追走
◇
森の中をひたすら駆けていく。本当にこの森は気味が悪い森だ。早朝ということもあるが、薄暗く、時々虫が鳴いている。
丁度大きな木にぶち当たった時だった。右の方から少年の叫び声のようなものが聞こえてきた。
ーー間違いない。クレアだ。
俺は声の聞こえた方に全力で走る。
ーーすると、なにやら湖のような場所に出た。
クレアはどこだ?
俺は周りをキョロキョロする。
「ここですよぉ?」
頭上から気色の悪い声が聞こえる。反射的に上を見ると、そこには宙に浮いている黒マントと、その男に髪を引っ張られたクレアがいた。
「随分時間がかかりましたねぇ。トイレでも行ってたんですか?」
「うるせぇよ気色悪男。あいにく俺はトイレは夜に済ませておくタイプでね。ちなみにトイレットペーパーはダブル派だ、覚えておくよーに」
…神速スキルを盗られてから、完全にキャラが崩壊している気がする。まぁ別に、勇者として周りの前に姿を現している訳ではないので別にいいのだが。
「ハッハッ、覚えておくとしますねぇ。あ、この子は返します」
そう言って黒マントはポイッ、とクレアを投げ捨てた。
「痛ってぇ…」
クレアが呻き声を上げる。
「あー、喋れるんなら大丈夫だクレア!そのまま寝とけ」
「つっっめてぇ!!」
俺は微かに笑う。そしてすぐに真顔に戻る。
「ーーで、お前の目的は何だ?何でここに連れてきた?目的はクレアじゃないようだが」
その質問に黒マントは答える。
「そうですねぇ、目的…ですか。まぁ、もういいでしょう。ーーそうですねぇ、あなたを討伐するのに最適の場所に連れてきた、と言ったところでしょうか」
「へぇ、俺に一対一で勝てるっ自信があるってか」
「まぁ、そういう事になりますねぇ」
そう言って黒マントはヘラヘラ笑っている。
俺の頭の中でカチン、という音がした。…気がする。
ーー俺に一対一で勝てるだと?
「へぇ…随分余裕があるんだね」
俺は黒光りの剣、いわゆる“勇者の剣”を静かに抜く。
「さぁ。 ーー始めようか」
次の回から二手に分かれて戦闘シーンです。…難しい…