第4話 王との謁見 その4
何が聞きたい、か……。謁見を取り消しても、あの襲撃があった。だから、私が色々聞いてくると踏んで、この場を改めて設けたようだ。その内容は、もちろんシカルアヒダについてだろう。あと、それに伴って、今後の対応についての指示。これも、話の後にあるのかもしれない。
やれやれ。呑気にと思ったが、そうではなかったかもね。なら、その呑気と言うのも、指示もあれば訂正しようじゃないか。それを出すためには、対策なりその方向性なりを、粗方であっても決めていなければしない。父様たちだったら、そのはずだからね。
しかし、私に対して説明をする気だったというのは有り難い。この言い方じゃあ、色々と答えてくれそうだ。ああ、そうか。初めからそうつもりだから、ステライと爺だけしかいないのか。
機密に関する事、特種と禁種に触れても、黙っていれば問題ない立場の者、それに限っている。先生と同様。その先生も、だから何も言われず、簡単に同席を許されたっぽいね。
ただ、国王の父様の親友で、王女である私の先生。そして、救国の英雄たるこの人と、あの二人は事情が違う。ステライのジョーテッペ家、爺のサイリ家は、母様のヴァイン家と同じくこの国の建国時から続く名家。勿論、王家しか知らない秘密はある。だけど、それとは別に色々と秘密を共有している間柄なのだ。よって、こういう立場になっている。
私の事情を知らない父様が、シビアナに同席を認めたのも、そうなるからかな? こいつは元ヴァイン家だ。立場的にはステライ達と似たようなもの。まあ、あくまで似たようなものだけど。ちょっとややこしいんだよね、その立場が。貴族の出じゃないが、母様の養女だったりするから。私は全然気にならないんだけどさ。
しかし、どうであれ今回の襲撃の件。シビアナには詳しい事情を、絶対に知っておいてもらう。同席は不可欠。間違いなく必須事項だ。だから、先生が言って駄目なら、私からも言って頼んでいた。
まあ、それはそれとして。元々の謁見が、やっぱりちょっと気になる。一体、何が理由でササレクタに私を呼んでくるよう頼んだんだろうね? しかも、早朝だよ? 今にして思えば、それは急ぎの用だったからじゃなかろうか。
大体にして、何故ササレクタ? 本来なら、あいつではなく、私の侍従官であるシトエスカ達に伝えるべきだったろうに。うーん。まあでも……。あいつの言い様だと、直接言われたっぽい。偶然会って、それでついでに頼まれたって感じだったのかねえ。多分、もう起きてただろうし。
父様って、どんなに寝るのが遅くなっても、酔っていても、決まった時間に目が覚める。それがあのくらいのはずだから。殆ど寝てなくても、それで良いんだと。全く、年なんて関係なしで元気な人だよ。
まあ、この年代の人間は、父様に限らずそういうのが多い。先生は勿論、ステライや父様の側近たち。それから、ヒミンツ。他にも色々。ある種、化け物染みた者たちばかりだ。
そして、更にその上に老獪なのがいる。クロウガル爺とミストランテのお婆だ。この二人が、その頂点に君臨しているといった感じか。
「どうした? 早く言ってみろ」
父様が急かす。
「あ、はい。分かりました」
さて、何を聞くか。まあ、それは決まっているが。
「父様。先生から聞いたものもあるのですが、改めて聞きます」
一応、牽制。こっちも予め情報を得ていると伝えた。すると、父様の視線が隣にずれる。
「む……。話したのか、シドー?」
「機密に抵触せん程度でな」
「そうか……」
呟く父様に、これといった変化はないように見受けられる。効いてないかな? どうだろ? 妙な言い逃れとかされたくないんだけど。まあ、話を続けよう。
「父様。私が聞きたい事は、一言で済みます」
移った視線が戻る。それを見据えて言った。
「全てです。全てを知りたいのです。どんな機密に関わろうが、関係ありません」
無論、聞きたいのはこの国にある情報全部だ。一つも漏らさず知っておきたい。しかし、王女としての立場には限界がある。見れるものは、間違いなく少なくなるだろう。けれど、これは承知済み。それでも、全てと言っておいた。少しでも多くの情報が得られるように、大きく出る。
「ですから、父様が話してくれるものだけではなく。月鏡院の『封印殿』にある、該当機密文書の全閲覧許可を、私は要請します」
爺、ステライ、先生、シビアナ。同席者を絞っても限度があるだろう。特種、禁種が関係しているんだ。ここで話せないものは絶対にある。多分、トゥアール王国とシカルアヒダ王国の秘密とかね。
だから、元々このつもり。ただ、こんな形で聞く事になるとは思ってなかった。執務室ではなく、謁見の間で行われると思ってたから。そうなると、他にも父様の側近がいたはずだ。聞けることはあるが、もっと限定されていただろう。だったら、手っ取り早く封印殿で読んだ方が良い。そう考えていた。
この封印殿は、月鏡院内にある機密の保管庫だ。関係のない人間に知られぬよう厳重に隠されている。その中には書物だけでなく、それに類するもの、例えば石版や石碑等もある。
まあ、これも父様の許可が出なければ、そもそも無理な話だけど。だが、雰囲気は悪くない。何点かは読ませてもらえると見た。
「それから、奴らの情報は、可能な限り関係各署へ開示することを進言します」
これは、私から言うまでもなく、なんだろうだけど。でも、ちゃんと伝えておかないとね。
「…………」
腕を組んだ父様が、無言で睨んでくる。さあ、どう答える? 閲覧はどこまで許す? そう思っていると、再び父様の視線が横にずれる。
「シドー。リリシーナには何を話した?」
「あいつらの身体的特徴――、あとは、その能力。潜水の事や水弾きのあれだ」
「ああ、あれか」
「これは、研究所に来たシヴァルイネ、オウサ、キルサ。後はイージャンもだな」
「そうか」
「うむ。ああ、それから、あいつらは襲撃の状況も知っているからな」
これを聞いて、父様の眉間に少し皺が寄った。
「口止めは?」
「している」
「分かった。なら、良い」
そう言うと、湯呑みを手に取り、ゆっくりとお茶を飲み始める。おい、何してんだ。早くしろ。父様は、一口だけ飲むと、湯呑を卓の上に置いた。そして、ようやく視線が私に戻る。
「リリシーナ」
「はい」
「面倒くさいわ。閲覧許可は出さぬ。ここで聞くだけにしろ」
「えええー……」
面倒くさいって、あんた……。溜めた挙句に、出る言葉がそれ? まあ確かに、色々とその要素はありますけど……。
まず、月鏡院の長であるミストランテへ、事前に話を通す。それで日程を決めたりする。あと、知りたい情報は、王族しか入れない所にある。だから、父様が一人で、その該当する機密を選別しなけれなばならない。
あそこに保管されている文書って多分相当あるはず。その中から見つけるだけも、結構時間が掛かるとは思う。でも、だからと言ってさあ。そんな理由はなくない? こっちは真面目に話をしているんだよ? 生死にだって関わる事だ。
「父様……」
不平不満がたっぷり籠った、非難の目を向ける。
「何も、教えんとは言っていない。ここで聞けと言っているだろう? それで、問題なければ教えてやる」
「でも、禁種や特種が関わっているんでしょう? だったら、ここで話せないものもあるんじゃないですか? 私は、全部、知りたいんです」
だから、封・印・殿! 封・印・殿!
「ふん。別に、お前が全てを知る必要はないであろうが」
む。何その言い方? 確かにその通りだけど、若干イラッとするな。
「リリシーナ」
「何ですか?」
「今回の件。何処までやるべきだと考える? まあ、落としどころだな」
「え? 落としどころ?」
「そうだ」
何だよ、いきなり。まあいい、答えようか。父様たちが、どうするつもりか分かる。ふーむ……。やる事は絶対にやるから、妥協点はそれより先……。となると、まず――。
「そうですね……。喧嘩を売ってきたんです。取り敢えず、シカルアヒダには、それ相応の報いを受けさせるって事じゃないですか?」
これは、絶対にやる。
「その報いは?」
「え? えーと――」
元を断てば、いいのだろうから――。
「襲われたユーノ王女も理由にして、この襲撃を企んだ首謀者を叩き潰す。ですか?」
「そうだ」
父様が頷いて肯定する。やっぱり、そういう感じにするつもりか。しかし、何とも一方的な落としどころですこと。
ただ、この先どう転ぶか分からないが、事が上手く終わった場合。ユーノ王女と相談して、今後の事を色々と決めるはず。だから、真の落としどころは、その時決まるんだろうけどね。
「首謀者を叩き潰す。トゥアール王国の王女として、やるべき事も当然これになる。国として動くわけだからな。お前は、そのために必要な情報だけ、知っておれば良い。違うか?」
うーん……。
「まあ、そうですけどお……」
何だか、やばくないか? 雲行きが怪しい。色々と聞ける気配じゃなくなってきたような。逆に、物凄く限定された話しか、聞けそうにない雰囲気さえある。
シカルアヒダとトゥアールの秘密とかは、まず無理じゃないの? 叩き潰すのに、直接的な関係がない気がする。
「その一つ目は、シカルアヒダの現在の内情だな。誰が襲ってきたのか。何故、襲ってきたのか。何故、この国に宣戦を布告するような真似をしたのか。調査中ではあるが、お前も知る必要がある」
あれ? それはいいんだ。だったら、聞けそうかな? しかし、この言い様。襲撃の理由は、父様たちもまだ知らないようだ。宣戦布告については、あの状況で聞こえていたのか分からない。だが、聞こえてなくても、月鏡院から報告があっただろう。それで襲撃の状況も、大方把握しているか。
「まあ、その内情は直接聞けば良い。まだ未定だが、シカルアヒダを王宮に迎え、会談を執り行う事になる。お前も出席したければそうしろ」
つまり、これは知っても良い情報だが、今ではなくその時にしろと。父様たちもよく知らないようだし、そうなるよね。
ふむ……。案外この時に、うちとの関係とかも分かるのかな? もしかすると、そうかも。あと、どうしてあんな異形の人間がいるのか。その理由や首謀者も、判明するかもしれないよね。よし、ちゃんと出ようか。
「分かりました」
頷いて答える。けど、首謀者ってホント誰なんだろうね? 彼の国の権力者である事は確かかな? 今回の件、向こうの騎士団が関わっていたようだから。
つまり、彼女は権力闘争でもしているんだろう。しかし、形勢は不利。だから、旧知であった先生に助力を求め、この国に来た。と、まあこう考えたいのだが――。
色々と不可解な点があって、素直にそう考えられない。何故、ユーノ王女だけを狙わず、この国も敵に回すような真似をしたのか、とかさ。先生を巻き込み、正式にではないけど宣戦布告までしている。
しかも、その宣戦布告は、襲撃が失敗した後。それにも拘らずしてるからね。隠そうともしない。つまり、以前から、うちとやる気だったって事だ。その用意をしてきたのだろう。
しかし、そこまでする意味ってあったんだろうか? ないと思うんだけどなあ。敵を無駄に増やしていっているよね? やり方なら他にもあっただろうに。
怨恨だとしても、ユーノ王女と私たち、別々でやった方が良い気がする。でも、あの白い仮面の雰囲気は、むしろ――。
「二つ目は、あいつらの戦力やその能力だ」
言われて自問から戻る。うん、当然だね。じゃあ、三つ目は何だろう?
「そして、余が、お前に教えてやるのは、これになる」
は? 私は、今のを聞いて気付いた。おい……。まさか……。
「えっと……。もしかして、それだけですか?」
「そうだ。さあ、聞け」
父様は、そう言うと、腕を組んでふんぞり返る。
「…………」
何で、そんなに偉そうなんだ? 呆れて言葉も出ない。何が聞きたいとか言ってさ。もう話すの決まってんじゃん。これしか教える気なかったんだろ? どうやら、改めて謁見の場を設けたのは、色々と教えてくれるためではなく、予め決めていたものを伝えるだけだった模様。アホか。だったら、初めからそう言えっての。
私は、そのまま黙ってステライとクロウガルを順番に見た。二人ともお茶を飲みながら、すまし顔ですっとぼけ。視線も、一向に合わせようとしない。おい、こっち見ろ。――ちっ。これは、ぐるだな。間違いないわ。三人で相談して決めたんだ。
はあ、もう最悪。結局、閲覧許可も出ず、聞けることも先生のと被る。新しい情報はあっても、知りたい情報は殆ど期待できそうもない。一番嫌な形となってしまった。
しかも、こっちからの質問形式だ。これじゃあ、詳細も分からない。口頭では、説明が不足となりがちになる。これもあるから、開示の要請をしたのに。ったく……。ホントに自分で調べたろかい。
こうなってしまうと、頼みの綱はシビアナなんだが――。話す事を決めているのなら、それ以外を聞ける可能性は薄い。誰であろうともね。まあ、それでもってのがある。後で、こいつに振ってみようか。色々と聞き出してくれることを願おう。
さて、じゃあどうするか? 珊瑚頭の能力は、一応先生に聞いたからな。取り敢えず、別の事を――。あ、そうだ。戦力の意味合いからは、外れるがどうかな? 聞いてみようじゃないか。
「父様。先生が、どうしてあいつ等の事を知っているとか、そう言うのを聞いちゃ駄目ですか?」
経緯や素性。これも気になるんだよね。
「駄目だな」
素気無く即答で返される。こ、このおお~! ムカついてきた。口の中で歯を食いしばる。しかし、こうなると、もう珊瑚頭について聞ける事は思い付けなかった。範囲外だ。ならば、もうあれを聞くしかない。これも駄目とか言ったら、怒るからな。
「じゃあ、あの黒い煙と白い仮面について教えて下さい。何か知ってるんでしょう?」
先生は両方とも知っている様子だった。なら、父様も知っているはず。トゥアールとシカルアヒダ、両王家の秘密に関わる事なんだろうが、知ったこっちゃない。もし、教えないなら、実力行使も辞さない構えでいく。
「仮面の方は、ササレクタが見てキレかけてましたし。あの反応からすると、過去に間違いなく遭遇しています。だったら、機密として、上げられているはずですよね? なら、その時の詳細をお願いします」
ここら辺の関係性もよく分からんから、これも知りたい。あいつが出遭ったのは、シカルアヒダの連中なんだろうけど、珊瑚頭とは別らしいからね。初めて見たって言ってたし。だから、しれっと混ぜて言ってみた。
でも、あいつから聞いた事を、そのままで言うのは止めておく。情報漏洩による追加処分でもされたら堪らん。そうなったら、「姫ちゃんは、本っ当に気が利かないですわね!」とか言って怒られる。まあ、その追加は、まずないだろうけどね。むしろ、その逆。謹慎も、かなり早期で解かれるはず。
シカルアヒダは、あいつが治める西都に一番近い。色々と対処しなければいけないだろう。ただ、今の西都は、将軍であるササレクタなしでも機能している。だから、父様が指示を出せば、対応は出来るはずだ。無論、あいつが早く帰るのに越した事はない。機能しているとはいえ、いるといないでは、やはり差が出る。
なら、謹慎処分なんか後回しで、とっとと戻せばいいのだが、父様はそれよりも別の事を優先したのだろう。つまり、戦力の増強。イージャンの空震音叉の体得――至極天使いを増やすことだ。しかも、その考えは、私の話を聞いて更に強くしているはず。
確かに、これが出来れば非常に大きい。例えば、山麓級重樹の上――山腹級重樹は、近衛騎士総出で囲み、一日掛けて潰す。それくらいの相手だ。しかし、至極天使いになれば、すぐには無理だが最終的には、その山腹級重樹でさえも一人で戦えてしまう。時間も一日掛からない。かなり違ってくる。
そんなのが増えるんだ。必ず大きな戦力となるだろう。今回の件は流石に急過ぎて無理だろうけど、今後の事を考えれば確かに優先させて然るべき事だ。
「ああ、それから――」
そうそう。忘れる所だった。白い仮面と黒い煙。これ以外にも不可思議な現象があるかもしれない。可能性はあるよね。これも、付け足しておかないと。
「教えて欲しい事は、他にもあります。白い仮面、黒い煙。これ以外にも、不可思議な事例があれば――」
ここで不意に口が止まる。言葉にすることで、違和感のような、何か引っ掛かるものがあったからだ。不可思議な事例――。不可思議な事例?
「どうした、リリシーナ?」
先生が言う。その顔を見上げた。
「…………」
「おい?」
「…………」
「リリシーナ?」
もう一度名を呼ばれて、無言で見つめていたと気付く。
「――ああ、いえ……。何でもありません……」
父様に顔を向け直した。そうだよ……。何で今まで気付かなかった? いや、まあ……。自分の事が最優先だったし、そんな気も起きなかったからか。何より、知っている情報が少なすぎるもんねえ……。
「えーと。他にも不可思議な事例がありますよね? それも教えて下さい」
気を取り直して伝える。ただ、これは証拠がない憶測だ。だから、あの名は伏せて何かしら情報を握っている風に装っておく。鎌を掛けた。これで、最初の牽制も、無駄にはならなかったな。
とは言っても、これは元々教えるつもりだった情報の範囲内でのみ有効だ。範囲外なら、すぐに駄目だと言われるだろう。
けど、こっちから質問しないと、結局何も教えてくれないからね。言っとかないと。ったく、この質問形式は――。もう、ぱぱっと順にそっちから教えてくれればいいのに。
父様は、一旦先生に視線を移す。それから、その視線を戻して言った。
「ササレクタの分は、あいつの過去に関わる話だ。本人がいようがいまいが、それをべらべらと喋る気はない」
そういうのは、私も聞く気はないの。その時対峙した連中の情報だけ、教えて欲しいの。
「故に、その詳細は駄目だな」
ちっ。流石に通じない。いや、これは元々言う気なしか。
「だが、あの白い仮面と黒い煙については、教えてやる。他のも含めてな」
よし。これは、鎌かけ成功かな? あーいや、これは元々言う気ありってだけか。しかし、やっぱりまだあったんだねえ。やれやれだな……。聞けるのは助かった。だが、それとやり合うかもしれないと思うと、げんなりする。
「まず始めに言っておくが、今から伝える事は、禁種だ。他言は許さぬ」
「はい」
だろうね。
「ああ、それから分かっていると思うが――。イルにも伝えたように、お前が今朝見た事も同様だ。いいな?」
「はい」
今、承知しました。頷いて返す。さあ、それでは教えてもらいましょうか。あの白い仮面、そして黒い煙の正体を。――ん? 父様が、湯呑に手を伸ばし始めた。
まーた無駄な溜めをー。いいから、さっさと話せ。答えに一つ見当が付いたんだ。不可思議な事例なら、そうなるのではないか。この仮説が浮かんだ事でね。けど、半信半疑だから、合っているかどうか、早く確かめたいの。
不可思議なもの全てが全て、そうだと結論付けるつもりはない。それは、些か短絡的過ぎる。自分が知らないだけで、ちゃんとした理屈があるものは、いくらでもあるのだ。
後でそれを知って、「ああ、なるほどねー。そうなってるんだー」って感心したことは今まで何度もあったし。お風呂のお湯が、そんな感じかな? まあ、突き詰めるとまだ分からないが、どうしてあんな形をした竈になっているのかは分かったからね。お湯の動きを、利用できるようにしている。
しかし、だからと言って、その可能性を全く考慮しないってのも駄目だろう。除外をするのには早過ぎる。情報をもっと集めて、否定できる根拠を得てそれからすべきだ。だが、現状ではそれが出来ない。そして、思えない。むしろ、肯定寄りだと思っている。
私は、もう一度先生を仰ぎ見た。はあ……、道理で知っているわけだよ。いや、もちろん違う可能性もあるが……。
あの白い仮面、そして黒い煙の正体――。あれは、神の悪戯の可能性がある。




