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桜坂東高校体育祭 中編

 桜坂東高校の体育祭は短期決戦である。今日競技種目が決まったばかりだが、本番はたったの五日後だ。よって練習時間は皆無に等しいわけだが、基本的に球技しかやらないわけだから当然かもしれない。 

 そういえば滝沢は去年と同じバレーにエントリーしてきた。

 その翌日、午前中にあった体育の授業は体育祭の練習だった。といっても、実際にはエントリーした種目の練習をしているだけだからかなり自由な時間だ。

 僕は体育館に向かった。その中には二年E組も混ぜて、バスケの男子と、バレーの女子がいる。

 ……そしてどうやら一部の男子は女子と一緒の空間で体育が出来ることを喜んでいたのだが、元々そこまで珍しいことでもないのにどうしてこんなテンションが上げられるのだろうか。

「よ、エイ、頑張ろうぜ。」

静斗が僕に言ってきた。

「ああ、頑張ろうか。」

「それにしても……」

「ん?」

「やっぱり滝沢は際立ってるなぁ……」

「……僕はなんて反応すれば良いんだ?」

「彼女自慢でもすれば?」

「彼女じゃねえよ!」

「でも実際どうなんだ……仲良いんだろう?」

 否定はできないかもしれない。

「というか、どうやって仲良くなったんだ?そろそろ男子達から追及される頃だと思うぞ?」

「いや……なんというか……」

 流石に告白されたと答えるわけにはいかず、僕は答えに窮した。

「そ、それより早速練習試合やるっぽいぞ?行こう。」

 静斗は少し不満そうな顔を残した。


 ミーティングもほどほどに、E組との練習試合が始まった。本来なら僕はベンチスタートの人間なのだが、練習では全員スタメンになるようだ。

 静斗は相変わらず前線で活躍を見せている。僕は例のごとくほとんどネット前で突っ立っているわけだが、相手の選手が飛びこんでくると、僕は体を張ってディフェンスに入る。……入るのだが、すぐすり抜けられてしまう。

「エイ~頼むぞ~!」

と静斗からお叱りが入るわけだが、相変わらず僕はスポーツでは大した動きができないのであった。

 とりあえず味方が得点を入れた時は僕も喜ぶ仕草を見せるわけだが、どこか歓声が一人空回りしている感じもした。

 試合はどうやら接戦のようなのだが、半分傍観者の僕にはなんだか他人事のように感じた。

 七、八分すると一試合目は終了になった。事前に試合時間すら決めないという適当ぶりだが、半分レクレーションの体育の授業はこれで通用するらしい。どうやら二ポイント差でこちらが勝ったようである。その後も和やかな雰囲気で何試合か行われた。


 体育の時間が終わって、皆が体育館から引き上げ始めた頃、静斗が話しかけてきた。

「エイ、このクラス結構強いぞ」

「まあ、僕が余計な動きをしてないからね。」

 体育特有の自虐ネタを僕は放った。

「まあ、確かにな。」

「納得するな!」

「そういえば、滝沢がどんな調子か見てなかったなあ……」

「目当ては別なんだろ?」

「ずっと長袖姿だったからテンション上がらなかったなぁ……」

「見てるじゃないか、充分。」

「てかあんなに動き回ってたのによくそんな余裕があったな……」

「男は美少女のためなら限界を超えるんだよ、男を分かってないなぁ。」

「多分それはお前だけだと思うぞ。」


 放課後になった。僕は教室の掃除当番だったので教室に残っていたわけだが、なぜか違和感を感じた。

 ほうきを持って掃き掃除をしようと廊下に出ると、見慣れた美少女が壁に寄りかかっていた。

 誰かと待ち合わせをしているのだろうか。

「滝沢」

「あ」

「待ちくたびれよ、エイくん。」

 ……また滝沢が意味の分からないことを言ってきた。「待ちくたびれ」とはおそらく僕に用事があると言いたいのだろうか。

「どういうことだ、僕は掃除当番なんだけど。」

「一緒に帰ろうかと思って待っていたんだけど。」

 最近の滝沢はおとなしかったので忘れかけていたが、そういえば滝沢は僕が自分の相手としてふさわしいか見極めようとしているのだ。

「それじゃあ、掃除が終わったら行くから。」


 掃除が終わって、スマホを持ちながら廊下で待っている滝沢に声をかけた。

「終わったよ、滝沢。」

「それじゃ、行きましょうか。」

 滝沢の行動には何かしらの意図があることが多い。いつもは思わせぶりで奇抜な提案をしてくるのに、今日は一緒に下校をするというだけなのが、かえって怪しいのだ。

 校門を出て駅の方へ一緒に歩いて行くと、滝沢が口を開いた。


「それで、早速本題なんだけど。」

 強引に「それで」をねじ込んでくる滝沢はやはりただものではない。今回は何を言われるのだろう。

「体育祭、エイくんはバスケに出るんでしょ?」

「まあ、一応。」

「そこで去年のバレーヒロインからのミッションをあげるわ。」

「できればもらいたくないんだけど。」

「え~っとね。」

 どうやら僕の声は聞いていないようだ。


「ヒーローになりなさい。」


 僕は一瞬意味が分からなかった。僕がスポーツ苦手なことを知らないのであれば、滝沢のリサーチとやらは不十分である。

「ええと、僕がスポーツ苦手なの分かって言ってる?」

「いや知ってるわよ、だからエイくんのことはリサーチ済みだって。」

「拒否権はないですか……?」

「ないわね。」

「あ、もしかしてヒーローっていうのは桜坂高校で言う『ヒーロー』じゃなくて世間一般の……」

「もっとハードル上がるけど大丈夫?」

「それもそうだね。」

「それじゃあ知名度もなくて能力もない僕がバスケで学年一位になれと。」

「まあ頑張ってね。」

「いやなんでだよ!」

「そりゃ、男らしいとこを見せて欲しいからに決まってるじゃない。」

 滝沢は突然ハッとしたような顔をすると、

「あ、じゃあ私用事あるからここで。」

と言って僕に別れを告げた。

  楽しそうに走っていく彼女の背中を、僕はただ呆然としながら眺めた。

 

 体育祭直前に、僕は滝沢から無理難題を押し付けられることとなった。

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