激闘
◇
「さぁ、始めようか」
俺はいつものように、スッと黒光の剣を構える。 が、黒マントは一向に攻撃しようとしてこない。
「おいお前、俺を討伐しに来たんだろ?戦う気あんのか」
あまりに攻撃の意思がない黒マントに俺はそう言い放った。
「なにを言っているのです?戦う気満々ですよ。すでに攻撃してますし」
なにを言っているんだこいつは?と俺は少しばかり首を傾げる。が、そんな事をしている間もないという事に気付いた時には、すでに大量の水が目の前に迫っていた。
「言ったでしょう?すでに攻撃は始まっている、と」
「くっ…!」
完全に先手をとられた俺は、苦し紛れにスキル《リフレクター》を発動させる。が、予測できていなかったために発動効果がほとんど無い。
俺はそのまま大量に押し寄せた水に飲み込まれる。この大量の水は、湖の水を操っているのだろう。
「アラン!」
クレアが心配そうに声を上げる。
「…これくらいは今までに何回も経験してきたっつーの!」
水に流されながらも、下に向かって『紫』スキル《インパクト》を放つ。インパクトは衝撃を圧縮して一気に放つ俺の得意なスキルだ。
パァン、と音がすると共に周りの水が一気に弾ける。
「よし!」
「そんなものは読んでますけどねぇ?」
その声に俺はハッとする。声のした方向ーー真上を見ると、そこには大きく剣を振りかぶり、何らかのスキルモーションをした男が迫る。
「ちっ…」
たった今スキルを発動した剣で連続スキルを発動させるのは至難の技だ。
とっさの判断で俺は腰につけた短剣を取り出す。
「そんなもので私のスキルを防げるんですかねぇ!?」
黒マントの男は黒く光った剣を勢いよく振り下げる。
絶体絶命、久々の大ピンチ。ーーここにきてどれだけ神速スキルに依存してきたかが分かる。ただ、今はそんなことを言っている暇は無い。
俺は全神経を短剣の先に集中させる。そして唸りながら迫り来る剣の丁度中心に狙いを定めた。ーーー1ミリのズレも許されない。
「うぉぉぉおおお!!!」
俺はここしかないという絶妙のタイミングで短剣を突き出すようにして光る剣のど真ん中にぶち当てる。
おそらく黒マントのスキルは重力系のものだったのだろう。左腕がドッシリとした感覚に襲われる。だが完璧に中心を捉えた短剣は、衝撃は感じながらも引けを取らなかった。
グググ、と両者が押し合いのようになる。
「観念…して下さいよ!!」
黒マントは叫びながら力勝負に出る。その瞬間を俺は見逃さなかった。
短剣に込める力を少し抜き、黒マントのバランスが崩れた瞬間に右足で黒マントの左脇腹に渾身の蹴りを入れる。
「ぐっ!??」
全く予測していなかった蹴りを喰らい、そのまま黒マントは地面に墜落する。地面に重い衝撃が走る。
俺はすかさず『紫』スキル《ゴードンメテオ》を発動させる。そして砂ゲムリがあがる方向に向かって飛び込む。
「このまま…やられてたまるかぁぁぁ!!!」
地面に叩きつけられた黒マントは、右手に握っていた剣を離してはいなかった。倒れこみながらも、スキルを発動させる。剣の周りに湖に残っていたであろう水が纏う。
「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
両者の雄叫びと共に、剣と剣が真っ向から激突する。空気がとてつもない勢いで振動する。バリバリ、といった感覚だ。
その光景を見ていたクレアは必死に振動に耐える。
そしてーーー幾度となく勇者を救ってきた剣が黒マントの剣を破裂させる。そのまま勢いは止まらず、渾身の一撃が黒マントを襲う。
「ぐっ…ぐぁぁぁああ!!」
渾身の一撃を叩き込まれた黒マントは、そのまま森の方へと吹き飛ばされた。
「勝った…勝ったぁぁ!!」
振動に耐え抜いたクレアが歓喜の声を上げる。
そんなクレアを他所に、激戦を繰り広げた俺は地面に大の字で倒れこんだ。
初めてここまで長い戦闘シーンを書きました。燃え尽きました。はい。