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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第11話 月鏡院

 シヴァルイネたちと別れて、私は正面玄関を取り敢えず目指していく。取り敢えずってのは、どこで料理してるかシビアナに聞くのを忘れていたからだ。てへぺろこっつんこ。ああ、それはシヴァルイネにもか。


 でも、料理の配膳をしている場所なら、見当が付いている。それは、ここからだと正面玄関の先。あそこには、調理場とその隣に大きめの食堂のような部屋がある。行くには、正面玄関から回った方が早いのだ。というわけで、玄関を目指していた。


「お? 来てるな」


 廊下を走っていると、窓の外にちらほらと人の姿が見える。灰色の外套を羽織り、胸元には金色の円い首飾り。その首飾りには、目のような模様が彫られていたはず。彼らが月鏡院。トゥアール王国の情報機関を担う者たちだ。襲撃者の検分なり処置をしているのだろう。


 私は、それを目の端に捉えながら、廊下を進んでいく。すると、今度はその廊下の前から、数人がこちらに向かってくるのが分かった。ふくろうを模した仮面と、浅い緑色の外套を頭から被り、全身を覆っている。胸には金色の円い首飾り。外にいる者たちのより多少細工が凝ってるかな。


 丁度良い。あいつらにご飯の場所を確かめておくか。私は、その者たちに声を掛けた。


「皆、お疲れ様」


 そう言うと、無言ではあるが深々とお辞儀を返してくれる。喋らないのは、独自の礼儀だから気にはならない。彼らは月鏡院の特級隠密官たち。月鏡院の長、ミストランテ直下の優秀な部下で、国の重要な案件ばかり扱っているような奴らだ。 


 しかし、特級が出張ってるのか。今回の件は早急に片が付くか、相当面倒くさいことになるかの、このどちらかになりそうだ。

 彼らが、この姿で現われるのも、実は珍しい。裏の仕事ばかりだからな。普段は、目立たない服装で、他人に紛れ込んだりしているのだ。


 でも、任務の性質によっては姿を見せる。自分たちが、特級隠密官だとすぐに分かるようにね。但し、その時は皆、同じ仮面で同じ姿。こうやって素性を隠している。


 だが、自分たちでは区別がついているらしい。私には、誰が誰だかさっぱりだけど。身長もあまり変わらないしさ。でもだから、こんな時でもこのような姿が許されているというわけだ。そうじゃないと、下手をしなくとも、不審者として紛れ込まれるからね。


 また、彼らはこの姿で現れる時、単独では動かないというのも決めらている。そして、一人で動いて怪しい素振りを少しでも見せたら、叩き斬られても文句は言わない。一応そういう事になっている。


 でも、その全てが不審者だったらどうするのか? ってのもあるよね。全員、入れ替わられてたり。だから、顔を見せていい者が、いつも一人付いている。彼らがお辞儀をして、その後ろからひょっこり顔の出た女性が、それだ。


「殿下ああ……。おはようございまああす……」


 半分寝惚け眼で、こっくりと下げるその頭は亜麻色。適当に編んだ三つ編みが胸元まで垂れている。その胸元には、他の者と同じ梟の仮面。その仮面の下にあるおっぱいは、同じ緑の外套を羽織っているから分からないが、妹よりは大きかったはず。


 彼女はイゾナーシェ。私の侍従官であるシトエスカの年の近い姉だ。顔つきはその妹に似て美人だが、性格はかなり違っていて呑気な奴である。月鏡院の気質みたいな、真面目な雰囲気の中では、浮いた感じがする。


 ご飯の場所は、こいつに聞けばいい。他の者は基本喋らないし、喋りたがらないからな。元よりそのつもりだ。


「お疲れ、イゾナーシェ」

「うう、殿下あ……。昨日、きついお酒飲んだから、この早朝招集は堪えますよお……」

「…………」


 何でこんな時に限って、会う奴会う奴皆、こう二日酔いばっかなんだろうかね……。まあ、私も昨日は宴会してたけどさ。


「本当に辛そうだな」


 喋るのもそうだが、すっごいだるそう。よく見れば、具合悪そうな青白い顔色してるし。


「ははは……。父さんが、美味しいお酒仕入れたぞおって、沢山買ってきて、それで飲み比べしたんですよねえ。誰が一番最初に酔いつぶれるかって、家族で競争したんです……」

「へえ……。仲良いんだな。親子で飲むってさ」


 私は、父様と飲むことなんてないぞ。


「あ、シトいなかったから母さんと三人で、ですけどお。でも、それがきついお酒だったんで、頭痛くてえ……」


 まあ、シトエスカは私と飲んでたけどね。けど、こいつって、お酒強くなかったっけ? それが、ここまでしんどそうにしてるとは。


「どのくらい飲んだんだよ、お前?」

「うーんと……」


 辛そうな顔を、さらに顰めて唸る。


「確か――、酒樽十本ぐらい?」

「…………」


 言葉を失う私。酒樽って、大人が入れるくらいの大きさなんですけど。


「お前、凄いな……。でも、一緒に飲んだ時って、そんなに飲まなかったよな?」


 同じくらいしか飲まなかったはず。二人とも、酒樽二本行くか行かない程度。


「いやあ、家で飲む時は違うんですよお。歯止めがきかなくってえ」

「ええー……」

「やっぱ、そのまま寝れるってのが、大きいんですよねえ」


 確かにそれは分かるが……。しかし、ゼニシエンタみたいな奴っちゃな。あの子は食べ物だが、こいつはお酒だ。まあ、あの子は歯止めなんて関係ないけどな。かける前に食べ物が先になくなっちゃうもの。

 

「ちなみに優勝は?」

「母さんです。父さんが七本ぐらいで最初に潰れて、私と差しで飲んでましたから。で、私も潰れてそこから記憶ないし。けど、朝起こされたら、残りのお酒、全部空になってたんですよねえ」

「ふーん……」


 母親ってカレンデュナか。あいつそんなに酒が強かったのか。知らんかったわ……。でも、樽十個以上飲めるって……。じゃあ、一人十本として、三十くらいか? それを一晩で飲み尽くしたのかよ。たった三人で。おいおい……。


「そう言えば、シトエスカってお酒飲んだら、性格変わるんだな」


 自分が宴会してたのと、こいつの話で思い出した。この姉は、あの妹の酒癖を知っているんだろうか?


「あははは。知らなかったんだ、殿下」

「うん」


 どうやら、把握している様子。


「でも、面白かったでしょ?」

「いや、危うく私の初めてを奪われそうになったわ」


 と、言いたかったが、シトエスカに知られたら不味い。あの子、絶対自分を責めそうだし。


「まあな」


 だから、こう言っておくことにした。どの酒癖のことを、面白いと言ってるかは知らんけど。そして、肩を竦める。


「うんうん、そうでしょうとも。うちは酒癖が売りみたいなとこあるからねえ」


 当然の事だと、強調せんばかりに何度も頷く。なんじゃそりゃ。


「ああ。朝食って、やっぱり食堂か? 知ってる?」


 逸れてしまった話を戻す。あんまり長話をするわけにはいかない。彼らも仕事で来ているのだ。さっさと聞きたいことを聞いて、この場を退散しよう。


「そこで合ってますよお。あ、シトもいますからねえ」

「そっか」


 あの子も来ているか。そして、どうやら食べる所も間違っていなかったようだ。


「ありがと。呼び止めて悪かったな。それじゃあ――」

「はあい」


 私は手を上げて別れを告げる。そのまま玄関の方へ向かおうとした。しかし、次の言葉でそれが出来なくなる。


「んじゃ、父さん、母さん。さっさと行って、仕事終わらせよー。もう眠くて眠くて――」


 おい……。イゾナーシェがそう言った瞬間、二人の特級隠密官がその背後に回る。そして、彼女の後頭部を素早くはたいた。


「あだあっ!?」


 その衝撃に、こけそうになるイゾナーシェ。そして、頭を摩りながら、後ろを振り向いて睨みつけた。


「ちょっとお! いきなり、何すんのよお!? 父さんも母さんも一緒になってえええ! 二日酔いなんだから、今頭叩くとすっごい痛いの知ってるでしょお!? って、いつつつ……」


 やはり二日酔いのようだ。自分の声の大きさで痛がっている。ていうか、もう一回言っちゃったね……。隠密官二人の内一人からは、怒気の気配が伝わってきた。何かわなわなと震えている感じがする。

 

 もう一人の方からは、怒りを通り越して呆れたって感じ。いや諦めた感じか? 思いっきりそれが、ついた溜息に込められていた。イゾナーシェもそれに気づいたようだ。


「あれ……? 何か怒ってる……?」


 そこしか分かってないんかい。何年、月鏡院にいるんだ、お前は。何のために仮面してると思ってんだよ。


「いや、正体言っちゃ駄目だろ……」

「あ」


 私に言われてようやく気付く。「あ」じゃないよ。「あ」じゃ。


「いい加減にしろ! さっきから姫様に何を口走っておるのだ、この馬鹿娘が! さっさと目を覚ませ!」

「あだあ!?」

「いつつつ……!」


 今度は拳骨。イゾナーシェの頭に鉄拳制裁が下った。この声は、聞いたことがある。父親のナサイムだな……。正体ばれちゃあいけないし、自分たちの事を言われてたの我慢してたんだろうな。その分、力が込められていたような気がする。まあ、恥ずかしいよね……。そして、この父親も二日酔いのようだ。怒鳴って殴った後に、娘と同じような声が出てた。


「申し訳ありません、姫様……」

「ああ、うん……。私はいいから……」


 私に頭を下げるこの女性の声も、聞いたことがある。溜息をついたのは、こっち。これは、母親の方だな。この母親は何か普通そうなんだが……。二日酔いになった気分の悪そうな声でもないし。流石は、大酒豪カレンデュナなのか……。


 しかし、二人とも月鏡院で働いているのは知っていたが、まさか特級隠密官だったとは。これも、知らんかったわ……。


「姫様、娘がとんだ失態を――」

「いや、いいから」


 ナサイムが申し訳なさそうに頭を下げた。カレンデュナも同じように再び下げる。


「それで、その……。これが言った事はどうかご内密に……」

「大丈夫。何も聞かなかったよ……」

「ありがとうございます……」


 そして、何も思わなかったから。お前たちが、もしかしたら顔色悪いのとお酒の匂いを隠すために、その服装で来たのかもってさ。そんな事、ちっとも思わなかったから。あ、残りも奴らも含めてね。


 あと、こんなんが特級隠密官とか、月鏡院は本当に大丈夫なのかとか、不安になってないから。本当本当。


「おい! お前も、下げんか!」

「え?」


 自分の頭に響かないようにか、ナサイムがきょとんとしているイゾナーシェに、抑え気味で怒鳴る。


「いいから下げなさい!」

「ちょっと!? いだだ」


 カレンデュナにも怒鳴られ、イゾナーシェの頭が二人に掴まれると、無理矢理下げられる。そして、その娘は両親に首の後ろ辺りを掴まれ、引き摺られていった。他の者たちも後に続く。


「わわわわ!? ちょ、ごめん! ごめんてええ! この態勢は辛いんだよお! 足からの振動がもろにい! いつつ……!」


 後でまた怒られるんだろうな、あれ……。その情けない姿を見送りながら、私はそう思った。しかし、本当に月鏡院は大丈夫なの? お婆とか何も言わないのだろうか? いやまあ、イゾナーシェは、あんなんでも優秀な奴だからな。それに、あんなのばっかじゃないし。多分、大丈夫だろう。多分……。

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