悪夢の予感
ポスッ。ポスッ。無様な音だけが部屋に残る。
アランの「神速」と称えられた最強スキルの片鱗すら残っていなかった。
「なんで…だよ」
絶望に打ちひしがれるアランに、ニヤニヤしているルークが声をかける。
「神速じゃなくて亀速ってか」
「ジョーク言ってる場合じゃねーよ!」
半ギレのアランが神速のツッコミを入れる。
「いや、ホントにヤバい気もするけど…」
今までほとんど無言だったユウハが呟く。
ーー『勇者パーティー』と絶賛され、悪人からは名前を聞いただけで恐れられる俺たち3人組の闘い方は、俺の「神速」スキルをベースにし、ルークとユウハがひたすら俺のサポートをするスタイルだった。だからユウハの言う通りーー
「マジでやべぇな」
神速スキルに頼ってきた俺たちから神速を取る…亀から甲羅を取るようなものだ。
「…そもそもなんで突然使えなくなったの?決闘の時は使えてたよね」
そうなんだ。あの時までは確かに使えていた。
「スキルの突然消滅なんてのは無いはずなんだが…」
ルークが喋り終わろうとした時だった。
ドワァァッと、ルークの言葉を遮るようにスタジアムの方から大歓声が聞こえてきた。
「なんだ?」
俺たちはスタジアムの方へと駆けて行った。
ーーそこで見た光景は、信じられないものだった。
黒の服を羽織り、紅く光る剣を地面に平行に構えた剣士は、瞬きする間もなく硬く守られた鎧を着た相手の胴体を貫いた。
「………あれは…」
ルークが今にもかき消されるような声で言った。
ーー間違いない。
「俺の神速スキル…」
神速スキルは俺のオリジナルのスキルのはずだが、完全にあれはそうだ。
「ウィナァァァァ!!」
実況が叫ぶとともに、場内はまた大歓声を上げ、ある者はこう叫んだ。
「勇者2世だ!!!」
その言葉を聞き、会場は次々と『勇者2世!勇者2世!』と騒ぎ始めた。
そしてーーー「勇者2世」として、今ここに君臨した少年はーー
「………あいつは…」
ファンだと言い張り、タオルを渡してきたあの少年だった。