再出発
黒の服を羽織り、赤の剣を持った“もう1人の勇者”は剣をしまい、スタジアムをゆっくりと後にするーーと同時に、入り口の前で呆然と見つめる俺たちを指差してこう言った。
『僕が本物の勇者だ』
あまりの衝撃を受けていた俺たちは、「待て」ということすらできなかった。
“勇者2世”の出現に、会場はまだ騒ついていた。
「だーーくっそ!なんなんだよあいつ!」
俺は羽織っていた紫の服を宿の床に叩きつける。
「どーしたら俺のスキルを盗めるってんだよ!」
人のスキルを『盗む』スキル……そんなものはあってはならないものだ。そもそもそんなものが存在するなんて聞いたことすらない。
「ただ、あの時に盗まれたってのは間違えなさそうだな」
オシャレな形をした椅子に座ったルークが机に頬杖をつきながら冷静に考察する。
「…そんなスキルは聞いたことが無いんだが…調べてみるしかないな」
そういいながらルークはポケットからスマホを取り出した。手慣れた手つきで文字を打ち込んでいく。
「……そうだな、やっぱりネットにもそんなスキルがあることは載ってない」
「仮にスキルを盗まれたとしても、そいつからスキルを取り返せるの?神速スキルを失った私達があいつに勝てるとは思えないんだけど」
ユウハの言うことは大体正論だ。今回も正しいところを突いてくる。
「そうだな…取り敢えずこれから神速スキル無しでどう乗り切っていくかを考えないとな」
スマホをしまいながらルークが深刻そうな顔をして言った。
「神速スキルが無い以上、勇者として人前に立つことも難しくなるだろうな」
人気の少ない場所に移動するか、とルークが続ける。
俺は拳を握りしめていた。これ以上の屈辱は今まで味わったことが無い。
「とりあえずあいつは許さねぇ…けど今の俺たちじゃ多分勝てねぇ」
そうだな、と頷くルーク。俺はそのまま続けた。
「神速スキル無しで俺たちがここからあいつに勝とうとするんならーー」
俺はそのままふぅ、と息をついた。そして2人にこう言い放った。
ーー「新しい“ぶっ壊れ能力”を作り直すしか無いよな」