第98話学園長
魔女に朝早くから押しかけられ、されたお願いというのはとても簡単でいて面倒くさい事だった。
ずばり言わせてもらうのなら買い物、それも荷物持ちという損な役回りだ。
「どうだユウキ!似合うか?」
試着室を飛び出して来た魔女の姿は、白をベースにしたいつものオープンとは違う、逆に肌の露出を控えた服だ。
そろそろ雪が降る頃、この時期には良いコーディネートと言えるだろう。
「ああ、似合ってるよ、可愛い可愛い」
ドヤ顔を決める目の前の女に荷物で塞がった手を巧みに使いたたきあわせる。
「そうか!じゃあ買った!!」
たったそれだけの適当な言葉で服を買ってしまうと、さらに次の服屋、また次、次........
気づけば両手に大量の紙袋が。
(つ、疲れる......)
服屋の中にある、椅子に腰を下ろすと、深いため息を吐いた。
まだたいした時間は経っていないというのに、何故か異様に疲れる、まあそれが女の買い物に付き合うという事なんだろう。
「なんだ?もう疲れたのか?」
呆れたように、魔女は俺の顔を覗き込むと、隣に腰を下ろす。
そういえばおんなじようなやりとり昔にもした事あったっけ。
「お前なぁ、これだけ服を持たされて、連れまわされて疲れないわけないだろ」
「そうか?ま、安心しろ、これで買い物は大体終わりだしな」
「そうか......ふぅ.....」
ため息を吐き、壁に背中を預けると。
その俺の顔を覗き見るように魔女の顔が迫ってくる。
視線と視線が交錯する。
魔女のネオンブルー色の瞳は吸い込まれそうな程綺麗で......
「なに?」
ずんずん顔が近づいている事に気がつき、すぐに意識を切り替えた。
「いや.....やっぱ私も変えるわ」
「は?なに言って......」
「『チェンジ』」
その凛とした声が店内に響けば、視界を遮るような光が辺りを包み込む。
しばらく目を覆っていると、光が消えた感覚が。
そっと目を開いてみると真っ先に目に付いたのは、魔女の姿だった。
「どうだ?似合うか?」
「また変えたのかよ」
目の前の魔女の髪は、前のような黒髪とは違う、真っ白な白髪、右側の数本の毛がアクセントのように黒く染まっている。
その髪色はまるで俺そっくり、いや同じなのだ。
「ふっふーん、ユウキとおそろいだな♪」
「ああ....そうだな」
目の前に広がる可憐な笑顔をしり目に、若干顔を引きつらせる。
前もそうだったがそこまでして合わせる必要もない、ってか無詠唱に人体の一部変質魔法とか、無駄に高度な魔法をそんなくだらないことに使うなよ。
こんなことに使うならもっと有意義なことに使え。
(はぁ....愛が重い...)
フィリアナもそうだったのだが、2人は俺に依存しすぎだ。
それに2人が俺に付きまとってくるように周りには見えていない、まるで俺が2人を弄んでいるようにさえ見えてくるだろう。
まだこれはいい、別に勘違いされようと気にしなければいいだけの事、だが、どうしても気になることがある。
それはこの2人の発想が両方とも変態で、俺の精神を瓦解させていくのだ。
フィリアナは兄相手に求婚してくるし、魔女に至っては俺の持ち物を集めてるし、それによくよく見たら、師匠が家でうずくまってた服、全部俺が昔着てた服じゃないか。
最初は引いていたが、慣れてしまえば笑い話......既にこの時点で俺の精神がおかしくなっている。
「マジで勘弁してくれよ....」
過去の問題、関係ばかりが今になって襲い掛かってくる、このままだとこの国で俺は今の俺と向き合う....いや復讐の機会が作れない。
(復讐をするにしてもまずはこの二人を説得...今の俺を認めてもらわないと....)
どうにかして過去の俺という幻影をぶち壊さなくてはならない。
正直なところ俺はキリアであって、過去の俺とは赤の他人だと思っている。
過去のユウキ....そもそもあんな愚王と一緒にされたくない、あんな善人ぶったごみと一緒だなんて涙が出てきそうだ。
だからまずは.....
「あっ!やっと見つけましたよキリアさん!!」
どうやって今の俺と昔の違いを理解させようかと考えていると、いきなり声をかけられた。
その声はとても見知った人物、少し息を切らしていることから走り回ったことがすぐに分かる。
「エミリーか?どうした、何かあったのか」
「今日は私達の用事に付き合ってくれるって昨日、言ったじゃないですか!?それなのに朝早くからどっかに言っちゃうし......カノンさんは泣いてるし.....」
小さな声でぼやいた音を、ユウキは目ざとく見逃さない。
「ん?カノン泣いてるのか?喧嘩でもしたのか?」
やばっ、とあわててエミリーは口を閉じるが、あまりのユウキのキョトンとした顔を見て隠す気力もなく。
ただあきれ返ってしまった。
「キリアさん......あなたわかってやってます?」
「え?....あれ?もしかして俺のせいか?」
ほんとに覚えがないように首を曲げる。
そんな目の前の少年にエミリーはただ呆然とするだけだった。
(分かりましたよカノンさん....ユウキさんは鈍感、というわけではなくて、ただ単に恋愛対象として見られてい無いだけだと思います....)
まさかあれだけされて意識の一つしていないというのだろうか.....カノンのような可憐な少女が必死にアピールしているのに.....
もうエミリーはあきれるしかない。
そんなエミリーの後ろに息を潜め気配を殺した魔女が忍び寄っていた。
「よっすエミリーちゃん、こんちわ〜」
「ひゃっ!?」
いきなり肩を組んで来たのは、俺の師匠だ。
そのまま抱きかかるようにして、少しだけ尖ったエルフ特有の耳をペロリと舐めた。
本当に誰にでもセクハラするなこの人。
「ん?ちょっと甘いな、ユウキので口直しー」
「させねえよ」
こちらに迫って来た魔女の頭を抑え、流れるように首を絞めた。
「なんだと!?ついに師匠を超えたか!」
「馬鹿なこと言ってんな.....エミリーそれでようってなんだ?」
「え、あ、はい.......今日入学式で保護者の参加が必須となってまして.......ユウキさんに来てもらはないと困るといいますか」
そうだった、グリモア学園は保護者必須の入学式があるのだ。
というより本当は保護者同士の顔合わせが目的としている。
まあ簡単に言えば家柄を確認するのだ。
この学園には王族、貴族、平民とまあいろんな生徒が通うわけで、もし知らないうちに王族の子に下手な口を聞けば処刑も免れない。
逆に平民は馬鹿にしても良いし、好きなようにすることができる。
その判断を下すのが今日の入学式だ。
そもそもの話入学式が大事ではなく、その後にある貴族、王族達のみで開かれる晩餐が大事とされている。
(別に行くのは構わないが......こいつどうするか....)
となりの魔女をジト目で睨みつけた。
エミリーに連れていかれたのは大きな会場?のような場所、真ん中には生徒達が整列しており、その周りにある豪華な椅子から保護者の方達が生徒を見下ろしている。
そんな中、何故か俺だけが王族達のような身分の高い者が連れていかれる天井付近に建てられた小部屋に連れていかれていた。
「キリア様のお席はこちらとなっております」
「え?なんで俺だけ」
「いえ、キリア様だけではございません、他の王族の方もお見えになっております」
「いやそうじゃなくて」
「では失礼します」
それだけ言うと、受付のお姉さんは早足に去っていった。
あれだけ急いでる様子からして、仕事がまだ残ってるんだろうな。
「ここで見てろってことか......」
豪華なソファの上に腰を下ろし力を抜く、そのまま首を右に向けると、生徒代表が前に出て言葉を並べている。
机に置いてあった飲み物を手に持つと、ノック音が響いた。
「どうぞ」
「失礼する、ここがキリアさんの部屋であっているかな少年」
茶色いポニーテールの小柄な少女は、入ってくるなり意味が分からない事を言って横暴に目の前の席に座る。
「そうだけど?」
「そうか少年、キリアさんはどちらにいらっしゃる?」
「あんたの目の前にいるだろ」
頬杖をつきながらそう返すと少女は目を点のようにまるくさせ、頬を綻ばせる。
「ふふっ、はっはっは、寝言は寝て言う事だ少年、キリアさんが君のような若者なわけないだろう?」
「ふ〜ん信じないなら良いや、入学式だけ見て帰らせてもらうよ」
別に良い、嘘を突き通す意思がないのを見て少し本当のように感じたんだろう、黙って少女は少年を見ていた。
しばらく経って口を開く。
「やはり違うじゃないか、君からは魔力が一切感じられー」
証拠を見つけたと意気揚々に告げた少女。
魔力が感じられない?......あーこれか。
「これでいいか?」
ステータス、レベル、魔力、スキル、魔法を隠蔽する神隠しの指輪を付けっぱなしだった。
右手の人差し指から抜き取りポケットにしまう。
「は?何を言って?......むっ!?これはっ!?」
指輪を外したその時、目の前の少年からただひたすらにドス黒い魔力が溢れ出す。
(なんなんだこの大きさ?私の何倍だ?......)
目の前から溢れでた魔力は黒、ただひたすらに黒。
魔力の色はその人の生き方、性格、気持ちなどに及ぼされると聞いた事があるが、ここまで濃い色は見た事がない。
(この色で、この量か......まだ溢れて......)
少年から溢れでた魔力はさらに勢いを増し、学園長の視界を遮ってしまう。
既に目の前の少年が真っ黒に染まり姿が見えていない、いやそれどころじゃない部屋が黒く染まって何も見えない、意識が飲み込まれそうな程の黒黒黒黒黒黒黒黒......
「おい大丈夫か?」
「はっ!.....すまない意識が飛んでいたようだ」
真っ黒で何も見えない中、いきなり叩かれた衝撃で意識を取り戻しすぐに魔法眼を解除した。
下を向きはぁ、はぁ、と荒い息を吐き呼吸を整える。
「本当に少年がキリアと言うのか?」
「そうだって最初から言ってるだろ、で?何の用だ」
指輪を付け直し、全く変わらない憮然とした態度で舐めるでもなく、敬うでもなく、ただ目の前のキリアという少年は見ていた、私のことを。
「う、うむでは自己紹介を、私はニス=グリモア総合魔法学園、学園長をしているマナ=ナクリーと言う」
名乗りをあげると真っ直ぐと見つめていた瞳が揺らぐ。
動揺、という感情がほのかに伝わってきた。
「学園長?お前が?」
「ああ」
キリアは先程の体制を立て直し、真剣に話をする時の状態に体を持ち直す。
「嘘をつくな、学園長はトリサという男だったはず」
「トリサは去年に辞めた」
「うそだろ!?それじゃあこの国に来た意味が......」
そうこの国に来たのは、妹や師匠に会いに来たのではない、トリサを殺しに来たのだ。
今回の標的はトリサ、こいつにも散々苦しめられ....た....よな?
(あ...れ?記憶が.....思い出せない)
嘘だろ?あれ程の負の遺産を、怒りに満ちた日々を俺は忘れたって言うのか?.....巫山戯んなよ
「トリサは何処にいる!合わせろ今すぐに!」
会えば、会えば思い出せるはずなんだ、俺が、俺の生きがいを、生きる意味を忘れる訳がないんだ。
記憶には全く残されていないが、ただ心に残る憎悪だけが炎のように燃え上がる。
絶対にその男を許すなと。
「一旦落ち着いたらどうだ?」
服を掴み上げ、憤怒を露わにする俺を先程のように怖がりもせず逆に先生らしく宥め始めた。
その瞳は冷静をかいているように見えない、それでいて畏怖しているとも思えない。
無感情が、目の前の学園長から感じ取れた。
「.......すまない、冷静じゃなかった」
本当の無の感情を読み取ったおかげか、自分も多少は怒りが治まってきた。
「別に良い、それより本題に入らせて貰っても良いかな?」
「ああ」
「実はキリア君、君の仲間であるカノン君達に折り入って頼みがあるんだ」
「頼み?」
また面倒ごとか?それともカノン達が何かやらかしたのか?エミリーだけはしっかりしてるはずだし、問題なんて起こさないと思うんだけどな。
そんな心配事を心の中で紡ぐも全く関係のない話だった。
「そうだ、実はこのニス=グリモア総合魔法学園はこの国の4代貴族の一つナラヤワ卿によって実権を握られているんだ」
ナラヤワ卿?.....あー俺に土産がなんとか言ってビビってたやつか。
あんな惨めな顔って、見てるだけでゾクゾクするよな。
変な感性を持ち始めたキリア、そんな事知るわけがない学園長はずんずん話を進めて行く。
「実はナラヤワ卿はある団体を作っていてね、その団体がグリモアの明正、と言うグリモアの為と語って好き勝手やる連中さ、最初は規模も小さく大した権力もなかったんだが、他国の王族や貴族を引き込み、今ではニス=グリモア総合魔法学園の50%以上を占めている」
「それで?そのグリモアの明正がすごいのはわかったが、どうしろと?」
「グリモアの明正、を真っ向から破壊して欲しいんだ」
無理だろ。
話を聞いていて分かるが、無理に決まってる。
ニス=グリモア総合魔法学園の50%?は、無理にもほどがある。
「そんなの俺達に頼むことじゃないし、学園長の力でどうとでもなるだろ」
「それが無理なのだ、まず一つ四代貴族は私よりも立場が上であること、二つ目が教師の半数がグリモアの明正に加担している事だ、私が唯一動かせる教師というのもスノー=ホワイトくらいのもの、この状況では手を回すことなどできん」
「そんなの俺達がどうこうできる話じゃないんじゃないか?どうやってグリモアの明正を壊す?」
そう、それが知りたい、俺には50%をほぼ半殺しにする以外にやり方が思いつかない。
まずはあんたの意見を教えてもらわなくては、流石にあと頼む、でぶん投げることはしないだろうし。
「生徒会長の座を奪い取る」
「生徒会長?」
「ああ、生徒会は毎年グリモアの明正に奪われてしまう、なにせ生徒会は教師と同じ立場を得ることができるからな、その権限を使い毎年やりたい放題しているのだ、だからこそ、逆にそこを奪って仕舞えばこれ以上の被害は出ない」
確かにそれが最善の方法か、だがそれでは根本的な解決になっていない。
結局の所やりたい放題にならなくなってただ被害が小さくなるだけ。
けどそれだけで逆にいいと言っているのだ、別に引き受けてもいいのだが......
「ふむ.....断らせてもらおう」
「何故!」
「悪いけどカノン達に迷惑をかけたくないんだ、それに面倒ごとなしで学園生活を楽しんで欲しい」
「ぐっ、だが.....」
キリアが言ったことはとても最なことで、学園長という立場で生徒の楽しみを否定することはできない。
言葉がつまり、終わったような顔をしだした少女に、俺は笑顔で一つ提案をあげた。
「代わりに俺が壊してやるよ」
「なんだと?」
「実は俺、カノン達とほぼ同じ年なんだよね」
実の話カノンより一歳年下、あくまで肉体年齢のみの話でだが。
「だから入学金を払わなくて良いのなら、引き受けても良い」
「なんと!」
その提案に感嘆の声を上げる、なにせ先程の化け物のような魔力を持った少年だ、勝てるに決まっている。
これ程心強いことはないだろう。
「けどルールを付け加えさせてもらう」
「ルール?」
「一つ、カノン達と違うクラスにし、それでいてあなたから俺の存在を話すことは許さない、二つ、最底辺のクラスに入れること」
「なんでそんなルールをつけ加える?」
カノン達と違うクラス?それはつまり最上位のクラス以外ということになってしまい、生徒会長の座を奪うのに不利だ。
それでいてしかも最底辺のクラスにしろ?そんなの生徒会長の座、などという話ではなくなってきてしまう。
どういうつもりなのだろうか。
「さっきも言ったがカノン達には学園生活を楽しんでほしいってのがある、俺がいたら邪魔だからな、二つ目の理由は、単純に俺の趣味だけど........最底辺のクラスの奴に生徒会長持ってかれた悔しげな顔を見てみたい」
楽しげに口角を釣り上げる俺、それを見た学園長も同じように口角を釣り上げた。
「なかなかいい趣味してるな、私も見てみたいよ」
同じように少女も微笑んだ。
とまあ、ここまでがルールだ。
これで話が終わるわけない、ここからが本題だ。
「だけど、当然そんなうまい話ある訳ないだろ、これは取引だ」
「取引?」
「ああそうだ、俺が壊滅させる事ができたらお前はトリサの居場所を俺に教える、どうだとても楽な取引だろ」
「いや....しかしな....」
怪訝そうに眉を潜め、言葉が揺らぐ。
やっぱりな、トリサの事に関して何か隠している、それもとても言いにくくて、言いたくない事だろう。
「別に嫌ならいいさ、一人で頑張ればいい、応援くらいはしてやるよ」
別に俺は肉体的には鬼だが、精神的には鬼じゃない、そんなに嫌で言いたくないのなら別にいい。
勝手にあんたを拉致って記憶を盗み取るだけだ。
つまりこの提案は、俺がタダで情報を得るか、労働で情報を取るか、という二択。
実際の所情報を与えないなどという選択肢はないのだ。
「ぐっ.....あああ!!分かった!その取引応じよう!!」
だから、イヤイヤでもオーケーを出したこの女に正直感嘆した。
学園長は憤りながら右手で指を鳴らすと、空間が歪み机の上にどさりと学生服が置かれる。
その傍らには腕時計のような、数字が書いてあるなにか。
「なんだこれ?」
腕時計のようなものの中心にはXと記されていた。
「ん?それはな、この学園制度のー」
「学園長!そろそろ時間です!!今すぐ来てください!!」
「ああ、わかったすぐに行く、すまないが制度については私が今から壇上で説明するから聞いててくれ」
早足で駆けて言った女を横目に、一人残された俺はポツリと無意識のうちに口に出していた。
「あいつ、何歳だ?」




