!!ムー!今すぐお湯を汲んできてくれ!そこのお主!」
「妖狐です!」
「妖狐!?まあ良い!!ユウキを二階のベッドに運んで、出来る事なら部屋に炎の術式を描いておいてくれ!」
「わ、分かりました!!」
妖狐はユウキを軽々とかつぐと、ドタドタと慌てて二階に向かっていく、それを見届けたのち、すぐにテレポートを使い、一度エストロニアに帰還、アイテムポーチを手にして今度は二階のベッドにテレポートした。
そこには地面に火炎魔法陣を描く妖狐と、お湯に浸したタオルでユウキの霜だらけの体を拭くムーがいる。
「ムー、背中を拭いてやってくれ、あと妖狐、少しエンチャントの術式のレベルを下げろ、ユウキ、こっちを向け」
ムーはユウキの腕を拭くのをやめ、後ろに回ると背中を優しく拭き始める、妖狐は書きすぎた魔法陣を少し消し、新たに付け加える。
リンはユウキの正面に回り込み、左手でユウキの顔を掴んだ。
「ああ....すまん....」
「そう思うなら、これ以上何もしないでくれ.....ほら舐めろ、3時間くらい」
自分の人差し指を噛みちぎると、血をポタポタと垂らす。
それを舐めろと言うのだろうか、それも3時間も?
おい嘘だろ、そんなに舐められるわけが....
「ほ、本気?」
「嫌なら強制的に口移しにするぞ、それなら30分くらいで魔力が戻り、治療も済むからの......それに何回もキスしておるじゃろ?」
いやらしそうにそう微笑む、まあ、キスする効率のよさもなんとなく分かるが.......
魔力は体の中に宿っているわけだが、普段は酸素と共に血液の中を巡回している、つまり血にはその人の魔力が流れているのだ。
だから魔力濃度の高い魔王の血を飲ませて魔力欠乏症を和らげようという事なのだろう。
こればっかりは魔力回復ポーションではダメなのか。
あくまで魔力回復ポーションは自身の魔力の自己治癒増加だから、あまり効果は無い、直接魔力を叩き込む必要があるのだ。
「嫌って....わけじゃ......」
言い訳をしようと、ちいさくボソボソと喋ると、めんどくさい、とばかりにリンは自分の舌を軽く噛み切った、
ユウキの顔の前でリンは可愛らしい口を開けると、真っ赤な血を見せてくる、自分の血で染まったその口で俺の唇に食らいついた。
「ん!?んんん〜!!」
力弱く暴れる俺の首に手を回しガッチリと、決して離れられないように濃厚な(魔力的な意味で)口づけをする。
だが、一度ユウキの口からリンは自分の口を話した。
「は....はぁ...はぁ」
ユウキは口から熱い吐息を漏らす、だが、リンはといえば、魅惑的な唇に手を当てペロリと舌で舐めとる。
「ふぅ....ムーもう良いぞ、妖狐、魔法陣を起動したら出て行くがよい......こやつも恥ずかしいじゃろうて」
「は、はい.....」
妖狐は恥ずかしそうに赤面しながらムーと共に部屋を出て行く、完全に助けが消えた。
リンは魔法陣の起動によりとても暖かくなった部屋で、ニヤリと笑い、ユウキの両手を握りしめベッドに押し倒すと馬乗りになる。
枕に頭を預け、赤面するユウキに顔を近づけると、魅惑的な相貌で、顔すれすれで告げた。
「しっかりと飲むんじゃぞ?」
「ま、待っ!?....んん〜!!?」
無理矢理唇を奪われ、リンの頬に垂れる汗がポトリと落ちる。
それと同時くらいに、興奮からか?それとも窒息からか、ある意味(意識が)落ちた。
♯
そこはニス=グリモアの超最先端技術の詰まった医療保健室。
保健室の医療用ベッドの上では、保健の先生と、助手の先生がミキと戦っていた。
「今すぐにやり返しに行く!!」
「やめなさい!!」
「俺は怪我なんかしてないもん!!」
「そう言う話じゃないんだよ!学院長先生から、行かせないように厳戒命令が出てるんだよ!!」
厳戒命令、それが出たのはXと戦ったため。
それはつまり抑制する程Xの強さと権力が高いという事。
(何者だ.....あの男.....)
ゴブリンは包帯を巻かれた状態、ベッドの上に横たわりながらしっかりと聞き、考えていた。
それに比べてミキは何も考えていなかった。
「いいから大人しく....しなさいな!!」
「痛い!!」
助手の先生が、一瞬の隙をつくと華麗な一本背負いを決め、ベッドに叩きつけた。
あまりに綺麗に入ったもので、ミキが少し怯む。
「今です先生!!」
「よっしゃ!」
紐を手にした保健の先生は、無理矢理ミキの体とベッドを紐で固定、なんとも鮮やかな束縛だった。
「うがぁぁあ!!」
ミキは無理矢理腕に力を込めて引っ張るがどうやっても解けないらしい、隣では先生と助手の人がハイタッチしている。
それもあるからか、余計ミキが暴れていた。
そんな暴れる音も知らずにエミリーはベッドに横たわり、1人、紅の光が窓からさしている。
その光景を見ながら、エミリーは少し前の光景を思い出していた。
『大丈夫ですか!エミリーさん!』
『早く元気になってくださいね!!』
そんなSクラスの人達全員からの応援の言葉、今まで散々私の事を無視して避けてきたのにいきなりの手のひら返し、なんというかとてもムカついた。
けど、それなのにすごく感謝されるというのは.....
とても暖かかった。
その時ふと、一度だけエミリーは思ってしまったのだ、自分を襲った男の事など疑問にも思わず、何も考えず。
(......やめられないかな...)
それは何をやめたいのか.....化け物を?それとも友達を?それとも......復讐を?........
そんな事は.....誰にも分かるわけがないのだ。
♯
気絶してから何時間が経ったのか、外を見ても夜だから暗い、つまり全く分からない。
体を起き上がらせ、軽く伸びをすると、最初の感想を一人でに呟いた。
「いないよな、あのロリ痴女...」
魔法陣の効果で暖かくされている部屋の中で、少し暑そうに服を一枚脱ぎ捨てると、久々にステータスを開いた。
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『ユウキ=メルヘル』LV67 16歳
HP:69350/33234
MP:45869/1020
筋力:24829
スタミナ:10043/2063
防御力:4056(装備:無し)
器用さ:6002
【魔法】:「火魔法LV10(+63)」「火炎魔法LV8(+14)」「爆炎魔法LV1(+3)」「水魔法LV7(+44)」「水流魔法LV3(+8)」「風魔法LV9(+36)」「暴風魔法LV4(+5)」「土魔法LV3(+10)」「泥魔法LV4(+15)」「闇魔法LV7(+29)」「暗黒魔法LV3(+15)」「光魔法LV8(+12)」「テレポート(+4)」
【スキル】:「剣技LV8(+49)」「大剣技LV10(+34)」「短剣LV1(+3)」「刀技LV1」「槍技LV2(+1)」「細剣LV2(+8)」「突進LV3(+4)」「棍棒LV7(+52)」「槌LV5(+1)」「体術LV7(+30)」「闘術LV7(+12)」「飛翔LV1(+1)」「爪技LV2(+3)」「ブレスLV4(+14)」「竜魔法LV1(+1)」「牙技LV3(+3)」「嗅覚LV1(+3)」「危険察知LV1(+2)」「威圧LV1(+2)」「竜言語LV7(+6)」「調合LV4」「脳内計算LV7」「厚顔無恥LV3」「奴隷術LV4(+3)」「建築LV2」
【状態付与】:「豪腕LV9(+41)」「魔法耐性LV4(+8)」「攻撃力上昇LV2(+4)」「魔力上昇LV3(+7)」「物理耐性LV3(+4)」「魔法耐性LV4(+6)」
【固有魔法】:「無属性魔法(記憶)」「毒魔法LV10」「木魔法LV10」「消化魔法LV10」「溶解魔法LV1」「付与魔法LV10」「剣術:我流」「体術:我流」「我流魔法:焔:沼:木造:紅」「永氷魔法」「紅蓮魔法」「精霊魔法LV1(+1)」「妖精魔法LV2(+1)」
【固有スキル】:「復讐者LV3」(「解説LV4」「解析LV3」「奪うLV2」)
「腐敗LV7(+1)」「命令LV10(+1)」「天性の感覚LV6(+1)」「竜眼LV3(+1)」「魔技LV7」「超速再生LV7」「正義LV1(+1)」「分裂LV1(+1)」「分解LV1(+1)」「本能LV2(+1)」「弾道LV1(+1)」「狂人LV10」「破壊LV4(+1)」「滅竜LV3」「死後召喚LV4(+1)」「合力LV1」「蹴極LV2(+1)」「抵抗LV2(+1)」「造形LV2(+1)」「外装LV4(+1)」「洞察の極意LV4(+1)」「マッピングLV2(+1)」「複合LV3(+1)」「信仰LV1(+1)」
【魔力変換】:「変の魔力」
状態変換「触手」。
形態変換「蜘蛛の巣」。
【称号】:「元王様」「今王様」「復讐する者」「転生者」「悪者」「無を使う者」「奪う者」「変化を求める者」「世界へ反逆せしもの」「人殺し」「殺戮者」「殺人鬼」「化け物」「人ならざる者」「王殺し」「愛されし者」「魔王を従えし者」「魔物を従えしもの」「魔法を作りし者」「獣人を従える者」「爆弾魔」「魔物の王」「魅入られし者」「奪われし者」「反鎮魂者」「無くし者」「魔を作りし者」「開拓者」「異常者」「狂人」「破壊者」「安寧を求める者」「上に立つ者」「魔物」「死せぬ者」「妖精の使い手」「死後の使者」「止まる者」「歩む者」
解説:(+〜)とは、奪う者によって奪ったスキル、魔法、固有の数である、消したい場合は解説スキルに命じてください。
『霊鬼』
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俺は今回の件、エミリーと戦ってみてわかった事があった。
まず、マジでエミリーが強すぎる事。
エミリーはいつでも極大の氷塊を作り出せる、今回は俺が最初に一撃で氷塊を粉砕した事から数では意味ないと、判断しての刀だったのだろうが、本当のことを言わせてもらうと、遠距離で氷塊を撃ち続けられたら本気でやばかっただろう。
てか、エミリーの好きな所に、好きなように氷塊を発生させるというのは、少しばかりチート過ぎないだろうか。
攻防一体で力が50%、50%、だったらまだ分かる、もしくは出せる氷塊に限度があるとか、それなら釣り合いが取れてる。
だけどエミリーは、攻と防がお互い200%あるのだ、しかも氷塊に限度はない.....いや、あると言えばある。
魔力が尽きれば使えなくなるだろうが、エミリーの魔力量は俺の数倍だ、尽きるわけがない。
そんな化け物エミリー様に勝つためには、俺の持つチートスキル『奪う者』を使わなくてはいけない。
「なんていうか....まだ少ないな.....」
俺は道中、多種多様な魔物と戦い、結構な数のスキル魔法を奪ってきたのだが、とても被りが多く、新しいスキルはなかなか手に入らない、固有スキルも最低50は越したかった。
ともかく、今回エミリーに殺されかけて分かった。
久方ぶりに、自己研鑽を積むべきだと。
ステータスを開く限り気になるスキルも多々あるが、ほとんどが使い方から確認しなくては。
(こんな事してるの、リンにバレたら殺されるだろうな.....)
リンの怒り顔を想定しながら、ステータスの中でも取り分け使えそうな固有スキル、固有魔法を解説スキルを用いて確認していく。
(今俺に足りないのは近接格闘.....何か役立ちそうなのは.と...)
少し時間をかけて、考え、選び抜いたのは、この固有スキル三つ。
合力:相手の力を数値化し、その力と同じ威力の一撃を放ち相殺、もしくはそれを上回る一撃を強制的に体から引き出す。
破壊:怒りに身をまかせるほど、力が上昇する。
狂人:人の返り血を浴びるほどステータスが上昇する。
どれも使いようによっては身体的に強化、近接格闘を強くできるだろうが、なんていうか条件がどれも苦しいものばかりだ。
(んー?使い勝手悪いな....使えるのは合力くらい.....まてよ?この二つ使えるんじゃないか?.....あとはこれにこの二つをくっつけて、複合すれば......あ、これは....いいかもしれない!...)
勝手に魔力を使い始め、スキルを複合させていく俺は.....つい夢中になり過ぎてしまったのだ。
後ろから恐怖の魔王様が、殺気を放ちながら近づいてきている事も知らずに。
「主様ぁぁぁぁぁあ!!!」
ムー邸には、リンの怒鳴り声と共に、何かが叩きつけられるような激しい打撃音が、あたりの貴族の家まで響いていた。
それ以来、新たなムー邸の噂が辺りに広まっていた。
あの家では、何か凶悪な、国一つ脅かす兵器を作っているのだと。




