幕間:ツイエタオモイ
私はエイくんのことが大好きです。
――だから私は告白しました。
――だけど私は取引しました。
私は、エイくんが本当に私にとってふさわしい人間なのか、見極める必要がありました。いや、正確には、見極めないといけないと思い込んでいました。
そう思った理由は、色々あるのですが、一つ昔話をさせてください。
中学一年生の頃、私はとある男の子に告白されました。
でも、その当時の私には恋愛というものが分かりませんでした。だから、私は彼にこう答えました。
「ごめんなさい。私は多分その気持ちに応えられないと思う。」
そう言うと彼はしょんぼりとしていました。
それから私は、恋って何だろう、人を好きになるって何だろうと考えるようになりました。
同じ頃、私の友達の一人がこう言ってきました。
「実は私、好きな男の子がいるんだ。」
でも当時恋愛感情というものが分からなかった私は彼女にアドバイスをしてあげることはできませんでした。
ところで、彼女の好きな子というのは、万能な人でした。勉強はもちろん物凄く出来て、スポーツでもサッカー部の顧問の先生にとても期待されていた子で、美術の時間に描く絵もとても上手な人でした。彼女は、そんな彼の長所を私に何度も語ってくれました。
そして私は思いました。なるほど、恋心っていうのは、そういう優秀な人に憧れる気持ちなのかと。
中学二年生の初めの頃、私は一人の男の子に恋をしました。
その人は成績も悪く、スポーツも苦手でした。学校にいるときもずっと友達とゲームの話ばかりしている人でした。
私は中学二年生の時の席替えで、彼と隣の席になりました。彼は私によく話しかけてきました。話といっても、今の私の印象に残るほどのものではありませんでした。おそらくは、他愛もない世間話だったのでしょう。
当時の私は、小学校の頃から、あまり目立たない子でした。だから、中学校に入ってからも、友達はそれほど多くなくて、男の子と話す機会もあまりありませんでした。
もしかしたらそのせいなのかもしれません。私は次第に、彼と話す度にドキドキするようになりました。
ゴールデンウィークの最終日のことでした。私は連休中特にやることもなくて、家で本を読んだりときどき宿題をしたりして一人で過ごしていました。
その日の夜、私はなぜか寝付けませんでした。そして、なんだか寂しい感じに襲われました。
だから、私は寂しさを紛らわすかのようにとある誰かのことを考えました。それで私が思い浮かべた人が、まさしく彼だったのです。
私は突然胸の苦しさに襲われました。彼に会いたい。彼の姿を一目でも見たい。そんな気持ちで頭がいっぱいになりました。
――私は、この苦しみの正体がすぐに分かりました。なるほど、これが恋なんだと。
私はこれまで以上に彼と話したい気持ちになりました。でもそれからは、彼の姿を見る度にドキドキしてしまって、なかなか話しかけることができませんでした。彼が私に話しかけてくれた時も、私の返事はしどろもどろになってしまいました。
それで、私は友達にこのことを相談しました。「好きな男の子がいるんだ。」と。
そうして私が彼の名前を挙げると、彼女はこう言ってきました。
「ええ、結衣ちゃんがあの人のこと好きだなんてありえない。」
「結衣ちゃんはすっごくかわいくて勉強もスポーツもできるんだよ?あんな人のどこが良いの?そんなの結衣ちゃんに見合わないよ。」
……見合わないという言葉を聞いて、恋愛ってそういうものなのかなと私は思いました。
それでも私は彼のことを素敵だと思いました。その時はうまく言葉にできなかったのですが、友達にそれでも彼が好きなんだと再び伝えました。
「結衣ちゃんなんかがあんなのに告白したら、みんなにバカにされちゃうよ。結衣ちゃん実は男の子のファン多いんだよ。もし結衣ちゃんが付き合うようなことがあれば、きっと三年生まで笑い物にされちゃうよ。」
それで、私は思いました。ああ、私は彼を好きになるべきではないんだと。
ちょうどそう思い始めた頃、席替えがありました。そして、私は彼と離れ離れの席になりました。
それからはめっきり彼とは話さなくなりました。私は彼への好意を自分の中で封じ込めました。そうしていつしか私の想いは潰えたのです。
中学三年生の頃、私は何人かの男の子に告白されました。でも、私はすべて断ってしまいました。
その人達は全員、「私に見合う人」ではありませんでした。