勇者の異変
初ファンタジー挑戦です。これから頑張っていきます…
「くっそ……が!」
右上段から乱暴にふりかかってくる鉄の塊を、キィン、と柔らかに右手の握った数々の猛者を圧倒してきた黒光りの剣で受け流した。
「なんで…なんで一つも当たらねぇんだよぉ!!」
そう叫びながら、体勢を立て直した大柄の男は受け流された剣を紫の服を羽織った男の顔目がけて一直線に投げた。
それを見ていた観客たちが悲鳴をあげる。悲鳴と怒号の沸いたスタジアムの中で、唯一冷静な男…紫の服を羽織った男がゆっくり口を開いた。
「お前の敗因は2つ」
スッ、と剣を握っていない左手で1、と指を折る。
「一つ目…武器を乱暴に扱うこと」
そう言いながら、指を折っていた左手で飛んできた鉄の塊を柔らかに掴む。
「う…うそだろ?」
「そして二つ目…」
いつの間にか構えられていた右手の握った黒光りの剣が、ゆっくりと地面と平行に構えられる。
「勝てないとわかっている相手に、勝負を挑んだことだ」
音速、いや光速で迫る黒光りの剣に、大柄の男はなす術なく胴体を貫かれた。
今度はドワッと歓声が湧く。大柄の男にとっては完全にアウェイだっただろう。
「アランさーん!!」「流石だったぞ!!」
感極まった観客から称賛の声が飛び交う。そしてその称賛を浴びた紫の服の少年・アランは静かにスタジアムを出ていった。
スタジアムから300メートルほど先の宿に着いた途端に、アランは緊張の糸がほぐれたように叫ぶ。
「あーーー!!疲れたーー!!!」
「お前、ほんと俺らの前だと態度変わるよな」
パーティーメンバーのルークが笑いながら言う。
「たりめーだろ!みんなの前ではクールな勇者様なんだからよ!」
その言葉にもう1人のパーティーメンバーであるユウハがクスッと笑う。
「アランはナイスなクールボーイだもんね」
「そ、そうだよ!」
パーティー唯一の女の子であるユウハの笑顔に、アランは素直にかわいいと思ってしまった。すかさずルークがツッコむ。
「おんやぁ〜?アラン君、顔が少し赤くなってないかい?」
「なってねーよ!」
そしてじゃれあい出した2人をよそに、ドアをノックする音がした。
「アラン、お客さんみたい」
ノックに気付いたユウハがルークと絶賛激闘中のアランを呼ぶ。
「今それどころじゃ…ちょ、一旦停戦!後で倒す!」
なんとか抜け出してきたアランがドアを開ける。すると、アランと同じ15歳くらいの少年が姿を現した。
「あの、アランさん、僕ずっとアランさんのファンなんです!今日の戦いも感動しました…よかったらこれ、受け取って下さい!」
そういって少年は紫の手編みのタオルを差し出した。
「これ…君が作ったの?」
「はい!」
「ありがとう、大切にするね」
そういってアランは手編みのタオルを受け取った。
「あ、あと……握手してもらえませんか?」
「ん、いいよ」
アランのファンサービスに抜かりはない。これも人々に「勇者」と崇められている要素の一つかも知れない。
「ありがとうございます!」
そういって少年は嬉しそうに駆けて行った。
「何だったの?」
ルークが問う。
「あー、ファンなんです、受け取って下さい!みたいな感じでタオルもらった……ってそんなことより再戦だ!」
アランはオモチャの剣を取り、いつもの必殺技の構えを見せる。
「なっ、不意打ちは良くないぞ!」
「俺の光速をも凌駕する剣を…くらえ!」
そういってオモチャの剣が神速の剣となってルークを襲う…はずだった。
ふにゃー、といった威力のないオモチャの剣がルークの胴体にポスッと音を立てて止まる。
「…ん?」
ルークが不思議そうに剣先を見つめている。
「…あれ?ミスったかな…よし、もう一度!ゼロ距離ファイヤー!!」
ポスッ。
「…ん?」
「え…ええぇぇぇぇ!?!?!!!!?!?」
アランの驚愕の叫び声が、宿中を駆け巡った。